ボツ理由:そういう話じゃねぇからこれ!
避ける。ただひたすら避ける。反撃はしない、傷付けない。
だが、通しもしない。立ち塞がり、先に進ませはしない。
「ガ、ァァァッ!」
「だから落ち着いてってば!」
「まあこちらの行動は完全に向こうを煽っていますし」
「だったら何か方法考えてくださいよ!」
やれやれ、と肩を竦めながらアンゼリカは避ける。ああもう、と叫びながらフランドールは避ける。スキュアの攻撃を、躱し続ける。
それを暫く続けた辺りで、スキュアも事情を飲み込み始めていた。が、それとこれとは話が別である。大事な娘を、コレットを怯えさせているのは間違いないのだ。
「……」
「ちょっとアン!? 何でいきなり黙ったんですか!?」
「少し静かに――ああ、いえ、もっと騒いでいてください」
「何で!?」
ここで急に二人共神妙になってしまえば向こうに新たな疑念を植え付けかねない。そう判断したアンゼリカであったが、フランドールはその辺りがよく分かっておらずいきなり変なことを言い出したとしか思っていない。それはそれで構わないと彼女は判断し、とりあえずギャーギャー騒いでいるピンクブロンドのポニーテールは放置した。
さて、それはそれとして、である。現状、このまま足止めしていたとしても、スキュアが納得なり何なりして引き下がってくれない限り一階を荒らし回っている領主の馬鹿息子をどうにかすることは出来ない。それどころか、一階を荒らし終わり二階にその手を伸ばしてくる可能性もある。その前に、片を付けなくてはいけない。
「話を聞いては、もらえません、か」
「……」
「貴女の娘を怯えさせている原因を取り除くためには、話し合いが必要だとわたくしは思うのですが」
「……っ!」
ちなみに攻撃は躱し続けている。傍から見ていると完全なる挑発である。とはいえ、食らいながら同じことをしたとしても事態がいい方向に進むわけではないため、行動としては正しい部類であるのだろう。
ズルリ、と触手が少しだけ引いた。それを話し合いに応じてくれた合図だと判断したアンゼリカは、ふぅと息を吐きながら現状の説明から言葉を紡ぐ。
それを終えた辺りで、再度触手が振り上げられた。
「ああ、やはり怒りますか」
「分かってんだったらもう少し言い方ぁ!」
「どう言い繕っても結果は同じでしょう? ならばここは素直に話すことこそ誠意の表れでしょう」
「いやそうかもしれないですけど!」
やはりというべきか。触手は二人に当たらない。ギリリと歯噛みしたスキュアは、再度攻撃の手を止めると続きを話せとアンゼリカを睨んだ。ありがとうございますと頭を下げた彼女は、ではこれからどうするのか、と前置きをして口を開く。
「このままではここに住めないでしょうから、お二人には引っ越しをしていただきます」
「……?」
「ご心配なさらずとも、フォンティーヌ領、というよりヴァリエール公爵領全体ですか。は、貴女のような存在であっても快く受け入れ、住人として歓迎してくれますわ」
信用出来るはずないだろうとスキュアはアンゼリカを睨み付けるが、彼女は涼しい顔を崩さない。その隣で、フランドールがいや本当なのよ、と頬を掻きながら苦笑していた。
「だって、公爵領で診療所を構えている一番腕のいい医療メイジが、その……ミノタウロスなのよ」
「……? ……?」
何を言っているんだこいつは、という顔をされた。そりゃそうだ、と肩を落としたフランドールであったが、しかし発した言葉を訂正はしない。間違いなく公爵領で一番腕の良い医療メイジは怪物であると言い切った。
「まあ正確にはミノタウロスの体に脳を移植した元人間なんだけど」
「最初の説明より酷いわね」
「何で水を差すんですか」
「向こうの彼女の言葉を代弁しただけよ。そうですよね?」
「……マァ」
人間、ではないが、生物としてあまりにも理解し難い情報を貰うと一周回って冷静になるらしい。スキュアはいつの間にか攻撃をする気を無くし、なんだか得体の知れないものを見る目で二人を見ていた。
まあこれだけでは足らないかもしれない。そんな彼女の様子を知ってか知らずか――アンゼリカなのでまず間違いなく前者だが――他にもこんな方がいますと指を立てた。
「公爵に仕えるメイド長の姉妹は吸血鬼です」
「??」
「フォンティーヌ領自慢の自由騎士の構成は、人よりも人外の割合の方が多いのです」
