パンチラ系妖怪美少女学園での度し難い日々 作:ホモォンクルス
朝から色々面倒な事はあったが、気を取り直して新聞部と合流するために、僕たち美術部は砂浜へと向かった。
何故、新聞部が此方に出向くのでは無く、僕たちから新聞部の方へと出向くかというと、絵を描くスポットとしては青野達が泊まっている場所の方が都合が良いのが一つ。
…と言う建前と、新聞部が泊まっている軽食屋な海の家、兼、民宿の『まりん』*1の方が、僕たちの泊まっているホテルより遊ぶに都合が良いという事だ。
うん、わかってる。
合宿を建前にして遊ぶだけと言うだけではいけないと言うことも十分わかっている。
しかし、少しくらい解放させて楽しませてやるというのも、管理方法として間違っていないと思うんだ。
「部長、私と
「……ああ、似合ってるよ。素直に美しいと思う」
今日の朝のことがあったので、鬼山とは視線を合わせづらい所はあったが、副部長*3の強引な押しに無言というわけにもいくまい。
後、至近距離で押し付けるように見せつけてくるのは、少々開放的すぎるのでは無いかと思う。
鬼山にも何とか言って欲しいが、伏せ目気味に此方を伺う彼女に、仮にそれを言っても不機嫌になるだけだろう。
燈条と比べると胸は控えめだが、浅葱色のパレオが細身で儚げな肩幅の彼女には似合っている。
…いや、副部長の先代部長であった姉譲りのメリハリのありすぎる身体の前では、大抵の者が控えめなスタイルと評されるだろう。
「うーん、反応が芳しくないですね。
もしかして部長って、清楚系が好きなんですか?
あっ、ちょっと待っててくださいね」
取り残された僕と鬼山だが、今朝のことがあって会話が続かない。
誠に不本意だが、此方から折れることにした。
「ああ、そのだな、今朝は悪かった」
「……別に良かったんですが」
いや、どういう意味かは解らないが、別に良いことは無いだろう。
もう少し鬼山は自分を大切にすべきだと言おうとした時、副部長が帰ってきた。
透けたレースのパーカーを羽織ってきただけだが、それだけで大人しそうな印象を与え、美術部で外に出ることが少ないためか、日焼けしていない白い肌がレースから透けて見え、それがかえって視線を呼び込む。
更に言うなれば、上半身だけにガードを重ねることで、視線をガードの無い下半身に誘導しやすいあざとさも備えている。
とはいえ、一般的には清楚の枠に収まる水着であり、言葉に詰まる僕の前で何時ものドヤ顔さえ見せていなければ、立派なお嬢様だ。
ドヤ顔が少し崩れて、頬が赤いのは夏の日差しのせいなのかも知れない。
「部長、どうですか両手に花の気分は?」
明後日の方を向きながら元気にはしゃぐ副部長は、鬼山の右腕と僕の左腕を強引に組ませると、自分は僕の右腕に腕を絡めた。
腕にどのような感触があるかは、敢えて触れることはしない。
因みに、誰にも需要が無いが、僕は今薄手の黒字の服をボタンで留めずに下端を結ぶようにして、ホットパンツでいる。
そういう格好のために、両腕を搦めて歩くと、偶に太ももが彼女たちとすれる。
無言の鬼山も、触れた時に言葉が一瞬詰まる副部長の御召茶も絶対気にしてるのはわかってるんだが、僕としてはわかっているなら腕を解いて欲しいと思う。
流石に女子相手に此方から振り払うわけにはいかないし。
…ただ、御召茶が「部長の白い肌が焼けたら大変なので日焼け止め塗ってあげましょうか?」と聞いてきた時には強引に振りほどいてやろうかと思ったけどね。
森丘のように役得だと割り切るか、青野のように興奮で思考を停止させてしまえば楽なのだろうが、この僕の高すぎる理性が逆に辛い。
そう考えていると、青野達新聞部と合流できた。
森丘は意味ありげにニヤニヤしているし、青野は何も考えずに手を振っている。
赤夜、黒乃、白雪、仙童は燈条を見ているし、燈条は………いや、そんな表情をされても困る。
というか、そもそも燈条の過激すぎる紐水着に誰もツッコミを入れなかったのか?
