パンチラ系妖怪美少女学園での度し難い日々 作:ホモォンクルス
最悪だ。
僕の身分は陽海学園の学生だ。
そして、燈条瑠妃は講師補佐。
先日の行為は生徒と教師による淫行疑惑と捉えられてもおかしくは無い。
…場合によっては会長選を辞退しなくては。
信仰と法と秩序に生きる僕がまさかこの様なことを…。
最悪だ…。
燈条の身内である仙童の仕業とは言え、僕が燈条に襲いかかったのは事実だ。
ハメられたという気持ちが全くないかと言えば嘘になるが、罪を犯したのはこちら側だ。
言い訳するどころか、相手に責任を押し付けるわけにも行かない。
僕は謝罪の為に燈条瑠妃の所へ訪れた。
職員室へ行って、燈条に話があると言って外に連れ出すと、先日のことを詫びるつもりだった。
しかし、何やらソワソワとしだした燈条は、やたらと話をはぐらかす。
僕が謝ろうとしているにも関わらずだ。
…いや、謝罪する側がこの様な態度というのもよろしくは無い。
落ち着くのだ、賢石翠。
髪の毛を指でクルクルと巻きながら視線と話題を逸らす燈条。
彼女の鴉の濡羽の様な艶のある髪は、指から逃げるように弾けては元のストレートに戻ろうとして、その際に見え隠れするうなじが――――
否、賢石翠、今お前は何を考えた?
―――――――――――――馬鹿な、あり得ない。
僕が燈条の首筋を
先日のことは青野から聞いた。
僕は燈条の首筋に歯を突き立てたそうだ。…まるで吸血鬼のように。
思えば、身体の中の薬や魔力を分解していく中で、口の中に血の味が残っていたような記憶もある。
僕が一体何者なのかわからなくなってきた…。
……いや、それは僕をホムンクルスだと教えてくださった司教様…いや、大司教様への疑いになる。
その様な不敬は許されるはずもない。
以後、この考えは破棄しておこう。
その様な事よりも、先ずは謝罪だ。
許されるかどうかでは無い。先ずは謝罪の意を伝えることが全ての優先事項だ。
「燈条、聞いて欲しい」
「えっ、あっ、そのですね…私は別に嫌じゃ無かったので…」
両肩に手を置いて、彼女の意識を此方に向けさせて謝罪しようとしたが、顔まで真っ赤にした燈条はまたしても話を逸らした。
……ここまで動揺させる何かをしたのは間違いないのだから、謝罪は遂行しなければならない。
「燈条、君の気持ちや尊厳を相当に傷つけるようなことをしたようだ。
怖がらせてしまうのも無理は無い。
記憶が確かでは無いが、それを言い訳にはしない。
君が望むなら会長選挙も辞退する。それと―――――――
もう二度と不用意に君に近づくつもりも無い。本当に済まなかった」
彼女の肩に手を置いたまま頭を下げた。
ビクンとその肩が跳ねたが、それ以降反応も返答も無かった。
「燈条…?」
顔を上げて反応を伺うと、その顔には困惑と不安とまた別の何かが溢れた表情があった。
少なくとも怒りやその類いの感情でない事だけは理解できた。
「どうして…」
「…」
何かを言いかけた彼女に返す言葉が見つからない。
「どうして、そんな結論を出すんですか…?」
「……燈条…………?」
「…失礼します。先日のこと
そう言い残すと、燈条は去って行った。
…かなり不愉快な思いをさせたようだ。
燈条のことは気がかりではあった。
しかし、傷つけた彼女にまた近づいたところで、これ以上傷つけることになるだろう。
彼女も許すと言った以上、これ以上関わって欲しくないという可能性もある。
それを汲み取れないほど僕は子供でも無い。
燈条は、選挙のことには触れなかった。
これ幸いと嬉々として選挙に臨むというつもりはない。
しかし、僕には背負っている期待もあるし、教会のために最善を尽くす義務もある。
だからといって燈条へ与えた危害を無視するわけでは無いが、結果としてはそれに似た行動は取らざるをえない。
罪滅ぼしと言うつもりで選挙に臨むつもりも無い。
ただ、教会のために、信仰途方と秩序のためにこそ、そして期待に応えてやるという僕自身の望みによって、僕は会長の座を目指す。
だから、今までの体裁を整える方向性も含めた上での本気ではなく、僕自身の望む方向性での本気に切り替える。
少しだけ、少しだけ素直で正直に戦い方を変える。
結果としてハンデになるだろうが、それ以上に本気を向ける。
それをもって、一つの謝罪とさせて貰う。
もし、それが青野を倒すことになり、…青野を支える燈条をも纏めて倒すこととなったとしても――――だ。
そして、選挙の日は来た。
青野が先にスピーチをした。
緊張して詰まる所はあったし、具体的な施行示唆は無いが、やりたい方向性はシンプルに伝わっていたと思う。
人間社会と妖社会の共存・融和に向けた教育機関であるという陽海学園の
一人一人の力を束ねて、みんなでそれを目指していこう――――と。
…理事長が入れ込む理由も、青野を代表にさせるように誘導させたであろう理由も理解できた。
対して僕は真っ向から成功と栄光というエサが付いた針をぶら下げた。
「諸君、僕に従え。
…今、僕に反感を持った者もいるだろう。
全て従えという、僕のやり方が強引なのは理解している。
君たちが無能な上官を背後から撃ちたくなる判断をしたくなるのは理解しよう。
しかし、その判断が無能でないと誰が言い切れる?