「???」
「ちなみに構成は、ナイフ、吸血鬼、
「……本当ニ人ガ住ム場所カ?」
「一応、トリステインで最も位の高い貴族が治める領地の一つよ……うん、一応」
物凄くげんなりした顔でそう述べるフランドールを見て、スキュアが出来ることは少なかった。そうなのか、と頷くことくらいであった。
では交渉は成立ですね、というアンゼリカの言葉に、スキュアはあまり乗り気ではないものの頷いた。話が本当ならば、こんな場所よりもコレットのためにはなるはずだ。そう彼女は判断したのである。
「お母さん……?」
「コレット」
そのタイミングで、ヨロヨロと部屋から壁を伝って歩いてくる少女の姿が見えた。待っていろと言われたものの、どうやらスキュアの戦闘音を聞きいてもたってもいられなくなったらしい。一応戦闘は終わっているので、スキュアとしても咎めるかどうしようかギリギリのラインである。
「コレットさん。騒がしくしてしまって申し訳ありません」
「あ、その声は昨日の」
アンゼリカの声を聞き、コレットの緊張が少しだけ解ける。音で判断していたので、どうやら侵入者と彼女は別であるという結論を出したようであった。その結論を強固にするため、アンゼリカは今に至るまでの経緯をある程度脚色を加えながら述べ、ここから移動した方がいいと彼女に告げる。
「お母さんは?」
隣にいるスキュアに触れる。コレットのその問いに、自分もそれに同意したのだと述べた。それならば、と彼女は納得したように頷く。『母』と一緒ならば何の問題もない、と笑みを見せる。
「……とりあえず、何とかなりましたね」
「ええ。後は階下にいる馬鹿共をどうにか」
その時である。下の階で誰かが中規模な呪文を唱えたらしい。屋敷がグラリと揺れ、朽ち掛けていた建物にビシリとヒビが入る。ここが一階ならばそれで済んだ。あの野郎ども、と悪態をつくだけで終わった。
だが、ここは二階。反対側が既にボロボロの穴だらけになっている状態の、しかも先程スキュアが二人を潰そうと触手を振り回していた廊下である。
「っ!?」
「きゃぁぁぁ!」
ヒビは瞬く間に広がり、そして四人の立っていた場所を崩しにかかった。即座に離脱したフランドールとアンゼリカはともかく、盲目の少女であるコレットに為す術などあるはずもない。崩れた廊下と共に、その小さな体は落下していった。彼女の状態では、まず間違いなく瓦礫と共に地面に叩きつけられ無事では済まない。最悪、死ぬ。
「コレット!」
スキュアの行動は素早かった。自分の安全より、娘の救助を優先した。すぐさまコレットの手を掴むと、崩れる瓦礫から庇うように抱き締める。己の体が地面に叩きつけられることなど厭わずに、だ。
ガラガラという音と共に、スキュアは瓦礫に潰された。それでも彼女は離さない。娘を守る、その思いだけで、降り注ぐ瓦礫から少女を庇いきる。
降り注いだ瓦礫によって生まれた煙が晴れたその場所には、傷だらけになったスキュアがいた。その腕の中には、『母』に守られ大した怪我もしていない少女の姿がある。
「お母さん!? 大丈夫!?」
「……コレット」
目が見えずとも、自分がどういう状況は分かる。建物が崩れ、自分は落ち、そして『母』に守られた。代わりに『母』が傷付いた。そのことは、はっきりと理解出来る。
「大丈夫?」
「わたしは大丈夫だよ! でも、お母さんが!」
「大丈夫。オ母サンハ、大丈夫ヨ」
泣きそうになっているコレットの頭を優しく撫でる。大切な娘が無事なのだから、大丈夫だ。そう言って、見えていない彼女に向かって微笑み、安心させるように抱きしめたまま背中を叩く。
「大丈夫じゃないでしょ!? わたし、見えないけど分かるもん! お母さん、怪我してる!」
「大丈夫。大丈夫ヨ」
意識が途切れ途切れになる。が、スキュアは娘を心配させないため、それを無理矢理繋ぎ止め、彼女を安心させるために抱き締める。もう泣かないように、悲しまないように。
ゆっくりと、スキュアは歌を口にし始めた。それは子守唄、コレットが寂しくて眠れない時に歌っていた、魔法の呪文。かつて己の主人が、憎くてたまらないあの男が、唯一正気に戻る時間に彼女に歌っていた、子守唄。死に別れた男の妻が、娘に歌っていたという、家族の絆。
