パンチラ系妖怪美少女学園での度し難い日々 作:ホモォンクルス
愚衆を相手にするのならば、選挙とはとどのつまり人気取り合戦だ。
自分が好かれる。相手が嫌われる。
このどちらかに成功すれば、選挙における勝利というものは成り立つ。
人は信じたいものを信じる。
信じたいことは真実よりも勇敢に吼える。
だから欲しい言葉を相手の耳に与えてやる。
耳障りの良い言葉を与えてやれば、相手はその優しい空想に溺れていく。
若しくは、相手に見付けさせたものを真実だと思わせる。
相手が気が付くギリギリの隠蔽を行い、それに気が付いた自己を賞賛する気持ちを煽ってやる。
前者は己のイメージアップに、後者は相手のイメージダウンに使える戦術だ。
…今回僕は赤夜達のイメージを虚飾で落とす様なことはするつもりはない。
やろうと思えばそう難しいことでは無いのだけど。
まず一つに、既に有利な状態である僕が、敢えてバレると己にもダメージを負うリスクを負う必要は無いからだ。
そして、政党同士の戦いとは違い、僕は彼女たちを下した場合、己の生徒会に彼女たちの一部を組み込む考えもある。
その時に悪い印象を持たれても困るからだ。
あくまでその様な理由だ。
都合の良い言葉で有権者の耳目を塞いでいるうちに、実際に着実な成果を積み上げておけば、それは即ち大成功だと言えよう。
その為には、新聞部というメディアは僕の手に落ちる必要がある。
後はイメージ戦略の手段についてだ。
新聞部は赤夜達の手の中にある。
そうなると、此方の広報手段は美術部のポスターと、放送部の伝手を利用するのは当然の帰結だった。
映像や音声というものは、つまらなく堅実な実益よりも、抽象的な熱意と夢で扇動する方が効果的だ。
余計な公約は、政策を限定させる。
それに、具体的な実行目標を細かく言ったところで、それを全て覚えているものはいない。
どうせ聞き流されて忘れ去られるに決まっている。
言葉というのは、具体的な数字よりも印象を残すことにこそ向いている。
…故に、新聞という文字に残るメディアは、具体的な政策を生徒の一人一人に理解させるためには、是非とも手中に収めたかった。
姿と声による印象操作と、文字による理解。
この二つがあれば、きっと上手く学園を操ることが出来るはずだ。
幸せな夢を見せている間に、幸せな現実を構築しておけば、文句など誰も持たないだろう。
そして、僕にはそれが出来る。
――――少なくとも、この学園にいる他の誰よりも。
正直に言ってしまうと、僕は扇動の武器の片割れを、相手側が持った上で戦うこの状況に、些か新鮮味を感じている。
負けたとしても、僕本来の職務に致命的な問題は発生しない故に、縛るものは無い。
勿論、勝った時には僕の仕事へと、その状況を存分に利用させては貰うが。
失うものが無い状況で、ある程度拮抗した相手の陣営と全力を振るって競う。
今までに縁の無かった事だ。
教会としては労力を割く意味も無い、無駄な戦いだと言えよう。
だが、この際敢えて言ってしまおう――――――悪くない、と。
あの金城も、何処かではそう思っていたのだと思う。
『この学園を愛する賢石翠に清き一票を』
そんな心にもない事を述べた、当たり障りのない自分のポスターを横目に見ながら、選挙戦における仲間という名前の配下達から報告を聞く。
「選挙の対立候補の件ですが…」
僕はそれを聞いて、まさかとも、そしてどこかでやはりとも思った。
…面白い。それでこそだ新聞部。
それでこそ倒しがいがある。
誰もが敵陣営の立候補は赤夜萌香だと思っていた。
まさか、君だったとは…青野月音。
思えばいつも君の周辺に起きた事件の終着は、君の無謀な蛮勇で終わっていた。
新聞部の大半を占める女子生徒も、青野を通じて繋がっている。
新聞部の中という世界で話し合いをするなら赤夜よりも、青野という結論に行き着くだろう。
その可能性は僕も想定していた。
だが、その上で言おう。
「まさかそう来るとはね…」
「賢石さん?」
「いや、何でも無い。ただの独り言だ。
それより、今言いかけていたことをそのまま続けてくれ。
話の腰を折ったことについては謝罪しよう」
選挙についての情報を取得しながら、僕は並列的に複数の事象を想定する。
この状況がそのまま推移した場合の、票の取得率や、起こりうる変化事項。
加えてそれらへの対応想定。
話し合いが終わった後も、僕は校内を挨拶回りを兼ねて散歩しながら、先程の思考を纏める。
生徒の人気を考えるなら本来最も重要視すべきは赤夜。
実際に旗頭となった青野を軽視するのも論外だ。
