【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち
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15.現実は残酷だ

☆たっち・みー視点

 

加藤さゆりが死んだと聞いたのは、まだ肌寒い二月末の事だった。

最初に通報を受けた時、同姓同名の別人だと思いたかったが・・・現実は残酷だ。

 

無理を言って向かった現場には、玄関まで続く血痕の跡があり、それを追って室内に入ると 血だらけの部屋があった。

そこには、まだ”遺体”があった。

 

「ナイフで腹部を一突きか。被害者は激しく抵抗して・・・はぁ、これは 酷いな」

 

一緒に現場へ来た同僚の声を聞きながら、俺は震える自身を叱咤し、なんとか足を進めた。コンソールを付けたままの遺体は顔が見れなかったから、彼女でない事を確認しなければいけない。

 

そのまま、コンソールに触れようとして 後から 肩を思いっきり掴まれた。

 

「お、おい!加藤!!現場を荒らすな、新人じゃねぇんだから、しっかりし・・・・・・お前、大丈夫か」

 

「あ、あぁ、すまん」

 

「この被害者は、知り合いか?」

 

「・・・・・・俺は触らない方がいいかもな。すまんが、コンソールを外してもらえるか?」

 

俺は1歩下がって、同僚に頼んだ。

震えが止まらない・・・ここにきて やっと自分が冷静でないことが、理解出来た。

 

同僚の手が 被害者のコンソールへ伸びて、現れた素顔は、顔半分を覆う火傷の跡がある見慣れた女性のものだった。

 

「さ、さゆり・・・」

 

俺の反応から、身内だと分かったのだろう。その場に居合わせた者達から哀れみの視線が向けられるのを感じた。

 

「くそ、マジかよ・・・加藤、お前は外れろ。分かるな?」

 

「・・・・・・さゆりは、俺の妹で・・・家族だったんだ」

 

身内は捜査に加われない。様々な理由があるが、一番は冷静な判断が出来なくなるからだ。・・・今の俺のように。

 

「不利な状況下で、必死に 犯人へ反撃したんだな。激しく争った形跡と、外へ続く血痕の跡・・・犯人は小さくない傷を負っているはずだ。」

 

そう言ってから、同僚は俺の肩を強く叩いた。

 

「さすがお前の妹だな。これなら逮捕まであっという間だろうさ。・・・とにかく、俺達に任せろ。な?」

 

「・・・頼む」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

さゆりの葬式は身内だけで、ひっそりと行われた。

貧民層出身の人間は こうした式を行うことすら出来ないらしいが さゆりの場合は特殊だ。

 

さゆりの育ての親である俺の叔父は、富裕層出身で 若い時は出世し成功を収めたものの 富裕層の人間に嫌気がさして 貧民街へ移り住んだ変わり者だった。

 

そんな叔父と俺は趣味が合うこともあり 交流があったのだが、そこで さゆりと出会った。

血の繋がりはないものの、俺は さゆりを妹のように思っていたし、さゆりも俺の事を『お兄ちゃん』と呼んでくれていた。

 

彼女は、火傷を顔や喉に負っていたこともあり、見た目を気にして 内気な性格をしていたが、その反面 豪快な性格の叔父の性質を ちゃっかり受け継いでおり、身内には はっちゃけた所を見せる・・・まぁ、楽しい奴だった。

 

 

棺の前で泣く叔父に どんな風に声をかければ良いのか分からず、俺は部屋の隅で遺影を見ていた。

 

 

 

さゆり、お前 死ぬには 早過ぎるだろ・・・どうしてなんだ

 

 

 

 

 

 

暫くそうしていると、この閑散とした部屋に見覚えのある男が1人、入ってきた。

こちらが見えていないようで、棺の前にいる叔父の元へ進み出ていった。

 

「お前は・・・」

 

「加藤さんと・・・同じ職場で務めていました。鈴木と申します。・・・この度は、お悔やみ申し上げます」

 

「あぁ、お前が 例の・・・とにかくお香をあげてやってくれや」

 

「失礼します」

 

 

