扉が開いた先には、三叉の通路があった。
掃除が行き届いた真っ白な床と壁、天井は全面が白く輝いている。
事前の情報によれば、左右の通路はこの階を一周している、直進すれば“神”が安置されている部屋があるはずだ。
少し目をこらすと、眼前にまっすぐ伸びた通路の先に扉が見えた。
創造主の遺体がこんなところに収められているということに非常に奇妙な感覚を覚えた。
ツヴァイとゼクス、アハトとフンフがそれぞれ左右の通路に飛び出す、M4T8を構えたままツヴァイがオーケーサインを出した。
それを確認した私とドライは前方に向けて走り出す。
25メートル程の廊下を駆け抜けると、重厚な扉が超越者と私たちとを隔絶していた。
ドライがどこで手に入れたのか、扉の横のカードリーダーにカードキーを通す、しかし扉は開かない。
色濃く焦燥の色を含む声でドライは呟いた。
「くそっ、どうしたんだ……」
2度、3度と通すがカードリーダーに取り付けられた小さなランプは赤いままで、無機質なブザーが重ねて鳴った。
四苦八苦していると後ろから声がした。
「どけアインス、ドライ、俺がやる」
声に振り返ると、後ろから歩いてきたフンフがバックパックから何やら四角いものを取り出しているところだった。
「フンフさん、それやったら確実にバレますよ」
フンフの後ろを歩くアハトが苦笑混じりに言う。
フンフは手に持った四角いものをわざわざ見せつけながら言った。
「ご遺体持ってさっさと逃げる準備はいいな?」
心なしか楽しそうに見える、彼が持っているのは間違いなくプラスチック爆弾だ。
ドライと顔を見合わせると、私は静かに頷いた。
「じゃあ墓荒らしといくか」
フンフは手慣れた手つきで扉のロック部分にプラスチック爆弾をセットし、起爆装置を取り付ける。
フンフが左手を背中に向けて振る、後退のハンドサインだ。
「15秒だ、走れ」
フンフの言葉に従い通路をかけ戻り、三又の通路に出るとすぐに左に曲がり壁についた。
間もなくして鈍い爆音がフロア中に響き、けたたましいサイレンが緊急事態を知らせ始めた。
爆発でスプリンクラーが作動し、乾き始めていたバトルドレスを濡らす。
濡れた黒い前髪を払いながら呼吸を整え、M4T8を構えると濡れた廊下を再び駆ける。
「こちらツヴァイ、ヘリの用意を頼む」
サイレンとスプリンクラーから降り注ぐ水音の中で、最前を走るツヴァイがヘリを要請したのがかすかに耳に入った。
無残に歪んだドアをツヴァイが蹴り破り、突入する。
半径50メートルはくだらない半球型の大部屋の中央に、神の遺体が置かれているであろう台座が見える。
「敵、来ます!」
アハトが左前方にある扉を指さした、中央に走りながら咄嗟にM4T8を構え、扉が開いたのが見えた瞬間前傾姿勢をとると引き金を引いた。
ゴシュッ、ゴシュッとサプレッサーにより高音が抑えられた銃声と反動が肩を叩く。
放たれた2発の5.56mm弾が正確に敵兵の頭を撃ち抜き、血の花が咲く。
「援護頼んだ!」
声を張り上げ、中央に向けて走りながら部屋の構造を確認する。
扉は計3箇所、中央には大きな無数の精密機器が並んでいるが、その周りはかなり開けていて射線が通ってしまう。
そう思っているあいだに林立する背の高い精密機器の間に入り、着々と台座に近づいていく。
階段にさしかかると2段飛ばしで駆け上る、少し息が荒らくなるが、無理やり整える。
登りきった先にあったのは金属製の無機質な台座、その上に''神''はいた。
私はその身体をみて息を呑んだ。
雪のような白い肌をすべて晒す全裸体、長く艶のある白い髪は銀のようで、とても遺体とは思えない。
そんな超越者の身体に、同じような体である女性ながら見とれてしまう。
続く敵が突入してきて銃撃戦が始まり、部屋に銃声が響き渡る。
私は我に返ると遺体に付けられている無数のケーブルを引き剥がした。
右前方からエフェクトがかかった叫び声が聞こえた。
「神を守れ!」
敵はざっと見たところまだ十数人、まだ増えることは想像に難くない。
まもなく遺体があるにもかかわらずこちらにも容赦なく銃撃が浴びせられる。
素早く姿勢を落とし台座の裏に回り、タクティカルベルトに付けられたグレネードを取り外す。
ピンを引き抜き右前方に向けて投げた。
「グレネード!」
爆音、敵に生じた一瞬の隙を突き神の遺体を抱え、ツヴァイ達の元へと走る。
