【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち

20 / 50
20.ターニングポイント

「はーい!質問!」

 

「なぁに?」

 

澄み切った青空の下、横柄に座り込みながらも ピッと挙手をする この村では悪ガキと名高い男の子ブレインに私は返事をした。

 

「これって必要か?」

 

「勉強会のことを言っているのなら必要よ」

 

「こんな事するよりも家の手伝いした方がいいと思うぜ〜」

 

「家の手伝いどころか、剣を振り回してばかりいる悪ガキに言われたくはないけどね」

 

「うるせー」

 

「これは皆の将来の為でもあるのよ。7日に一回だけの授業だけど、ちゃんとした意味があるの」

 

村の片隅に集められた子供たち、総数11人。5歳から12歳と幅が広い子供たちは、私の授業を受けるために集まっていた。

 

とは言っても、まだまだお子様なので 集中出来るはずもなく。私は遊びながらのお勉強方法を試し、なんとか成果を出していた。

 

昔から子ども達の勉強会で実施している文字の読み書きに加え、最近は“ちょっとした事件”もあり、簡単な計算も教えている。

 

私のおじいちゃんが始めた勉強会は、30年以上経った今では、すっかり村人達に受け入れられており、ここに居る子供たちは皆、ブレインの反論に首を傾げていた。

 

「ツアレの授業は楽しいからイイじゃん」

 

「そーそー!家の手伝いとかめんどくさいもん」

 

「お前ら、うるせーぞ!」

 

「そんなこと言って、ブレインはお姉ちゃんの事がっ」

 

「あーあーあー!!うるせーよ!!」

 

ブレインが、何か言おうとしたアインに飛びかかりゴロゴロと転がった。子どもは元気だなぁ〜。

 

 

そうそう、私と歳の近いブレインは 私が“先生”なのが気に入らないらしく、毎回何かしらの文句を付けてくる。

 

授業以外でも「うるせぇババア」だの「ばーか、ブース!」だの言ってきて、どうも めちゃくちゃ嫌われているみたいなのだ。

 

・・・ババアは、まぁ、精神年齢ヤバいので仕方がないかもしれないけど。ブスではないハズだけどなぁ〜。

まぁ、人の好みは人によって違うもの、寛大に受け入れよう。

 

うん。でもね、授業の邪魔するのは止めろ!

 

「もう授業始めるから、静かにしなさい!!」

 

 

注意したものの、ガヤガヤと騒がしい子どもたちに、どうしたものかと小さく唸った。

 

それもこれも、考えナシの過去の自分のせいなんだけど・・・!

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

“ちょっとした事件”というのは、村にいつもやってくる行商人が、体調を崩したとか何とかで、今回は違う行商人が初めて村にやって来た時の事だった。

 

行商人の太っちょな身体を揺らしたその男と、村長であるお父さんが取り引きしている会話が耳に入った私は、思わず口を挟んでしまった。

 

「それ、おかしいと思うよ?」

 

「お嬢ちゃん、大切なお話してるんだ。子どもは口を出してはいけないよ」

 

間髪入れずにそう発言した太っちょ は、私を遠ざけようとしたが、お父さんは違った。

 

「どういうことだい?」

 

「あのね、計算が合わないの」

 

月に一度しか来ない行商人から買い入れる服や調味料などは 小さい村といえど、80人程が住んでいるので、それなりの数になる。

 

なのだが・・・ちょっと計算が合わない。

 

その事を地面に絵を描きながら何とか伝えると行商人の太っちょは あからさまに顔を歪めた。

 

「うむ、確かに少し計算が合わないようですな」

 

「そのようですね、こちらの不手際です。申し訳ございません」

 

「いえ、良いのですよ。こうして分かったのですから」

 

お父さんによると、今回やってきた行商人の太っちょは、お小遣い稼ぎに 多く取ろうとしたのだろうとの事だった。

それでも、私にとって 太っちょが取ろうとした 銀貨2枚は大金だったし、防げて嬉しかった。

 

「ところで、ツアレは計算が得意なのか?」

 

「あ、」

 

 

し、しまったぁー!!

普通に披露しちゃったけれど、計算なんて教えてもらってないし おかしいよね?!

 

どう誤魔化そうかと、ワタワタし始めた私をどう思ったのか、お父さんはぎゅっと抱き上げた。

 

 

「んーなら、ツアレにはお勉強会の先生をしてもらおうかなぁ」

 

「あ、え?先生を?私が??」

 

「頭良いしさ、読み書きももう覚えただろう??」

 

「うん」

 

「それじゃ、よろしくな!先生」

 

「わかった!」

 

 

お父さんは、何か勘づいているみたいだったけれど、優しく笑いかけて抱きしめる手に力を込めてくれた。

それだけでどれだけ、私を愛してくれているのが分かった。

 

・・・何故だか前世の私を育ててくれたおじさんを思い出して、私はお父さんにぎゅっとしがみついた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

先生を始めて一年が経過した。

 

ブレインは相変わらず 突っかかってくるけど、子どもたちには、足し算 引き算 までは全員に教える事に成功した。幼い子は両手を使っての計算だったけど、中々凄いと思う。大きい子の中には、かけ算、割り算を習得した頭の良い子までいて、かなり上出来といえるだろう。

 

 

あと、予想外だったのが、家族に話していた前世の・・・特に、アインズ・ウール・ゴウンの話は“良くできたお話”として、村の子どもたち皆に広まってしまった。

 

原因はアインだ。

魔法に憧れるアインは、例え異形種だとしても超絶かっこいい魔法使いであるモモンガさんや、他のギルドメンバーの話が大好きで 皆に広めてしまった。

 

娯楽の少ない田舎では、そういった“作り話”も立派な娯楽だ。

 

多くの子どもたちが、六英雄になりきり アインズ・ウール・ゴウンと戦う遊びをしていた。

最初はアインズ・ウール・ゴウンを“倒す”遊びだったのを「最強なんだから!そんなに弱くないの!!」って、私が止めさせた。・・・今振り返ると、ちょっと恥ずかしい。

 

 

アインは、その中でも最強の魔法職 ウルベルトがお気に入りで、一時期は一日に何度も成りきって遊んでいた。

 

 

「くらえ〜!《グランドカタストロフ/大災厄》!!ふはははは!!」

 

 

・・・ちょっと、やっちまった感はある。立派な厨二病の出来上がりだった。

 

カッコいいんだもん、仕方ないね!

 

発動していたらば、この村は何百回と滅んでいただろうけど、もちろん 発動はしてない。前世のゲームで使われていた魔法が発動するなんて事、万が一にも有り得ないから 大丈夫、大丈夫〜。

 

 

 

 

 

そんな私の 楽しくて穏やかな日々は、突然村に“領主”が来たことで終わりを迎えるのだった。

 

 

 




※悪ガキ ブレインはブレイン・アングラウスです。
明確な年齢が明かされていなかった事や 農民の子として生まれた という話から ご都合主義よろしく 登場してもらいました。

この物語でのブレインは、原作開始時21歳になる予定。
将来老け顔になるんだよ、きっと!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。