歌が館に響く。領主の馬鹿息子共の呪文で崩れた瓦礫を見て顔を顰めていたメイジ達は、そこでボロボロになりながら少女を抱き締めるスキュアを見付け、思わず息を呑んだ。彼女達の言っていた住人だということを理解し、そして我に返ると治療をせんと足を踏み出す。
「おお、あれが例の魔獣か」
「あ?」
そんなメイジ達の背後から声。散々暴れまわった領主の馬鹿息子も遅れてこちらにやってきたのだ。スキュアを見て、あの光景を見て、馬鹿息子は討伐対象だと喜んでいる。
「何を!? あれを見られよ! 少女を守った守護獣ですぞ! 決して魔獣などでは!」
「はん! 何を言うか。大方あの少女も魔獣にたぶらかされた平民だろう。すぐさま討伐し、少女を救い出す」
ふざけているのか、とメイジ達は尚も食い下がった。それはあまりにも結論ありきではないか。あの光景を見て、何故そんなことが言えるのか。そう述べるが、領主の馬鹿息子は聞く耳を持たない。コツコツと頭を指で叩き、気でも狂ったのかねと嘲笑う。
「見たまえ、あれを。スキュアのようであるが、あまりにも通常のものとかけ離れている。そんなものがどうして魔獣ではないと、討伐すべきものではないと言えるのかね?」
「それは見れば分かるではないですか!」
「見れば分かる。ああそうだとも。あれは一目見るだけで危険な存在だと分かる。化物が子守唄を歌っているのだぞ、おぞましい」
そう言って顔を顰めた領主の馬鹿息子は、取り巻きに杖を構えるよう指示した。メイジ達を押しのけ、目の前のスキュアにとどめを刺さんと呪文を唱え杖を向ける。
やれ、という言葉と共に呪文が放たれた。相手はスキュア、火球であれば問題なく始末出来る。そんな判断だったのかもしれないが、それは先程言っていた少女を助けるという言葉を無かったことにするものであった。メイジ達は止めようと手を伸ばし、しかし間に合わなかったことを悔やみ顔を顰める。
そうして飛来した火球は、スキュアに着弾し、コレット共々消し炭へと変える。
「っの、野郎……!」
「確かに普通ならばそう考えてもおかしくはないでしょう……ですが、それは」
上から何かが降ってきた。その降ってきた何かは火球をなんてことないように掻き消すと、呪文を放った連中を真っ直ぐに睨んだ。大剣を構え、双剣杖を構え。
「ぶっ潰す!」
「心が、圧倒的に足りません」
降ってきた『暴風雨』は、口から煙を吐き出さんばかりに仁王立ちした。
「なーにが心が足らない、よ! アンも普段は似たようなものでしょう!?」
「人聞きの悪い。わたくしは、あのような短絡的な判断を是としません」
フランドールはアンゼリカの言葉に文句を述べ、アンゼリカはそれに反論する。その間に取り巻きの半分は吹き飛ばされた。関係ないメイジ達はその隙にスキュアへと近付き、簡易ではあるが治療を施す。傷は癒えたが、その辺りで限界であったらしく、子守唄を歌い終わったスキュアはそのまま意識を手放した。
「お母さん!」
「大丈夫だ。命に別状はない」
コレットの叫びにメイジはそう返し、視線を後方へと移す。壁に叩き付けられ、天井に激突し、床を転がり。バリエーション豊かに倒されていく取り巻きを見ながら、成程あれは確かに彼等の知り合いだと苦笑した。
「き、貴様等! 何の権利があってこちらの邪魔をする!」
「そちらこそ、どのような権利でわたくし達の依頼の邪魔をするのです?」
ひゅん、と双剣杖を振りながらアンゼリカが一歩踏み出す。ひぃ、と後ずさりしながら、しかし領主の馬鹿息子は自分の立場を説明しながらお前達のような木っ端メイジとは違うのだと口泡を飛ばした。
それに対し、アンゼリカは確かにそうですねと頷く。懐から書状を出しながら、仮面の裏で笑みを浮かべる。
「王宮とヴァリエール公爵の書状です。今回の一件、わたくし達に全面委任するという旨が書かれておりますが。……それを踏まえて、もう一度おっしゃってくれますか?」
「な、な、な……!?」
「ていうかそうやって説明したじゃない。何? アンタの頭ゼリーなの?」
「う、嘘だ!? お前達のような得体の知れない連中に王宮や公爵が許可を出すはずが――」
取り巻きを残らず潰された領主の馬鹿息子が尚も食い下がる。が、はいはいとそれを流し、二人は己の得物をくるりと回した。
得体の知れないというのならば、自己紹介でもした方がいいでしょうか。そんなことを言いながら二人揃って笑みを浮かべた。そう言えばこれやるのも久しぶりだな、と口角を上げた。
