【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち
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本日はちょっと長め。



22.不気味な少女

領主の寝室に入ってからの記憶が無い。

 

朝、部屋に入ってきたメイドに起こされた時、私は領主の寝室の床に寝ていた。

 

クソ領主はというと、あとちょっとでも動いたら落ちてしまいそうなほど、ベッドの隅でうつ伏せになって寝ていた。

まるで倒れた時にたまたまベッドがそこにあったかのような不自然な感じがしたものの、私は 混乱していて、それどころでは無かった。

 

 

・・・ なんで、私だけ床?え?妾は床で充分ってかバカ野郎

 

 

というか、全身が痛い

体を確認すれば、胸から腹にかけて 蜘蛛の巣のような痣?が出来ていた。痣にしては鮮明なそれは、まるでタトゥーのようだ。

 

「ひぃ」

 

突然の異変に呆然としている私の身体を一緒に見ていたメイドが小さく悲鳴をあげ 後ずさって行った。

 

「なんだ!その痣は?!」

 

怒鳴り声がベッドの方から響いた。いつの間にか起きていた領主が目を見開きこちらを見ていた。

 

「クソッ頭が痛い、お前、何をした?」

 

「・・・わかりません」

 

「お前、なんだその目は!!」

 

は?何のこと??

 

「気持ち悪い!!おい コイツを連れ出せ!不愉快だ」

 

「は、はい!」

 

私はメイドに連れられて寝室を退出し、古着だろうか シンプルなドレスを着せられた。

 

 

何がなんだか訳が分からない。本当に身体中がズキズキと痛く、疲労感が半端ない。

これは 処女消失したからなのか、

身体に出来た痣が原因なのか、

はたまた床で寝ていたからなのか・・・

 

前世で 私はその、そういう男女の関係を経験したことがない。

昔、「初めては痛いらしい」とは聞いた事があるので、つまり・・・そういうこと??

 

 

あぁああああ!!!

あんな奴とヤっちまったのか私は?!

 

衝撃の余り、記憶が飛んだとか?いや、ならこの痣はなんなんだろう??

 

 

1人でワタワタとしている私を置いて、屋敷の中は段々と慌ただしくなっていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

☆レエブン侯視点

 

 

 

ゴルドロスのヤツに呼ばれ、朝一でここまでやって来たというのに、奴は全然現れない。この屋敷の執事に通された客間で、私は苛立ちながらも、出された紅茶に口を付けた。

 

ゴルドロス・デブリ・ニアホ・ボッタニアは典型的な貴族派の貴族だ。

下卑た笑いを顔に貼り付け女のケツを追い回すのが趣味のような男だが、権力だけは持っており、多くの奴隷を管理していて その関係では貴族の中で強い立場にいる人間だ。

 

ハッキリ言おう、私は この男の事は嫌いだ。

 

私と奴は根本的な所から合わないのだろう。話していると、つい殴りたくなる衝動に襲われる不思議な魅力を持った男だ。・・・これを“魅力”と言っていいのかどうかは、いささか疑問ではあるが。

 

 

暫くすると ドアの向こう、屋敷の玄関口だろうか?騒ぎ合う声の中にゴルドロスの声が聞こえた。

私をこんなにも待たせて何様のつもりなんだか・・・ 私はため息と共に席を立った。

 

「ど、どうされましたか?」

 

「外が騒がしいようですからな。ゴルドロス殿も居られるようですしね」

 

 

オロオロと止めようとするメイドをかわして、部屋を出てスタスタと騒ぎの方へ向かっていく。

 

少しして辿り着いた玄関口では、やはり、ゴルドロスと奴の子飼いである奴隷商人の男が、俯いたままの金髪の娘を中心にいい争いをしており、その周りでメイドや執事が緊張した面持ちでそんな2人の様子を眺めていた。

 

 

「こんなの、商品になりませんよ」

 

「見た目だけなら それなりに可愛い娘だろう?こんなクズ金にしかならぬ訳がないだろうが」

 

「しかし、瞳の色といい 身体の痣といい、不気味がられますので、相場での販売では、買い手も中々付きませんよ」

 

終わりそうない会話にウンザリしながらも、私は笑顔の仮面を貼り付け 口を開いた。

 

 

「ゴルドロス殿、何かありましたかな?」

 

 

バッとこちらを振り返ったゴルドロスは途端に顔を青くさせ慌てだした。・・・こいつ、私の事を忘れてたな

 

「こ、これはレエブン侯。お待たせしてしまい、申し訳ございません。すぐに向かいますので」

 

