パンチラ系妖怪美少女学園での度し難い日々 作:ホモォンクルス
我らが美術部と新聞部は故あって、…主に理事長の意向があって、今年も同じ場所で合宿という名を借りた、夏休みを楽しむイベントを設けることになった。
折角の合同合宿。
絵の美術、文の新聞。
何かしら合同で作業することは、今までも少なくは無かった。
あまり、合同に拘りすぎてもお互いの行動の枷とはなるが、敢えて枷の負担や利便性を学生のうちに知るというのも悪くは無いだろう。
出来る事なら、科学部も合同合宿にぶち込んであげたかったが、それには強引すぎる理由以外が見当たらなかったために断念した。
美術部には僕以外男はいないし、新聞部には青野と森丘以外に男はいない。
新たな出逢いというものが生まれる余地は無いだろう。
…手が早い森丘には気をつけておこう。
瞬速の大妖をこういう所で発揮させるわけにもいかない。
僕には部長として、部員を守る義務がある。
さて、夏と言えば海とは誰が言い出したかはわからないが、僕たちは近代化が進み元の色を失いつつある海辺の観光地へとやってきた。
日本にある妖怪の学園ならば、夏と言えば陰湿な怪談なのだろうが、そうでは無いのがこの陽海学園だ。
余りにもオープンな発想だと思う。
妖怪というのはもっとジメジメしたものだと思っていたのだが、入学していこう印象は塗り替えられてばかりだ。
最近入部した鬼山(妹)*1の様に、日本人らしい黒髪和風少女もいるにはいるが、日本人離れした少女達の方が圧倒的に多い。
西洋の妖怪も多くいる陽海学園生が日本人離れしていないはずも無いのだろうが。
更に言えば、人間に化ける時には大抵美しく化けるために、更に目立つことになる。
僕も含めて西洋系が多数を含む美形揃いの集団。
…平凡な青野は若干浮いているが、それでも以前と比べて、最近それなりに整った顔になってきているのは赤夜由来の吸血鬼の血による影響か、それとも修羅場を超えてきた内面からの変化だろうか。
元は相手の親には好かれそうな純朴さはあるが、同年代の異性には魅力的に映らなさそうな男だったが、化けたものだ。
僕と森丘と青野には周囲から羨望と欲望と敬遠と嫉妬の色を帯びた視線が集まるが、誰も気にしてはいない。
青野は自分が新聞部のハーレムの中心である自覚が薄い。
僕は自分に自信がある故に周囲の評価に怯えるつもりは無い。
軽薄な森丘は、何も考えていなさそうだ。
…少なくとも本人的にはそう見せているのだろう。
彼が真面目に女性と向き合って恋愛するなんて想像も出来ないが。
部の女性達に、「美しい君たちが砂浜の主役になるのだろうけど、口が上手い悪い男には気をつけてね」と、事実というリップサービスで褒めつつ、慣れぬ人間界での賞賛で舞い上がって危険に巻き込まれないようにと注意する僕も、何も知らない観客から見れば森丘と似たようなものなのかも知れない。
美形比率が人間界基準だとおかしな陽海学園では、作品では無く自身を褒められることの少なかった彼女たちには賞賛の誘惑は強すぎる。
そういう意味では、僕が軟派な男だと思われてでもそれを止める必要はある。
「うわー、あの綺麗な女性、王子様みたいなこと言ってる~~」
ふむ、軟派男とは思われていなかったようだ。
そもそも男とも思われていなかったようだけど。
納得のいくような、納得のいかないような結果のせいで、本日のファッションのスキニーパンツと、ホルターネックジレの組み合わせはメンズっぽく無かっただろうかという疑問に頭を悩まされてしまった。
その間にどうやら青野と赤夜は姿を眩ませたようだ。