「万屋メイジ、フランドール。二つ名は『暴風』」
「万屋メイジ、アンゼリカ。二つ名は『豪雨』」
大剣を突き付ける。名前を聞いて顔を青ざめた領主の馬鹿息子に向かい、言葉を続ける。
双剣杖を突き付ける。名乗りを聞いてパクパクと魚のように口を動かすだけの領主の馬鹿息子へと、言葉を続ける。
「我ら」
「人呼んで」
『暴風雨』
ニヤァ、と三日月のような笑みを浮かべた二人を見て、領主の息子は恐怖が限界に達したらしくそのままパタリと倒れ動かなくなった。ふん、と鼻を鳴らすと、フランドールはケラケラ笑うデルフリンガーを仕舞い振り返る。
口外はしないでおくよ、と肩を竦めるメイジを見て、ありがとうと彼女は笑った。
「……えーっと」
フォンティーヌ領、自由騎士詰め所。そこで才人は困惑していた。理由は簡単、戻ってきたら見覚えのない美女が炊事や洗濯をしていたからである。
ゆったりとした服は体型を隠しているものの、そのふくよかな胸は隠しきれていないし、少し癖のある亜麻色のロングの髪とどこか眠そうに見える垂れ目が妙な色気を放っている。誰かの変装というわけでもない、正真正銘、見知らぬ女性であった。自分の知らない内に新しい人を雇ったのかと首を傾げていると、女性は才人に気付きペコリと頭を下げた。ついでに微笑まれ、彼は思わず鼻の下が伸びる。
「いやらしい」
「その評価は違くね!?」
はん、といつの間にか隣にいた『地下水』に鼻で笑われた挙げ句に蔑まれ、才人は思わず叫ぶ。が、勿論彼女には通用せず、もう一度鼻で笑われた。
「んで、誰だよ」
「妹様がスカウトしてきた自由騎士団の従業員です」
「ルイズが? ……ふーん」
仕事をしている彼女を見やる。彼女が連れてきたにしては何ともまともな人材だ。そんなことを思い、才人は『地下水』に話の続きを促した。
「続き?」
「まさかそれで終わりってことはないだろ?」
「終わりですが」
「え? 何もいわく無いの? そんな人がここでやってけれる?」
酷い言い草である。が、騎士団員を見ればあながち間違ってもおらず、『地下水』もそのことは承知なのかまあそうですねと肩を竦めた。そうしながら、一応事情はありますと指を立てる。
「義娘の目の治療費の代わりに、ということらしいですが」
「へー。……いやそういう普通の事情じゃなくてな」
「十号がメンテナンス中だったでしょう? いい機会だから雑用をしてくれる者を雇おうということになったらしいです」
「いや、だから。……まあいいや」
普段まともな人が自分くらいしかいないこの場所に馴染めるのだろうか。そんな不安もあったが、まあその辺りは自分でフォローしようと才人は拳を握る。
尚、横の少女も療養中の少女もメンテナンス中の少女も現在散歩中の少女も、皆口を揃えて才人は『まともな人』の分類には入らないと言ったとか言わないとか。
ともあれ、新たな仲間というのならば団長として挨拶せねばならない。そう思い立ち、彼は改めて女性へと声を掛けた。
「何カ?」
「あー、いや。改めて挨拶を、と思ってな。俺がここフォンティーヌ自由騎士団、俗称『
「……ヨロシク。私ハ、オリヴィア、ト言イマス」
才人が差し出した手を、オリヴィアは握り返す。そうした後、では仕事に戻りますと彼女は踵を返した。
その最中、開いた窓から吹き込んだ風によりスカートがふわりと捲れ上がる。
「お?」
「いやらしい」
「いや、だから! そうじゃなくて!」
下半身が思い切りタコだったんですけど。そんなことを『地下水』に叫んだ才人は、オリヴィアがピクリと反応し止まったのに気付かない。そして気付いた『地下水』は、表情を変えることなく彼女はスキュアですからと返す。そのまま、それの何が問題なのですかと彼へ続けた。
「いや別に問題ねぇよ。むしろここの連中そんなんばっかだから逆に安心した、と思っただけ」
「それだけですか?」
「……スカートの中がパンツ履いてなくてエロいなって思いました」
「いやらしい」
「そうですね! ちくしょう!」
大丈夫よ、あそこの団長人外とかその辺全く関係ないから。そう言って笑っていたピンブロンドの少女の顔を思い浮かべる。成程、とクスリと笑ったオリヴィアは、仕事を再開しましょうと窓の外を見た。
空は、雲一つ無い青空であった。
自由騎士構成員
ツンデレ?
ロリ
メイド
天然?
人妻?(NEW!)
尚全員人外な模様