【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち

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区切りのいいところまで突っ込んだら、いつもの倍のボリュームになってしまった・・・


45.告白

☆ニニャ(アイン)視点

 

 

ルクルットとダインを冒険者達の援護に残し、僕とペテルは 駆け抜けて行った。昔と変わっていない懐かしい村の中へ入って行くと、既に何人かの盗賊が倒れていた。その中には薄絹を身に纏った踊り子のような出で立ちの女もいた。

 

僕は 倒れた女の隣に立つ、切り傷だらけのブレインに《ミドル・キュアウーンズ/中傷治癒》をかけながら 周りを見渡した。

 

 

「この人も盗賊??パンドラズ・アクター様は?」

 

「盗賊じゃねぇ。コイツら、八本指の手下だ。あの方は逃げた奴追いかけて行った」

 

「八本指?!」

 

 

ブレインの返答にペテルが声を上げた。僕も何で 王国の犯罪組織が、こんな田舎の村に襲撃をかけに来たのか意味が分からず 言葉に詰まった。

 

 

「ツアレニーニャ・ベイロンですよ」

 

 

突然 聞こえた声の方へ顔を向けると、パンドラズ・アクター様が、赤髪の金色の刺繍の入った派手な服を着た男を引き摺りながら コチラへ歩み寄って来る所だった。

 

 

「彼女は “蜘蛛女”として活動していたようですが、八本指に捕まったそうです。それで、故郷であるこの村を襲撃し 村人の頭部を 彼女に見せつけ、心を折る計画だったようですよ」

 

「なっ!!?」

 

 

姉さんが 蜘蛛女??八本指に捕まったって、拷問とか受けているんじゃ・・・!?

 

最悪な予想が脳裏を過ぎ、頭から冷水をぶっかけられたような寒気に襲われた。

 

 

「私は、モモンガ様に至急報告へ行きますので、これで失礼します」

 

 

パンドラズ・アクター様は大げさに礼をとると、パッと掻き消えるように居なくなってしまった。

 

 

「大丈夫か!!」

 

 

ルクルットが駆け寄ってきた。ルクルットの後をダインが追いかけて来ている。2人とも大した怪我もなく、無事な様だ。

傷が癒えたブレインが身体の具合いを確かめながら 口を開いた。

 

 

「奴らは全て倒した。俺はすぐに王都へ行く。ツアレを助け出さないとな」

 

「僕も行く!!」

 

「相手は八本指だ。守ってはやれねぇぞ?」

 

 

確かめるように確認してくるブレインに 僕は ハッキリとした口調で答えた。

 

 

「もう 僕は“戦う力もないガキ”じゃないからね」

 

 

9年前のあの日の僕とは違うのだ。ブレインは何処か苦い顔をしながら頷いてくれた。

漆黒の剣のみんながそれぞれ顔を見合わせて 意思を確認すると、ペテルが僕に声をかけた。

 

 

「俺たちも付いてくぞ。ここまで来たんだ最後まで付き合うよ」

 

「当たり前だな」

 

「うむ」

 

 

ルクルットとダインも賛同してくれた。漆黒の剣の皆が付いてきてくれるのは心強かった。僕の自慢のパーティーである彼らと一緒なら、上手く連携だって取れるだろう。

 

 

「待て待て、お前ら“ツアレ”って言ったか?」

 

 

いつの間にかここまで来ていたらしい、村の入口で戦っていた冒険者パーティーの内の一人が声を掛けてきた。

 

「はい、ツアレは僕の姉さんですから」

 

「そうか・・・彼女は 今日にでも救出作戦が決行される予定だ。腕が立つんだろ?間に合うか分からねぇが、行くなら協力してやってくれ」

 

 

僕の返答に、少しだけ考え込んだ後、その冒険者は真剣な顔でこちらを見据えてきた。

 

 

「お前は?」

 

「俺はレエブン侯の配下、元オリハルコン級冒険者フランセーンだ。場所は王都唯一の娼館。他のメンバーがいるハズだ。これを持っていけ」

 

 

ブレインの質問に返答したフランセーンさんは、そう言ってネックレスをこちらへ投げて渡してきた。感謝の言葉を述べてから、急いで王都へ向かおうとしたその時、遠くから懐かしい怒鳴り声が聞こえた。

 

 

「アインロマーニャ!!!」

 

 

