かりそめの命、臥した棺にて   作:木島後輩

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祈念、花園にて

 

閑静な住宅街に初夏の日差しが照りつけていた。

平和な、庶民の安寧の地。

 

───────その場所に全く不釣り合いな戦闘員の集団がいなければの話だが。

 

 

「フンフ班長、どうされましたか」

 

声をかけられた、名前は覚えていないがとりあえず男、顔から見て男2だったか。

 

「いんや、なんでもない……行くか」

 

今回の任務は、とある家系の抹消。

そこそこの一族を消すには相応の人手がいる、いつもならその統率に隊長であるツヴァイが立つところであり、一般人を手にかけるような作戦は受けないのだが。

 

「巡り合わせが悪いことだな」

 

大規模テロの鎮圧のため、ツヴァイはそちらに行かざるを得なくなった。

 

いつもなら断るような作戦の、その上指揮を彼に頼みこまれ、仕方なくこの立場となり今に至る。

 

「記憶処理班は周辺の記憶処理を開始、今から執行部隊が突入する」

 

無線でそう告げる、これは今から入る家の住民の死刑宣告に等しい。

一般人とはいえ、任務である以上手加減はしない。

 

玄関の扉を開き、中に入る。

静かだが、たしかに人の気配を肌に感じた。

 

「……見つけ次第殺せ、痕跡はいくら残してもクリーナーがやってくれる」

 

後ろに付いている2人に告げ、1人は2階に向かい、1人は玄関を見張る、1階を回るのは俺の役目だった。

 

伸びる廊下の先にあった扉を押し開ける、キッチンのようだ。

流し台に時代遅れのガスコンロ、冷蔵庫は少し新しめか。

 

しっかりと扉を閉め、扉の前に足元にあったゴミ箱をずらしておく。

 

足を進め、食卓の下を覗き、戸棚の中に至るまで調べあげる。

 

「……いないか」

 

2分ほど探して姿を掴めない、そう呟くと壁を向き、無線に向けて話しかける。

 

───────ゴミ箱がずれる音がした。

 

「浅はかだったな」

 

躊躇なく引き金を引く、頭に穴を開けて倒れるのはおそらくこの家に住む家族の母だろうか。

 これ見よがしに目線をそらし、無線をかけるふりをしたのはこのためだ。

間もなく2階からも銃声が聞こえてきて、ここで自分がやるべき事は終えたと知る。

 

「A地点フンフ班担当タスク完了、クリーナーを要請する」

 

無線を切り、生気の抜けた瞳で虚空を見つめる死体に歩み寄る。

驚愕と恐怖に見開かれた瞼をそっと閉じて、俺は言った。

 

「……その御魂の良き輪廻を」

 

 

 

「フンフ、まずはありがとう、感謝している……そして無理を言ってすまないな」

 

PSEF本部、隊長の部屋には俺とツヴァイしかいない。

黒い絨毯が敷かれた部屋にはそれらしい盾やトロフィー、証書などが誇らしげに置かれている。

 

「……それより、あの作戦にはなんの意味があるのか俺はまだ聞いてない、話してくれよ隊長」

 

ツヴァイに問いかけると、テーブルに置かれたコーヒーを喉に通す。

熱い液体が思考を冷ます、問いかけに対し歴戦の兵士は顔に張り付いた笑みを剥がし、幾ばくか考える素振りを見せて言った。

 

「……わからない、というのが答えでは不服か?」

 

「もちろんだとも、みたところなんの害もない一般人を殺した挙句、その一族の存在を消し去るとは……遂にそこまで堕ちたのか、ツヴァイ」

 

もっとも、作戦の殆どは国の指示なのでツヴァイにこれを言うのはお門違いだ。

しかし、あの一族にはなんの特異な点は見当たらなかった。

……ただ一点を除いて。

 

「言われなくとも、俺は地獄に堕ちるだろうよ……それでフンフ、お前のことだ、もう“娘”のことは知っているんだろう?」

 

あの一族の娘は大規模テロ“事案54N”で唯一無事に生存した。

 

「なにかの偶然だと俺は思いたいがな」

 

秀才な彼女は飛び級コースの優等生、そこそこの稼ぎがある一家の一人娘だった彼女は、両親の寵愛ですくすくと育った。

しかし、今彼女は友人を失い、家族を失い、記憶までも失った。

同情こそすれ、自分がしてやれることも、する資格も無い。

 

そんな役を押し付けたツヴァイに、俺は理不尽だと自覚しつつも怒りを抱いていた。

それを知ってか知らずか、ツヴァイは続ける。

 

「驚いたことに、うちを志願してる」

 

「……きっと折れるさ」

 

今思い返せば、俺は怖かったのだろう。

彼女と向き合うことも、自らの罪と向き合うことも。

 

 

「……またやってるのか、お前」

 

薄暗い休憩室、PSEFの訓練場。

そのベンチに座る、入隊したばかりの彼女の手首には、おびただしい数の切り傷が付けられ、ぽたぽたと床に血が滴っていた。

 

「……そのナイフは隊員を傷つけさせないためのものだ」

 

「……でも、彼等が許してくれない、私は壊れないと」

 

「……」

 

何度目のやり取りかわからないが、相変わらず意味がわからなかった、俺はどうしていいかすらわからず、とりあえず彼女の隣に座り、時を過ごすのも恒例となっている。

 

しかしやはり居心地も悪いもので、俺は彼女の背を撫でながらいつもと同じように言った。

 

「そのうちお前もその手で人を殺すだろう、しかし、お前はそれに対して人一倍敏感か、それとも鈍感だ、だからこれだけは覚えておけ、“殺す覚悟を持つものは殺される覚悟も持たなければならない”」

 

どの程度彼女にその言葉が届いているのかはわからない、そのあいだ彼女は変わらず独り言をブツブツと呟いていたが、それ以上の自傷をすることはなかった。

そして彼女は突然我に返ると

 

「お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません……どうか、口外しないでください」

 

長袖の裾をぎゅっと握りしめて、彼女は涙ながらにそう謝罪したのだった。

 

「あぁ、2人だけの秘密だ、約束は守る」

 

 

「フンフさん!」

 

「ゼクスか、最近会っていなかったな」

 

目の前にある花畑の、赤黄紫、橙や白の花に気を取られて、後ろからやってきた後輩に気が付かなかった。

 

「……死んでたらどうしようかと」

 

「縁起でもないことを言うんじゃない、そういうところだぞ、ゼクス」

 

「すいません、フンフさん……」

 

萎縮する彼の頭に手を置き、語りかける。

 

「だが俺もそのうち死ぬだろう、その時は……よろしくな」

 

「縁起でもないこと言わないでくださいよ……フンフさん……」

 

「お前も言っただろ!?」

 

やはりゼクスのペースに合わせていてはキリがない。

 

「でも、フンフさんには返しても返しきれない恩があります、俺はフンフさんに恩返しがしたい……だから恩を返しきるその日まで、死なないでくださいよ、フンフさん」

 

「あぁ……頑張るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────これが、走馬灯ってやつか

 

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