ARMORED CORE〜In the blank〜 作:シリアル
初めて目にする異形の人型に、周りのレイヴンたちはにわかに色めき立つ。そんな中でアーロンは、意外にも冷めた表情のまま口を開いた。
「『企業連・夏の新作コレクションお披露目会』ってか。……全く、遠路はるばるやって来て、企業連中のくだらない顕示欲に付き合わされるこっちの身にもなってもらいたいね」
この時間があの新型ノーマルだか何だかの開発者の自己満足によって設けられたものかどうかは知らないが、彼の言う通り早く本題に入ってほしいところではある。しかし……。
「くだらない、と一蹴するのはまだ早いんじゃないか。もう少し様子を見てみよう」
––––その一方で、窓の外に立つ異形に対し、多少なりとも関心を抱いてしまっている自分もいた。
「……驚きだな、他の大勢と同じようにあんたまでノリノリとは。文系にしちゃヤケに素直だな」
先ほどまでとは一転、素っ頓狂な表情で彼は言う。
この男、文系に一体何の恨みがあるのだろうか。心の中でそんなことを呟きながら、僕は再びガラス窓の向こうへと視線を移す。
まるでランナウェイ上のモデルが自らをアピールするかのように、その場で幾度となく旋回を繰り返していた鋼鉄の巨人は、突然勢いよく上へと飛び上がった。
各部に取り付けられたスラスターで器用に空中姿勢を保ちながら、背部のハンガーに架けられたライフルを右腕部で引き抜くと、向かって左側のダミーターゲットへとそれを構える。
……直後、その銃口から眩いばかりの閃光が放たれると同時に、大きな破裂音が周囲に鳴り響いた。
「どんな口径のライフル使ってやがるんだ、コイツ……」
たった一発で根こそぎ吹き飛んだダミーターゲットを眺めながら、アーロンがそう言葉を漏らす。
この発砲音と威力––––ノーマル用の大型キャノン砲に似ている。となると、その口径は百ミリ前後、といったところだろうか。
ノーマルより小柄な人型兵器が手持ちで運用するライフルにしては、少しばかりオーバースペックな気もするが……。そんなことを考えていると、窓の外の機体は百八十度旋回し、別のターゲットへと銃を向ける。
––––次の瞬間、鼓膜を破らんとする轟音に、僕を含めたその場の全員は固く両耳を塞ぐことを余儀なくされた。
火薬の爆発によって弾丸が撃ち出される音と、それが金属と衝突する音。
ただでさえ聴覚を刺激するそれらが秒間何回という頻度で繰り返されるのだから、こちらはたまったものではない。
数秒が経って発砲音とフラッシュが止み、耳元から両手を離した僕は、ゆっくりと顔を上げた。
横並びとなっていた三つのターゲットたちは跡形もなく消え去り、その土台であるコンテナも、何発もの弾丸を受けて無残にへしゃげていた。
「こんな使い道のねえバケモン生み出しやがって……。いい趣味をお持ちだな、貴族様たちは」
相変わらずの皮肉めいた口調で、アーロンがそう毒づく。
偏屈な彼の意見だが、今回ばかりは完全に同感だ。兵器というものは、単純にその威力を上げさえすれば良い、というものではないのである。
ハイエンド・ノーマル用の武装をとってみても、その限りだ。例えば、「一撃必殺」をキャッチコピーに掲げる、アリサワ製の大口径グレネードランチャー。一発あたりの破壊力は申し分ない、それどころかノーマル一機を撃破しても有り余るほどなのだが、その実際は、大きすぎる反動のせいで榴弾を真っ直ぐ飛ばすことすらもままならない。
その上重量はやたらかさばるし、一度だけ任務に持っていった時も、一発も撃つことなくパージすることとなった。おかげさまで、目的は達成したにも関わらず総合報酬は大赤字。正直、こんな経験はもう二度とごめんである。
こういった例は、決して一つに限ったものではない。他の性能を度外視して連射力のみを限界まで高めた結果、軽量型ノーマルの装甲を貫通することすらままならない豆鉄砲と化したアルゼブラの試作マシンガン。こちらは任務達成の報酬として貰ったものだが、どうも使い道がなかったので、オークションに出して高値でどこぞの物好きに売りつけてやった。結局製品版が発売されることもなかったし、もう少し値段を釣り上げても良かったのではないかと今でも悔やまれる。
……兎に角、何かしら突き抜けた性能を持つ兵器というものは、基本的にその力を満足に引き出しづらい傾向にある。特に、前者のように良くも悪くも使い手の技量に依存するものならまだしも、後者のような誰の手にも負えない欠陥兵器は、レイヴンたちの間で「産廃」と呼ばれて忌み嫌われていた。
––––そして今、窓の外の機体が発砲したライフル。単発でも十分すぎるほどの威力だというのに、それを秒間何発のペースで連射するなど、はっきり言って正気の沙汰とは思えない。
その上、ダミーターゲットと機体は百メートルほどしか離れていないにもかかわらず、発射された銃弾の多くはあらぬ方向へとばらけている。恐らくは、その高すぎる威力によってもたらされた反動が原因だろう。
目の前の標的すらまともに狙い撃つことができない銃器など、実戦に堪え得るわけがない。至近距離での運用、或いは巨大な対象への攻撃を想定しているのなら、話は別だが……。
そもそも。一体この機体は、何を目的として設計されたものなのだろうか。
よくよく考えてみると、今の企業たちにこんな小規模の兵器を製造しているような余裕など無い筈だ。何故なら彼らには、「首輪付き」、という最優先で解決すべき課題があるのだから。
いや、或いは。あの機体、まさか……。
頭の中に渦巻く疑問が解決しないまま、窓の外の機体は新たにアクションを起こした。
突然、その側面から青い閃光が放たれたと思うと、黒い人型は目にも留まらぬ速さで右側へと吹き飛ぶ。
それを左右に繰り返し、まるで空中を「滑る」かのようにジグザグに移動しながら、機体はライフルで次々とターゲットたちを破壊していく。
「ありゃ、まるで……。何と言ったか、うんたらブーストみたいだな、ネクストの」
「『クイック・ブースト』、か」
クイック・ブースト。ネクスト機に搭載された、専用のブースターを大出力で噴射することによって瞬間的な加速を可能とする技術……。
言われてみれば、確かに似ている。アーロンの指摘ももっともである。となると、あれはやはり。
一人そんなことを思索していると、 いつの間にか、残るダミーターゲットは中央部に設置された大型の一つのみとなっていた。
何を思ったか、突然それまで構えていたライフルを下ろした機体は、一気に加速しながらそちらを目掛けて突撃する。ネクストで例えるとするなら、オーバーブーストといったところだろうか。
速度を落とすことのないまま、接触する寸前まで距離を詰めると、右脚部を大きく後ろへと振り上げる。
そして、次の瞬間。
「……蹴った!?」
––––思わず、僕は声を上げていた。