【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち
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19.不思議な子

☆ツアレの父親視点

 

 

俺達の愛しの娘は、ちょっと・・・いや、だいぶ変わった娘だった。

 

生まれたばかりの頃は、本当に よく泣いた。普通、赤ん坊の泣く理由なんて「お腹減った」「ウンチした」「眠たい」「抱っこして」このどれかだ。

 

だが、ツアレニーニャは違った。乳をあげようとしても嫌がる、眠りも浅いようで 飛び起きてはいきなり泣き出す、抱っこしても泣き止まない。

乳を飲まないからか ウンチも少なく、身体もなかなか成長しなかった。

 

産婆の婆さんから、「この子は長くはないかもしれぬ」と言われた時は 疲労で痩せてしまった妻はぶっ倒れた。

 

この時が、我が家の修羅場だった。

 

 

俺はこのままでは妻が持たないと思い、すぐに妻を娘から引き離し 村人の中から何人か乳母を雇って俺の母を含めた大人数で交代勤務してもらった。この娘の世話を1人でやれば妻のように潰れてしまうだろうと思ったからだ。

 

妻の反対は凄まじかったが、家長命令で無理やり通した。それでも、毎日少しだけでも会いに行きたいという妻の願いは叶えた。

全く会いに行けないのも辛いだろう。何より、妻の体調を考えての処置なのだ。ストレスで悪化しても困る。

 

 

こんな事を言ったら、妻から怒られてしまうだろうから口にはしなかったが、当時の俺には娘よりも、妻の方が大切だったのだ。

 

まぁ、“男の方が親の自覚を持つのが遅い”とは良く聞くし、俺もそうだった。

娘がお腹の中で徐々に大きくなっていき、活発に動いているのを身体で感じ、苦労をかけ痛みに耐えて出産した妻に対して、そばに居ることしか出来なかった男の俺と差がついても仕方がないだろう?

 

 

娘の世話を数人がかりでやるようになった生後6ヶ月頃から、ツアレは徐々に落ち着くようになっていった。

それ自体は良かったのだが、自分の手を離れてから落ち着き出した娘に 今度は妻が不安がった。

 

「私、母親には向かないのかしら」

 

彼女ほど、真摯に娘に向き合える母親など中々いないだろう。

俺は妻が母親に向いていないとは微塵も思っていなかったし、結果的にツアレだって、そうだったようだ。

 

妻の体調が回復してきた頃を見計らって、大丈夫だろうと妻の元へツアレを戻した。乳母を雇うお金も厳しくなってきたから・・・という情けない理由もあるが。

 

妻の元へ帰ってきたツアレは、以前の様子からは考えられないほど、お利口になった。

グズらず、我儘もしない とてもいい子で、俺は とても安心したし、家族にも笑顔で甘えて来るようにもなって、ツアレの事が どうしようもなく可愛く思えてくるようになった。

 

・・・ただ、時折 突然泣き出すこともあった。母は、「感情が上手く表現出来ない不器用な子」と気にしていないようだったが 俺と妻は心配で堪らなかった。

 

 

それがしっかりと治まったのが、ツアレが3歳の時。妹のアインロマーニャが生まれてからだ。

 

ツアレはアインの事をものすごく可愛がり、アインもそんなツアレに懐いているようだった。

 

 

そんなある日の事だ。ツアレが『夢の中の話』をするようになった。

それは幼いツアレが知るはずのないモンスターや更に上位のバケモノの知識からちょっとした豆知識まで様々だった。

 

子どもの妄想・・・で片付けられたらよかったのだが、生憎、下位のモンスターや魔法の知識に関しては俺達の知っているものと一致している。

 

なんだか嫌な予感がして、ツアレの言う“夢の中のお話”は出来るだけ信じる事にしていた。

 

それが功を奏したのは、それから数年後の事だった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

その年は例年を遥かに超える雨水量だった。何日も何週間も振り続ける雨に作物も尽くやられ、税金も納められるだろうか、飢えずに住むのだろうかと 不安に駆られていた日々だった。

 

それだけ雨が降ったのだ、村のすぐ隣を流れる川が氾濫したのも必然だったのだろうが、川に近かった民家2軒と田畑のいくつかが流される大事件が起きた。

 

 

流され消えていった家と田畑を見た時、俺の心臓はバクバクと早鐘を打ち、冷や汗が止まらなかった。

 

 

実は、村と川の間には元々森が存在していたのだ。

 

だが、開拓をするには森を切り開かなければならず、なら生活に必要な水を組み上げる川との道路を確保し、あわよくば 川へ向かって民家を建てていこうと計画していた。

 

そして、耳にしてしまったツアレの“森を失うリスク”についての話。

 

『森ってね、とっても凄いんだって〜!だから、森がなくなるとね大変なんだよ』

 

『どう大変になるのかな?』

 

『うーんとね、川から水が溢れ出した時に ドバーって村まで来ちゃったりするよ!・・・たぶん?』

 

 

物凄くふわっとした説明だったが、大変なら考慮した方がいいかもしれないと、途中まで切り倒していた川沿いの森をやめ、反対側を開拓するようにしたのだ。

 

 

そして、今回のことが起きた。

 

 

川から溢れた泥水は恐ろしい勢いで木々を突っ切り、村まで到達。少なくない被害を出していったのだ。

 

・・・もし、森という壁が完全に取り払われていたらどうなっていたのか?

 

比較的、川に近い我が家も流されていた可能性は大いにあるだろう。

 

 

氾濫から落ち着き出した頃、近隣の村の話を聞くことが出来た。

どうやら何処の村でもそれなりの被害を出したらしく、川と近い村、特に森などの壁がない村ほど 被害は比べ物にならない程大きかった。

 

 

俺の予想は当たった訳だ。

 

 

もし、ツアレの話を聞かなかったら?

もし、その話を子供の戯言だと聞き流していたら?

 

 

 

俺は、俺と俺の家族は生きていなかったのかもしれない。

 

 

 

何故、幼いツアレが知るはずのない知識を知っているのか。『夢』が関わっているのだろうが、知識以外のことはツアレ自身、多くを語ろうとはしなかった。

俺は不思議な気分だった。ツアレはいい子だし、家族にも優しく 何より命の恩人だ・・・だが、何か秘密があるのだろうな。

 

 

「ツアレはツアレですもの。可愛い娘に変わりありませんし、気にしなくていいと思うわ」

 

 

結局、妻のこの一言で 俺は考えるのをやめた。

 

そうだな、ツアレがどんな子であろうと俺達の、俺の、可愛い娘なのだから。




ツアレ「テレビ番組「ホントは、スッゴイ森の力」で、そんなような事いってたの」



☆ツアレの両親とお婆ちゃんの死亡ルート回避。

本来のルート
→ツアレは妹以外の家族を失い、村は半数以上を失い存続不可として解散となる。


もちろん、捏造なのであしからず。







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