安心したまえ、私は誰よりも優秀な上官だ。
信用しろ、信頼しろ、信仰せよ。
故にこそ、その力を僕に貸すべきなのだ。
もう一度言おう。諸君、僕に従え。
対価には、勝利と繁栄を約束しよう」
演説当初は一年と二年の一部にブーイング染みたものも聞こえたが、演説が終わった後に残ったのは絶叫と熱狂の歓声。
何処までも強く、何処までも賢く、何処までも美しい理想のリーダー。
民衆が求める
宣誓において臣下への借りを否定した徳川家光は徳川家を盤石にした。
本来は選挙の間だけは腰の低く、票を稼ぎやすいスタイルで行くつもりだったが、そのやり方は土壇場で変えた。
勿論、選挙対策チームと話し合いはした。
その上で、納得もして貰った。
僕は、僕たちは、強そうでは無いがリーダーを掴みやすい環境では無く、リーダーになった後に学園を掴み取れる強いリーダーである事を選んだ。
誰かに助けられてリーダーの椅子に座ったのでは、その椅子の実権は自分には無い。
自分の力で手に入れた、少なくともそう見られるリーダーになり、従える必要があった。
腰の低い有力者が、腰の低い一般人に負けることは無い。
人材の発想力にも勝る大企業が、人材の発想力で勝負する中小企業に負けるはずも無い。
だが、高い視点だからこそ広く見据える有力者の存在を、正統派で勝負する大企業の引き起こす成果というものを、この学園の生徒には知って欲しいのだ。
陽海学園系列には大学は無い。
それは即ち、神学を志す場合には、大学は人間の世界の大学を選ばせる事を意味している。
そして人間の世界で就職をする。
大抵の場合、資産力に余裕のある大手ほど待遇は良い。
そして大抵の場合、大手は優秀な者を優先して上から採用していく。
就職活動でも、数十社受けても内定が取れない者もいれば、受けた会社の殆どで内定が決まっている者もいる。
動物の社会で全く配偶者を持たないオスがいたり、優秀な遺伝子を持ちハーレムを囲うオスがいるのと同じだ。
実行力においても、発想力においても優秀な者は、大手に入るか自分で会社を立ち上げることで優れた環境に身を置く事が出来る。
僕は彼らにそうなって欲しいとも思っている。
将来性も無く、いつか状況が良くなるかも知れないという希望的な観測だけで沈んでいく船の形をした板の集まりに乗船させたくは無い。
ブラック企業というものは無く、その企業をブラックに感じる能力不足のブラック人材がいるだけだとも思う。
しかし、確実に労働費用対効果の差は企業ごとに存在する。
人の来ない観光地で特色の無い宿*1など、一時の夢でも行うべきで無いし、それならば株や為替や土地などの直接投資で、中間を介さずに金で金を生み出す効率的で純粋なマネーゲームを行うべきだと思う。
…勿論、それが出来るかどうかと言う前提はあるが。
全ての生徒をハーバードやオックスフォードや東大に入学させるなんて事は出来ない。
それに教育は本来は教師の仕事だ。
だが、全ての生徒が互いを見捨てること無く、しかし競い合うように向上する。
その効率を少しでも引き上げることは生徒間であれど行えるはずだ。
その信念を正直な信念の発露だけで終わらせる青野には、未だ未熟としか言えない。
学生にそれを求めるのは酷だが、今の段階で上に立てる器では無い。
故に、僕はせめてその信念の形を遂行してやる程度はしてやろう。
故に、ギリシャの政治家や第三帝国の煽動者のように事を進める。
他の生徒に交じって一緒では、それは不可能だ。
度し難い妖共と同じ轡を並べては、周囲の者が僕の指揮の妨げとなる。
僕一人が彼らの前へ、彼らの上に立ってその方向性を示してやる。
現在、投票が中間発表となっているが、聞こえてくるのは我らの側に聞こえの良い報告ばかりだ。
集計を担当している公安委員長の螢糸が最終報告を持ってきたようだ。
無論、不正などはするはずも無いだろう。
そんなことをする必要さえ無いのだから。
青野月音、君のことは嫌いでは無いが、今の段階では僕に指導者として勝とうなどと実に度し難いにも程があったな。
――――――