もしもバトル・ロワイヤルがチーム戦だったら   作:ピコピコハンマー

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チームです!

1桐山和雄 織田敏憲 内海幸枝 清水比呂乃

2赤松義生 飯島敬太 稲田瑞穂 江藤恵

3大木立道 川田章吾 小川さくら 金井泉

4倉本洋二 黒長博 北野雪子 日下友美子

5笹川竜平 杉村弘樹 琴弾加代子 榊裕子

6瀬戸豊 滝口優一郎 相馬光子 谷沢はるか

7月岡彰 七原秋也 千草貴子 天堂まゆみ

8新井田和史 沼井充 中川典子 中川有香

9旗上忠勝 三村信史 野田聡美 松井知里

10元渕恭一 山本和彦 南佳織 矢作好美

死亡
国信慶時 藤吉文世



第1話

バスが県庁所在地の高松市に入り

車の外の風景が田園地帯から徐々に市街らしく変わり始めた。

色とりどりのネオン、

流れていく対向車のヘッドライト、

消え残っているオフィスビルの明かり。

 

タクシー待ちをしているのか

沿道の飲食店の前で話している、会社の

仲間らしいぱりっとした服装の男女たち。

 

清潔そうなコンビニの駐車場、

横断歩道で信号待ちをしている、

これは肉体労働者然とした自転車のおじさん。

 

5月にしてはまだ肌寒い夜で

そのおじさんがくたびれた

ジャンパーを引っ掛けているのが目に付いた。

 

しかしもちろん、そのおじさんも、ほかの雑多な印象と同様

バスの低いエンジンの唸りのうちに、すぐに車窓の後ろへ流れていった。

バスの運転手席の上のデジタル表示が、

ふっと八時十五分に変わった。。。。。

 

七原秋也(香川県城岩町立城岩中学校3年B組男子15番)は左側の席、窓際に座って荷物をごそごそいじっている国信慶時(男子七番)の横顔ごしにその夜の風景をしばらく眺めた後、

座席間の通路に出した右足

ケッズのスニーカーのつま先を少し伸ばした。

 

昔はそうでもなかったらしいが

今はだいぶ探さないと入手できない靴で

秋也のそれも右かかとの内側のキャンバスが裂け

ほつれた糸が猫のヒゲみたいに飛び出している。

 

メーカーはアメリカ、製造はコロンビア。

1997年現在、この大東亜共和国にとって、

アメリカは敵性国家となっている。入手困難な

理由もおそらく、いや絶対それであろう。

 

秋也はひとわたりバスの中を見渡した。

前の方で賑やかなのは、女子の主流派、

あるいは中間派グループと言っていい。

 

女の子はよくグループをつくるというけれど

城岩中学3年B組にはまああまり目立った

女子グループが無いのでそう呼ぶのもおかしい

かもしれない。

 

あるとしたらむしろ、少し崩れた感じの

有り体に言うと不良娘系の相馬光子 (女子11番)

のグループだろう。相馬、清水、矢作という数少ないグループだった。しかし、その3人は秋也の位置からはどこに座っているのか見えない。

 

通路を挟んだところには新井田和史(男子16番)

が座っていた。サッカー部に所属している

体育会系の男子であったが、あまり絡んだ

覚えはなかった。

 

そう言えば親しく付き合う人もだいぶ変わったな

秋也は思った。

 

前の席では、笑い声がたくさん聞こえてくる。

前には瀬戸豊(男子十二番)が座って喋っていた。

豊はクラス一のお調子者だからみんなが笑って

いるのは豊がまた何か冗談でも言ったのだろう。

 

秋也はまた隣でまだ荷物をごそごそやっている

国信慶時をちらっと見た。

秋也はとにかく国信慶時とはずっと一緒で

これまで来たのだ。そして、

それはこれからも変わらないだろう。

 

 

秋也はまた首を反対側へ向け、

後ろへ視線を流した。最後尾の横長の席の辺り

沼井充(男子十七番)が座っていた。彼は少し

ワルぶった不良というような感じだった。

そして、秋也の位置からは顔は見えなかったが

シートの間右の窓際のところに後ろ側を長く

伸ばした一風変わったオールバックの頭が

のぞけていた。

 

自分の左で少し下卑た話と粗野な感じの笑いが

続いているにもかかわらず、

微動だにしていなかった。

 

眠っているのかも知れないが、恐らくは

さっきまでの秋也と同じように街の明かりに

目を注いでいるのだろう。

 