ツヴァイたちが蹴破った扉をバリケードにして応戦しているのが見える。
精密機器群を抜けるとすぐに私も敵に向けてGPHGを撃ち込む、しかし、たったの2発撃ったところで弾詰まり[ジャム]を起こした。
クリアしている時間はない、スライドが閉鎖しきっていないGPHGを乱雑にヒップホルスターにねじ込む。
華奢な見た目に反して神の遺体は重い、懸命に走ってはいるが、体力的に私が脱出まで運び切れるようには思えない。
バリケードの裏に滑り込むと、息を整えながらツヴァイに声をかける。
「ごめんツヴァイ、運ぶのかわって」
「いいぞアインス、お礼に3食は奢ってくれよ」
この状況でも尚軽口を叩くツヴァイは軽々と神の遺体を担ぎ、出口に走ろうとしたが、すぐに足を止める。
自分たちが入ってきた扉からも敵が突入してきたのだ。
咄嗟にM4T8を構え、引き金をひこうとしたがツヴァイに止められる。
かくいうツヴァイの右手にもGPHGが握られていた。
あっという間に包囲され、アハトが顔を青くしながら首を絞められたような声で言った。
「隊長……どうしますか」
敵が構えるアサルトライフルは見たことがないものだ、明らかに前後幅が長いマガジンから見て貫通力の高い弾だと予想できる。
「今すぐに神の遺体をこちらに引き渡せ、さもなくば射殺する」
ボイスエフェクトのかかった声で、敵兵のリーダー格と思われる人物が返還を要求する。
2倍は増えたであろう敵兵は全員ライオットスーツにフルフェイスヘルメット、今の弾でこの装甲を抜くのは非常に難しい、その上人数有利を取られているこの状態、非常にやりづらい状況と言える。
リーダー格の兵士は続けた。
「出口は無い、死にたくなければ……」
「無いものは作るんだよ、こんなふうに」
途端、包囲していた兵士の一角が弾き飛ばされた。
そこを発端に次々と高速で壁に叩きつけられ、力なく横たわる兵士達を見て、両勢共に唖然として動けない。
声が聞こえたのはすぐ右側、ゆっくりとそちらを向くと。
神が、“浮いていた”
私はそのとき鮮烈に死を意識した。
数多の戦場を駆け死は常に背に纏わりついていたが、どこかその存在は無意味であるように感じていた。
目の前に佇む白銀の髪の女性、この世界で信じられている“神”
その存在は、無邪気な印象を与える蒼い瞳とは裏腹に、遍く意識体全てに行動する意思を完膚なきまでに押しつぶす畏怖を抱かせる。
「エリカ……」
その蒼空色の瞳と目がかち合う、呼吸ができない。
しばらくわたしはその言葉が自分にむけられたものだと分からなかった。
思わず聞き返してしまう。
「エリカ……?」
「……なるほどね」
神は合点がいった、というような顔をして1人残ったリーダー格の兵士を見た。
2秒ほどだろうか、神と目を合わせた彼は力なく地に膝をつき、倒れた。
「さて、どうしたものかな」
やれやれ困ったというように、この不測の事態にも関わらずいつもの余裕を崩さないツヴァイ、右手に握っていたGPHGをレッグホルスターに収めると、短髪の頭を掻きはじめる。
ようやく冷静さが戻ってきて、私は言った。
「とにかく早く逃げないと、ヘリはどこに来るの?」
「ここの屋上だ、早く向かわないとヘリが危ない」
神の方を向いてみる、目を合わせるのが躊躇われ、口元を見るのが限界だ。
顔が強ばるが、精一杯の敬意を込めて聞いてみる。
「……カミサマ? ご同行願えますか?」
何故か神は口をへの字にした。
神は悠々と白い地面に素足をつけると、銀髪を左手で背中に払って言った。
「いいよ、あなたになら付いていく、あと……私の名前は“ナシ”」
どうも彼女はカミサマ呼びが気に入らなかったようだ。
カミサマをナシに改めて同行を促す。
「ナシさん、こっちに」
またあからさまに神……ナシは不機嫌な表情を浮かべる。
理由は恐らく敬称だろうか、慌てて謝罪しようとしたがナシは答えた。
「さんはいらないよ_____あと、初対面の人とは自己紹介をするものだよ、貴女の名前は?」
「……アインスです」
「よろしくね、アインス」
後ろでアハト、ゼクス、ドライの3人がひそひそと話しているのが聞こえた、さしずめ話している内容はナシが全裸体であることだろう。
ツヴァイは4人の方を向いて声を上げた。
「急ぐぞ、撤退だ!」
次回、○○○死す、デュエルスタンバイ!
是非評価など、お願いします。