ワンダリング・テンペスト   作:負け狐

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決戦前のサブイベント的な話にする予定だった(過去形)

こんなんばっか


ワンダリング・テンペスト/真夏のお祭り騒ぎ
その1


 夏季休暇である。勝った負けたといった騒動はあったものの、ギムリもマリコルヌも補習を無事にクリアし、問題なく夏季休暇を迎えることが出来た。

 勿論ルイズもモンモランシーも、そしてギーシュも同じである。そうして学院の大半の生徒達と同じように、寮から自分の故郷であるそれぞれの領地へと帰るのだ。

 

「……帰らないの?」

 

 その予定を組んでいたルイズは、ギーシュとモンモランシーが神妙な顔をしていたので思わず尋ねていた。何だかんだ騒いでいたギムリやマリコルヌですら帰るのだから、一応まともな性格をしているはずの二人は当然帰郷するだろうと彼女は思っていたのだ。

 が、返ってきた言葉は微妙、という一言。

 

「何かあったの?」

「いや、あったというかないというか」

「……そうね、無いっていう理由があるわね」

 

 何のこっちゃとルイズは首を傾げる。そんな彼女を見ながら、そっちには無縁の話題だからなと二人は肩を竦めた。

 

「どういうことよ?」

「お金がない」

 

 怪訝な表情になったルイズが詰め寄った結果がこれであった。ピタリと動きを止めると、一歩下がる。そうした後、そんな馬鹿なと目を瞬かせた。

 ギーシュは苦笑する。こちとら貧乏貴族だ、そうほいほいと移動に大金は使えない。そう言って同じように頷くモンモランシーに視線を向けた。

 

「いや、アンタ等金あるでしょ……」

 

 『暴風雨』の報酬は当然この二人にも払われている。そしてその正体も踏まえれば、アンリエッタの懐を潤わせるだけの報酬を渡されて金が無いなどと言えるはずもない。

 

「それは『ギーシュ』が使っていいお金だと思うかい?」

「う……」

 

 視線を逸らした。確かに普段の彼の生活から考えてポンと帰郷の金を取り出し平然としているのは不審に映る。モンモランシーも同様だ。ルイズは公爵の娘であるという背景のおかげで、金遣いが多少荒くても気にされることはない。これは大きな違いだ。

 

「成程。そういうことね。……んー、じゃあわたしが協力した、とかで」

「三回目は勘弁して欲しい……」

 

 はぁ、とギーシュが溜息を吐いた。面倒ね、と笑うルイズと、どこか面白くなさそうなモンモランシー。そんな三人がそろって一息付き、ではどうするのかと口を開く。ルイズはこのまま帰郷、そして二人は学院に残って適当にのんびり。結局その結論となった。

 

「学院でのんびりか……。わたしもそうしようかしら」

「君の場合、のんびり出来ないんじゃないかい?」

「あー……そうね」

「深窓の令嬢は大変ね」

「大分慣れたけどね」

 

 ボリボリと明らかにお嬢様ではない頭の掻き方をしたルイズは、まあ仕方ないと肩を竦めた。どのみち、そうは言いつつ帰らないという選択肢は取れないのだ。

 

「ここで帰るのやめたらテファ泣くわよね」

「だろうね」

「そしてオーク鬼の巣が一つ消えるわね」

 

 思わず腹を擦った。ルイズは、なぜだかそこに風穴が空いている気がした。そしてその幻想は、場合によっては本当になる気さえした。

 

「するわけないじゃない!」

 

 同時刻。酷い、と虚空に向かって叫ぶ巨乳がヴァリエール公爵領にいたとかいないとか。

 

 

 

 

 

 

 そういうわけで一時帰郷したルイズと別行動を取ったギーシュ達は、補習の時の約束を果たすために王都にやってきていた。評判の店があったはずだ、とメモを頼りにやってきたカッフェの一角のテラスにて、ケーキと紅茶を頼み町並みを見やる。

 

「平和だなぁ……」

「そうね……」

 

 二人揃って完全に気の抜けた炭酸のような顔をしていた。ここのところの騒ぎから離れ、ようやく落ち着いたのだ。そう思っている二人である、仕方のないことかもしれない。

 とはいえ、実際はアンリエッタと共に行動していることからテラスから見える町並みが見た目通りの平和ではないのだと知っているし、国の外ではジワジワと悪意が広がっているのも承知の上。それでも彼等は平和だと口にした。諦めているわけも、気にしていないわけでもなく。それを踏まえた上で、そう評したのだ。

 

「それにしても、このケーキ美味しいわね」

「そうだね。うん、調べた甲斐はあったよ」

 

 クリームは甘すぎず、口の中でサラリととろける。乗っているフルーツは瑞々しく、スポンジもフワフワでそれらに負けないだけの力を持っている。

 そしてそれに合わせられたこの紅茶も、香りがケーキの邪魔をしないように淹れられていた。むしろ、この香りの紅茶があることでケーキが完成しているといっても過言でもないほどだ。