その男、桐山和雄(男子六番)が修学旅行という

ガキのレクリエーションにきちんと顔を出すことが秋也にとって一番の謎だった。

 

桐山は竜平や充はもちろん不良のカリスマに

なっている男だった。けして体は大きくなく

せいぜい秋也と同じくらいの中背だったが、

高校生をやすやすとねじふせ地元のヤクザ組織と

渡り合いその存在は県下一円でほとんどひとつの

伝説になっているとも聞く。

 

親が一流企業の社長ということもあるのだろうが

(もっとも庶子だとあう噂もあった。)もちろん、

それだけではないだろう。知的で端正な顔と

トーンが低くはないがどこか威圧感のある声、

運動をやらせても、、、

ほとんど誰よりも優雅でうまかった。

 

本気でやりあったとして

城岩中で辛うじて並ぶのはそう

かつての天才ショートストップ秋也と

あるいは現在の城岩中バスケ部の天才ガード、

三村だけだろう。桐山和雄は完璧な男だった。

 

しかしなぜそのような完璧な男が

不良のトップに収まるようなことになったのか?

それは秋也の与り知ることではなかったが

ただ秋谷にもわかることがあったとすると

それは桐山から伝わる一種肌触りに近いような

ある種の違和感だ。

 

それが何なのだ、という指摘まではできない。

桐山はけして学校で悪さをするわけではない

いじめをするかというと間違ってもやらない

しかし、何かが、希薄に過ぎる

といえばいいだろうか。そんなような感じ。

 

学校に来ないことも多かった。大体、

桐山が「おべんきょう」をしている

などというのは世界で1番おもしろい冗談だ。

 

桐山はどの授業のときにもただじっと席に座り

静かに何か全く違う事を考えてるように見えた。

多分かくもうるさく義務教育を押しつける強力な

政府がなかったら学校に来ないんではないか。

いや気まぐれでよく来るかもしれない、

わからない。修学旅行なんかはパスするかと

思えたのだがきちんと現れていた。

 

これも気まぐれなのだろうか。

 

「秋也くん」

 

天井の照明を見つめてただぼんやり桐山のことを

考えてた秋也は明るい声で現実に引き戻された。

通路を挟んで隣の席、中川典子(女子十五番)が、

ぱりっとした感じの透明なセロファンの包みを

両手で差し出していた。手に収まるサイズのその

袋は天井からの白い光を水のように感じたまま

そしてその向こうに薄茶色の小さな円盤が、

クッキーだろうたっぷり入っているのが見えた。

 

中川は優しそうなやや黒目がちの目が印象的な

ごく女の子らしい丸顔と肩までの髪、小柄で

まずまずおちゃめでまあ、平均的な女の子だ。

 

手を半ば出して不思議そうに眉を持ち上げると

典子はなぜかちょっと慌てた感じで口を開いた。

 

「あのら今日弟にせがまれちゃって、

つくったの。あまりものなんだけど

時間が経ったらおいしくなくなっちゃうから

良かったらノブさんと食べて」

 

ノブさん、というのは国信慶時の愛称だ。

愛敬のあるぎょろりとした目、にもかかわらず

時々妙に達観したようなオヤジくさいところの

ある慶時のパーソナリティにふさわしいかも

知れない。女の子はあまり使わない呼称なのだが

典子は大方気軽に男子の愛称を口にする。

 

そしてそれでカドがたつことも違和感を

感じさせることもないのが典子らしいと

言えば典子らしいところだった。

 

どこかふんわりした女の子。そして

秋也は愛称らしい愛称を持ったことがなかったが

思った俺のこと名前で呼ぶ女性はこの子だけだな

前から思っていたけど。

 

やりとりを聞いていた慶時が

急いだように割って入った。

 

「ほんと?いいの?うれしいなあ。

典子さんがつくったんならきっとうまいよな」

 

秋也が伸ばした手の先からすっと慶時が袋を

かすめ取り金色のリボンを手早く解いて一個

つまんだ。

 

「ああ。めちゃくちゃうまいや」

 

自分の体ごしに慶時が典子に賛辞を送るのを

聞きながら秋也はちょっと苦笑いした。全く

慶時ときたら露骨もいいところだ。

 

大体典子が秋也の隣に座ったときからそっちを

ちらちら見たり妙に胸を反らせて姿勢を正したり

普通ではなかったのだけれど。

 

