パンチラ系妖怪美少女学園での度し難い日々 作:ホモォンクルス
出典:パウロの手紙
僕が学級委員長になって暫くして、『裏』の動きが怪しくなった。
より正確に言うと『裏』の表面上の動きが、だけれど。
まあ、そんな厳密な定義を言い出すと、この妖の世界自体が人間界から見れば裏になるわけで、いくらでも言葉で弄べる。
それはともかく、僕の本来の標的である組織と表層で関わりのある組織。
わかりやすい例えをすれば、ヤクザがバックに着いたチンピラのチーム。
穢れた妖怪の中でも血筋の悪いはぐれ妖という雑種どもを中心とした連中が動き始めた訳だ。
はぐれ妖*1は扱いは、ペットの雑種と変わらない。血統書付きの純粋種からは見下される妖達だ。
本来の原種の能力を失ったものも多いが、代わりに明確な弱点も減る。
寧ろ僕からすればやりにくいが、他ならぬ妖達自身がはぐれ妖を見下しているし、はぐれ妖も劣等感を感じている。
彼らは見下される劣等感からか、生き延びるためにつるむアウトロー同士で集まる。
そんな彼らが動き始めた。…厳密には暴走というのだろうが。
暴走して結果を出すこと無く失敗すれば、この手の組織には制裁が待っている。
逆に成功すれば、お咎め無しどころか組織内での立場が良くなる。
組織の力も、女も好きに出来るという理屈だ。
それならば彼らは死に物狂いで頑張るだろう。
一度人間の青野月音に負けた小宮砕蔵*2など組織でも居心地が悪いだろう。
一年生ながら組織入りして同級生に怖がられた不良くんが実は人間疑いがある男よりも弱かった。
こうなると、青野を倒すか、青野が実は凄い妖だったことにするしか無い。
どちらにしろ何かしら仕掛けると思っていた。
青野を監視していたところ、小宮と不愉快な仲間達が動き始めた。
彼らが青野を囲み始めたので割って入ろうかと思ったところで、いきなり青野が切り刻まれた。
おびただしい血液が流出していく。
妖の分際で、人間を殺すとは。
青野に駆け寄る赤夜を小宮が捕らえた。
赤夜はどうやらピンク色の髪から白銀の髪に変わらないとバンパイアの力を上手く行使できないのか逃げ損ねているようだ。
…よし、消すか。
そもそも妖に生まれた時点で救いようが無いのだが。
はぐれ妖の弱点などよく解らない。
明確な2種類の純血種の混じりなら対応できるが、原種が解らないほど混じったはぐれ妖には伝承や元になった動物など意味が無くなる。
故に、単純な力で潰す。
好みに宿る、妖気とは呼びたくないが、それに類似した力『魔力』で心を折る。
重圧の様に発したそれのおかげで、はぐれ妖達は無様に這いつくばっている。
「ッ!? 鬼畜の賢石ッ!!」
僕のことは知られているとは想定していたが、そんな二つ名は初めて聞いた。
誰が言い始めたかは後で問いただすとして、その二つ名の通りにしてやろう。
這いつくばったはぐれ妖の身体を蹴り飛ばして一カ所に集めながら、額にゆっくりと一滴一滴聖水を落としてやる。*3
「「「ア”ア”ア”ア”ア”ッッ!!」」」
流石は神への祈りを込めた聖水。正体がわからないはぐれ妖にさえ有効とは、やはり主は偉大である。
主の慈悲は、主の御偉功は、この様な汚れた地でも遍く存在するのです。
実に素晴らしい。
額に開いた穴が少しずつ深くなっていく。
このままいけば脳にまで到達するだろう。
さて、頭が悪く生命力が売りのはぐれ妖は脳が無くなってもこれまで通り生きていけるだろうか?
イケそうな気がするから続けてみよう。
人体科学に妖を照らし合わせるのは不快だが、人間なら脳まであと一滴というところで止めておいた。
どうせこのあと、暴走して勝手に動いて失敗した彼らは組織の恥さらしとして、組織自身に処罰されるのだ。
敢えてそうさせた方が、より素敵だろう。
神の意志による死という慈悲よりも、雑種妖同士のつぶし合いの方がお似合いだ。
そんなことより、人間の青野だ。
出血量が多すぎる。
無理矢理肉体に戻したとしても、遅すぎる。
助けるのが遅くなってすまない青野。
君の冥福を祈る。
僕が青野に祈りを捧げていたときだった。
赤夜が青野に牙を突き立てた。
…所詮吸血鬼か。仲良しだ、好きだと言ったとしても、血を見れば理性が飛んで啜る衝動に抗えない闇の生物めが。
――――いや、違う。
コイツ、まさかっ!?
自分の血を与えているのか!?
だとすれば、それは
青野月音を妖に堕とすつもりかっ!?
「止めろ赤夜ッ!! 青野を穢すな」
コートの中の銀で刃の厚さミクロ単位の十字剣を生成するが、赤夜は止めない。
仕方ない。青野を人間のまま殺してあげるためだ。彼の魂を穢れた闇の生き物の牙から救済するためだ。
僕は赤夜の首を刎ねて、心臓を突き刺す決意をした。
その決意は割と簡単だった。
剣を振り上げた僕が首にめがけて下ろそうとしたとき、
「やめるですぅっ!!」
声と共に、飛行するタロットカードが何枚も飛んできた。
無論、全て切り伏せる。
飛びかかってくる幻術の刃も全て一睨みで消し飛ばし、上空から降り注ぐ氷柱も全て砕ききった。
青野や赤夜とつるんでいた小さな魔女仙童紫、サキュバス*4の黒乃胡夢*5、雪女の白雪みぞれ。
僕にしてみれば滅ぼすに他愛も無い有象無象だが、僅かな時間稼ぎと言うことには成功したようだ。
その時間稼ぎのおかげをもって青野月音は蘇った。
…化け物として。
瞳に人間らしい理性が無いのが解る。…
「女達、お前達のせいだ」
僕が言ったとおり、化け物になってしまった青野は、手始めに青野に血と共に生命力や力を与えて半死人のように弱り込んだ赤夜を突き飛ばすと、白雪に襲いかかった。
ガードをしたにも関わらず一撃でダウンした白雪を見ることも無く、続いては仙童に狙いを定めた。
仙童は魔法で応戦をしたが、その全てが躱されて叩きのめされて気絶した。
そしてその次の標的は黒乃だった。
黒乃は、ガードするのでも無く、攻撃するのでも無く、受け止めるように両手を広げた。
…正直意外だった。
化け物のくせに無償の愛に類似した行動を取る黒乃。
僕は決してその姿に心を打たれたわけでは無い。
あくまで、化け物になってしまった青野を沈静化させるために、青野が黒乃に接触する寸前に合わせて、思い切り魔力の塊をぶつけて昏睡させただけだ。
「
気絶している間に夢の中でそいつを堕とすなり喰らうなり、引き戻すなり好きにしたまえ」
あくまで僕は妖如きに感銘を受けるなんてそんな度し難いことはしていない。
あくまで、妖に堕ちた青野の後始末など、妖に任せて充分だと思ったに過ぎない。
…全く、妖の分際で、無償の愛の真似事をするなんて、実に妖というのは度し難い存在だ。