ARMORED CORE〜In the blank〜   作:シリアル

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番外編
番外編 第一話:キーウェスト 前編


「しかし。何故、私が」

 

  今にも暴発せんとする怒りをなんとか押し留めながら、私はそう言葉を絞り出す。

 

 

  ラインアーク税関ビル、もとい統治企業連盟暫定本部。ただでさえ警備が厳重な八階フロアの最奥、さらに何段階ものセキュリティチェックをくぐり抜けた先にある部署の一角で、私はこの三十年近い人生の中でも指折りに入る程の屈辱を受けていた。

 

「サクラ君、地味な役回りだと侮ってはいけないよ。これも、僕たちに与えられた立派な仕事の一つなのだから」

 

  ポーカーフェイスを決め込んでいるつもりなのだが、不服を抱いていることが相手にも伝わったのだろうか。まるで赤ん坊でも諭すかのような口調で私に語りかけるのは、悪趣味なゴシック調のインテリアで統一された執務室の中央、「室長」の札が置かれたデスクに収まる、痩せ型の老人である。

 

 

  アーデルベルト・アスペルマイヤー ––––企業統治体制維持委員会・情報管理室室長。今の私にとっては、直属の上司に当たる男だ。

 

 

  ローゼンタールにおける諜報機関、SGI出身の彼がトップを務めるこの部署は、「情報管理室」などと当たり障りのない名称を掲げてはいるものの、業務内容に関してはその限りではない。

  十二企業による統治体制を脅かさんとする革命勢力にスパイを派遣し、その内情を探ること。そして可能であれば、崩壊にまで追いやること……。殊に、イレギュラーリンクス集団「ORCA」による同時多発テロが勃発して以降、その活動はより一層活発化し、先日のリリアナ総攻撃においても、その拠点を特定するなど重要な役割を果たした。

 

  企業連本部の中でもごく限られた一握り、エリート中のエリートが集う、まさに「精鋭部隊」といった趣の部署である。私自身、先月この部署への異動を命じられた際、企業連職員憧れのエリート集団に仲間入りすることを誇りに思ったものだ。

 

 

  ……しかし。そんな私の天狗の鼻は、よりにもよって配属初日の今日、室長たるアスペルマイヤーの手によって、無残にもへし折られたのであった。

 

 

「君の言いたいことも分かる。世の中が大変なことになっているこのタイミングで、老人たちが平穏極まりない余生を謳歌するリゾート地へと派遣されれば、『自分は軽んじられているのではないか』と疑いたくなるのも当然だろう」

 

  逆に、軽んじられている以外に何があるというのか。口先だけで私を慰めようとするアスペルマイヤーに改めて反感を感じながらも、努めて冷静を装う。

 

「だが、サクラ君。今朝の件については、君も概ね聞いているね」

 

「はい。何でも、本部から『キーウェスト派』の内通者が見つかったとか」

 

「如何にも」。そう言って、彼はひとつ頷く。

 

「本来ならGAのゴタゴタに構ってやる暇などないのだが、企業連内部からスパイが見つかったとなると話は別だ。そこで、実力を測る意図を兼ねて、君をキーウェスト島へと派遣することにした。……何より、新人を危険な現場へと送り込むわけにもいかないからね」

 

  何やら調子の良いことを宣っているが、要するに「丁度いいタイミングで配属されてきた新人を厄介払いに利用した」だけの話だろう。この老いぼれの首根っこをひっ掴んで真意を問いただしてやりたいところではあったが、怒りを押し殺しながら私は頭を下げる。

 

「そうでしたか。命令とあらば、どのような現場だろうと赴く所存でしたが。お気遣いいただき、ありがとうございます」

 

  ……もうだめだ。これ以上この老人と同じ空間にいたら、脳みそが煮えくり返ってしまう。どうにかして、この場を一刻も早く抜け出せないものか。

 

 

  そんなことを考えていると、静けさで満たされた執務室に、木材を打つ軽やかな音が響いた。

 

「入り給え」

 

  アスペルマイヤーが声を上げると、背後のドアが開く。そこには、私や他の大勢と同じように黒のスーツに身を包んだ職員の姿があった。

 

「失礼致します。室長、連合軍のバートランド臨時指揮官がお呼びです」

 

  ナイスタイミングだ。そのバートランドとやらが、何処のどいつだかは知らんが。

 

「分かった、すぐ向かう。……サクラ君、悪いが私は席を外す。今日はもう帰りなさい」

 

  立ち上がったアスペルマイヤーは、椅子の背もたれにかけていたスーツの上着を手に取り、袖を通しながら言った。

 

「……了解しました。それでは、失礼致します」

 

  深々と腰を折るこちらを横目に、彼はその年齢の割にしっかりとした歩みで、足早と部屋を出て行く。

 

 

  ––––扉が閉まり、室内から他人の目が消えたことを確認すると、私は自らの太腿を思い切り殴りつけた。

 

 

 

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