それも青春だ。色々と伝えたいことはあるだろう。
成功すれば、この夏の合宿は素敵な思い出に。
失敗すれば……まあ、あの二人ならそれは無いだろう。
寧ろ問題は成功した時の他の新聞部員の反応だろうが、それは森丘にでも任せよう。
新聞部のことは新聞部に任せるべきだと思う。
……別に面倒を丸投げするわけでは無い。
さて、その様に考えていたのだが、結果としては間違っていた。
目を離した隙に二人でしけ込んでいた青野と赤夜。
そして目を離した隙に赤夜は悪い男に誘拐されたようだ。
背後から襲われて、無様に気絶させられた青野から話を聞くに、犯行に及んだのは口が上手いタイプでは無く、実力行使型だった。
直ぐに助けに行こうと血気盛んな新聞部達。
しかし、僕たちを人間界に輸送したバスの運転手が、彼女たちに人間界で妖が人間に暴力を振るうのは御法度だと釘を刺した。
人間界で何かしても良いのは人間だけだから、と。
そもそもそういったことに詳しく、人間界と妖の世界を自由に行き来する権利と能力を持った彼は何者かはわからないが、この際それはどうでも良い。
打つ手無し――――そんな空気が新聞部に広がって僕が一言話そうかと思った時、燈条が
それは、
むざむざ赤夜を浚われた青野が救い出すのはマッチポンプだが、赤夜にはお姫様を救いに来た騎士様のように映るのだろう。
まるで、ラブコメディのようだ。*2
そう考えると、まだ赤夜を救い出してもいないのに気が緩んでしまいそうになる。
故に、選別の言葉だけを贈るに留めることにした。
「――青野、好きにやれ。
例えば魔術戦争が起ころうと、ただのガス爆発事故でしかなかったことにする程度の事なら大司教様に掛け合えば可能だ。*3
それを大司教様にお頼みすることには、僕には非常に心苦しいという大問題がある程度でしか無い。
言外に新聞部の全戦力を投入しようと、人間界に妖が力を振るった痕跡は残らないと言った僕の意図に気が付いたのは約半数だけだった。
言葉の裏をいち早く理解して、それを説明しようとした仙童を、次に気が付いた燈条が仙童の口を押さえながら意味ありげな視線を此方に向けて目礼してきた。
燈条が何を言いたいのかは此方でくみ取ってやるつもりは無いが、そろそろ酸欠で名前の通り顔色が紫になっている仙童の危機くらいは感じ取れた。
…そして、気が付いている内の一人でありながら、何食わぬ顔で笑っている運転手。
恐らく、彼はただ者では無い。
特に今考慮する話でも無いのだろうが。
とにかく赤夜の問題はある程度解決したようなものだ。
…解決しなかった時は――――――いや、僕がそこまでしてやる義理も義務も無い。
そう思いながら、国際電話番号の下にある発信ボタンを押すのを止めて画面の電源を落とした。
結果から言うと、青野は無事に単独でジャパニーズマフィア*4の事務所を襲撃して赤夜を救い出した。
…青野達が去った後、青野の痕跡を全て消すのには苦労させられた。
青野の両親は人間界で生活を営んでいる。
青野の痕跡が何処からか発覚すれば、ジャパニーズマフィアの元締めに、
青野は大丈夫でも、青野の両親はただの人間に過ぎない。
勿論、青野の痕跡が発覚しない、人間の規格を超えた青野の行動が証明できない。
そういった可能性もあるが、それでも何もしないで終わらせるのは詰めが甘いとしか言えないな。
…実に世話の焼ける連中だが、生徒会長たるもの少しなら世話を焼いてやらねばなるまい。
世話を焼かねばならぬ事は他にもある。
「ホテル・ロイヤルセイレンですか?
