夏休みが終わり、新学期。
夏休みの後半は、司教様の教えを聞くという素晴らしい時間を過ごしたが、語り尽くせそうに無いので残念だが省略する。
二学期になって、学級委員を決め直すことになった。
何故か僕に票が集まったが、そもそも公安委員会の螢糸とかの方が適任であると思う。
僕は美術部の次期部長が決まっているし、科学部では既に前部長に勝手に部長にされた。
これ以上背負わせられても困る。
そう思っていたのだが、螢糸の巧みな扇動によって勝手に学級委員長に決められてしまった。
螢糸は実力行使より、扇動の方が向いているのだとよく解った。
調子に乗られて多発されても困るので、敢えてそれは本人には告げないが。
学級委員長になって、ルーチン以外の仕事が無ければ良いと思っていた。
ルーチンワークは苦手では無い。
いつも通りのことをいつも通りにするだけだ。
問題は、突発事項だ。こういう無駄な作業は基本的に嫌いだ。
で、そう思っていた一週間後。
舞い込んできたのは突発事項。
クラスのサッカー部員が一年生に凍り付けにされたらしい。…軟弱者め。
しかし、一年生にやられた情けない同級生を馬鹿にするのでは無く、生意気な一年生をしめようと考えるのはクラスの仲がよいと認識して良いのだろうか。
確かに、そのサッカー部の二人は後輩に優しい良い先輩であったとも聞く。
本当に、妖怪でさえ無ければ良い友人になれたと思う。残念だ。
一介のクラスメイトならともかく、僕は学級委員長だ。
クラスをなだめるべきか、それとも一年生一人を犠牲にクラスを団結させるかを決断しなければならない。
そして、その結論は
――――僕がクラスのヘッドとしてお礼参りにいくことだった。
意味がわからないけどそうなった。
螢糸のやり方は正直ズルいと思った。
クラスは仲良く+リンチは良くない→委員長がタイマンで解決
どう考えてもおかしいのだが、妖には普通に通じてしまったらしい。
全くもって妖というのは度し難い存在だ。
結局、引き受けるハメになった僕は、対象となった生徒。白雪みぞれ*1を調査することにした。
種族は雪女*2。そこまでは解った。
しかし、彼女の謎の隠匿能力と、ストーカースキルの派生による対ストーキングスキルのせいで、多くの情報は手に入らなかった。
だが、雪女というだけで対処法は幾つかある。
雪女は正体を知られることで弱体化して場を去るという伝承がある。
白雪はこの性質を警戒しての隠匿体質なのかも知れないが、この作戦は今のところ優先順位は低い。
今回は可燃性不凍液を使うとしよう。
雪女にはこれが一番手っ取り早い。
その他に白雪について解ったことは、割と僕のことを嫌っている男性教師小壺を氷付けにしたこと。
理由があろうが無かろうが、前科一犯だ。
その教師が私怨で白雪を追放しようとしているようだが、やった事への処罰は必要だ。
私怨にせよ、そうで無いにしろ、罪は罰で償われるべきだ。
対象者白雪みぞれは青野に接触すると何やら会話を始めた。
その後、泣きながら走り去っていった。…フラれたのだろうか? どうでもいいが。
調査情報によると白雪みぞれは落ち込むと、学園の端にある岬へと行く。
そこに先回りしていると、意外なことに一連の黒幕は白雪みぞれでは無く、被害者であった筈の小壺教師であった。
自分の所属する学園の生徒である白雪に襲いかかり、返り討ちにされたのを全て白雪のせいにして追い込んだらしい。
わざわざ正体を現して自白するなんて、三下の悪党にも程がある。
実に度し難い。
本性であるクラーケン*3の姿になり、黒幕では無かった白雪を海に引き摺り込もうとする小壺教師*4。
そんな白雪を助けようと、まるでドラマのように登場してはその手を掴む青野月音。
優しい先輩としては、ここらで登場するべきだろう。
不凍液を分解して、何処にでもあるものに作り替え、それを青野の横から眼下にいる小壺教師に振りかけた。
生命力も知力も高いタコの弱点は意外なことに『純水』*5。
思い切り正面から被った小壺教師はまるで酸をかけられたかのように悶絶して、白雪を掴んでいた触手を離して海に落ちた。
その間に、青野は白雪を引き上げた。
青野には、思ったより筋力があるようで感心したよ。
「青野、白雪、後は早くクラスに戻って担任に真実を話すと良い。
君たちの仕事はそれで終わりだ」
それを聞いた二人は僕に礼を言って帰って行った。
…そう、ここからは僕のお仕事だ。
委員長がタイマンで解決。結局螢糸の言ったとおりになってしまった。
――――私怨にせよ、そうで無いにしろ、罪は罰で償われるべきだ。
そうだろう? 小壺教師。
崖を這い上がってくるクラーケン。
もはや完全に本性剥き出しで、人間に化けた所なんて残っていない。
駄目だなあ。化け物が人間に化けて人間らしく振る舞う事を学ぶ学園で教師がその様な振る舞いをしては。
タコの弱点その2、持久力が無い。
先程より、少しずつではあるが、動きは鈍くなってきている。
タコの弱点その3。ストレスが溜まると回復性能が停止する。
鈍くなった触手が振るわれるが、簡単に刃物で切断できた。
そしてその触手は再生されない。
この程度で、ストレス溜めるなんて向いてないよ。タコにも、教師にもね。
タコの弱点その4。
食べると旨い。
「猫目教師*6、ご足労感謝します」
「教員の不始末は教員が付けないと、ね?」
僕はデビルフィッシュという異名を持つタコを食べる気は無いけど、猫目先生はそうでも無いようですよ。
担任の生徒の青野と白雪を攻撃されて随分とお怒りのご様子だ。
普段からそうしていれば教師らしい威厳もあるのだが、それはこの際置いておこう。
取り敢えず、終わらせよう。
「――闇の生き物よ、汝、神の声を聞け」
純水に変えていない可燃性不凍液を小壺教師に振りかけた後、ライターを真下に落とした。
着火して丸焦げになっても未だ岩にしがみついている小壺教師だったが、猫目教師が噛みつかれ、今度こそダウンして海に落ちた。
生徒に舐められても裏で働く教師もいれば、自身の不始末を生徒に押し付ける教師もいる。
全く、これだから妖という存在は度し難い。