誰だという疑問は、その声を聞いて確信した。

ここ何年も聞いていなかった アインズ・ウール・ゴウンのギルド長、モモンガさんだ。

 

まさか、モモンガさんと さゆりが同じ会社勤めだったとは・・・

 

俺が、声をかけようと立ち上がった所で叔父の口が開いた。

 

「・・・ありがとな」

 

「いえ、加藤さんには とてもお世話になったので・・・・・・どうしても、会いたかったですし。」

 

「いや、それもだがな。お前だろ?さゆりとデートしたって男は」

 

「え?・・・デートですか」

 

「映画見に行ったそうじゃないか。あんなにあの子が 嬉しそうだったのは 初めて見たよ。・・・この子も女の子なんだと思ったもんさ」

 

「・・・加藤さんは、デートだと思ってくれていたんですね」

 

「お前は違うのか?」

 

「いえ、そうならいいな。とは 思っていました。・・・すみません、ここに来たら なんとかなると思ったんですけど。なんだか 信じられなくて」

 

「・・・なぁ、鈴木さんや。俺は あんたみたいな人間が、さゆりの そばに居てくれて良かったと思ってるよ」

 

 

 

それから無言で俯くモモンガさんに俺は声をかけた。

 

「モモンガさん?」

 

「え、あ、たっちさん」

 

ゆっくりと振り返ったモモンガさんの顔は青白く、目も生気を宿していないかのように虚ろだった。

以前のモモンガさんを知っているからこそ、その異常さに思わず言葉を失う。

 

・・・これは、これは、ダメな奴だ

 

 

仕事柄、たくさんの人を見てきた。

 

その中には、”大切な者を失う人”も多く含まれているのだが、モモンガさんのこの姿は 危険だと、今までの経験が警報を鳴らしていた。

 

その目は 現実を見ることが出来ていない。すべてを拒絶して 崩壊していく人の姿だ。

 

 

「なんだ、お前ら知り合いか?」

 

「あぁ、彼は友人だよ。叔父さん、ちょっと彼と外に出てくるから」

 

「分かった」

 

 

モモンガさんは俺に連れられるまま 外へ出た。ふらふら歩く姿はいつ倒れてもおかしくないとさえ思える。

 

「モモンガさん。お久しぶりですね」

 

「・・・ここで会うとは思ってませんでした。加藤さんとは どういった関係ですか?」

 

俺は、ぼーっとコチラを見るモモンガさんをベンチへ腰掛けさせて 自身も隣へ座った。

 

「親戚ですよ、さゆりとは兄妹のような仲でした。」

 

「そうでしたか・・・」

 

「モモンガさんは、さゆりとは会社の同僚との事でしたが?」

 

「それもですけど、加藤さんとは一緒に『ユグドラシル』をやってまして それで 仲良くなったのですが・・・」

 

そうか、さゆりも あのゲームをやっていたのか。

 

モモンガさんはそのまま、言葉に詰まり黙ってしまった。

今にも壊れてしまいそうな、消えてしまいそうな モモンガさんが怖くて、俺は無理やりモモンガさんの手を取り 両手でしっかりと握りしめた。

 

モモンガさんまで遠くへ行ってしまわないように、祈りを込めながら

 

 

「モモンガさん。さゆりを殺した犯人は必ず捕まえます!!奴を刑務所へぶち込んだら連絡します。だから、だから、必ず待っていて下さい!」

 

「は、い・・・お願いします」

 

 

 

 

 

 

あれから数日後、3月頭に犯人は逮捕された。

 

今回の強盗殺人事件は、さゆりの反撃した刺し傷が大いに活躍し、スピード解決へと繋がった。

 

犯人が入れられた刑務所は厳しいと有名な場所だ。そこへ入れられた者は、奴隷のように働かされ捨てられる。

 

・・・仇は取った、

そう思うのに 俺の心が晴れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

犯人を捕まえて、すぐにモモンガさんへ連絡を入れたが 俺が彼の声を聞くことはもう出来なかった。




たっち・みーの名前を作品の都合上『加藤』にしてあります。







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