【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち

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35.“空想の物語”

☆ニニャ(アイン)視点

 

僕は、白髪のまるで執事の様な出で立ちをした男性に 戦いを挑んでいった幼馴染の後ろ姿を呆れと怒りの混じった感情で見守っていた。

 

お姉ちゃんを追いかけて村を出て行ったブレインを見送ってから会っていなかったので、実に9年振りの再会だ。僕自身がかなり変わってしまったので ブレインにも変化があったのかと思いきや、現在進行形で相変わらずの脳筋っぷりを発揮している。

 

世間では、『王国戦士長と互角の強さを持つ男』等と もてはやされるが、実際は後先考えない 剣しか取り柄のない ただのバカだ。

 

エ・ランテルで 再会したブレインは 僕の“現状”を知るなり、「俺も連れていけ」と半ば無理矢理同行してきた。

 

 

急なブレインの登場に、パーティーメンバーのルクルットとダインは苦笑いしながらも受け入れてくれた。ペテルは 「あのブレインさんですか!?」って興奮してたなぁ〜。

 

 

今は そのブレインを止めようと必死になっているけれど。

 

 

「ブレインさん、この方はカルネ村の恩人なんですよ!?失礼な事したらダメですって」

 

「大丈夫、殺しはしない」

 

「それ、大丈夫じゃないやつですー!!!」

 

 

僕の後ろからルクルットとダインが、呆れたようにブレインを見ていた。

 

 

「なんというか・・・初対面でいきなり「一戦してくれねぇか」って、ブレインはぶっ飛んでるなぁ〜」

 

「さすが、ニニャの幼馴染であるな」

 

「え、それどういう意味?」

 

「心に手を当てて考えな」

 

 

ニヤッとキザったらしく笑うルクルットに 意味が分からずとも 馬鹿にされてるのが伝わってイラッとした。

 

 

「手合わせ程度ならよろしいですよ」

 

「おぉ。そう来なくっちゃな」

 

「ええ!?・・・大丈夫ですか?彼、強いですよ」

 

「私も強いですから、心配無用ですよ」

 

 

ペテルの問いに、穏やかに返答したその男性は 確かに只者ではなさそうなオーラを放っていた。

 

 

そうして、僕達は カルネ村に到着して早々、ブレインのワガママに付き合わされることになったのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「いやぁ、凄い戦いだったな〜」

 

「上には上がいるのである」

 

 

村長のご好意で、空き家を借りることが出来た僕達は、そこでそれぞれ寛いでいた。数少ないベットには包帯でグルグル巻にされたブレインが横になっており、どこか呆然とした様子だった。ポーションなんて勿体なくて使ってない。ブレイン曰く、寝てれば治るらしいし。

 

そんなブレインを気にかけて ペテルが僕に 声をかけてきた。

 

 

「ブレインさん、大丈夫か?」

 

「気にしなくていいよ。いい経験になったでしょ」

 

 

セバスと名乗った老人にコテンパンにされ、更に その後、メイドっぽい可愛らしい赤毛の女の子にも ボロ負けして、ブレインのプライドは、ボロ雑巾の如く ズタズタに引き裂かれたようだった。

 

 

「でも、こんな所で 砕けてるようじゃ、姉さんが見つかっても 渡さないけどね」

 

「バッカ!!そんなんじゃねぇって 何回言えば分かるんだよ」

 

 

僕の言葉に反応して勢いよく起き上がったブレインは 傷口に障ったようで 呻いていた。

その様子を見たルクルットが楽しそうに口を挟んできた。

 

 

「姉さんって“例の”姉さんか?ブレインの初恋?」

 

「うん、そんなところ」

 

「うっせ!違うって言ってるだろ!」

 

「ハハハ、照れているのである」

 

 

みんなが笑い、ブレインが居心地が悪いのか 呻いきながらも必死に反論していた。

 

この調子なら、もう 大丈夫かな。

 

 

「それにしても、あのセバスさん?だっけ。ニニャが話してくれたお話の中の人みたいでビックリしたよ」

 

 

ペテルの発言に、ルクルットが「お前、バカか!」と反論していたようだったが 、僕もそれは思っていた事なのですぐさま話に乗った。

 

 

「だよね!!セバスさんは、執事のセバス・チャンに名前もイメージもそっくりでビックリしたんだ。それに、あのメイドっぽい2人組もすっっごく、 ルプスレギナ・ベータとシズ・デルタっぽかった!!あぁ〜あの人達の知り合いに、ウルベルトっていないかなぁ〜《グランドカタストロフ/大災厄》!!ってやって欲しい。それか、姉さんイチオシのモモンガでもイイよ!めっちゃくちゃカッコいい骸骨らしいから、会ってみたい!ひと目でもいいから視界に入れたい!!! 」

 

 

「コイツ、変わんねぇなぁ。お前らも大変だろ」

 

「ニニャの話は楽しいから問題ないのである」

 

「話し始めると止まらねぇんだよな」

 

「あぁ、なんか すまん」

 

 

ブレイン、ルクルットに呆れられ、ペテルは 何故か皆に謝っていた。ダインだけがニコニコと話を聞いていてくれている。流石、ダインだね!

 

更に話し始めようとした僕の口をブレインが塞いだ。

 

「ん、ん"ん?」

 

「シッ、・・・何かいる」

 

ブレインのその言葉に、全員が突然の事に驚きながらもスグに切り替え 武器を手に取った。ピリピリとする空気の中で トントントンとドアをノックする音が響いた。

念の為、ルクルットがドア横に張り付き 外を確認してから「安全」だとサインを出した。

 

ふうっと息を吐き出して、緊張を解く。その中で一人、ブレインだけが武器を手にしたまま ドアへ手をかけ 一気に開けた。

 

そこに立っていたのは“あの”セバスさんだった。

 

 

「何の用だ」

 

「夜更けに失礼します。大変面白そうなお話をされているようでしたので、良ければ私にも聞かせていただけませんか?」

 

 

笑顔を貼り付けながらも、僕を見つめてくる その目は決して笑ってなどいなくて・・・背筋に冷たい汗が流れた。

僕は まるで、姉さんの話してくれたあの物語の中に吸い込まれてしまったような感覚に 思わず身震いしてしまったのだった。




屋根裏に潜んでいたシズ、ニニャの話に思わず反応してしまい、ブレインに怪しまれた。
シズ「セバス様!!ヤツらに 正体バレてる!!」



ブレイン、アインが男装をし 男しかいないパーティーで冒険者をしてると知る→パーティーメンバーを見定める為、今回のみ同行した。
ブレイン『やる事危ねぇんだよ!?女ってバレてるし、コイツらじゃなかったら 喰われてたぞ』

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