☆イビルアイ視点
ラナー王女に指定された場所に行ってみれば、本当に“何か”があった。青々とした草原の中にポツンと立つソレは まるで生者を拒む様な異様な雰囲気を放っていた。
とても城には見えないその建造物に警戒しながら向かって行くと、建物内へ続く出入り口を発見。敵が居ないことを確認してから 侵入しようと足を踏み出したその時、突然 見知らぬ女の声が掛かった。
「こんにちは、お客人。ここに何用で来たのか聞いてもよろしいかしら」
それは純白のドレスに身を包みんだ美しい女だった。だが、その頭には捻れた角、腰からは漆黒の翼を生えており、威圧感を放っていた。その悪魔は いつの間にか前方に立っていたようで こちらを見つめてくる。
「あ、悪魔?!」
ラキュースの悲鳴じみた声に、その悪魔は うんざりとした様子で答えた。
「そんなに警戒しないでくれるかしら?私達に敵対しない限り 殺しはしないわ」
私に確認するように視線を向けてくるガガーランに 震えそうになる声を押し殺して答えた。
「どちらにしろ、私ではコイツに勝てない・・・」
「ねぇ。あなた達、何用でこのナザリック地下大墳墓へ来たのか さっさと教えてくれない?」
悪魔の問に、なんとか持ち直したラキュースが1歩 前へ出て答えた。
「私の名はラキュース。アダマンタイト級 冒険者 蒼の薔薇パーティーのリーダーだ。ココに“アインズ・ウール・ゴウン ”の城があるとの情報を受け、確認の為 王都からやって来た。」
「私はこのナザリック地下大墳墓の階層守護者統括アルベド。そうね、この場所はアインズ・ウール・ゴウンの城で合っているわ。」
「墳墓?」
同じように名乗り返したその女・・・アルベドは 何処ぞの王族のような雰囲気を纏っていた。
しかし、“そのナザリック地下大墳墓”という答えには首を傾げざる負えなかった。・・・『墳墓』とは、墓の事ではなかっただろうか?
「ええ。素晴らしい場所でしょう」
「そう・・・だな」
確かに『墓』ならば素晴らしいと思うが、『城』としてはどうなのだろうか・・・。同じ思いだったのか、ラキュースが言葉に詰まりながらも、返答をすると、満足気にアルベドは頷いてから 口を開いた。
「我が王がお会いになるそうよ。案内するわ」
それだけ告げると 背を向けて歩き出して行ってしまった。私達がラキュースの元へ集まると、ラキュースが口を開いた。
「どうする?」
「行くしかねぇだろ」
「敵対しない限り問題ないはず」
「そう、大丈夫だと言っていた」
ラキュースの問に答えるガガーランと、ティア、ティナ。しかし、私はどうも嵌められているような嫌な予感がした。
「信用出来るわけないだろう」
「だが、行くしかないだろうな。“実在”してしまったのだから、王とやらにも会わなくては」
私としては、私一人で乗り込むことも提案したのだが あの悪魔の反感を買う行動は辞めるべきだと ラキュースに説得され、蒼の薔薇の全員で向かうことにしたのだった。
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連れてこられた玉座の間。
天上からは幾つもの旗がぶら下がっており、落ち着いた色合いながらも とんでもなく高価な作りをしているのであろう威圧感のある場所だった。
脇には全身鎧を着た横柄な兵士と美しいメイドが控えている。アルベドが玉座の下で反転し、コチラを見据えた。その豪華な玉座にはローブを着たアンデッドが鎮座していた。
「歓迎するぞ。蒼の薔薇の皆さん」
「・・・アンデッド」
私はにこやかに話しかけてきたソレを前にして 意味が分からず固まってしまった。エルダーリッチよりも高位であろうアンデッド、奴らは生者を憎むものではなかったのか?