 

「学院のデザートも美味しいけれど、やっぱりそれを専門にしていると違うね」

「それに特化しているからこその強さね。……どこかの誰かさんみたいに」

 

 クスクスと笑いながらギーシュの鼻先をちょんと突く。これは一本取られたな、と笑ったギーシュは、それに対抗するようにモンモランシーの頬にそっと手を添えた。

 

「僕がケーキなら、君はこの薫り高い紅茶かな」

「ちょ、ちょっとギーシュ」

「君という存在が、僕を一段と際立たせてくれる。君がいるからこそ、僕は僕でいられる」

 

 頬に添えていた手をそっと彼女の手に重ねる。そうして彼女の手を取ると、ギーシュは両手で優しく包んだ。

 返事を、そろそろ貰えないかい。そう言って、彼は真っ直ぐモンモランシーを見た。

 

「駄目よ」

「……つれないなぁ」

「雰囲気で押そうとしたのが減点。やるならもっと正々堂々来なさい」

「十分正々堂々だったよ。今日この場所を選んだのも、そのためさ」

「む……それは、ありがとう……」

 

 唇を尖らせたモンモランシーがそっぽを向く。そんな彼女を見て、可愛いな、と思わずギーシュは口にした。当然のように顔を真っ赤にした彼女に睨まれた。

 

「ゴホン……。そういえば、カレンはよかったの?」

「子供じゃないんだ。一人でも平気だよ」

「ふふっ、そうね。もう立派な一人前だものね」

 

 王都までは三人で来たが、途中でギーシュの『ワルキューレ』、カレンデュラとは別行動を取った。二人きりでデートをしたい、という意味が多分に大きいが、それとは別に彼女の成長のためという理由もある。ただ二人きりになりたいだけならば、顕現を解除すればいい話なのだから。

 

「ねえ、モンモランシー」

「どうしたの?」

「一人で行動させたカレンのことを僕達がこうして心配する、なんて。まるで」

「まるで?」

 

 子供を心配する夫婦みたいじゃないかな。そう言って笑ったギーシュの額にティースプーンがぶつけられた。

 

 

 

 

 

 

 屋台の串焼きをじっと見つめる一人の女性。見目麗しく、見た目的には少女といっても問題ないかもしれないその女性は、よだれを垂らさんばかりに、というか実際垂らしながら焼ける肉を眺めている。

 屋台の親父が、そんなに食いたいなら買えよと女性に述べると、我に返った彼女はぶんぶんと頭を振った。何かに耐えるように目をつぶり、そして一歩二歩と下がる。

 

「あ~、でもお腹が空いたのね~」

 

 下がった歩数分再度前へ。再び肉を眺め、物欲しそうに眺めている。いい加減にしろ、と屋台の親父が叫ぶと、ビクリと肩を震わせ顔を伏せると踵を返した。

 そんな彼女の横に誰かが立つ。懐からスゥ銀貨を取り出すと、屋台の親父に向かってそれを差し出した。

 

「二本」

「へ? ああ、毎度」

 

 ついさっきまでずっと見ていた女性に負けず劣らず美人ではあるが、向こうとは違い無表情で一見不気味な雰囲気を屋台の親父は感じてしまう。とはいっても、客は客。串焼きを二本包むと目の前の少女にはいどうぞと手渡した。

 それを受け取りペコリと頭を下げた少女は、トボトボと屋台を去ろうとしている女性の肩をポンポンと叩く。ゆっくりと振り向いた女性に、そのまま包を差し出した。

 

「へ?」

「空腹?」

「う、確かにお腹は空いているのね。でもこのイルククゥ、見ず知らずの相手に施しを受けるほど落ちぶれてなんか――」

 

 盛大に腹の音が鳴った。少女はイルククゥの腹に視線を向け、そして再度彼女を見る。その際に引っ込めていた包を、もう一度彼女に差し出した。

 

「食事。必要」

「……い、いいのね? 本当に貰っちゃってもいいのね?」

「ん」

 

 そっとそれを受け取ったイルククゥは、猛烈な勢いで串焼きにかぶりついた。二口で一本を食べ終えると、もう一本はゆっくり味わうように食べる。本来ならば全然足らないと文句を言うところであるが、見ず知らずの相手に貰った上そんなことを言うほど彼女は駄目ではなかった。

 

「ごちそうさまなのね!」

「ん」

 

 笑顔になったイルククゥを見て、少女は無表情ではあるが満足そうに頷く。そのまま踵を返し、去っていこうとした。別れの挨拶も、お礼の要求も、何も言わずに行こうとした。

 だからイルククゥはそんな彼女の手を掴んだ。待てい、と彼女を引き止めた。

 

「用事?」

「用事よ! せめてお礼をさせろなのね?」

「不必要」

「どうしてそういうこというのね!?」

「自分。勝手。行動」

「はぇ? あ、自分で勝手にやったからってこと?」

「ん」

 

