【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち

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04.大きないっぽ!

「よっっっしゃーーーーー!!!!」

 

自宅へとダッシュで帰宅した私は嬉しさのあまり、勢い良く手に持っていたカバンをベットへ投げてクルクルとその場で、まわった。

 

「う〜ふふふふふ」

 

鈴木さんとゲーム出来る!!!

こ、これは鈴木さんとデート出来るって事で良いのかな?イイよね?!

 

「ん〜ふひゃ、ふふふっ」

 

にやけ顔が止められない。気持ち悪い顔してるな〜なんて頭の端では考えながらもこの感情を表現せずにはいられなかった。

 

あの時、勇気出して良かった!!ホント、良かったぁ〜!

 

 

ゲームを始めた当初は、鈴木さんを誘う考えはなかった・・・度胸がなくて、はなから諦めていたともいうけど。

 

元々ゲームは一人プレイ派だったので、一人で鈴木さんの大好きな世界を楽しもうと思っていたのだ。

 

”パーティーを組まないと進められない”なんてクエストにぶち当たるまでは。

 

もうすぐサービス終了を迎える『ユグドラシル』にて、「これからゲームを始めよう!」なんて人は殆どおらず、初心者用ダンジョンの雪の廃鉱山は見事に過疎ってた。

 

それでもゼロじゃないのだから、野良パーティーを組むことが出来たとは思う。私がこんなにもキョドらなければね。

 

ネットでの顔も名前も知らない相手。もっと気楽に話しかければいい・・・とは自分でも思う。

でも、相手がこのキャラクター越しに実在するのだと、人間だと、思うだけで無理だった。

 

 

仕方ないので、他に進められそうなクエストをやったり、草原で雑魚モンスターをちまちま叩いたり・・・そんな事をしていた。

「これをチャンスだと思って、鈴木さんにお願いしてみる?」とはスグに思い至ったものの、鈴木さんからしてみたら何のメリットないもんなぁ〜。と考えると尻込みしてしまう。

 

 

 

でも、そんなふうにウジウジしていた私の背中を押す人物が現れた。

・・・本人はそんなつもりなんてミジンコ程にも考えてなかったんだろうけど。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

きゃいきゃいと笑い合う声がコチラに向かって来るのが分かって、トイレの個室から出ようとドアに触れようとしていた手を思わず引っ込めた。

 

昼休憩も終わりがけのこの時間は、いつも、食事を終えた女性が歯磨きやらメイク直しをしにトイレの手洗い場、鏡前を独占する。

 

内心あちゃーと思いながらも、どうしようか迷っていると、

 

 

「本当に、ありえないから。もうマジで無理」

 

「仕事だし仕方ないじゃん。慣れるしかないよ」

 

耳に入ってきた不穏な会話に思わず身を縮こませた。

 

誰の事を言っているのかなんて分からないにも関わらず、「もしかして、自分の事なんじゃ・・・」との考えが、頭をいっぱいにさせていた。

 

 

「いくら仕事が出来るからって、調子に乗りすぎだからねッ、何度ぶん殴ろうと思ったことか・・・」

 

「まぁ、気持ちは良く分かるけどね」

 

 

きゅっと心臓が締め付けられる。

 

 

「私はキャバ嬢になった訳じゃないっての!!」

 

「まぁまぁ」

 

 

ん?キャバ嬢?

 

 

「尻ぐいって揉まれたんだよ! 悪寒が止まらないわ、パンツが尻に食い込んで気持ち悪いわ」

 

 

あぁ〜、セクハラ部長の話か。緊張で強ばっていた身体が、すっと緩んだ。

この会社に入社してから 遠巻きにされたり からかわれたり は、あったものの イジメにあった事は無い。

 

大丈夫、だい・・・

 

 

「まぁ、そういうプレイだと思えば、アリなんじゃないの??」

 

 

「え"」

 

 

え?

 

大丈夫そうじゃない発言が飛び出した事にびっくりした。・・・が、野次馬精神で彼女達の会話に耳を傾けた。

 

 

「部長さ、仕事出来て将来性があるし、ギャンブルもしないし、お酒もダメ。実家もお金持ちで 玉の輿間違いなしッ・・・・・・まぁ、女癖が悪いのさえ目を瞑れば、優良物件なのよ」

 

「欠点が致命的過ぎて私は無理だけど」

 

「セクハラも割り切れば楽しめるというか・・・」

 

 

その声からは、どう考えても喜色が読み取れて、私は 空いた口が塞がらないままに、「世界は広いんだなぁ〜」とポカーンとしてた。

 

 

「・・・アンタ、だから部長のセクハラに笑顔で応対出来てたの。嫌な顔しないで凄いな〜なんて思ってた、私の感動を返して欲しい」

 

「まぁまぁ」

 

「はぁ〜。私は、旦那にするなら 変態野郎じゃなくて、優しくて 気遣いの出来る男がいいわ」

 

「2課の鈴木さんみたいな?」

 

「そうそう!」

 

 

突然出てきたその名前に、心臓がドキリとした。

 

 

「男の人って大雑把なのが多いじゃん?それでイライラしてる時にさり気なく優しくフォローしてくれたんだぁ」

 

「鈴木さんフォロー上手いよね〜」

 

 

うわぁ〜、、、、

 

私の好きな人が 褒められるのは嬉しい。

でも、私より可愛いであろう彼女達に取られちゃうんじゃないかと思うと どうしようも無く 不安にさせる。

 

 

「あ、もうすぐ休憩終わっちゃう」

 

「うひゃ、マジだ。」

 

 

カチャカチャと化粧道具を片付ける物音が聞こえて、彼女達は出ていった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

昨日のトイレでの出来事もあって、私は人生で初めてかもしれない 大胆なアプローチを仕掛けたのだ!

これでも私にとっては、ものすっっごぐ 頑張ったんだよ!?

 

 

 

はッ!

 

そんな事よりも早く『ユグドラシル』にログインしなきゃ。

 

私はこれから来るであろう、幸せな時間に想いを馳せ、心を踊らせていた。

 

 




女の子達
「あれで、お金持ちか、イメケンだったら狙ったのにねぇ」
「残念ねぇ〜」

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