そうちょうどひと月半ほど前の春休み

街の水源のダム湖で二人で魚を釣っていたとき

慶時は秋也にぽつっと言ったのだった。

 

「なあ秋也、俺、ちょっと、好きな子、

できた。」

 

秋也が 「へえ。誰だ」 と聞くと 「中川」

と慶時がこたえた。

「うちのクラスの?」

「そう」

「どっちだ?二人いるじゃんか。

有香さんの方か?」

「おまえ。俺太った女の子

好みじゃないぞ」

「失礼なやつだな。」

「悪かった。そう、典子さんの方だ。」

「ふーん。まあいい子だよな」

「そう思うだろ?思うだろ?」

「わかったわかった」

 

そう全く露骨だ。しかし、にもかかわらず

典子はその慶時の気持ちには全く気付いていない

ようだった。鈍いのか何なのかよくわからない。

 

あるいはそういうところが

いかにも典子らしいのかも知れない。

秋也は慶時の手の袋からクッキーを一個取って

目の前にかざした。それから典子を見た。

 

「時間が経つとおいしくなくなるって?」

 

「うん」

 

典子が不思議に張り詰めた目で小さく二度

あごをひいた。

 

「そう」

 

「ということは、少なくとも基本的にはおいしいという自信があるわけだ」

 

「そうね」

 

「おまえ」

 

また慶時が割って入った。

 

「うまいって言ってるじゃんか、俺が。なあ、

典子さん。」

 

典子が 「ありがとう。ノブさん優しいね」

と笑むと慶時は急に硬直し押し黙ってしまった。

膝の辺に視線を落とすとクッキーを食べ始めた。

 

秋也はまた苦笑いして

クッキーを口に押し込んだ。

ふんわり甘い味と香りが

口中に広がった。

 

「うまいや」

 

秋也が言うとじっと見守っていた典子が

 

「ありがとー」

 

と声を弾ませた。気のせいかも知れないが

何だか慶時な 「ありがとう」 と言った時とは

トーンが違うような気がした。いや、少なくとも

彼女は秋也がクッキーを食べるのをじっと、

見ていたとても真剣な目で。

 

本当にこのクッキーは彼女が弟につくった

余り物なんだろうか?彼女は誰かに食して

欲しくてつくってきたんじゃないだろうか?

 

いややっぱり気のせいかもしれない。

 

秋也は相変わらず俯いている慶時からクッキーの

袋を取り上げた。

 

「おまえばっか食ってるよな、典子さん、

食べられないじゃないか」

 

「あ、ああ。ごめん」

 

秋也は袋を典子の方に戻した。

 

「ごめんよ」

 

「ううん、いいの、あたしは。秋也くんたち、

食べて」

 

「そう?しかし俺たちだけもらうってのも、」

 

秋也はそこで初めて

典子の向こうに座っている男に目をやった。

男、川田章吾(男子五番)は学生服に包まれた、

大柄な体を窓ガラスに寄せかけ腕を組んで

静かに目を閉じていた。

 

眠っているのかも知れなかった。

ほとんど坊主頭に近いぐらい短く刈り込んだ髪、

なんだかテキ屋のお兄ちゃんを思わせるその顔に

かすかに無精髭みたいなものが浮いている。

 

無精髭だみなさん!中学生にしちゃ

老け過ぎてやしないか?しかしまあ

納得できる事情が一つあった。

 

B組のクラスは2年のときから同じ面子だったが

川田章吾は四月に神戸から越してきた転校生だ。

そして川田章吾は怪我だか病気だかで(多分怪我)

半年以上学校を休んでいたため留年した、つまり

ほんとうは秋也たちよりは1年先輩だという

話だった。本人がそう言ったわけではないが

とにかくそう聞いた。

 

はっきり言って

川田についてはあまりいい話を聞かなかった。

前の学校では不良で学校を休んだ怪我というのも

ケンカが原因だという噂もあった。

 

そしてそれを裏づけるように

川田には全身に傷があった。

右眉の上に走っている大きな傷もそうだが

着替えるときなど秋也はその腕にも背中にも

同じような傷を見つけてぞっとしたものだった。

 

左の肩口などには

何か得体の知れない丸い傷痕が二つ

並んでついていた。

 

まるきり銃で撃たれたような傷だった

なんでもそんなことがあるとは思えないが。

 

そんなこんなの噂が出るたび、

「いつか桐山とやり合うんじゃないの」

といったことがささやかれてもいた。

 

