ワンダリング・テンペスト   作:負け狐

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ラブ? コメ? パート


その2

 ジョゼットは帰りたかった。何でこんな場所にいなければいかんのだと自分を口実にした隣の女を見た。物凄くいい笑顔で向こうの四人を見ている女を見た。

 

「キュルケ」

「なぁに?」

「帰っていい?」

「えぇー? これから面白くなるところなのに」

「わたしは別に面白くないの。何で他人の三股現場を眺めなくちゃいけないのよ」

 

 視線の先には教本を広げているルイズとギーシュ、後ろで見学しているカレンデュラ。そして、ギーシュとルイズの間で黙々と勉強をしているモンモランシーがいた。

 

「あれがどうなるのか、興味あるでしょう?」

「ない。さっぱりない」

「えぇー」

 

 女子として終わってるぞお前、という目でジョゼットを見たキュルケは、じゃあ他の野次馬に聞いてみようと視線を動かした。レイナールと、ギムリと、拘束されているマリコルヌを眺めた。

 

「貴方達はどう?」

「……まあ、正直にいうと、少し」

「あの馬鹿がどのタイミングで刺されるかは気になるな」

 

 親指と人差し指で隙間を作ったレイナール、ギーシュの結末を予想しているギムリ。各々考えていることは別だが、少なくともジョゼットのように全く興味なしというわけではないのだろう。うんうんと満足そうに頷いたキュルケは、それで、と最後の一人に目を向けた。

 

「彼は何で縛られているの?」

「解くとギーシュに襲い掛かるんで」

「……そんなんだからモテないのじゃなぁい?」

 

 致命の一撃。縛られ転がされていたマリコルヌは、雷に打たれたように痙攣するとぐったりとして動かなくなった。心なしか吐息が荒い気がするが、ショックのダメージが大きかったのだろうと男性陣は気にしないことにした。

 さてそれではあの三人の恋の行方はどうなるのか。そんなことを思いながら視線を戻した一行は、そのターゲットに睨まれていることに気付き動きを止めた。

 

「何やってるのよ」

「見学よ。気にしないで」

「ツェルプストーはいいわ。問題はそこの二人、まだ復習終わってないでしょ?」

 

 もう、と嗜めるようにギムリとマリコルヌを見たルイズは、続きをやるわよと二人に述べた。深窓の令嬢が、ちょっぴり不機嫌な顔で、それでも自分達を呼んでいる。そのことを理解したギムリは、キュルケに右手を上げると歩みを進めた。じゃあ俺勉強するから、と恋バナウォッチを即座に切り上げた。

 マリコルヌもマリコルヌで、レイナールに拘束を解くよう頼み、自由の身になると同時に勉強道具を取り出し机に向かった。無駄に格好をつけた顔をしているが、思い切り似合っていない。

 

「えぇー……」

「じゃ、わたし帰るから」

「ジョゼット!?」

「貴女もアホなことやってないでほどほどで帰りなさいよ」

 

 ガタンと席を立ったジョゼットはやってらんねと教室を出る。勉強は別にどこでも出来る。キュルケに教えてもらう必要も、少しはあるが今は不要だ。とりあえず図書館でも行くかと頭を掻いた。

 さて、その元凶ともいえるギーシュであるが、彼は彼で状況がさっぱり飲み込めていなかった。昨日の騒ぎがどういうものかは理解しているが、それは以前もう終わらせたじゃないか、と自己完結していたのだ。新たな少女が現れたことで再燃している、というところには理解が及ばなかった。何より言っているのがギムリとマリコルヌの二人だったので真面目に取っていなかった。

 その状態で、このモンモランシーである。昨日いなかった彼女が突如現れ自分達と勉強をし始める、というのは一体全体どういうことなのかと首を傾げた。

 

「マスター」

「何だい?」

「鈍感?」

「え?」

「気持ち。確認」

 

 ほれ、とモンモランシーを指す。確かに直接聞くのが手っ取り早い。他から情報を集められる場所でもない。が、それはそれとして、カレンデュラの言い方はまるで彼女自身は分かっているような口振りである。

 自分とは違う人格として成長していると喜ぶべき場面なのだろう。とりあえずそういうことにして、彼は隣の少女に声を掛けた。

 

「何?」

「い、いや。今日は何で、ここで勉強を、と思って」

「わたしが一緒に勉強しちゃいけないの?」

「そんなことはないよ。君がいてくれるのならば、苦難の道も軽やかに歩める宮廷の廊下に早変わりさ」

「じゃあ、いいじゃない」

 

 ぷい、とそっぽを向くとそのまま会話を打ち切り、モンモランシーは再度勉強に集中し始める。良いか悪いかで聞かれれば確かにいいのだが、それはそれとして原因の究明くらいはしたいと思うのが少年の性である。

