パンチラ系妖怪美少女学園での度し難い日々 作:ホモォンクルス
三年生である同級生が集まり、学園に仇なす者を倒すことに向けて、話し合いを始めようとした時だった。
「賢石くん、ところでさぁ…」
そう言って近づいてきた、特に特徴も無い地味な顔の同級生。
彼に違和感を覚えた直後、身体に熱いのか冷たいのか判らない感覚がはしった。
咄嗟に翻した身体から、血液が漏れる。
「あーあ浅かったかなぁ。残念だな」
目の前で、僕の身体を薄く切り裂き、赤く染まった刃物を持った男がいる。
そもそも同級生と言えど、奴らは妖に過ぎない。
そんな彼らに気を許したつもりはない。
そのつもりだったのだが、この僕にあるまじき警戒の薄さだった。
…いや、そうじゃない。
そもそもが、前提が違うのだ。
「お前は誰だ」
コイツは、僕のクラスメイトではない。
僕は常に、全てのクラスメイトを潜在的な敵だと思っている。
だからこそその情報を収集している。
勿論決して、同級生の姿に油断したわけでも、友誼があるから見分けたわけでもない。
ただ、僕の洞察力と警戒心が見分けただけだ。
彼は、僕の知るクラスメイトの姿をした、別の何者かだと。
「ボクかい? まさか一年間一緒にいたのに覚えてなかったのかなぁ? 幾ら印象が薄いっても傷つくよ。ボクは――――」
「誰に断って、その姿に化けている。
断りを入れるべき本物は、今何処にいるのか答えるんだ」
「何を、言ってるのかさっぱりだよぉ。
酷いな、確かにボクって、影が薄いかも知れないけど――――」
「クドい。二度も言わせないでくれ」
傷口を速やかに修復しつつ、空気中の水分を凝固させて極端に刃が長い剣を造り出し、
「ちょっとあんまりじゃないか。そりゃあないよ」
しらばっくれる偽物に、氷の刃より鋭い、決定的な答え合わせを突き付ける。
「確かに本物とは、それ程会話したこともないかもしれない。
だが、同級生が何の妖かくらいは理解していたつもりだ。
今、ナイフを舐めようとしただろう?
本物なら、そんなことはしない。彼が人工的な治水の象徴でもある金属を舐めるなんて、フリでもするはずが無い。
ましてや、直ぐに自分から正体をバラしてしまう同級生が多い中で、己の正体を努めて秘匿してこようとしてきたつもりであろう堅実な彼が、そんな軽率なことをするわけが無い」
彼が本物の河童*1である同級生ならば、金属を顔に近づける事すらするはずが無いし、水が凍っただけの氷など、恐いとも思わないはずだ。
河童には、堕ちた水神の系譜には、氷に状態変化しただけの水程度に、冷や汗をかくはずもない。
この偽物が、本物の身体に憑依したのか、本物の身体を全てコピーしたのか、見た目だけコピーしたのかは判らない。
今判断できるのは、普段クラスを共にしている相手ではないと言うことだけ。
だが、それで今は充分だ。
詳しいことは幾らでも後で尋問できる。
肉体を傷つけず、精神だけを焦燥させるやり方なんて、教会の歴史には幾らでもあるのだから。
「クソッ!!」
そんな僕の余裕が見て取れたのか、偽物は悪態を付くと逃げ始めた。
途中で、同級生達に触ってはその姿を変え続けて…。
データベースに、該当する妖が幾つかあるが、おおよそ一つに絞り込めた。
『ドッペルゲンガー』*2。対象の姿を写し取る妖。姿を写し取られた者は死ぬという伝説もあるという。
………妖の同級生など、どうでも良い。
闇の生き物であるし、重要監視対象でもない。
だが、これはまたとない機会だ。
敵に捕まった同級生を、僕の指揮の下救い出せば、三年生の票はますます固まるのだ。
そして同級生を救った僕に、周囲は気を許し油断する。
そして最後の審判の折には、僕に弱みを調べ尽くされた妖達はあっけなく倒れるだろう。
そう、僕はその為にこそ動くのだから。
「聞いてくれ。現時点をもって、敵をドッペルゲンガーだと断定する。
宮本の情報に寄れば、敵は複数いたという。
これら全てが別人に変身した同一人物である可能性もあるが、仲間がいるという前提で動く様に。
そして、この中にも未だ別のドッペルゲンガーがいる可能性もある。
先程、ドッペルゲンガーは触れる度に姿を変えていた。
フェイクなのかも知れないが、追い詰めた手前その余裕はなかっただろう事から、今の段階では触れることが変身条件だと判断する。
戦闘に自信が無いものは、複数の相手と互いに手を重ね合わせるようにしてくれ。
流石に一度に複数の身体には化けることも出来ないだろう。
戦闘に自信がある者は――――――――僕に付いてこい。仲間を取り返すぞっ!!」
嘆願、咆哮、歓声、絶叫。
演説から一呼吸の後、湧き上がる様に様々な形で行われるのは、僕に対する賛同。
彼らを操ることなど容易い。
何の熱もこもってもいない僕の演説に、簡単に熱を乗せてしまう。
実に愚かな生き物だ。
ああ、実に度し難い。
作戦は極めて簡単だ。
先ず、予め捜索範囲を決めておく。
仲間は無し。捜索部隊はそれぞれ決められた範囲内で単独で戦う。
一年生と二年生には校舎から出ない様にして、全ての学園の出入り口には鍵を掛けた。
つまり、自分以外で出会う者が全て偽物と判断できる。
どうしても勝てない時には信号弾を打ち上げることにした。
我が科学部の精鋭が作ったもので、犯罪者共に作れる様なものでは無い。
姿形はコピーできても、持ち物までは真似できない。
もし、助けに行った時に、負傷した捜索者が
そして万が一、合い言葉が漏れていた場合は、捜索者は自ら渡してある眠り薬で昏睡する。昏睡して行動できない方が本物だ。
眠り薬。これも科学部が用意したものだ。
仮に偽物がこれを奪って昏睡したとしても、昏睡しているなら最早問題は無い。
極めてシンプルな手法だが、シンプル故に有効だ。
僕が各々に捜索位置を割り振ったところで、下級生達を校舎に封じ込める係の者が叫んだ。
「賢石さんっ、新入生の朱染心愛ちゃんがいませんっ!!
