ARMORED CORE〜In the blank〜   作:シリアル

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第二話:ラインアーク 四節

  アーロンが発したその言葉に、僕は目を剥いた。

 

「そんな、まさか。いくら企業連でも、こんな数の傭兵を集めるなんて……」

 

  「ありえない」。そう口にしようとすると、アーロンの声がそれを遮る。

 

「そうだな、例えば……。あの女だ」

 

  そう言って彼は、やたら露出の多い服に身を包んだ若い東洋人を指差す。

 

「あいつが、どうした」

 

「モンファ・リーだよ、アジアアリーナ二位の。流石に聞いたことくらいはあるだろ」

 

  モンファ・リー……。そういえば、過去にアリーナで一戦交えた事があったか。機体のカラーリングがやたらめったらに派手だったから、今でも覚えている。

 

  その大層な肩書きに違わず実力も確かなもので、四脚機と軽量二脚機では機動力にかなりの差があるにも関わらず、当時の僕はかなりの苦戦を強いられた。結果的には勝利することが出来たが、正直彼女とはもう二度とやり合いたくない。

 

 

  ……しかし本当に、あの女がモンファ・リーなのか。僕が想像していたよりも、ずっと年若く見えるが。

 

「他にもいるぜ。あの大男は北アメリカのケリー・ベイカー、その横の爺さんはオセアニアのメイソン・スミス。そして極め付けが、あの男––––」

 

  彼が顎で示した先には、その場違いさが先程僕の目を引いた、高級スーツの若い男の姿があった。

 

「––––ディミトリアス・レイだ」

 

 

  その名を聞いて、僕は再び驚嘆した。

 

「おい、冗談だろ……」

 

 

  ディミトリアス・レイ。各地方アリーナの上位に位置する「中央アリーナ」のトップにして、全てのレイヴンから「オオタカ」として恐れられる男。

 

  その異名は、彼の特異な活動形態に由来する。あらゆる類の工作活動を請け負う通常のレイヴンとは違い、彼はただ「レイヴンの抹殺」のみを専門としているのだ。

 

  レイの駆る中量二脚型ノーマル「ネメシス」は、エネルギー関係がとにかく劣悪で、常人が到底扱えるようなものではない。しかし彼は、そんな機体を見事に乗りこなし、今までに数え切れないほどのレイヴンを葬り去ってきた。

  それ故、彼は「同業者」ではなく、「天敵」としてレイヴンたちの間で忌み嫌われており、烏(カラス)の天敵たる「オオタカ」の渾名が与えられたのであった。

 

 

  しかし、何故––––。

 

「何故、レイまでこのブリーフィングに。奴はレイヴン相手の依頼しか受けないんじゃなかったのか」

 

  僕がそう尋ねると、アーロンは大袈裟に肩をすくめてみせる。

 

「さあ、俺とて詳しいことはわからん。ただ、他の奴らの話から鑑みるに、あいつがレイ本人であることだけは確かなようだぜ。まあ、あいつに関してもっと詳しい情報をご所望なら、他を当たってくれ。––––兎に角、嘘みたいな話だが、今ここにいるのは皆レイヴンだ。こんだけ実例を出しゃ、あんたも少しは信じる気になっただろ」

 

「でも、どうやって。いくら報酬が高いとは言え、あれだけ支離滅裂な依頼にこれだけの人数が集まるなんて、いくらなんでもおかしいだろ」

 

  そうだ。正常な判断能力を持つレイヴンであれば、余程の事情がない限りあのような依頼を受ける筈はない。

 

  僕だって、カレンにあんな唆され方をされなければ、こんな場所にやって来ることはなかった。報酬の高さに目が眩み、依頼の取捨選択もまともにできなくなるなど、まさに愚の骨頂ではないか。

 

  そしてそんな愚かな真似を、先程アーロンが挙げたような、名の知れたレイヴンたちがするとは到底思えなかった。

 

 

「……その様子じゃ、妙な依頼を摑まされたみたいだな」

 

  色々と頭の中で思索する僕を他所に、アーロンは笑う。

 

「まるで人ごとのような言い草だな」

 

「そりゃそうだ。俺が受けた依頼は、恐らくあんたが受けたそれとは別物だからな」

 

「……どういう意味だ」

 

「言葉通りさ。俺が受けた依頼は、企業要人が乗る列車の護衛。報酬も30000c、まあ妥当なとこだ。言うほど高いわけでもない」

 

 

  まさか。全身を悪寒が駆け巡る。

 

 