ええ、私は本日予約していた陽海学園美術部の代表、賢石というものですが――――――」
今回美術部が泊まる、この地域で一番高いホテルに入り、代表として受付を行う。
すると、丁寧な挨拶の後に、確認しておりますと言う返答が返ってきた。
故に、こちらも丁寧に応対する。
「――――ええ、
受付の言葉が凍った。
しかし、既に予約したホテルなのだから、今更変えるつもりも無い。
故に丁寧に扱っていただくつもりだ。
「…気にする必要は無いのですよ。
此方としては、客として最大限プロフェッショナルな対応をして頂ければ、それ以上何もありませんから」
例え、悪の組織のフロント会社の一つだろうと、実際にそこで働いて生計を立てている妖達がいる。
それ自体は陽海学園の生徒にとっては良い知らせでもある。
妖達が妖達だけで人間界で生活できている。
偶々その後ろに秘密結社がいたというだけのことだ。
ならば、その秘密結社に我々が取って代われば、問題など何処にも無い。
無論、黒幕が保有していた圧倒的な財力を資本にした基盤があったとしてもだ。
ワインに罪は無く、ワインで罪を犯す者がいると大司教様はおっしゃられていたが、まさしくその通りだ。
海辺と言うこともあり、水泳部に多い人魚たちには良い就職先になりそうだと思う。
人を惑わすほどに美しく、本能的に海に詳しい彼女たちには向いているだろう。
だからこそ 関係をここで悪くしておくよりは、コネを、あわよくば貸しを作っておくのが上策。
とは言え、濁った海に後輩たちを送り込むつもりも無いから、我々による浄化活動が終わった後の話だが。
「何を考えてるんですか部長」
鬼山の言葉で思考の海からあがった僕は、「今後の予定とかだ」と答えておいた。
嘘はついてはいない。
まずは各人に部屋を割り振ることにした。
僕だけ一人部屋だが、それは僕だけ男なのだから仕方ない。
現在敵地であるこのホテルで、不純異性交遊などと疑われるような余計な弱みなど見せられるものか。
「食事が終わった後、部屋に行っても良いですか」
「抜け駆けかな~?
よーし、みんなで部長の部屋に突撃ね。
部長も居留守は禁止ー!!」
…勿論、僕が注意しても、勝手に弱みの方からやってくることもある。
学生では到底口にすることも無い、海鮮をメインとした豪華な料理を楽しんだ後、僕の部屋でめちゃくちゃ女子会が続いた。
早朝、僕の部屋で眠っている女子生徒たちを起こさぬように(無論いかがわしいことは一切していない)、一人で朝風呂に向かった僕に着いてきた者が居た。
「後ろからコソコソと、何のようだ?」
「いやあ、女子全員部屋に泊めるなんて、見かけによらずお盛んだね。
オレは椿六郎*5――――
「あらぬ誤解があるようだが、僕は賢石翠。
字は予約帳に書いた名前の通りだ。
何の用だ――――なんてスカウトマンに聞くのも野暮な話か」
「流石、話が早い。
頼むよ、オレ達の仲間になってくれ賢石翠」
彼も中々に話が早いほうだろう。
ド直球にも程がある。
そういうタイプは嫌いじゃ無い。
だが――――――――
「断る」
「いきなり即答? ちょっとくらい考えても良いんじゃ無い?」
「君にもノルマがあるだろうが、僕の知った事でも無い。
人間社会を敵として転覆を狙う組織に入るなんて、神の僕として考慮にも値しない」
故に、返答はノータイムだ。
「いや、ノルマなんて無いんだ。
でも、賢石翠には是非こちらに付いて欲しい」
理由など考えるまでも無い。
僕が優秀だからだろう。それに尽きる。
そう言い切れるだけの自負はある。
「ノルマが無い営業とは、今頃珍しいホワイトさだね」
「ああ、だからこそ
神谷さんはノルマも競争も出さない、やる気を信じてくれる素晴らしい上司だ」
神谷、ね。
ドッペルゲンガーから話は聞いている。
部下には恵まれているという話通りだ。
ドッペルゲンガーからの情報の信憑性はそこそこあるようで安心した。
ここで間違っていたら、彼からの情報を今後一切使わないつもりだったから。
部下に慕われている上司。
上司を慕う部下。
仕事への熱意。
…そこから付け入る隙はある。
「そうか、ノルマも競争も無い営業なんて、何もしなくてもお金が貰えるだけの生活保護と同じだろう」
「…取り消さないとキレちゃうよ」
「キレてから言うセリフじゃ無いね。言葉で踊らせる前に踊らされるなんて、スカウトマン失格じゃ無い?」