私達など捻り潰せるであろう王を前にして、ラキュースが貴族の礼をとった。
「あ、貴方が アインズ・ウール・ゴウンの王ですか?」
「ん?あぁ、そうだな。ここナザリック地下大墳墓は、私が統べている」
そうハッキリと答えた王に、私は一歩進み出てずっと感じていた疑問を口にした。
「この場所は草原だった筈だ」
「なんと説明すれば良いか・・・。全てを語るには少々長話になるが、付き合ってくれるか?」
「ええ」
ラキュースの頷きを見届けると、王は静かに語り出した。
『アインズ・ウール・ゴウン』という名の強大な国家があった。その国の元では人間と異形種が共存し合いながら幸せに暮らしていた。
ところが 原因不明の大災害により、世界は消滅。守れたのはナザリック地下大墳墓のみ。転移の衝撃で 人間種の仲間は死に絶えてしまった。
「多くの仲間を失った。だが、我らは生きている。この地で暮らしていこうと考えていた所だ」
全てを話し終えた王は 何処か寂しそうに見受けられた。ラキュースが呟くように小さな声を出したが、王には聞こえていたようだった。
「その話が本当だとすると・・・噂話はどこから??」
「ん?噂話?」
今まで静かにしていた ティアとティナが 王を見上げ口を開いた。
「アインズ・ウール・ゴウンは、人間種と異形種が共存していた国家。悪のヒーロー」
「そんな噂が王国中で囁かれている」
2人の説明を聞いたアルベドが 目を見開き 王を振り返って 歓喜の声を上げた。
「モモンガ様!これは、もしや我々と同じように この世界へ逃れてきた者がいるのかもしれませんわ」
「おぉ、そうか!!仲間たちがこの地に・・・蒼の薔薇の皆さん。是非詳しく聞かせてくれないか?大切な仲間の手掛かりなのだ」
「すみません。噂の出どころまでは分かりかねます」
「そうか・・・無理を言ってすまなかったな」
ラキュースの返答を聞いて、あからさまに肩を落とす王にアルベドが寄り添っていた。ギルドではなく国が転移してくるなど聞いたことがないが・・・これは聞かねばならないだろう。
「貴殿は・・・プレイヤーなのか?」
「プレイヤー?」
「この地には100年周期でプレイヤーと呼ばれる強者がやって来るのだ。もしや、あなた方がそうなのではないかと」
「・・・・・・プレイヤーというのは知らないな」
プレイヤーではないのか。では、彼らの世界にあった国家の1つと考えた方が自然か・・・?いや、プレイヤーを知らないのはおかしい。では、また違った世界から来た者達か。
「そうか。一つ質問させてくれないか?」
「なんだ?」
「人間種と異形種が共存していたと言っていたが・・・そんなことは可能なのか」
これはアインズ・ウール・ゴウンの話を聞いてから、ずっと考えていた事だ。王の返答は、ある意味で予想通りのものだった。
「端的に言えば可能だ。・・・だが、お前達 人間は「明日から肉を食うな」と言われて全員が厳守する事が可能か?」
「無理だな」
即答したガガーランに、王は当然だろうと頷いた。
「そうだろうとも。異形種だってそうだ。人間が食料の者だっている。だからな、我らが行ったのは “住み分け”だ。」
「閉じ込める・・・という事ですか」
「強者はそうだな。一定の区画への立ち入りを禁じた。あぁ、心配するな。人間は弱いからな 人間が出入りする分には規制はない」
「自己責任」
「そうだ。まぁ、喰われることが分かっていて出て行くものなど 極わずかだったがな」
ラキュース、ティアの言葉に反応しながら 説明した王に 納得しつつも、私は当然の疑問を口にした。
「異形種からの反発はなかったのか?残虐な者達が許容するとは思えない」
「そこはまぁ、力でねじ伏せた。我らは強いからな」
そこまでの力を持つ者達だということか・・・ここにいるもので全てという訳では無いのだろう。しかし、そこまでの強者ならば、なぜそんな面倒臭い真似をするのだろうか。
「そんな事をする理由を聞いても良いか?」
「私が元人間だから・・・では納得しないか」
「人間だった頃の記憶が」
「あるな。あの頃の私は、愛する者一人守れぬ 弱く愚かな男だったよ」
酷く悲しそうに俯く王の言葉に、私は彼らの言っている事がウソだとはとても思えなかった。
支配者ロールならぬ王様ロール!
アインズ・ウール・ゴウンの歴史は事実をまぜ合わせてデミウルゴスが考えました。