 もう一度彼女の名を呼ぶ。ジト目でこちらを見てきたモンモランシーに、ギーシュは再度同じ質問をした。先程よりも、はっきりと目を見て。

 

「だから」

「良い悪いじゃないよ。ただ単に、理由が知りたい。君のことならば何でも知りたい。そういう話さ」

「……だったら何で」

 

 ギーシュの言葉にモンモランシーの機嫌がどんどん悪くなる。彼を睨み、ぐい、と顔を寄せ、怒っていますとばかりに指を突き付けた。

 

「何で昨日わたしは仲間外れだったのよ?」

「……はい?」

「あの馬鹿連中と勉強するだけならいいわよ。正直そこまで親しいわけでもないし。でも、ルイズやカレンも集めたんでしょ? だったらわたしも誘いなさいよ!」

 

 ぱちくり、とギーシュは目を瞬かせる。そして次の瞬間思わず吹き出した。何笑ってるんだ、と眼の前の少女が怒り出すのを気にすることなく笑った。

 そうしながら、彼は怒れる少女を優しく抱きしめた。

 

「ごめんよモンモランシー。ルイズとは偶然だったんだ、ついでに言うと向こうが絡んできたんだ」

「ぎ、ギーシュ!? ちょっと、や」

「そうだね。あそこまで集まったのだから、モンモランシーも呼んでしまえば良かったんだ。そんな簡単なことに、思い至らなかった。そうすれば、君と一緒にいられる時間も、もっと増えた」

「だ、抱きしめながら耳元でささやくなぁ……!」

 

 へにゃん、と力の抜けたモンモランシーはギーシュのされるがままである。機嫌を直してくれるかい、という彼の問に、分かったから離せ、とふにゃふにゃな声で返すのが精一杯であった。

 

「最っ低。淑女を何だと思っているのよ」

「顔真っ赤よモンモン」

「うるさい! 後モンモン言うな」

 

 ギムリとマリコルヌの勉強を見つつ自身をからかうルイズを一喝すると、モンモランシーは肩で息をしながらギーシュを見た。あはは、と頬を掻く彼を見た。

 

「……今度」

「うん?」

「今度、王都でケーキが食べたいわ。エスコートしてちょうだい」

「喜んで」

 

 そう言って笑顔を向けるギーシュを見て、モンモランシーは再度そっぽを向いた。ふん、と拗ねるように鼻を鳴らした。

 まあそれもとりあえず補習が済んでからだ。そんなことを言いながら勉強を再開した二人は、しかし横にいる野郎共とは違い別段詰まることなく問題を終えていく。この調子であれば、補習は授業を一つ受けるのみで修了試験に挑んで問題あるまい。

 

「まあ、ギーシュもモンモランシーも問題なのは出席日数だものね」

「色々あったしね……」

「そこは貴女も一緒でしょ?」

「そうね。ちょっと学院を離れている期間が長くなっちゃったし」

 

 ふう、と息を吐くルイズを見て。ギムリもマリコルヌも、レイナールとキュルケですら病弱で療養していたからなのだろうと予想を立てた。普段は気丈に振る舞っているが、やはり根っこは儚いのか。そんなことをついでに思った。

 

「健康的な美の方がいいと思うのだけど」

「その辺りは好みじゃないかな。少なくともぼくは健康的な方が好きだし」

「あら、あらあら」

 

 レイナールを見やる。ふむ、と頷いたキュルケは、こういう小動物みたいなタイプを隣に置くのもいいかもしれないと口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

 きっかけは些細なものであった。作った本人は悪意の塊であったかもしれないが、それでも些細なものであった。

 勉強を続けて暫し経った頃、マリコルヌとギムリが再び先程の話題を蒸し返したのだ。すなわち、ギーシュの三股疑惑である。

 

「だから誤解だと言っているだろう」

「本当か?」

「本当だ」

 

 ギムリの言葉に真っ直ぐ彼の目を見てそう返す。確かに嘘を言っているようには見えないが、とギムリは顎に手を当て難しい顔をしたが、すぐに笑みを浮かべると視線をギーシュからその横に切り替えた。

 

「ミス・モンモランシ。貴女はどう思う?」

「どうって……三股も何も、別にわたしギーシュと付き合っているわけじゃないし」

 

 頬をほんのり赤くして、視線を逸らしながら言っても全く説得力はない。が、実際彼女の言っていることは事実といえば事実である。ギーシュはモンモランシーから告白の返事を未だ貰ってはいない。

 そしてその理由は、彼がまだ初恋を吹っ切っていないからというものである。

 

「ルイズが好きなら、それでいいんじゃないかしら」

 

 ぽつり、とそう零した。どこか諦めているように、そんなことを口にした。勿論それを聞き逃すような二人ではない。当然聞いていたギーシュに向かい、やっぱりお前最低だなと吐き捨てるように述べた。

 

