【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち

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39.私の日常

レエブン侯は 国家を乗っ取ろうとするぐらいには野心家だった。

そんな人に仕えることになった私は、何故か諜報部隊に入る事になり、また当然の如く、危険な橋を渡ることが多くなった。

 

レエブン侯は、私に戦闘能力があれば もっと色々やらせたかったようだけど、それも出来ないので、情報収集が主な仕事となっていた。

 

 

私は“血”がダメなのだ。

 

 

ゴルドロスがお父さんを斬った時のあの光景が焼き付いて、体が震えてしまう。

 

血を出さないような殺し方というのも、冒険者の爺様に教えて貰ったけれど、最終手段にして、何かあれば逃げるように心掛けていた。

 

 

 

レエブン侯の元へ来てから初めて知ったのだが、この世界の魔法は『ユグドラシル』で使われていた魔法そのまんまだった。

 

本当にビックリしたよ!だって、私が村でアインに教えた魔法も実現可能かもしれないということだ。

 

 

この世界では、第3位階まで使えたら、一丁前の熟練魔法詠唱者。第4位階が使えれば天才。第5位階は個人の限界と言われている。

 

私がアインに教えた魔法、第7位階以上の使用に関しては神話レベルなので、問題ないと・・・信じたい。

アインは普通の女の子だったし、神話レベルの魔法を知っていたところで何もないと思うけど、大丈夫かなぁ。

 

 

 

そうそう、なんと、私には 魔法の才能があるらしい。

第1位階もすんなり覚えて、現在は第5位階まで使える。だけど、最初から第5位階が使えたわけじゃない。

 

この蜘蛛の巣のような痣が広がる度に、使える魔法・・・いや、レベルが上がっているようなのだ。『ユグドラシル』でのアバターミケの成長過程と酷似しているのである。

 

何がキーとなって痣が広がるのか分かってはいない。

 

1度目は、領主ゴルドロスに強い殺意を向けた時。結果、ゴルドロスは死んだ。

 

2度目は、八本指に捕まりそうになった時。指先から蜘蛛の糸のような物が出て 何とか助かった。

 

3度目は、アダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇のイビルアイの正体に気が付いた事がバレた時、殺されそうになって必死に抵抗したみたいだけど、・・・正直 何があったのか あまり覚えていない。最後には和解したから結果良ければ全て良しだよね。

 

4度目は、法国の陽光聖典を探っていたのがバレた時。糸を大量に指先から噴出して天使達をグルグル巻きにするというよく分からない技が出た。「貴様、モンスターか!」って言われて「人間だよ!!」ってキレながら返事をしたのは 忘れたい思い出だ。

良く考えたら、人間は指先から糸出ないもんね。・・・私って何なんだろう??

 

私のこの予想が正しければ、現在40レベルぐらいだと思う。

 

だけど、何故か ミケが使えたはずの 回復系統は全く使えない。訳が分からないことだらけだ。

この蜘蛛みたいな体質のせいなのかな?

 

おかげで、私は「蜘蛛女」なんて呼ばれているらしい。

「蝙蝠」と貴族達から呼ばれているレエブン候からは、お似合いだと笑われた。“ツアレニーニャ”の見た目は愛らしい女の子だと言うのに・・・ぐぬぬ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

ついこの間、休暇をもらって 実家へ帰ってきた。私は、仕事柄 恨みを買いやすいので 男に変装して旅人としての帰宅だった。

その為、家族にもツアレだと打ち明けられなかったが、久しぶりに両親とお婆ちゃんに会えて嬉しかった。

 

そう、お父さんが生きていたのだ。

 

斬られて重症を負ったものの、寝たきりになりながらも命だけは助かり、その後 妹のアインが習得した回復魔法やポーションを駆使して日常生活をおくれるほどには回復したのだとか。

 

 

「そのアインも 姉を探すと言って村を出ていってしまった。あの時 ツアレを守れていれば・・・と、未だに後悔が絶えないよ」

 

 

か細くつぶやくお父さんにお母さんが寄り添った。そんな両親を見て 声をかけたくても、口からは何も出てこなかった。お父さんの背中はこんなにも小さかっただろうか・・・。

私は何とか感情を飲み込んで 旅人として 話し続けた。

 

 

「旅のついでになりますが、僕もツアレニーニャさんを探してみます。きっと大丈夫、彼女は生きていますよ」

 

「すまないね、旅人の君には関係ない事だろうに・・・ありがとう」

 

 

村を出る時になって、お婆ちゃんが杖をつきながら 村の出入口まで送りに来てくれた。昔と“変わらない笑顔”を向けてくるお婆ちゃんに 仕事へ戻りたくなくなってしまう。

 

でも、ここに居ることは出来ないんだ。

 

今、王国は腐っている。

いつ落ちてもおかしくない程に腐りきったこの国を変えようと奔走するレエブン候に賛同し、私は最後まで付いていこうと決めたんだ。

 

 

「気をつけてお行き、これ お昼に食べなさいな」

 

「ありがとうございます。助かります」

 

 

私はお婆ちゃんと別れの挨拶をして、村を出た。お婆ちゃんが持たせてくれたお昼ご飯は ツアレの好物だった、お婆ちゃん特製 色んな木の実を練りこんだパンだった。

 

 

懐かしい味に、涙が零れてしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

懐かしいパンを食べて 決意を固めた私に 出された命令は《城塞都市エ・ランテルにて、邪神教団が活動しているのではないかと 思われる為、その確認と目的の調査》だった。

 

これは、アレだ。また ラナー姫絡みだなぁ。

 

ラナー姫は レエブン候の配下に“情報収集に優れた者”がいることを見抜き、依頼だったり その優れた頭脳を貸してくれたりしている。

黄金と呼ばれるお姫様で、上手く猫被っているが、アレはかなりヤバいタイプのヤンデレだ。ラナー姫絡みの仕事は裏がありそうで気が進まないけど・・・仕方ないか。

 

 

しかしながら そんな憂鬱な気分も、冒険者の女として変装しての情報収集を行っている時に遭遇した、不思議なパーティーに出会ってから全て吹っ飛ぶ事になったのだった。

 




お婆ちゃん「どんな姿になってでもいいんじゃよ、またいらっしゃいな。」

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