「いえ、お気になさらず。ところで、そこの娘が何かありましたかな?」

 

 

私の発言に反応して 今まで俯いていた金髪の女が顔を上げた。

年の頃は10を過ぎた頃だろか、幼い顔立ちをしている。ただ、目を惹くのはその“紫色”の瞳。影が入ったようなその瞳は まるで人外のような不気味さを醸し出していた。

 

 

「ほぅ、不思議な娘ですな」

 

「ここに来た時はそうでもなかったのですがね。朝起きたらこの様になっておりましてな。しかも身体に気持ち悪い痣も出来ており 手元に置いておきたくないので、売るところだったのです」

 

 

正直どうでもいい話だったが、不可解な痣と瞳を持つ少女は 強い存在感を放っており、私は彼女から目が離せなくなった。

 

「名は?」

 

ゴルドロスに押し出され、その女は コチラをじっと見つめたまま口を開いた。

 

「・・・ツアレニーニャ・ベイロンと申します。」

 

「そうか。・・・ゴルドロス殿、この娘 私が貰い受けても?」

 

「え、よろしいので?」

 

「ええ、相場通りの金額をお支払いしましょう」

 

 

ゴルドロスはニヤッと笑うと 私の申し入れを快諾した。相変わらず、その笑顔が殴りたくなる程 苛立たしかったが、何とか飲み込んだ。

 

 

ただの直感ではあるが、強い存在感を放つこの娘は、この先 私が王国を手に入れるのに一役買ってくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

購入した娘、ツアレニーニャは アレだけの異質さを放ちながらも、戦闘経験が全くといっていいほどなかった。

仕方が無いので、試しに 私の子飼いの冒険者に預け、戦闘指導をしてもらったところ 驚く程メキメキと実力を上げていった。

 

 

「実力はあるのに実践はして来なかったような・・・言っててワシも意味が分からないですが、ツアレはそんな感じですな」

 

 

そんな冒険者の報告を聞き、私はその不可解な話の内容に、自身の眉間にシワがよるのがわかった。

 

「そんな事はありえるのか?」

 

「・・・ありえないでしょうな。普通ならば」

 

「彼女は普通ではないと」

 

「ええ、・・・聞きましたぞ、ツアレの前の“所有者”であるゴルドロス様が亡くなられたとか」

 

ツアレニーニャを引き取って三日後、ゴルドロスは死んだ。

寝室で全身を隙間なく何か細い糸のような物できつく締め付けられての絞殺。その不可解な死に方に、奴は呪われているだの 悪魔か何かの仕業だの、様々な噂が流れた。

奴が死んだことで、ゴルドロスの弟が家を継ぐことになり、その新しい当主は、ゴルドロスが今までやってきた悪行に加えて 今回の不穏な噂で、落ちてしまった家のイメージを払拭させようと奮闘しているようだ。

 

「タレントか?」

 

「タレント持ちの可能性が高いでしょうな。ただ、どういったタレントなのか見当もつきませんなぁ」

 

「噂通りならば、呪い?いや、それだと戦闘に関しては関係なくなるな。うーむ」

 

「まぁ、どっちにしろ、ツアレは戦闘には向きませんが」

 

「筋は良いのだろう?」

 

「そうですが、ツアレは血がダメなようで。血を見ると震えて戦えなくなるようなのです」

 

「ふーむ」

 

当初の思惑と外れてしまったな。血がダメとは厄介な事だが・・・

 

「なので、ツアレには諜報活動をさせてみてはどうかと」

 

「確かに平凡な容姿をしているが、目が特徴的すぎて使えぬだろう?」

 

「それが、ツアレは魔法もいけるようなのです。なんと、この短期間でもう 第1位階を習得しましたぞ」

 

「は?たった1週間でか」

 

「ええ。ワシは魔法に詳しくはないので よく知らんのですが、魔法には幻覚を見せるものがあるそうですし、ツアレが習得できれば 使えるかと思いますな」

 

「・・・そうだな」

 

 

魔法適性があったとは、いい拾い物をしたかもしれん。

 

 

 

その後、ツアレニーニャが魔法を習得し 諜報部隊として働くようになるのは 私の元に来てから僅か1年後の事だった。

 

 

それから数年後に、愛らしい我が息子が生まれ、私の大いなる野望もすっかり消え失せることになるのだが、それはまた 別の話だ。




※冒険者の爺さんは、元オリハルコン冒険者とは別人です
※奴隷制度廃止前です。







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