【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち

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44.絶望の淵 ☆

ガチャガチャとなる両手両足に付けられた鎖が、牢屋の中に響いた。

 

私が八本指に捕まってどれだけの時間が流れたのか、今が昼なのか夜なのかすら分からない。

 

コッコドールの奴は私の身体の痣が見たかったようで、私は服を着せられていない。私が“諜報員”だということもあり警戒してのことなんだろう。

なので 私は現在、全裸という女の子にあるまじき恰好なのだ。・・・あのクソ変態オカマめ

 

 

心の中で悪態をつくものの、身体は動かない。ギガントバジリスクの体液を浴びてしまい、毒にかかっているのだ。本来なら死んでいたであろう毒も、何故か命を奪うまでには至っていなかった。身体の痣が広がっているのを見るに きっと、またよく分からない力が働いているのだろう。

 

 

目覚めてから何度も“尋問”を受けてきた。奴らは レエブン侯の弱みを知ろうと必死になっているようだ。あの人が 王国の・・・というか息子の為にどれだけ必死に手を回し、危ない橋を渡ってきたか ずっと側で見てきた。そんな私があの人を裏切ることは無い。

どんな屈辱も苦痛も必死の思いで耐えられた。

 

コッコドールは私がツアレニーニャ・ベイロンだと知っていたようで、村を滅ぼすと脅しをかけてきたが それすら 歯を食いしばりながらも何とか無視をした。

 

私がこの世界に入るにあたって、私が“村娘ツアレニーニャ・ベイロン”だと知る者には口封じをしてきた。と言っても、「蜘蛛の呪いにかかる」「呪い殺される」とか脅しただけだけどね。レエブン侯には殺した方がいいと助言を受けていたが、そこまではしたくなかったのだ。・・・八本指の情報網を甘く見ていた結果なのだろう。

 

本音を言えば、村を助けに行きたかった。私のミスで皆を危険に晒すなんて胸が引き裂かれるように辛かった。

 

 

だけど・・・きっと、きっと レエブン侯が何とかしてくれると信じている。

 

 

 

腫れ上がった瞼のせいで視界が悪い。暗い牢屋の隅で 僅かに動く小さなものが目に入った。

 

 

「ご、きぶ、り?」

 

 

黒いその虫は、まるで私の声に反応したかのようにピタリと止まると私を見つめているようだった。

 

 

『リアルなゴキブリですが、ちっちゃい王冠かぶってて可愛いですよ』

 

ふと、前世で聞いた鈴木さんの話を思い出し、想像してみて 思わず笑ってしまった。

 

 

「ふ、ふふ。確か、に、ゴキブリに 王冠のせ、たら、可愛い、かも、しれない・・・見て、みたかった、なぁ。恐怖公」

 

 

カサカサカサッと近寄ってきた そのゴキブリは、横たえる私の顔の真ん前まで来ると 前足を二本天へ上げて ユラユラと踊り出した。

 

 

「ふふ、なぁに それ。恐怖公、の知り合い、な、の?」

 

 

更に激しさを増すゴキブリの奇妙なダンスに この世界のゴキブリは 変なダンスをするんだなと、ぼんやりとする頭で考えていた。

 

 

「恐怖公、に 伝えて くれる?鈴木、さん・・・モモンガ、さん に、「あの日 約束を 破って、ごめんなさい」って、伝えて、欲しいって」

 

 

カツンカツンと牢屋の外から奴らが歩いてくる音が聞こえた。

あぁ、また あの地獄が始まるのか。

 

 

「貴方は に、げて」

 

 

不思議なゴキブリは、ササッと壁を登り、天井に空いた穴から外へ出ていった。それを見送ってから私は 入ってきた彼らを睨みつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

☆ニニャ(アイン)視点

 

 

モモンガ様に姉さんの捜索を協力すると言ってもらえて、僕はもうすぐ姉さんも見つかるのだと疑ってもいなかった。

だって、あのアインズ・ウール・ゴウンが助けてくれるのだ。こんなに心強いことは無いだろう。

 

 

僕らは現在、パンドラズ・アクター様と一緒に僕の故郷の村へ足を進めていた。

パンドラズ・アクター様は、輝かしい全身鎧を身に纏った“たっち・みー様”の姿を模しているので、僕らの中でかなり目立っていた。

 

 

「この先に、ニニャさんとブレインさんの村があるのですね」

 

「そうです!何も無い小さな村ですが、穏やかな場所ですよ」

 

「それにしても、女の一人旅なんてよく村長が許可したな」

 

「う"ぅ、それは・・・その」

 

「家出したであるか?」

 

 

ブレインの質問にどう返そうか迷っていると、ダインが核心を突いてきて 項垂れた。

 

僕が女だということは 漆黒の剣の皆にバレてしまった・・・というか、バレていたらしいと最近知った。

パンドラズ・アクター様にハッキリと「お嬢さん」と言われ、必死に否定していたらブレインから「いや、お前 女だってコイツらに バレてるからな」と突っ込まれたのだ。

 

 

「そういえば、俺たちと初めてあった時、ガラの悪い男に絡まれてたよな」

 

「あぁ、ルクルットとダインが助けてきたんだったな。全く、危ない事するよなニニャは。」

 

 

ルクルットの発言に呆れたようにペテルが答えた。あの時は、村を飛び出したばかりで、姉さんを見つけようと必死だった事もあり 周りが見えてなくて 本当に危なかった。

 

ルクルットが笑いながらペテルの肩を叩いた。

 

 

「本当にだぜ。ペテルなんか 女だって気付かずにお前の湯浴みに突撃しようとしたりして 必死に止めたんだからな」

 

「なっ!あれは仕方なーーヒッ」

 

 

ペテルの視線の先を追うと、ブレインが殺気を込めて睨み付けていた。何やってるんだと溜息をついた所で、パンドラズ・アクター様が声を上げた。

 

 

「あぁ、見えてきましたね!・・・先客がいるようですが。ちょっと、先に行きます」

 

「ま、待ってください〜」

 

 

僕の目では まだまだ見えないのだが、パンドラズ・アクター様には村が見えたらしい。急いで追いかけると、徐々に聞こえてくる怒号と・・・戦闘音。

 

 

「チッ 先に行くぞ」

 

 

ブレインがスピードをあげ走り抜けて行った。

僕は嫌な想像を必死に振り払いながらも 辿り着いた先では、盗賊らしき男達と戦っている見知らぬ冒険者パーティーがいた。

 

 

「助太刀します!!」

 

 

ペテルが叫び、僕らが盗賊に攻撃を仕掛けると 既に戦っていた冒険者パーティーの一人が声を上げた。

 

 

「頼む!! 村の中に奴らがッ!!フルプレートと青髪の兄ちゃんが入って行ったが そっちを助けてやってくれ!!」

 

 

 





【挿絵表示】

→餓食狐蟲王様からツアレとモモンガ様を頂きました!
カッコイイ!!
よく見ると、モモンガ様がちゃんと蜘蛛の指輪つけてる♪*゚

本当にありがとうございました〜!!

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