妖の本性を現した椿。
しかし彼は再び人間の姿に戻った。
そして、スピーカーを取り出して此方に向けた。
ドッペルゲンガーの情報が正しければ、これは神谷の『歌』を録音した兵器だろう。
故に、僕は楽器を取り出した。
其は、宙に浮かぶ銀盤。
其は、指でなぞる吹奏楽器。
其は、音の無い世界に響く光。
其は、鼓膜無き者にも染み込む調べ。
其は、屍音を奏でる命。
其は、音の中に生まれ、音の中に潜み、音の中より来たる音。
其は、教会の誇る四十七の禁忌。
其は、音界を拓く鍵
其は――――――教具『ゼアライア(xalight)*6』
外典に記された禁断の地に封じられていた、トゥルナンバー(Trunembra)*7と並ぶ闇の音の片割れの名を冠した究極の楽器。
それを作るために、美しい歌声と姿を持った天使に似た妖が生きたまま腑分けにされて、継ぎ直されたという。
勝敗は一瞬にして付いた。
「…みませ…ん。…みや…さん」
音の恐怖で発狂する前に、本能が意識を停止させて倒れた椿。
倒れる間際の言葉は神谷への謝罪だった。
…兄弟が多くて貧乏な家庭だった椿は、定職を持っていなかったところ神谷に拾われて以来の片腕だとドッペルゲンガーから聞いている。
故に、神谷に狂信的に従っているとも。
敵で無ければ、この様な手段を使う気は無かった。
本当に彼みたいに上司に忠実なタイプは嫌いでは無いんだ。
迷える羊は正しき羊飼いに導かれて王国へと至るべきなのだから。
とはいえ、
妖怪でありながら、潰すには勿体ないと僕の気を惑わせようだなんて全く、度し難い連中だ。
僕は楽器を仕舞うと、暖簾をしっかりと確認してから潜った。
夜と朝で男女の浴槽が入れ替わるそうなので、確認しなくては大問題だ。
脱衣所に入ると、既に鍵が外れたロッカーがあった。どうやら先客がいるらしい。
…実を言うと、一人で湯に浸かりたかった。
大浴場を一人で独占するなんて、実に贅沢で良いじゃ無いか――――いや、その思考は清貧と友愛を旨とする教義に反してしまうかも知れないな。
故に、僕は先客の存在を心広く赦そうと思う。
ガラガラと音もしない、滑りの良い戸を開けて中に入ると湯煙の向こうに先客の姿があった。
日本ではかけ湯をしてさえしまえば、そのまま浴槽には言って良いとも聞くが、僕はしっかり身体を洗ってから湯に入るべきだと考えている。
この温泉は露天風呂しか存在しないので、いきなり屋外だ。
故に風が冷たいが、それは仕方ない。
寒いな。
そう思った直後に風が吹いた。
寒さが身に染みる。
そして――――――――湯煙が、晴れた。
「……鬼山ッ!?」
「ぶっ部長っ!? キャァ「落ち着くんだ鬼山」」
僕は目を背けながら、接近して鬼山の口があった部分に手を当てて押さえ、冷静にここは男湯だと解くが、鬼山はパニックになって聞き入れない。
因みに、僕は鬼山の顔を確認してからその方向を一切視認していない。*8
だと言うのに、落ち着いた後も、鬼山は何やら僕に問い詰めようとする。
いや、それは不味いだろうと思うのだが、折角その後距離を取ったのに、どんどん鬼山の声の距離は近くなるし、声に不機嫌さが増して来ている。
此方は努めて冷静に対処することに努めているというのにだ。
結局は、鬼山もここが男湯である事を理解して、柵を飛び越えて女湯へと移った。
その後僕は着替えを男の脱衣所に置き忘れた事を思い出した鬼山から鍵を借り受け、金木犀の香水の香りがほのかにする着替え類を柵越しに放り渡した。
僕は着替えを取る際に、着替えの一番上に浴衣が置いてあったので、その浴衣で包むようにしてそれ以外は見ないようにした。
実に紳士的であるといえよう。
だと言うのに、着替えを渡した時に、下着とか見ましたよねと聞かれたので、そういうものに興味も無いと答えると、更に不機嫌になった。
いや、普通に考えて異性が自分の下着まじまじと見てましたとか嫌だと理解できる僕は、マトモだと思えるのだが、そんなマトモな僕が責められる側などとは納得できない。
しかし、これ以上言うとある事無いこと言われてしまっては、僕が社会的に抹殺されてしまうかも知れない。
夜と朝で暖簾が変わっていたのを確認しなかったのは鬼山で、脱衣所に着替えを置いてきたのも鬼山だ。
それなのに、僕だけが責められるとは、全く妖という存在は実に度し難い。