「俺だけじゃない。ある者は放棄された研究施設の探索、またある者は墜落した輸送機の貨物の回収––––。その内容も、報酬金額も違う。共通点は、依頼人が企業連であること、そしてブリーフィングがここ、『企業連暫定本部803会議室』で行われることの二点だけ。……まあ要するに、この場にいるレイヴンは皆、それぞれ別の依頼を受けてここに来たって訳だ」

 

 

  ––––やられた。腹の中に収まった臓物を全て吐き出さんばかりに深く嘆息すると、僕は頭を抱え込む。

 

「……ということは、僕らはまんまと偽の依頼を摑まされた、ってことか」

 

「まあ、状況から察するにそうなるわな」

 

  どこか自嘲気味な笑みを浮かべながら、アーロンはそう言った。

 

  成る程、企業連の連中も考えたものだ。自ら相手の元に赴くよりも、餌をチラつかせて自らの箱庭に囲い込んだ方が都合がよいと踏んだわけか。

 

現に今、こうして依頼が虚偽のものだと気付いても、外に兵士が張り付いているこの部屋を抜け出すことはできない。仮に脱出出来たとしても、企業連の職員で満たされたこの建物の出口にたどり着く頃には、僕の身体は穴あきチーズとなっていることだろう。

 

  世界各地に散らばったレイヴンたちを一人一人誘拐してくるよりも確実で、かつ騒ぎを起こされる心配もない。僕たちを纏めて拉致するには、もってこいの状況というわけだ。

 

 

  ––––頭の中に、カレンの言葉が蘇る。

 

『この依頼は、あなたの妹様、或いはあなたご自身の悔恨を晴らす、良い機会となるでしょう』

 

  つまりあれは、僕をこの場に誘き寄せるための、真っ赤な嘘だったというわけか。

 

  怒りよりも先に立ったのは、「呆れ」の感情だった。長年のパートナーである僕を騙した、カレンへの呆れ。そして何より、セシリアの話題を出されたがばかりに、冷静な判断力を失ってしまった自らへの呆れ。

 

 

  続いて湧いて出てきたのは、一つの疑問であった。

 

  偽の依頼を用いてまでこれだけのレイヴンを集め、企業連は一体何を成そうとしているのだろうか。僕らは一体、何に巻き込まれようとしているのだろうか。……いくら考えを巡らせようと、僕の脳みそでは到底その答えを導き出せそうにはなかった。

 

 

「……そう気を落としなさんなって。ろくな依頼じゃなかったんだろ、なら返って良かったじゃねえか」

 

  僕の様子を見かねてか、アーロンがそう声をかける。慰めのつもりなのだろうが、今の僕にとってそれは全くの的外れであった。

 

「そんなに単純な話じゃ……」

 

  そこまで言って、僕は言葉を切る。前方には、警備員に付き添われながら部屋の中に入ってくる、黒服に身を包んだ壮年の男の姿があった。

 

  壁面にかけられたスクリーンの前で立ち止まった彼は、ハンドマイクを手にとって一つ咳払いをすると、口を開く。

 

「それでは諸君。所定の時刻である十一時半となったので、ブリーフィングを始めさせてもらう。私は本作戦を担当する、バートランド・ウィリアムズだ。よろしく頼む」

 

  先程までとは一転、沈黙に満ちた室内に、一昔前の機械音声のように抑揚のない声が響き渡る。

 

「本題に入る前に、君たちに二点、詫びなければならないことがある。まず一点だ。この中にはもうすでに察している者もいるかと思うが、事前に提示した依頼内容は本来のそれと異なるものだ。君たちのオペレーターには、各々が好むような内容の依頼を捏造してもらった」

 

  今更、どよめきすらも起こらない。レイヴンのオペレーターが所属している依頼凱旋組織・ネストは、便宜上「企業勢力から独立した民間組織」を名乗っているものの、その実際は企業連に手綱を握られた下部組織の一つに過ぎない。企業籍を持たず、居場所も定かでない僕たちをこうして誘き寄せるために、彼らが利用されるのも当然である。

 

  ……ここで一つ、新たな疑問が浮かぶ。あの依頼がカレンの捏造したものなのだとしたら、どうしてその詳細な内容を提示しなかったのだろうか。

  基本的にリスクを嫌う、よく言えば「完璧主義」な性格の彼女が、あのような不自然な依頼を作るとは到底思えなかった。

 

 

  文脈にそぐわない冷淡な声色で、バートランドは続ける。

 

「二点目だ。この中には、遠方から遥々ここまでやってきた者も多いだろう。そんな者たちには本当に申し訳なく思うのだが……」

 

  そこで一旦言葉を切ると、少しばかり間を置いてから、彼は言った。

 

「……君たちには、ここからさらにコロニー・バリまで移動してもらうことになった」

 




申し訳ございませんが、来週は投稿をお休みさせて頂きます。
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