その水着のせいで、全部持って行かれそうなんだけど。
というか、今すぐ着替えてきて欲しい。
本当に、切実に。
周囲の注目が腹立た………鬱陶しい。
「燈条、君は仮にも引率補佐なのだから服装を考えてくれ」
「……変でしたか?」
変というか、危険だ。
僕は極めて普通の事を言ったはずなのに、赤夜たちが批難するような目で此方を見てくるのは全く理解できない。
鬼山たちまで似たような視線を送ってきた。
「…部長は清楚系がお好きみたいだから」
副部長は全く良く解らないフォローを入れてきた。
全然、僕へのフォローにはなっていなかった。
燈条が仙童と共に無言で海の家に帰ってから、黒乃と白雪などはあからさまに聞こえるように、「流石に有罪」「乙女の敵」などと言ってきた。
公共風俗的に間違っているのは相手側なのに、理不尽に此方が悪いと認めなければならない状況は、今朝から含めて二度目だ。
今日は厄日というものなのでは無いだろうか。
しばらくして、仙童がドヤ顔で燈条を連れてきた。
どうやら仙童の魔法で水着を変えたらしい。
赤い和服の切れ端で作ったような身を巻くタイプの水着だった。
先程より、露出度は落ちてきているのに、何故か先程より恥ずかしそうに此方を見てくる燈条の思考は一切わからない。
いや、わかる必要も無いのだろうけど。
僕が無言で燈条を見つめていたのは時間にして約、九秒と少し程だったと思う。
鬼山と御召茶に両端から抓られたことで、それは終わった。
いや、無言が続いたからと言って抓って状況を進めさせようという手段については、妖の凶暴性と理不尽さを感じさせられた。
「先輩ってラブコメの主人公みたいですね」と青野が全然良く解らないタイミングで言ってきたが、彼にだけは言われたくないと本気で思う。
「ああ、本日来ると言っていた方ですね。
取り敢えず中へどうぞ」
ラブコメど真ん中の自覚の無い青野へドン引きしていた僕に声を掛けてきたのは、青野達が泊まっており、しばらく日中にお世話になる民宿『まりん』のオーナー、川本まりん*4だった。
案内されて中に入ったは良いものの、恐らく青野達以外に宿泊者はいないようだ。
日中だから出かけているのか、偶々連泊が無かったのか、青野達、というか陽海学園が貸し切った可能性も高い。
しかし、全体的に人が多く使っている痕跡が、少なくともここ最近では感じられない。
…だから安く泊まれるここを選んだのか?
それは不要な思考であるし、そもそもここの経営状況がどうであろうと僕には関係ない。
そう思っていると、
「オイ!! このグズがァ!!
てめェ食器ひとつ満足に運べねェのか!!!!」
奥から怒声が聞こえてきた。
従業員を叱るのは良いが、客に嫌な思いをさせないように、見えないところ、聞こえないところでしてほしいものだ。
…こういった従業員しか雇えない程度に困窮しているとは、つくづく経営が傾いていそうだな。
そう思って呆れていたのだが、周囲の反応は違った。
少々心配そうにしているようだ。
それはこの宿の問題で、僕たちが口を挟むことでは無いのだが。
しかし、流石にその後にも続いていた罵声には僕も黙っていることは厳しかった。
「どうせてめェは喋れねェし、接客できねェ!!
