ARMORED CORE〜In the blank〜 作:シリアル
そこに広がっていたのは、予想とはあまりに程遠い光景だった。
壁面に吊り下げされたプロジェクタスクリーンと、その前に整然と並ぶ四十席ほどのパイプ椅子たち。部屋のレイアウトそのものには、さしてこれといった特徴もない。問題は、そこにいる面子の方にあった。
––––性別や年齢、容姿も何もかも、全てバラバラである。服の上からでも分かるほどに筋肉隆々の壮年の男が居たかと思えば、まるで小学生のように小柄な若い女も居たり、或いは、ボロ切れの様な服装に身を包んだ者の隣に、高級スーツを着込んだ者が座っていたりするのだ。彼らの間に、何かしら共通項を見出そうとする方が難しかった。
いや。一つだけ。
一つだけある。彼ら全員に例外なく当てはまる、「共通項」が。
その「眼光」である。まるで刃物のように冷淡で、触れたら傷付けられてしまいそうなほどに鋭い眼光。この場の誰もが持つそれは、明らかに一般人のそれではなかった。
……しかし、ブリーフィングというものは通常、クライアントとレイヴンの一対一ないし少人数で行われるものと相場が決まっているのだが、何故これほどまでの大人数が。そんな疑問を抱いたまま、僕は空いていた適当な席に座る。
「おい、あんた」
背後から肩を叩かれて振り返ると、そこには薄手のジャケットを身に纏った、痩せ型の若い男の姿があった。
血色の良い肌と彫りの深い顔立ちから見るに、出身は南ヨーロッパといったところだろう。容姿に関しては特に語るべき特徴もないのだが、やはりその目は、他の大勢と同じように鋭い光を放っていた。
「……はい、何か」
その薄い唇に笑みを浮かべながら、男は僕に尋ねる。
「あんたも、レイヴンかい」
……奇妙な質問である。ここにいる人間は、みんな僕の素性を了承した上でブリーフィングに参加しているのではないのか。
それに、あんた「も」、という表現も気になる。まるで、僕の他にもこの場にレイヴンがいるような口ぶりだが……。
「おいおい、そんな怖い顔しなさんなって。俺は怪しむようなやつじゃない。……それに何より、せっかくのハンサムが台無しだ」
男のことを訝しむ僕に対し、当の本人はケロリとした様子でそう軽口を叩く。
「そうだな、じゃあ先に自己紹介させてもらおう。俺はアーロン・マルティネス、レイヴンだ。あんたも傭兵なら、恐らく知ってると思うぜ」
アーロン・マルティネス。軽量逆関節型ノーマル「ソルポニエンテ」を操る、界隈でもそれなりに知られたヨーロッパアリーナの上位ランカー……。成る程、確かに聞いたことのある名である。
それにしても、至って平凡な見た目のこの男が、まさかレイヴンとは。自分以外のレイヴンと対面するのはこれが初めてだったから、少しばかり驚いた。
––––だが何故、複数のレイヴンが同じブリーフィングに。今回の任務は、この男との共同作戦か何かだろうか。
「なんだ、その素っ頓狂な表情は。……まあいい。次はあんたの番だぜ」
アーロンは僕に、自らを名乗るよう促す。
同じレイヴン相手に名を名乗るのは気が引けるのだが、このまま僕だけ正体を曖昧にしておくわけにもいかない。一呼吸置いて、僕は口を開いた。
「ライアン・ロックウェル。お察しの通り、あんたと同じくレイヴンだ」
すると彼は、その両目を飛び出さんばかりに大きく見開く。
「……たまげたな。まさかあんたが、中央アリーナ九位の『毒アゲハ』とは。こりゃ恐れ入ったぜ」
予想通りの反応である。アーロンまで聞こえるよう、僕は大きくため息をついた。
「ん?なんか俺、変なこと言ったか」
「やめてくれ。その、なんだ……変な名前で呼ぶの」
自分でそれを口に出すのもはばかられて、僕は中途半端に言葉を濁す。
「なんでだよ。いい二つ名じゃねぇか、毒アゲ……」
そこまで言って、僕の舌打ちを聞いたアーロンはその口を閉ざした。
「毒アゲハ」。ヨーロッパアリーナから中央アリーナへと上がったばかりの頃の僕に、どこぞの莫迦が寄越した異名である。恐らくは、エンブレムに使っているアゲハ蝶のモチーフがその由来だろう。
「……でもなあ。俺たちみたいな中途半端なランクのレイヴンからしたら羨ましいことなんだぞ、二つ名が付くってのは」
確かに何かしら異名があるというのは、それだけレイヴンとしての評価が高い証拠だ。本来ならそれは喜ばしいことなのだろうが、僕のこれに関してはいかんせんセンスがなさすぎる。
更にタチが悪いのは、その名で呼ばれることに対する嫌悪を露わにしても、相手からはそれをただの「謙遜」と勘違いされやすい点である。幸い、この男にその様子は見られないが。
「まあ、あんたが嫌ってんなら、俺は別にそれで構わないんだけどよ。それじゃあんたのこと、今度から『ライアン』って呼ばせてもらうぜ」
「ああ、それで頼む。じゃあ僕も、気軽に『アーロン』と呼ぶことにしよう」
「そりゃいい。じゃあよろしく頼むぜ、ライアン」
そう言って、アーロンはその右手をこちらへと差し出す。
僕がそれを握り返すと、彼は新たに話を切り出した。
「さて、無駄話が過ぎたな。そろそろ本題に入ることとしよう。……この場にいる連中、素性は一体なんだと思う」
その答えを知った上での質問なのだろう、彼は薄く笑みを浮かべながら僕に問う。
「さあ、皆目見当もつかん。到底企業の連中には見えないが……」
「なら聞いて驚くな、ライアン。ここにいる奴ら、なんと全員」
そこで一度言葉を切り、ひとしきり勿体ぶってから、アーロンは口を開いた。
「……レイヴンだ」