魔法使い二人と筋肉が行く!! 作:マユ太
ギガントバジリスクの討伐が認められ、アダマンタイト級冒険者となった紅き翼。
彼等は紅き翼の監視役兼生活のサポートを担っているプルトン・アインザックのチームと共に依頼をこなして行く日々を送っていた。
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エ・ランテルの冒険者組合。
その受付では今日も高い難易度の依頼を受ける為、すっかりこの街に馴染んだ紅き翼の姿があった。
「ナギさん、組合が出しているクエストで紅き翼にふさわしい依頼はもうありませんが…どうします?」
「ん?マジで?」
「はい…マジです」
アダマンタイトにスピード昇格した紅き翼はものによっては数か月かかる高難易度クエストをほぼ、毎日のように消化していた。
お陰で紅き翼は莫大な資金を手に入れる事が出来たが、組合が出せる紅き翼のランクにふさわしい依頼が底を尽きてしまったようだ。
申し訳なさそうに、依頼がない事を話す受付嬢に対して暇になったナギはどうしたものかと考える。
「なら、休みでいいんじゃね?
テキトーにブラブラするのもたまにはいいだろ?」
「そうだな……私も生活魔法やエ・ランテルで販売している服に興味がある。
たまには自由行動でいいと思うぞ。
まあ、予定のないナギがどうしてもと言うのなら…私について来てもいいんだぞ?」
突然空いてしまった予定を考えているナギの横で休日を提案する紅き翼で最長の身長を誇るジャック・ラカン。
それに便乗する形で賛成し、さりげなくナギをチラ見しながらデートに誘う妙齢の美女エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。
彼女の発言に男達のギリィ!と言う歯ぎしり音が組合に響いた。
『憎しみで人を殺せたら!!』
エヴァンジェリンに気のある男達は暗黒面に堕ち、俯いてナギを呪った。
もし、ナギがアダマンタイト級冒険者でなかったら、ナギは嫉妬に狂った男達に路地裏に呼び出されていただろう。
まあ、当然の如く返り討ちにあうのだろうが……。
「じゃあ、今日は休みでいいか。
エヴァの言う通り、突然の休みで予定もないしな……俺も生活魔法を見に行くよ」
「ハハハハ!!そうか、そうか!!
私は特に嬉しくないが、そんなに私と行きたいか!!
よし!ならば貴様に、この私をエスコートさせてやろう!!」
「滅茶苦茶、嬉しそうじゃねぇか……。
ん?」
エヴァンジェリンの不器用なデートのお誘いに乗ったナギを我が世の春が来た!と言わんばかりに言葉とは裏腹に全身から喜ぶエヴァンジェリン。
そんな分かりやすい癖に素直になれない彼女を呆れた様子で見ていたラカンは複数の視線に気づいてゾッとした。
ナギのファンだと思われる女冒険者や受付嬢が般若の様な形相で有頂天なエヴァンジェリンを睨んでいるのだ。
その姿はあまりにも恐ろしく、嫉妬に狂う男達の方がまだましではないか?とラカンは思い、彼女たちを見なかった事にした。
彼はエヴァンジェリンの様な良い意味でのめんどくさい奴は面白くて好きだが、ドロドロしためんどくさい女は嫌いなのだ。
「じゃあ、俺は適当に遊んでるから、帰りは遅くなるぜ」
「頼むから、暴れるなよ……」
颯爽と戦線離脱をしたラカンはナギの注意に応えるように右手を上げてフラフラさせて冒険者組合から去って行った。
「さて!私達も行くぞ!!」
「……おう」
ラカンに対して不安を抱いて居るナギを上機嫌のエヴァンジェリンが手を取り、ラカンに続くように外へ出て行った。
残ったのは二人に対する嫉妬の炎に身を焦がしている、男女複数と我関せずと受ける依頼について考察している冒険者達だけだった。
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ラカン編
自身の創造主でありチームリーダーであるナギと友人であるエヴァンジェリンの仲がどれだけ進展するのかを楽しみに外に出たジャック・ラカン。
彼は数日前からエ・ランテルに居る時に感じる熱い視線の主を誘い出す為に人気のない路地へと入っていく。
「いやはや、俺様もついに女性ファンが付いたんじゃねーか?と思ったんだがな……」
路地に入り鼻をスンスンと匂いを嗅ぐ事で彼の嗅覚が捉えたのは汗臭い男の匂いだった。
露骨にガッカリした彼は道の真ん中に立ち止まり、追跡者に声を掛ける。
「おい、わざわざ人気がない所まで来てやったんだ。
そろそろ顔を出したらどうだ?」
クルリと振り返り、追跡者が居るであろう物陰にファイティングポーズを取りニヤリと笑うラカン。
もし、自分を狙う冒険者だった場合はボコボコにした後、授業料として身ぐるみを全て剥ぐつもりらしい。