てめェみたいなカス、ウチにゃ要らねェんだよ!!!!」
罵声だけで無く、何か柔らかいものを壁に叩き付けたような音も聞こえてきた。
教会は弱者の寄り部として成長してきた側面を持つ。
権力者に虐げられる大勢の弱者にいい顔をして信者を獲得してきた。
故に、これを見過ごすのは教会の者として良くないのだろう。
…断じて、僕が勘違いした偽善者だから被害者を救いたいという義憤をアピールするつもりでは一切無い。
立ち上がろうとした青野を視線で止める。
無理な姿勢で固まっている青野だが、それに構うつもりは無い。
どちらかというと、一瞬殺気が臨界値を振り切った森丘の方こそ気になるところだ。
瞬間的な振れ幅だったせいで、赤夜姉妹しかそれに気が付いてはいないようだ。
僕が動いたのは、森丘を動かさないために、先んじて僕が動いた側面もある。
厨房に向かうと、職場体験に来た中学生のように小柄な少女の髪を掴んで壁に押し付ける、柄の悪い男がいた。
彼は僕に気が付くこと無く、教育的指導と言うには少々度が過ぎた行為を続けている。
身体が小さく、言葉で反論できない相手には、酷だと思う。
「障害者雇用に先進的な職場で、まさかこの様なことが行われているとは。
イメージダウンをさせる君の働きより、彼女に対する社会保証金の方が高いんじゃ無いか?」
なるべく、冷静にそう話しかけたが、男は真っ青になっている。
恐らく後ろから付いてきた森丘のせいだ。
彼が女性には優しいことは知っていたが、幾らブ男と美幼女がいがみ合っているからと言って、そこまで男に殺気を向けるとは。
今までの彼の様子から見てロリコンと言うことも無いだろうし、単純に男に冷たいだけだとしても、ここまで区別するのには笑えてくる。
大妖の殺気を直接向けられたことで、殺気を感じられないにしても本能的に恐怖を感じたのか、学生たちを前に男は逃げていった。
…逃げてしまっては仕事が出来ないから、幼女に仕事が出来ないカスと罵った事がギャグとしか思えないな。
僕は、当初森丘は男か女かだけで物事を判断していると思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
「大丈夫ですか」といつもとは打って変わって紳士的に少女に対して気遣っている。
その目は先程男に向けた凍り付くような視線とは真逆のものだった。
後からやってきた青野達に、少女――――音無燦*5が実は喋れる上に、森丘が新入生の頃の新聞部の部長だと言うことを聞いて、態度の理由に納得はした。
納得はした、が――――
「…あの反応、
キープにされた子達が可哀想だね」
「…本命とかキープとかそんなんないわボケ」
青野達を先に返した後で、残った森丘にそれとなく話を振ってみたが、随分とつっけんどんに返された。
…そういうところがわかりやすいのだが。
これでも二年間一緒に学んできた者として、応援くらいはしてあげようと思ったのに、そういう態度を取られてはどうしようも無い。
どちらにせよ、こういったことは自分から動けないくせに介入を嫌いそうな彼のことだから手を出してかき乱すつもりも無いけどね。
…ああ、全く、夏の海というのは恋が転がっている場所なのだろうか?
僕はその青春を送る彼らの傍観者として、精々楽しませて貰うこととしよう。
夏にかまけて、本業を怠るような度し難いことは許すつもりもないけど。
さて、僕たちは合宿に来ている。
故に、この後は何処で絵を描くか、そういった話し合いをするはずだった。
…………あのブ男が、資金をもって逃走したことが発覚するまでは。
そんな店側の内情を漏らして客に嫌な思いをさせる音無卒業生も音無卒業生だとは思うが、それを指摘して周りに嫌な思いをさせるほど僕は無能では無い。
だが、店の困窮具合には一切関係ないので、其れまで通りの予定を実行するはずだった。
…黒乃達が、この店を何とかしようとか言い出すまでは。
それを言い出した黒乃に反論すれば、僕が悪者になるのは目に見えている。
直情的な単純サキュバスめ、…実にやっかいだ。
それに、森丘の「何とかしてくれるんだろ」という風な目線が腹立たしい。
そのくせ、森丘は用事があるとふらりと何処かへと去ってしまった。
大凡、何をしに行ったかの見当は付く。
彼が何を僕に望み、何を自分で行おうとしているかを理解できる程度には、同じ時を過ごした事実もまた、僕をイライラさせてくれる。