とにかく歳が違う上にそうした噂もあって

クラスの子は川田を避けているような気がした。

しかし秋也は噂で人を判断するのは嫌いだった。

 

誰かが言っていた、自分の目で見られるなら

他人の話に耳を貸す必要はない。

 

秋也は典子に向けてあごで川田を指してみせた。

 

「カレは寝てるのかな」

 

「うん、」

 

典子は川田の方をちらっと振り返った。

 

「うん、あたしも、起こすの悪いと思って」

 

「クッキー食べるタイプじゃないか、

どっちにしても」

 

典子がくすっと笑い秋也も笑いかけたとき、

「俺はいい」

という声が聞こえた。

 

秋也は川田の方に視線を戻した。低く

張りのある声の残響が耳に残っていた。

秋也にはあまりなじみのない声だったが、

しかしそれは明らかに川田が発したものだった。

 

川田は相変わらず目を閉じているが

眠っていなかったらしい。同時に

もう川田が転校してきてから一ヶ月以上経つのに

声をほとんど聞いたことがないことに気づいた。

 

典子がまた川田の方をちらっと振り返り

それから秋也に目を戻した。秋也は肩をすくめて

クッキーをもう一枚頬張った。

 

そのあと

しばらくは典子や慶時と雑談を交わしていたいと

思ったのだが……………

 

十時が近づいたころだった。

 

秋也が妙なことに気づいたのは。

 

車内の雰囲気がおかしかった。

 

左側にいる慶時がいつのまにか

静かに寝息を立てていた。みんなの体が

座席からだらしなく傾いている。中川典子も

目を閉じていた。誰の話し声もしなかった。

 

全員が眠っているようだった。もちろん

健全なやつならベッドに入る時間かもしれないが

しかしお楽しみの修学旅行の出発直後、

みんなちょっと眠るには早すぎやしないか?

 

そして何より問題なのは、秋也自身が

ものすごい眠気に襲われていることだった。

も辺りを見回し、それから物凄くだるくなって

シートの背にもたれた。

 

視線が泳ぎこの狭い空間の一番前闇に溶け込んだ

フロントグラスの中央にルームミラーが見え、

秋也はその中に運転手が映っているのを認めた。

 

その顔、口をマスクのようなものが覆っていた。

そこから下へ向けて何かホースみたいなものが

伸びている。耳たぶの上下を横切って巻きついた

幅の細いバンド。あれはなんだろう?

 

ホースが下から伸びていることを除けば

それは航空機の緊急用酸素吸入器みたいだった。

バスの中で息ができないってのか?

 

かりっと何かをひっかくような音がして

秋也は随分苦労してそちらに首を傾けた。

何か透明のゲルの中を動くように体が重かった。

 

シートから腰を浮かせた川田章吾が

窓ガラスを開けようとしていた。

しかし窓は開かないらしかった。

 

そのうち川田が左の拳をガラスに叩きつけた。

割ろうとしているのだガラスを。なんでまた?

しかしガラスは割れなかった。

 

そして川田の手から力が失われだらんと落ちた。

そして体がシートにどさっと落ちた。かすかに

ついさっき聞いたその低い声が

 

「ちくしょう」

 

というのが聞こえたような気がした。

 

秋也もすぐに眠りに落ちた。

 

城岩中学三年B組の修学旅行バスはとっくに

ほかのバスの列を離れ高松市に向けながら

とっくにUターンしていた。市街に戻り

入り組んだ道をもうしばらく走った後

静かにエンジンを止めた。四十年配の

いかにも好人物らしい半白髪の運転手は

皮膚に酸素マスクを食い込ませたまま体をひねり

微かに哀れむような視線で生徒達を振り返った。

 

しかしすぐに窓の下に別の男が現れると

きりっとした表情に戻って共和国標準の

一風変わった挙手の礼を行った。

 

そしてスイッチ操作でドアを開けそこから

戦闘服にマスクを着けた男たちが乗り込むうちに

視線を少し遠くへ動かした。

 

月明かりの下、

青白いコンクリートの埠頭の向こうに海が広がり

【選ばれた者】を運ぶための船が揺れていた。

 

この時、眠っている【選ばれた者】が

命を賭けた椅子取りゲームに選ばれるなど

ということは考えてもいなかった。

 

【残り42人】

 

バトルロワイヤル 第1章 〜完〜




1話終わりました。
ここまでは原作と変わらないです。
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