束の間の欺き、礎にて
「そろそろかな」
煙草と酒の匂いが充満する室内、研究施設【ロクロ】の搬入ドックへの連絡通路。
長い通路の中程に設けられた休憩スペースのベンチに座りながら俺は呟いた。
本部へ信号を出してから6分で搬入船──恐らくこの施設に来る最後の──からの無線が入った。
長かった仕事もようやく大詰めだ、あとはドックの“元”同僚を無力化するのみ……
「なにがだ?サブロー?」
「何でもないぜ、兄弟」
隣に座っているのはここに来て親しくなった同僚だ。
戦闘員らしくやや筋肉質で、仕事終わりが近いからか既に制服から寝間着に着替えている。
「それはそうと兄弟、そろそろ仕事も終わることだ、酒でも一杯どうだ?」
「いいじゃないか、サブローとは酒の好みも合うからな」
懐からレザーケースに収められたチタン製のスキットルを取り出すと先に1口、口に含んでジェームズに渡した。
ジェームズもスキットルを呷ると、手からスキットルを取り落とす。
ジェームズはしばらくゆっくりと体を揺らした後、バランスを崩してベンチに倒れ込んだ。
完全に眠ったのを確認してやや苦味のあるウィスキーを飲み込むと、同僚を担ぎ上げる。
音を立てないように休憩スペースの奥にある清掃道具倉庫に運び込み、そっと寝かせて、傍らに酒瓶と手紙を添えた。
急いで搬入ドックへ出ると、激しい雨がコの字型になっているドックに降り込んでいた。
濡れたセメントの床が、ドックの天井に光る電灯の明かりを反射している
「ここの隊長は~っと……」
ゲートを出てしばらく続く赤青様々な色のコンテナの群れを抜け、湖沿いの開けた場所に出る。
見回すと、わざわざ雨が当たる端っこに搬入ドックに立っている警備隊長の背中が見えた。
「遅いぞサブロー、もうすぐ搬入船が到着する、Cゲートの警護をしろ……何やってる早く行け!」
こちらに気がついた厳つい搬入ドックの警備隊長が、俺に向き直って怒号をあげた。
濡れたしかめっ面をまた湖に向ける警備隊長、俺は近づきながら了解の意思を伝える。
「承知しました……」
しかし歩みは止めず、隊長から約2メートルの位置に来たところで言葉を続けた。
「隊長、ひとついいですか?」
「なんだ?」
隊長のすぐ後ろで立ち止まる。
「辞世の句、詠んでもいいですよ」
隊長の額にブローバック機構をオミットした静音ハンドガン【Mk30 P・S v3】を突きつけ、躊躇いなく引き金を引いた。
湖に落ちかける隊長を掴んで、頭に素早くビニール袋を被せ、首の部分でさっと袋の口を縛った
死体を担ぐと、近くの空きコンテナに放り込む。
床に血がついていないことを確認しながらコンテナの扉を閉めたその時、搬入船がやってきた。
時系列的には水の記憶、水面にてよりほんのすこし前のお話です。
視点がアインスではないので外伝というくくりにしてます。