教師側でありながら向こうに着くであろう燈条にも警戒すべきだ。
やらないとは思うが、黒乃の
白雪が実際に小壺教師から青野に救われた事実は、宣伝に使えば青野の株を上げるに容易い。
一年生の中でも目立つ赤夜の妹の影響力を侮る気もない。
…しかし、僕が最も考慮すべきなのは敵陣営のブレイン、仙童紫だ。
客観的に魅力的な女性陣と、彼女たちを纏める青野月音。
それら全てを操る黒幕の思考さえ、読むか、潰してしまえば対応は大幅に制限できる。
それは、勿論僕が理解しているように、仙童自身も自覚があるだろう。
……とはいえ、それが小宮とその仲間と険悪な空気になっている仙童を見捨てることには繋がらない。
気配を隠してゆっくりと近づきながら事情を把握していく。
どうやら話の内容からして、仙童の種族である魔女*1を馬鹿にしたはぐれ妖の一年に仙童が噛み付き、そこに小宮がやってきたようだ。
仙童を馬鹿にした一年生のはぐれ妖に対し、感情を制御するに拙く、しかし頭と口が回る仙童は論破し続けたのだろう。
しかし、論破されて、はい負けましたなんて不良などそうそういない。
数と力の威圧に今度は仙童が追い詰められたものの、強がってはぐれ妖達*2に言ってはいけない言葉を言ってしまった。
流石に後輩達のまえではぐれ妖を馬鹿にするような言葉を吐かれては、小宮は止まるわけにはいかない。
このまま放っておけば、敵陣営のブレインはしばらくその活動を強制的に停止するだろう。
それでいいのか?
…否、そこには秩序も法も摂理もない。
「そこまでだ」
「なんだァ?」
デビューしたての一年生が僕にイキり出すが仕方ない。
去年僕がはぐれ妖のチームを蹂躙した過去を知らないのだろう。
はぐれ妖の先輩達も、そんな不名誉な事実など話さないだろうしね。
それにしても、入学して未だ少しの間だというのに、小宮は一年生のはぐれ妖達を従えている。
元々の繋がりがあったかどうかまでは知るよしもないが、慕われているようだ。
後輩のこういった一面を見るのは嫌いではない。
「小宮、ここは僕に免じて後輩を押さえてくれ。それと幾つか言わせて欲しい。
はぐれ妖達、魔女とは仲良くしたまえ。
異なる妖と妖に生まれた不遇に立ち向かう君たちが、人と妖の狭間に生まれた魔女を嗤うとはそれこそ笑いの種だ。
仙童も口を慎め。
一説には魔女は悪魔の血が混じった人間という説もあるんだ。『
僕の言葉に賛同するなら今度の会長選挙で僕に一票を入れたまえ。」
敢えて、鬱陶しい正論論者を気取って言いたいことだけを言い抜ける。
僕の恐ろしさを知る小宮はともかく、知らない一年生達は怒気を強め始めた。
汗腺の開きに伴う二酸化炭素の増大も観測できているから間違いは無いだろう。
「もし、もし完全な秩序による支配が気に食わないなら、そこの魔女とせいぜい仲良く団結したまえ。
彼女は僕の対立候補の頭脳だ。
…どちらにしろ、全ては僕の支配下になるから時間の問題に過ぎないが」
小宮を見込んで目配せをすると、どうやら僕の意図に気が付いたようだ。
そういった空気の読む力が、後輩に慕われているところなのかも知れないな。
「ああ、気にくわねえな。
オレ達はお前みたいな自分が正しいみたいな面した奴に自由を奪われる気はサラサラねえ。
仙童、さっきの言葉を取り消すなら青野側についてやる。いいな」
「…え…は、はいですぅ
こちらこそごめんなさい」
小宮はこれでいいのかと言うような顔を一瞬見せてきたが、十分だ。
それでいて、自分の側は謝罪をしていない辺り、面子の守り方が強かだと評価も出来る。
例え人数が少なくはないはぐれ妖が敵についても、大局は変わらないという奢りなどはない。
選挙そのものへは真摯に望む。
だが、前提が違う。
現況で不利な青野達は、まずは選挙に勝つことが当面の目標だが、僕は違う。
学生の一部を嫌われ者の
上司が部下に嫌われても仕事は回るが、部下同士がいがみ合っても上手く運営は回らないことを理解している。
だから、僕は選挙に勝った後のことも考えてある。
主が全ての
……仙童が僕に救われた事に複雑そうな顔をしていたので、全力で挑め、そしてあっさり潰した後に部下として使わせて貰うと言ったら、漸く顔に元気が戻ってきたようだ。
対立候補に救われる形になったことに気が付いているからこその申し訳なさか。
実に下らない。敵への負い目のために味方の足を引っ張る人材には、僕の部下となる前に、早々に修正して貰いたいものだ。
下らない情に縛られて、行うべき事に手心を加えるなどとは、妖というものは、全くもって度し難い。