彼がお金の使い道まで考え始めた所で、追跡者が姿を現す。
「ジャック・ラカンさん、俺を弟子にしてください!!」
「ん?」
エ・ランテルで覚えた滅茶苦茶手加減パンチを青年の意識を刈り取る心算で叩きこもうとした直前で拳を止めたラカン。
彼が拳を止めた理由は、襲撃者らしからぬ言動だけでなく青年の顔に見覚えがあったからだ。
「お前さんは確か……」
「はい!賭けの時に一度だけお会いしたガゼフ・ストロノーフと申します!!」
殴られそうになったというのにキラキラとした双眸で自己紹介を始めたガゼフ・ストロノーフ。
ラカンは思った。
こいつはキメェと。
まぁ、ほとんど初対面のラカンからしたら、いきなり弟子入りをお願いし、殴られそうになったにも関わらずキラキラとした目で自己紹介をしてくるのだ。
おそらく、大多数の人間がガセフを危ない奴と思うだろう。
勿論、ガセフには殴られそうになって喜ぶ危ない性癖はない。
「俺、強くなりたいんです!!お願いします!!」
頭を勢いよく下げるガゼフ。
その姿はまさに真剣であり、茶化せる雰囲気ではない。
だが……。
「え?いきなりなに?怖いんだけど」
目の前の筋肉は空気を読まなかった。
「そうですよね。
貴方からしたら、殆ど知らない相手にいきなりこんな事を頼まれても困りますよね……。
驚かせてしまい、すみませんでした」
ラカンの言葉を聞いて下げていた頭をさらに下げるガゼフ。
普通ならふざけるな!と激高して帰るところなのであるが、ガゼフはラカンの弟子入りに相当本気らしく、ラカンの立場を考えて素直に謝罪した。
「およ?」
ガゼフに帰ってもらう為、意図的に空気を読まなかったラカンはガゼフの対応にほんの僅かにではあるが好感を持った。
これで、まだ自分勝手に弟子にしてくれと言おうものなら、拳骨の一発でも食らわせた後に財布から授業料を頂いていた所だ。
頭を下げ続けるガゼフにほんの僅かではあるが、興味を持ったラカンは弟子になりたい理由だけでも聞いてみる事にした。
「お前さん……なんで俺様に弟子入りしたいんだ?」
ラカンの問いかけに顔を上げたガゼフはラカンの瞳を見つめながら口を開いた。
「俺は…常に死と隣り合わせの貧しい村人を救う英雄となって証明したいのです。
弱き者を救う、強き者が居る事を……。」
ガゼフの口から語られる彼の願望。
まさに英雄と呼ばれるにふさわしい精神を持った好青年である。
そんなガゼフに対し、ラカンの反応は……。
「ほー、口だけは漢じゃねぇか」
素直に感心していた。
正直、この町の冒険者や傭兵の類でまともな人材は少ないと判断していたラカン。
故に、目の前のガゼフはラカン視点でみれば口だけではあるものの、その英雄の如き精神は彼の弧線に触れたのだ。
「ええ、今の俺は口だけです。
ですから、英雄級の力を持つ紅き翼の貴方に近づきたく思い、弟子入りしたいと思っております」
「じゃあ、金貨百枚な」
「え?」
法外な値段を吹っかけられたガゼフは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした後、思考が停止した。
当然だ、弟子入りで金が必要になる話は平民である彼も聞いたことはあるが、金貨百枚など貧乏な村出身の彼に出せるはずがない。
「そんで、俺様の弟子になるんだったら俺様印の必殺技が欲しいよな……」
「え?…え!?」
「ああ、金は後払いでいいから気にすんな」
「いやいやいや!ちょっと待ってください!!」
自分が思考停止状態に陥っている間にどんどん話が進んで行く事に危機感を覚えたガゼフはラカンの言葉を遮った。
「力が欲しいんだろう?
だったら、金貨百枚くらい稼げる漢になれや…ガゼフ・ストロノーフ」
ラカンのこの言葉と共に彼の雰囲気がガラリと変わった。
ビリビリと感じる力の波動にガゼフの周囲の空気が震え、巨漢であるラカンの身長がさらに大きく見えた。
自分が世話になっている傭兵の先輩とは比べ物にならない真の強者の覇気。
「……」
ガゼフは悟った。
ここが真の英雄になれるか、なれないかの分かれ道であると……。
そして、彼は迷わず決断した。
「お願いします、師匠!!」
「おう。じゃあ、契約書にサインをしてもらおうか。
あと、修行についてこれなかったりしたら破門な。
勿論、金は長い時間を掛けて徴収するからな」
「は、はい」
金は自分の覚悟を試す為の試験ではないか……と、淡い期待を抱いていたガゼフだったが、そんな期待はすぐに打ち砕かれた。
しかも、契約書にサインを書かせる徹底ぶりに思わず、弟子入りを少しだけ後悔したガゼフであった。
こうして、ガゼフ・ストロノーフは金貨百枚の大借金を抱え、超越者であるジャック・ラカンの弟子となり……。
「じゃあ、適当にドラゴンでも狩りに行くか」
「え?」
彼の地獄の日々が始まった。