【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち

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箸休めにブレインのお話
誤字報告ありがとうございました!


23.君を守りたかった

☆ブレイン視点

 

 

あの時、俺は何もすることが出来なかった。

 

領主に蹴り飛ばされ、震えるツアレを助け出そうとすぐに身を起こした時には 全てが遅すぎた。

あの領主が剣を振り下ろし、無抵抗なまま村長が斬られるのを ただ、呆然と見ている事しか出来なかったのだ。

 

初めてだったんだ、人が斬られるのを見るのは・・・。

 

 

正気に戻った時には、ツアレは領主に連れ去られていた。村長の周りに大人達が集って、手当をしようと走り回っている。

 

「くそ、血が止まらねぇぞ!」

 

「もっと布を持ってきて!!早く!」

 

 

・・・あいつを、ツアレを取り戻さなくちゃ

 

村長の事は大人に任せればいい。怖がるツアレの表情を思い出して 動き出そうと息を大きく吸い込んだ。打ち所が悪かったのか痛む身体を無理やり立ち上がらせた時に、悲鳴のようなアインの叫び声が聞こえた。

 

「お、お父さん!!」

 

「アイン、待って」

 

母親の制止を振り切り 父親である村長の所まで走り寄ろうとするアインが俺の隣を通り過ぎようとしたのを、俺はその肩を思いっきり掴んで止めた。

 

「ぶ、ブレイン!?はなして!!」

 

「お前が行ったところで 大人達の邪魔になるだけだ」

 

「うぅっ」

 

頭では理解しているのだろう。アインは幼い割に利口な奴だ。唇を噛み締めて気持ちを落ち着かせているようだったので、俺はアインから手を離した。

 

「何があったの」

 

「・・・領主がツアレを連れ去った。村長は引き留めようとして、斬られた」

 

「お姉ちゃんが、なんで・・・!!」

 

驚愕に目を見開き、激しい怒りに震えるアインに背を向けて 俺は歩き出した。

 

許さない、許すはずが無い。絶対にツアレを取り戻すんだ。

 

「まって、ブレイン!!私も行く!」

 

慌てたように付いてこようとするアインに顔だけを向け、答えた。

 

「ガキは帰ってろ。邪魔だ」

 

「でも!」

 

「じゃあ聞くが、お前に何ができる?剣も握った事の無いタダのガキであるお前が!!!」

 

理不尽な現実に対する憎悪、何も出来なかった己に対する怒り その全てを八つ当たりをする様にアインに怒鳴り散らしてしまったが、この感情は収まることがなかった。

 

「足でまといなんだよ。戦う力もないガキは帰って寝てろ」

 

俺の怒りは、村長に気を取られ慌てふためく周りの音にかき消された。ただ一人、まともに受け止めてしまったアインだけが絶句し、固まってしまっている。

 

 

チクリと心が痛んだが、気付かないふりをした。

 

 

俺はそのまま足早に、生まれ育った村を去った。手にしたのは親父の剣と、食料に僅かな金銭だけだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

アインにあれだけガキだと罵ったが、俺も大して変わらなかったようだ。

 

子供の足では領主一行に追いつくことが出来ず、また、ツアレがいるであろう領主の屋敷までの道のりは長く過酷だった。

 

チラホラと現れるモンスターと戦い、時には隠れてやり過ごした。食料もすぐに底をつき、食料調達しながらの旅。

 

弱音を吐いてしまいそうな自身の心を叱咤しながら足を進める。なんとしてもツアレを、取り戻したかった。

 

 

ツアレニーニャは村の中でも存在感のある奴だった。

 

子供の割にはババアみたいな事を言ってくる変わり者で、あいんずうーるごうん とかいうギルドや ココじゃない世界の話・・・まるで英雄談に出て来そうな話を作っては自慢気に話して聞かせる。

面倒見がよく 頭も良い為、村の子どもたちからは慕われ 大人からは頼りにされていた。

 

そんなツアレの事を俺は、少なからず想っていた。これが親愛なのか恋愛なのかは分からないままだったが、そんなのは些細な問題だ。

 

 

あの時、領主がツアレに向かってきた時。ツアレは、震える手で俺の背中の服をぎゅっと握ってきた。ツアレは俺に助けを求めていたんだ。

 

なのに、俺は・・・

 

 

 

 

 

情けない事に、街まであと半日の所で力尽き行き倒れていた俺を 通りすがりの冒険者パーティーが拾ってくれた。

 

何故ここで行き倒れていたのか、俺は聞かれるがまま素直に話した。領主の事、村長の事、そして、連れ去られたツアレの事。

 

 

「あーまた、あのクソ領主の悪い癖がでたな」

 

「1人でここまで来るなんてすげぇな、坊主!」

 

「バッカじゃないのかい?ろくな準備もせずに飛び出して、ここまで来れたのも運が良かっただけ、とんだど阿呆だよ」

 

 

好き勝手騒ぐ冒険者に苛立ちながらも、必死に耐えた。今は少しでも情報が欲しいのだ。

 

 

「坊主、その嬢ちゃんを取り戻したいなら タイミングが良かったかもな。1週間程前に、あのバカ領主が死んだってもんで、奴に囲われていた娘達は解放されたって聞いたぞ」

 

「ほ、本当か!!」

 

「おうとも。まぁ詳しくは街に行ってから確認してみればいいさ」

 

 

良かった、屋敷に殴り込みに行くことまで考えていたが、それもなく確実に取り戻せる。ツアレを取り戻して村に帰れば、アインも安心してくれるだろう。

 

そうして、何とか街にたどり着いた時には ツアレが連れ去られてから 2週間近くが経過していた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「どういうことだ・・・」

 

解放された娘達を確認して回ったが、どこにもツアレはいなかった。領主屋敷の使用人たちに問い詰めてみるものの、全員が「そんな娘は知らない」の一点張り。中には恐怖に顔を引き攣らせ、泣き出す者もいた。どちらにしろ、ツアレに関する情報が何も得られない。

 

あと少しで手が届くと思っていた所で この仕打ちに、苛立ちと不安が募っていく。

 

持ってきた金も、助けてくれた冒険者へお礼として渡す羽目になり、もう パンの一つも買えやしない。空腹で纏まらない思考の中で、ツアレを助け村へ連れ帰ることだけがグルグルとまわっていた。

 

 

「ツアレすまねぇ・・・アイ、ン」

 

 

初めて村を飛び出しここまで さ迷った少年は、疲労で限界を迎え冒険者ギルドの前で、力尽き 倒れるのだった。

 




冒険者「おい、またあの坊主倒れてるぞ」「マジかよ」


※領主の死因は 表向き 箝口令が出ている+あの子に関わると呪い殺されるのでは?=「そんな娘は知らない!」


このあとすぐに まとめを更新予定

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