魔法使い二人と筋肉が行く!! 作:マユ太
検証が終了し、組合にあると言う組合長室に真っ白に燃え尽きた組合長に呼ばれた紅き翼。
そして、死ねばもろともと組合長に引きずられるようにして連れて行かれた現ミスリル級冒険者アインザック。
紅き翼にとって今後の生活を左右する話し合いが始まる。
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帰還した時に組合長が偽りなしと答えた事で冒険者達の驚きの声と賭けに負けた冒険者達の慟哭をBGMに組合の中にある、組合長が使っている部屋へと入室した紅き翼。
部屋の中は実に質素であり、奥に木製の大きな机と来客用のソファーとソファーを挟み込むように設置されている円卓のテーブル以外は何もない。
組合長は奥の立派な机にある椅子に腰を落とし、護衛の為だろうか、アインザックを自分の横に立たせる。
腰を下ろし、一息ついた組合長はゆっくりと紅き翼に問いを投げた。
「お主ら……人間か?」
彼の問は最もだった。
人類が持ちえない身体能力と魔力。
さらには見た事のない強大な魔法。
組合長の予想では、遥か昔に国堕としを行った吸血鬼と同格の化け物ではないかと疑っているのだ。
事実、紅き翼がその気になれば一時間も経たぬうちにこの国や街は灰燼と化すだろう。
もし、紅き翼が人間ではなかったら組合長はプライドを捨て去り、地面に額をこすりつけ、命乞いをするつもりだ。
そして、この国から出て行ってもらえるように自分たちの出来る範囲で従うつもりである。
最悪の場合は、瞬殺される事を覚悟にアインザックと共に果てる覚悟だ。
しかし、そんな大きな覚悟を背負った組合長だったが、化け物集団の代表であるナギの言葉に唖然とする。
「ん?人間っちゃー人間だけど………人間以外も居るの?」
そう、あまりにも彼…おそらく他の二人もだろう常識のなさにだ。
遠い国から旅をしており、金の価値を説明した後で最近この国にやって来た事は受付嬢から話は聞いていた組合長。
しかし、これはあまりにも酷過ぎる。
この世界には人間以外に知性を持つ異形の怪物達が居る。
それは、幼い子供でも知っている世界共通の常識だ。
ふざけているのかと罵倒したくなった組合長は、何が彼等の逆鱗に触れるか分からないので、その衝動を心の奥底へと抑え込む。
彼の言動にこの国の未来が掛かっていると考えての事だ。
組合長の隣でナギの話を聞いているアインザックも組合長と同じ気持ちなのだろうか?
彼が拳を作っているその手の平は爪が皮膚を破らんと深く食い込んでいる。
「質問を質問で返すのは止めて欲しいのじゃが、答えよう。
人間以外にも亜人と呼ばれる者達は居る。
この近くだとゴブリンやオーガ、リザードマンにビーストマン。
更には異形の者として恐れられるアンデットのエルダーリッチ。
そして……
吸血鬼のところだけ、強調するように声を出しながらナギを睨み付ける組合長。
組合長の言葉に一瞬だけ考える素振りを見せたナギは……。
「いやいや、俺達人間だからね?」
あっけらかんと軽いノリで答えた。
『お前たちの様な人間が居てたまるかぁあああああ!!』
組合長とアインザックは心の中で吠えた。
口に出さなかったのは奇跡だろう。
元ミスリル冒険者と現ミスリル冒険者の忍耐力は伊達ではなかった。
「俺達
人間を超えた人間だよ」
「に…人間を超えた人間じゃと?」
「ああ、人間だった俺達の強さは人間という器からはみ出した。
人外にして人間。人間にして人外って所だな」
ナギの説明に疑わしい表情をする組合長。
もし、目の前の男がアダマント級冒険者だとしても聞いたこともない人種…ハイヒューマンだと公言すれば少年少女に訪れる『可哀想な時期』として適当に相手をしていただろう。
だが、目の前に居るこの三人は正真正銘の怪物。
三人ほどの強さを持つ怪物が自分達の様な脆弱な人間に正体を誤魔化す必要性はないと思うが、異形の怪物である可能性が拭いきれない組合長は彼らの正体を見極める為の一手を提案した。
「ならば……このポーションを肌に振りかけなさい。