あっ、心愛ちゃんは茶髪でツインテールで――――」
「知っている。スカートは短いくせに、靴下だけはしっかりと長い新入生だろう。
僕が学園案内を担当していたから把握している」
少々元気がありそうだとは思っていたが、己の力を過信したか。
いや、吸血鬼には己の力を過信するだけの実力は事実としてあるだろう。
だが、新入生だ。
僕が最上級生というのは、助けに行くにして当然の理由だ。
…あくまで新入生の票を確保するために、という前提の元でね。
心愛の名前に反応したのは、姉の赤夜萌香が所属する新聞部の部長である森丘銀影。そしてロリコン疑惑がある宮本灰次。
妖の分際で、一丁前に情を持ったフリでもするのか。…実に愚かしい。
「森丘、宮本。もし朱染を見付けたら視認される前に速やかに気絶させるんだ。
それが結果的に、本物の朱染を助ける一番正確な方法だ」
だから彼らには手を緩めぬ様に釘を刺しておく。
朱染が本物なら、ちょっとしたお仕置きになるし、偽物であるなら気絶すれば正体も解けるだろう。
朱染は吸血鬼という強力な種族だが、森丘や宮本には手を抜きさえしなければそれが出来ると
視認を許さぬ俊足のウェアウルフに、不可視の気弾を放つ鴉天狗。
最上級生である彼らには、その程度は出来ないはずがないのだから。
そして、僕の命令に頷く彼らは、僕の意図を理解できる程度には頭は悪くない。
犯罪者め、誰に喧嘩を売ったのかよく理解させてやる。
公安には、この時だからこそしっかりと活躍して貰う。
一つは、学舎に残った下級生達を閉じ込めて、外に出ない様にしっかりと留めさせること。
嫌われようが、脅してでも学舎からは外に出さない。
力で脅し、それにより嫌われることを恐れない公安委員達にはまさに適役だ。
もう一つは、実力行使部隊としての戦闘活動だ。
力こそが正義。
前公安委員長の考える秩序だ。
それを引き継いだ苛烈な独善は、以前捕らえたはぐれ妖を徹底して調教した。
暴れることしか脳の無い不良共に、社会奉仕のやり方を叩き込んだわけだ。
彼らは今、こうして前線部隊として立っている。
流石は螢糸、良い調教結果だ。
「御堂楔*3、クズの流儀ってものを教えてやれ」
「…命令すんじゃねえよ」
表面上は真面目に出席日数を稼いでいた薬丸*4とは違い、留年して同級生になった男が吼えている。
何にせよ、粋がる程度に自信があるのは良いことだ。
その方が、送り出すにしても心配しなくて良い。
悪意には上回る悪意を持って臨む。
ここは妖怪の園。
こんな言葉を聞いたことがあるだろうか?
『光と闇が両方備わり最強に見える』
教会の聖なる教えを知る僕という指導者と、闇の軍勢である彼らが組むとはまさしくそういう事だ。
実際には不浄な闇の勢力など無くとも、美しき主の光だけで十分に過ぎるだろうけどね。
闇の生き物など、所詮世界の不純物だ。精々、ゴミ同士で殺し合わせてやる。
あくまで今回は先により悪に近い妖を潰すだけだ。
その結果、同級生も下級生達も減ることなく安堵する日常が戻るだけのこと。
「なあ、いつもの
タマネギが嫌いな関西弁の人狼が何か言ってきたが、言うまでも無いから言わないだけのことだ。
未だ本物の
彼は、数少ない男性の水泳部員として、遅くまでプール掃除をしたり、教室の後ろにある水槽を掃除したりする男だった。
水槽の金魚を猫目教師から守ったこともあった。
目立つ男ではないが、堅実故にクラス運営には確実な労働力として計上できる駒だった。
その奴が浚われて帰ってこない。度し難いなどと言うまでも無いことだ。
それなのにわざわざ聞いてくるなんて、森丘の頭を少々買いかぶりすぎただろうか。
「言わないと理解できないか?
…全く、実に度し難い連中だ」