 コクリと頷くと、彼女は再度去ろうとする。だから待て、とイルククゥは少女の手を掴み直すと、無理やり向き直らせ笑みを浮かべた。そういうことならこちらも考えがあると笑った。

 

「だったらわたしも好き勝手にお礼をしてやるのね!」

「御礼?」

「そうなのね! まずは、とりあえず……友達になるのね!」

 

 いえい、と拳を振り上げて力説するイルククゥ。そんな彼女をじっと眺めていた少女は、コテンと首を傾げた。顔は無表情である。

 

「友達?」

「そうなのね! 何か一人ぼっちみたいだから、このわたしが友達になって寂しくないようにしてやるのね!」

「……友達。存在。複数」

「え? もういるのね? どこに?」

「場所? ……公爵領?」

「めちゃめちゃ遠いのね!? というか今いないじゃない!」

 

 そういう意味じゃねぇよ、とイルククゥが叫ぶ。意味が分からなかった少女が再度首を傾げている中、ああもうと彼女は少女の手を取った。

 

「いいからとりあえず遊ぶのね! わたし、この辺を一人で歩くの初めてだったから、ぶっちゃけ心細かったし」

「打算?」

「ついで! 友達になるのがメインなのね!」

 

 とりあえず何かを食べよう、と腕をブンブンと振り回すイルククゥに引っ張られたまま、少女はトリスタニアの街を歩く。

 その最中、ああそういえばとイルククゥが彼女に振り向いた。重大なことを忘れていた、と微笑んだ。

 

「イルククゥっていうのね!」

「名前?」

「そう! 友達なんだから、名前を聞かなきゃ!」

「ん。カレン。カレンデュラ」

「カレンデュラ? カレンでいいの?」

「ん」

「分かったのね。よろしくカレン!」

 

 

 

 

 

 

「……いやもう合流しましょうよ」

「駄目でしょ。これは見守らなきゃ」

 

 そうしてブラブラと街を歩くカレンデュラとイルククゥであったが、そんな二人を物陰から眺める二人組がいた。二人共に美しい少女で、片方は髪をアップにしたメイド服の少女、もう片方は花飾りを付けた少しフリルのついた普段使いなドレス姿。はっきり言ってしまえば、大分目立っていた。

 

「アトレさん」

「なによ十号? 今忙しいんだけど」

「……みんな、こっち見てます」

「へ?」

 

 視線を二人から周囲に向ける。道行く人々が一体何事だと彼女達を眺めていた。流石に足を止めるものはいなかったが、注目されているのは間違いない。

 目を瞬かせた花飾りの少女――アトレシアは、メイド服の少女――十号を見た。諦めの表情であった。

 

「合流しましょうよ」

「何か負けた気がするからヤダ」

「……じゃあ、とりあえずここから離れませんか?」

 

 そうね、とアトレシアは行動を開始する。早足で大通りを歩いた後、適当な場所で路地裏へと入り込んだ。人の視線が無くなったのを確認すると、やれやれと息を吐く。

 

「私は一応ご主人様がアカデミー所属なので下手なこと出来ないのですけど……」

「別に何か悪さしたわけじゃないからへーきへーき」

 

 そもそもここには『暴風雨』がいるのだから、多少のことは問題にならないだろう。そんなことを言いながら、アトレシアはスカートの中から蔦を伸ばす。適当な屋根にそれを引っ掛けると、ひょいひょいとそれを使って建物の上へと移動していった。

 

「言ってるそばから!?」

「だから、このくらいへーきだって」

「絶対平気じゃないのですよ! フォンティーヌ領とは違うんですって!」

「分かってるってば。今までだって色んな場所で何回も依頼をこなしてたでしょ」

「……じゃあ何でそんなことするんですか……」

「カレンとその友達が何するか気になるから!」

 

 逆に聞くけど、とアトレシアは十号に問う。お前は気にならないのか、と彼女に尋ねる。

 それを聞いた十号は暫し無言で俯き、そして左手を展開した。伸縮するアームでアトレシアのいる屋根にそれを引っ掛け、巻き取る勢いでそこへと上がる。

 

「気になります」

「うんうん。よし、じゃあ」

 

 屋根の上から街を見渡す。さっき向こうに歩いていったから、と当たりをつけて二人の姿を探していたアトレシアと十号は、程なくして何やら騒がしい集団を見付けた。そしてその中心部には、件の人物の姿が見える。

 暫しその集団を眺めていた二人は、何やらどこかに連れて行かれるところまで見終えるとゆっくり立ち上がった。

 

「……追いかけよっか」

「……そうですね」

 

 何か余計な事に巻き込まれてないといいけれど。そんなことを思いつつ、あの状況からすれば絶対に無理だろうなと二人は揃って溜息を吐いた。




人間が存在しない女子会が始まる予感……

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