もし、お主たちが吸血鬼であるならばその肌に焼けど……いや、肌荒れ程度の変化ならば起こるやもしれん」
机の引き出しに念のためと、用意しておいたポーションを三本、机に取り出す組合長。
目の前の彼等の強さで、正直不安であるがアンデットならば回復用のポーションでダメージを負う。
それで彼等が吸血鬼ではない事を調べようと言うのだ。
納得が言った三人は机においてあるポーションを受け取った。
「へぇー、青いポーションなんて珍しいな」
「これってどれくらいの効果があるんだ?」
「鑑定してみたが…第二位階程度の治癒能力があるようだ」
青いポーションを知らない三人に対して色々と諦めた組合長とアインザック。
三人はこの世界ではそこそこの金額を誇るポーションを躊躇する事なく蓋を開けて腕に振りかけた。
青いポーションが振りかけられ、床に染みを作る中、三人の腕にはまるで変化がなかった。
当然である。
ナギとラカンは人種の超越種であるハイヒューマン。
エヴァンジェリンは真祖の吸血鬼ではあるが、アンデットではない。
分類としては彼女は吸血行為できて、不死身と言うだけの人種なのだ。
これは、吸血鬼でありながら回復魔法は使う必要性を感じないから苦手と、彼女をモデルにしたヒロインのセリフによって生まれた設定だ。
もし、彼女のモデルとなった真祖の吸血幼女がこのセリフを言っていなかったら彼女は異業種の吸血鬼として設定されていた。
組合長の提案をナギが理解した時、過去の自分が目の前に居たら声を高らかに褒め称えていただろう。
ナギ達の腕に変化がない事を確かめた組合長とアインザック。
「アンデットの類ではないようじゃな……。
では、お主らの目的は…」
「目的?しいて言うなら……楽しく生きる事かな」
地獄の様な時間に色々と疲れてしまった組合長とアインザック。
二人は紅き翼を完全に信用した訳ではない。
仮に悪しき者だとしても自分たち程度では紅き翼を止める事が出来ない。
仮に出来る可能性があるとしたら英雄級の力を持つアダマンタイト級冒険者のみだろう。
二人は、これ以上は何もできないと判断した。
「あい、分かった。
今後もお主達、紅き翼の活躍に期待しよう。
ギガントバジリスクの報酬は金額が金額であるが故にすぐには渡せぬが、慰謝料は受付嬢に手配させておる。
退室後に受け取るがよい。
さて、長く拘束してわるかったの。
もう、聞きたい事は終わったから帰ってよいぞ」
「了解した」
「ったく、めんどくせぇな。
さっさと払えばいいのによ……」
「ぼやくな筋肉ダルマ。
煩わしいが、組織の長としては及第点だろう」
組合長は素直に出ていくナギとめんどくさそうに頭をガシガシと掻きながらナギに続くラカンと、組合長を一瞥して評価を口にしながら部屋を最後に出ていく、エヴァンジェリンを見送った。
三人が退室し、遠のいていく彼等の足音を確認した後、組合長は勢いよく机に突っ伏し、アインザックは床に崩れ落ちた。
「組合長…!もう……本当に勘弁してくださいよ!!」
「……」
突っ伏した組合長は屍の様に動かない。
組合長の気持ちは分からなくもないが、アインザックの文句はしばらく止まる事はなかった。
この時、組合長のエイリアンの様な頭の中ではどうやって後腐れなく引退し、目の前のアインザックを組合長にするかを考えていた。
勿論、彼以外で次期組合長候補にしていたベテランの冒険者は居る。
しかし、紅き翼相手では紙装甲にも等しいが、自分の護衛のつもりで傍に置いていた彼は今後極秘扱いとなるハイヒューマンと言う埒外の存在を知った。
極秘情報を知った彼はもはや、普通の冒険者ではいられない。
ご愁傷様である。
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彼等の埒外な力を直接目にしていない冒険者たちは新たなアダマンタイト級冒険者の誕生に様々な思いを巡らせていた。
嫉妬。
尊敬。
畏怖。
疑心。
様々な視線に晒されながら、三日後。
彼等、紅き翼は王国二つ目のアダマンタイト級冒険者となった。