「だから、僕はルイズとはそういう関係になった覚えもないし、これからもならない」

「本当か?」

「ああ。本当だ」

 

 ギムリの問いに、ギーシュは普段と少し違う声色で答えた。ルイズに聞こえるようにそう言ってのけた。そこにどこか真剣さを感じ取ったのか、キュルケはニヤニヤしていた笑みを切り替え、見守るような微笑みに変わっていた。

 

「ミス・ヴァリエールの方から迫ってきても?」

「勿論。昔ならともかく、今はもう」

 

 こくり、と頷いた。そうしてモンモランシーに向き直った。ルイズの前で言ってやったぞ、と宣言するかのごとく、彼女を見た。

 

「……まだ駄目ね」

「駄目かい?」

「未練、残ってそうだったもの」

「残ってる、か……」

 

 ちらりとルイズを見る。学院内なので平静を保ち状況を見守る姿を取っているが、内心はよ終われよと頬杖ついてジト目で眺めているのだろうというのがよく分かる。これを見て、未練が残っていると言われても正直ピンとこないというのがギーシュの本音であった。

 

「まあ君がそう言うなら仕方ない。今度はきちんと納得させ――」

「いつまで続けるんだこの野郎!」

 

 ゆっくりと会話を遮りながら、しかしこの野郎の部分はやけに早口で叫びながら。大人しく話を聞いていたマリコルヌがようやくキレた。勢いよく立ち上がり、机を思い切り手で叩き。少し痛かったのか、そこで動きを一旦止めた。

 

「……さっきから聞いてれば。三股なんて生易しいものじゃない、もっと甘酸っぱく、見ていて反吐が出るような恋愛模様じゃないか!」

「そこで反吐が出るとか言うから駄目なんだと思うよ」

 

 レイナールのツッコミを聞き流し、マリコルヌはヒートアップする。大体深窓の令嬢をお前が振る方向に持っていっている時点で万死に値する。そんなことを言いながら、彼はギーシュに詰め寄った。

 

「その様子だと、最後の一人とも甘酸っぱいエピソードを持っていたりするんじゃないのか? この野郎!」

「ちょっと何言ってるか分からない」

「ふざけるな! ミス・カレンデュラとは何があった!? わざわざ同年代の少女がお目付け役だか護衛だかになって学院までやってくるんだぞ、絶対何かやっているに決まってる!」

 

 無茶苦茶である。そうギーシュは思ったのだが、意外にもギムリもレイナールも、そしてキュルケもそれには同意するように頷いていた。見た目で判断するのならばカレンデュラは確かに同年代。そして状況を加味すればそう考えてしまうのも無理はないのかもしれない。

 が、それとこれとは話が別である。自立し『個』を持っているとはいえ、そもそもギーシュ自身が呪文で創ったゴーレムなのだ、甘酸っぱい恋愛話などあるはずがない。

 

「そう言われても、無いものは無い」

「嘘つけ! 今だって同じ部屋で寝泊まりしているんだろう!? 絶対に着替えとか、下着姿とか見てるに決まってる!」

 

 いきなり何言い出すんだとギムリはマリコルヌを見たが、どうやらヒートアップしすぎて暴走しているらしい。少しは落ち着けと立ち上がり彼の肩を叩く。そんなことを聞いてもしょうがないだろうと彼を諭す。

 

「いやまあ、カレンの裸はしょっちゅう見ているけど、今の話に関係ないだろう?」

 

 が、その前にギーシュがそんなことを言ってしまった。常時顕現の際何か問題がないかどうか定期的に素体オンリーにしてチェックをしているので、彼にとっては別段なんてことのない普通のことだと感覚が麻痺していたのが原因である。何だか分からないノリに当てられた、という部分もある。

 ともあれ、そのギーシュの一言はギムリの動きを止めるには十分であった。視線をゆっくりと傍観しているカレンデュラに向け、彼女を上から下に見た。青緑の髪と、無表情だが整った顔立ち、きちんと出るとことはでて引っ込んでいるところは引っ込んでいるスタイル。

 そんな彼女の、生まれたままの姿を、見た。そう言ったのだ。

 

「マリコルヌ」

「何だいギムリ」

「悪かったな、止めて」

「分かればいいんだ」

 

 ガシリと二人は固い握手を交わす。そうした後、揃ってギーシュに視線を向けた。ぶっ殺すぞテメェとばかりに睨んだ。

 

『ギィィィィシュ!』

「……何だよ」

「決まってるだろう。お前みたいな全人類の敵は!」

「この俺達が、ぶっ倒す!」

 

 杖を構えてそう宣言した二人は、これ以上無いほど目が血走っていた。完全に聞く耳などもたんとばかりに暴走していた。

 まあこれはしょうがないね、と傍観しているレイナールが、ギーシュは何故か無性に腹立たしかった。




次回、バトらない!(予定)

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