【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち
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13.今が幸せだから

☆鈴木悟視点

 

加藤さんが誘ってくれた映画館はアーコロジーの中にあった。

 

俺と加藤さんは外で待ち合わせしてから一緒に映画館へ向かい、今、やっとアーコロジー内へ入ってきた所だ。

 

入場手続きにはかなりの時間を取られると覚悟してきたのだが、加藤さんのおかげですんなり入ることが出来た。

 

加藤さんいわく、「育ての親のコネ」だそうだ。

 

育ての親?血の繋がった親じゃないという事だろうか・・・

仲良くなって数ヶ月の間柄だけど、実は加藤さんの事はよく知らない。

彼女は、あまり自身の事を話したがらないというのもあるけれど、俺自身も家族の事とかは話さないから余計かもしれない。

 

まぁ、同じ会社で働く同士 これからも時間はたっぷりある。少しずつ、距離を縮められたらいい・・・そう、思っていた。

 

 

 

アーコロジーの中は外とは比べ物にならないぐらい快適だった。

 

息苦しくないし、空気は澄んでいて視界が広い。

 

隣を歩く加藤さんをチラッと横目で見れば、不安げに周りをキョロキョロと気にしながらちょこちょこ歩く彼女と目が合った。

 

加藤さんに突き刺さる人の目。

隣で歩く俺にだって分かるほど隠しもしないその視線にイラつく。すれ違う人達はコソコソと話しながら、遠慮なくコチラを見てきた。

 

 

「酷い傷跡ねぇ」

「コレだから外は怖いんだ」

「女の子なのに可哀想に」

「え、何アレ、気持ち悪ッ」

 

 

同情的なものから、悪意あるものまで・・・。俺たちの姿は 綺麗なものを着てきたとはいえ、富裕層の目の肥えた奴らには スグに外から来た人間だと分かるらしい。

 

昨日の電話越しでは、あれほど楽しみにしていた加藤さんの 悲しそうに俯く、その姿は見てられなくて。

早く笑ってほしい。そう思ったら、衝動的に行動を起こしてしまっていた。

 

パッと手に取った加藤さんの手に力を込める。大丈夫、大丈夫、そばにいるから、だから前を向いてほしい。

 

「・・・大丈夫ですよ」

 

「あ!あ、あの」

 

「映画が楽しみですね」

 

「そ、うですね。・・・ありがとう、ございます」

 

 

気恥しさからか、か細く聞こえた感謝の言葉は、それでも とても嬉しそうだった。

 

・・・良かった、何とか元気づけられたみたいだ

 

 

 

もう俺には、胸でくすぶるこの感情が何なのか分かっていた。

たぶん、きっと、加藤さんも俺と同じ想いをコチラへ向けていてくれる事も・・・

 

今になって、”手を繋いでいるという事実”に、顔が熱くなってきた。

 

いや、これは、かなり、めちゃくちゃ、ヤバいな!!

 

 

 

 

『前方にカップル発見!』

 

『グハハハハッ リア充爆発しろやぁ!!』

 

昔、『ユグドラシル』でPKしていた時のペロロンチーノさんと ウルベルトさんの姿が脳裏に蘇って、思わずむせ返った。

 

「ゴホッゴホッ」

 

「あ、だ、大丈夫、ですか?」

 

「ええ、すみません。ちょっと昔のことを思い出しちゃって」

 

「む、昔、ですか?」

 

「ギルドメンバーの事を・・・」

 

「そ、そうなん、ですか?良ければ、聞かせ、てほしいです!!」

 

 

目をキラキラさせて俺を見上げてきた加藤さんが、いつも以上に可愛く見えてドキドキしてしまう。

 

俺にはこれ以上、加藤さんの顔を見ることが出来なくて、前を向いた。この気持ちを誤魔化すように、多少早口になりながらも彼らとの思い出話をしながら、足を進めていく。

 

 

目的の映画館はスグそこだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「いや〜面白かったですね」

 

「そう、ですね!か、感動しちゃい、ました」

 

 

初めて映画館で見た映画は、本当に凄いクオリティだった。まるで自分がその場に居合わせているかのようなリアル感。特に自然の再現度は思わず興奮するほどだった。

 

加藤さんはどちらかと言うとストーリーに感動したようで、エンディングでは涙を零していた。涙を俺に見られて恥ずかしがっていたので、可愛くて ちょっとからかってしまったけれど。

 

 

「ストーリーも良かったですけど、やっぱりクオリティが高いですね。まるで目の前にあるかのようなリアル感!『ユグドラシル』とは大違いですねぇ」

 

俺は『ユグドラシル』以降に配信されたゲームには、ひとつも手を出していなかった。

だけど、こんなにも違うのなら まぁ、今回の映画ほど・・・とは行かなくても、クオリティの高いゲームに流れてしまうのは仕方ないとさえ思えた。

 

 

「時代の流れなのか・・・『ユグドラシル』がサービス終了するのも必然だったのかもしれませんね」

 

「今月末でした、もんね。な、なんだか、あっという間、でした」

 

「ええ・・・あ、加藤さん そろそろ100レベルになりますし、来週中にでも ナザリックにご招待しますよ」

 

「あ!やった、嬉しい、です!!」

 

「約束でしたからね。それに、早くしないと終わっちゃいますから」

 

ブルー・プラネットさんにも『自慢して欲しい』って言われたし、第6階層以外にも見せたいところは沢山ある。なくなってしまう前に 加藤さんにも知っていてほしい。

そんな事を考えていたら、寂しくなってきてしまって、つい 乾いた笑みになってしまったのが、加藤さんにはバレてしまったらしく、彼女は俺に向き直って真剣な面持ちで話し始めた。

 

「あ、あの! !また、つ、作りましょう!」

 

「え、」

 

「『ユグドラシル』じゃ、なくても、ほ、他のゲーム 世界でも!!アインズ・ウール・ゴウンを作って、こ、今度こそ、世界征服しちゃい、ましょう!!ナザリックも、拠点NPC達も ふっ復活させて 悪のそ、組織 になっちゃいましょう!!」

 

勢いよく話す加藤さんに気圧されながらも 俺は・・・彼女となら、それもいいかもしれないと思った。

仲間たちとの思い出も 胸に抱いたまま 新しいステップへ進めると思ったんだ。

 

「フフッ アハハ、そうですね。また作りましょう 」

 

「あの、その、そ、その時は、私も仲間に・・・入れて、欲しいです」

 

「ええ、勿論ですよ!なんだか楽しみになってきましたね」

 

「えへへ、良かった、です」

 

 

可愛らしく笑う加藤さんに触れようとして・・・いや、いやいや、何やってるんだと 自粛した。

 

慌てるな、慌てなくていいはずだ。

時間をかけてゆっくり 距離を縮めていけばいいんだから。

 

 

 

 

 

 

 

俺はバカだ。

 

ずっと続く時間なんてない。

一大ブームとなった『ユグドラシル』も時間の流れには逆らえなかったのに。

何事にも”始まりには終わりがある”その事をちゃんと理解していなかった。

 

この時 勇気を出していれば・・・そうすれば、よかったのに。

 






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