まあ、僕をイライラさせる要因は他にもあるのだが。
「私達が水着になって、客寄せすれば良いんだよ」
「そっかぁっ!!」
お前たちのそういう所だよ、赤夜&黒乃。
完全に海外のモデルにしか見えない赤夜や、グラビアアイドルになったら成功間違いなしな黒乃、色白に関しては他の追随を許さない白雪、ロリ担当の朱染や仙童。
…そして、白い砂浜に映える黒髪を風に靡かせて、惜しげも無く水着を晒す燈条。
全く何を考えているのだか、特に燈条は止める立場だと言うのに。
美術部の面々、特に数名は何故か落ち込んだりしているし、全くこの状況が理解できない。
挙げ句に僕にまで、当初支援を頼もうとしてきた青野は頭おかしいんじゃ無いかと思う。
結局僕も、先日の反省を元に、どう見ても男に見えるウェイターの格好で、調理担当に専念することにした。
食材の配合や加工は、錬金術と重なるところも多く、僕には造作も無い。
肉を炙りながらナイフで切り跳ねさせつつ、そのまま皿に盛り付けられるように着地させ、無駄の無い動きで出来るカクテルシェイクに、完全な物理演算による大道芸的なパフォーマンスを加えて、客を楽しませることにした。
途中、女性客が集まったところで、燈条や鬼山たちが休憩と称して僕の正面の席に座りに来た事が邪魔になったり、
燈条の水着にかかった魔法が解けて、元の紐水着に戻った時は、急いで僕の上着を掛けたりハプニングは色々あった。
何故か、あれだけ最初自分で選んだ紐水着に平然としていた燈条が恥ずかしがったり、上着を掛ける際に足を取られた燈条に押し倒されたり、実に度し難いことはあったが、何はともあれ大盛況に終わった。
食材が無くなりかけるという機会を失いかけたことは、僕が事前に予測して発注をかけたため問題なく対処できた。
オーナーは、当初食材が無くなる辺りで今日は閉めようと思っていたようで、僕が余計に学生たちを働かせてしまったことについては、反省が必要だろう。
二度目の再発注は敢えて行わず、その食材が切れたところで、お開きとなった。
今日は、女性目当てに人が集まったが、今後も同じ戦略というのは厳しいし、取るべきで無い。
綺麗な女性という名目で有名になると、そういう目的を持った客層に固定されて、身体を触られるなどと言った性的なトラブルリスクを抱えることになる。
それに、そういったやり方は他の店に不満を持たれやすい上に、真似されやすい。
第一、赤夜たちは今後もずっとこの場所で働くことは無い。
故に、オーナーの川本と音無とその他の従業員で回る運営を構築する必要がある。
そもそも、この観光地全体に来る客の総量というものがある。
それが確保できないと、観光地自体に人が来ないのに、まりんだけには人が来るなんてあまり、考えられない。
あとは大切なのは、ストーリー性、オリジナリティ、知名度、後は交通利便性とコストパフォーマンス。
温泉や料理などを写真でアップすると共に、その紹介に見合う実力も備えて貰う。
ネットの民宿への口コミ対策*6や、宣伝サイトとの提携、ホームページの作成。
やってないことの方が多すぎる。
…今までどうやって存続してきたのかが謎なくらいだ。
僕たち美術部は、暗くなる前に自分達のホテルに帰ることにした。
僕はそこで、パソコンと携帯電話を駆使しながら、案をわかりやすい書式に纏めたりなどしていたのだが、そこで部屋に鬼山が訪ねてきた。
「精が出ますね」
「あそこで働いている音無さんという者は、僕たち陽海学園の卒業生だそうだ。
アフターフォローというヤツだよ」
其れで納得してくれれば良かったのだが、
「燈条先生の為、ですよね」
見当違いな事を言って来た。
「――――どういうことだ?」
「…自覚が無いんですか? 本当に?
…いえ、いいんです」
そう言って、鬼山は部屋を出て行った。
何を責められているのか、実に理解しがたい。
だが、彼女がいいというのなら、それでいいのだろう。
僕はしばしの間、その猶予に感謝することにした。
余計な考え事をしていたせいか、いつの間にか僕が制作していたホームページは招き猫が光ながら回転したり、文字が点滅する古い時代のフラッシュ系*7の様になっていたので、次の日に作り直すことにした。
全く、僕に余計な事を煩わせるとは、全く妖というものは実に度し難い。