ARMORED CORE〜In the blank〜 作:シリアル
来週からは毎週更新を心がけますので、どうぞよろしくお願いします。
––––気づくとバスは、軍事基地らしき巨大な施設へと差し掛かっていた。
表に掲げられた、原子構造を模したものと思われる特徴的なシンボル。それから見るに、ここはオーメル軍の駐屯地といったところだろうか。
両脇に二脚型のノーマル機が配置された正門を抜け、駐車場に入ると、ジープやトラックなどといった軍用車両が並ぶ中にバスは停止した。
車両前方の扉が開くと、それでやっと目を覚ました様子の乗客たちはぞろぞろとバスを降りていく。
「おい、起きろ。着いたぞ」
僕が肩を叩くと、アーロンは目をこすりながら小さく呻き声を上げる。
「ん……。やっと着いたのか。どこだ、ここ」
「外を見てみろ」
僕が窓の方に顎をしゃくると、彼は身を乗り出してその向こうに広がる風景を覗き込む。
「うへえ、腹黒企業のロゴマークで溢れかえってやがる。カロリー高すぎて胸焼けしちまいそうだぜ」
そう言って、彼は大げさに顔をしかめてみせる。自身より資本規模の小さいローゼンタール社を傀儡として盟主に据え、企業連を意のままに操るオーメルの狡猾さは、レイヴンだけでなく一般人の間においても周知の事実であった。
「だがまさか、企業連中が軍の拠点に俺たちを迎える日が来るとはな。こんなご時世になって、やっと奴らも俺たちを信用する気になったってわけか」
「……お前には、これが信用している人間に対する待遇に見えるのか」
呆れ混じりに言葉を返しながら、僕は視線を一瞬だけ後方へとやる。そこには、企業連軍の戦闘服に身を包み、五人用座席の両端に座る二人の兵士の姿があった。
––––ラインアークを出発してからと言うもの、ずっとこの調子である。僕たちの周囲には常に武装した数人の兵士たちが張り付いて、その手に持った銃をわざとらしくちらつかせながら、こちらの一挙一動にまで目を光らせているのだ。
本来であれば、偽の依頼を掴まれされた僕たちに、こんな遠方までつきやってやる義理などなかった。しかし、いくら百戦錬磨のレイヴンたちといえど、銃を持つ相手に生身でどうこう出来る筈もなく、結局誰もが大人しく従うこととなったのだった。
「……面倒くせぇ野郎だな、ったく」
シートから立ち上がったアーロンは、さぞ不機嫌な様子でガリガリと頭を掻く。
「皮肉ってモンががわかんねえのか。お前、さては文系だな」
「どちらかと言われれば確かにそうなるが……。関係ないだろ、そんなこと」
「いや、大いに関係あるね。俺の経験から言わせてもらえば、冗談が通じねぇ野郎は十中八九文系だ」
偏見も良いところである。そもそも彼の口調は、どうも皮肉を言うときのそれには聞こえなかったが……。アーロンの暴論に再び呆れ返りながら、僕は降り口へと向かう。
バスを降りると、兵士の誘導に従って建物の中へと入る。無骨な外装にそぐわない、やたら仰々しい装飾が施されたエントランスには、別車両で先行してやってきたのだろうか、バートランドの姿があった。
しばらくして、全員がロビーに集まったことを確認すると、彼は口を開いた。
「諸君、長旅ご苦労であった。疲労も溜まっているところだろうが、もう少しだけ我々に付き合ってもらいたい」
***
「最上階です」
満員のエレベーター内にアナウンスが響くと同時に、それまで視界を遮っていたドアが開く。
人の波に流されるがままに大型エレベーターを降りると、そこは、見通しのよいガラス窓と四方を囲まれた管制室であった。
「こちらに集まってくれ」
バートランドの言葉で、全員が北側のガラス窓の前に集合する。眼下には、円形のダミーターゲットと障害物代わりのコンテナが多数配置された、急ごしらえの兵器試験場らしき空間が広がっていた。
––––「君たちに、見せたいものがある」。
そう語るバートランドに連れられ、僕たちはこうして施設の全容を一目に見渡せる管制塔までやって来たわけだが、今のところそれらしきものはどこにも見当たらない。……果たして、これから何が起こるというのだろうか。
そんなことを考えていると、近くに立つ兵士が通信機に向かって囁く声が聞こえてきた。
「全員集まった。始めろ」
……それからしばらくすると、分厚い窓ガラスをバリバリと震わせるほどの轟音と共に、一体の黒い人型がこちらへと飛来する。
「なんだ、あれ。ノーマルか」
いつの間にか隣にやって来たアーロンが、僕にそう尋ねる。
確かに、飛行能力をもつ人型の兵器と言えば、二脚型のACしか思い当たらない。そのサイズから見るにネクストでないことだけは確かだが……。
「……しかし、ノーマル程度にあんなスピードが出せるのか」
背中から青い炎を吐き出しながら夕焼けに赤く染まった空を一直線に駆けるその速度は、明らかにノーマルのそれではなかった。
試験場の中央部、ひときわ高く積み上げられたコンテナの上に着地すると、「それ」はゆっくりこちらへと旋回する。
周囲との対比から見るに、全高は五〜六メートルといったところだろうか。ノーマルと比べると、一回りほど小柄な印象である。
平面と曲面が混在する一般的なノーマルとは違い、まるで直方体の組み合わせだけで構成されたかのような、角張ったデザイン。左右非対称となった脚部の片方には、盾と思しき巨大な金属板が取り付けられていた。