村を飛び出した頃より 老けてしまったお父さんと、後を追いかけるようにお母さんがこちらへ走り寄ってきていた。

 

 

「お、お父さん!?待って、姉さんが見つかったんだ。早く助けにーー」

 

「あっちに、村の馬がある。そいつらを使いなさい」

 

「え」

 

 

予想外の答えに戸惑っていると、お母さんが、僕を強く抱き締めてきた。お母さんの身体は僅かに震えていた。

 

 

「絶対に帰ってきなさい。待ってるからね」

 

「うん」

 

 

僕の後ろではお父さんが、ブレインに真剣な声色で話しかけていた。

 

 

「ブレイン君。・・・頼んだよ」

 

「はい」

 

 

村のみんなに見送られながら 僕らは馬に飛び乗って、王都へ駆け出した。正直、今から全力で王都へ向かっても 救出作戦に間に合うか分からない。

 

でも、それでも、じっとしていることなんて出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

☆モモンガ視点

 

 

定例会議で決定した 王国を支配下に置く為の計画はこうだ。

 

まず、アインズ・ウール・ゴウンの噂を王国国民に流し、異形種と人間種の共存の道を想像させる。

その後、知名度の高い冒険者にナザリック地下大墳墓を発見させ、好感を持たせた上で 王国国民に アインズ・ウール・ゴウンが現実に存在するのだと認識させる。

我らの架空の仲間が、地下犯罪組織“八本指”に捕えられたとし、八本指を攻撃。王国の邪魔な貴族諸共、国民の前で断罪。

“タイミング良く”現れた王族に 我らの正当性と、「仲間を傷付けたこのような奴らを野放しにしていた王国は許さぬ」と王である俺が訴える。

王族は 俺達に謝罪。我々はアインズ・ウール・ゴウンの支配下に加わるので民を殺さないでほしいと慈悲を乞い、それを受け入れる。

 

勿論、王族は既にこちら側だ。反抗的なものはちょっとの間だけ“黙っていてもらう”ことになる。

 

冒険者モモン一行は、不安がるであろう民衆の味方に立ち 彼らの精神状態を安定させる役回りだ。

 

 

 

俺は、ギルドマスターだったのに、いつの間にか王になってるんだが・・・とかツッコミを入れたい。だが、ここがギルドではなく国と名乗る以上 仕方ないのだと受け入れるしかないのだろう。

 

つい先程やって来た冒険者パーティー“蒼の薔薇”にも王として対応したしな・・・。大丈夫だったか?ちゃんと王様っぽかっただろうか??

いきなりプレイヤーの事を聞かれて 「知らない」と答えてしまったけれど、焦ってたのバレてないよな?!

 

 

執務机で腕を組み悶々としていると、執務室のドアがノックされた。

 

 

「モモンガ様、パンドラズ・アクターでございます。ツアレニーニャの件で至急お伝えしたい事があります。恐怖公もおります」

 

「入ってくれ」

 

 

許可を出すと、パンドラズ・アクターと恐怖公が 珍しく何処か余裕が無い様子で入ってきた。

 

最初に口を開いたのはパンドラズ・アクターだった。

 

 

「ツアレニーニャ・ベイロンが見つかりました。彼女は蜘蛛女として、王国貴族レエブン侯の配下として諜報活動を行っておりました」

 

「おぉ、良かった。生きているんだな!!」

 

「それが・・・」

 

 

かなり言いにくそうにしながらも、恐怖公が言葉を続けた。

 

 

「ツアレニーニャは、八本指に捕まり 拷問を受けておりました」

 

「何だと!!!!」

 

 

思いっきり立ち上がったせいで、椅子がガタンと倒れる音が響いた。仲間かもしれない者が拷問を受けているなど とても許容出来ない。フツフツと沸いてくる怒りに体が熱くなった。

 

俺の隣に控えていたアルベドが 口を開いた。

 

 

「モモンガ様、至急助けに行くべきかと」

 

「ああ、クソ共め!!徹底的に潰さないと気が済まない!!!計画を前倒しし、奴らを潰し、王国を奪いに行くぞ」

 

 

早速 動こうとした俺たちへ向かって、恐怖公が 衝撃の事実を告げた。

 

 

「我輩の配下が、そのツアレニーニャから、モモンガ様へ伝言を受けております」

 

「・・・伝言だと?」

 

「はい。「あの日約束を破って、ごめんなさい」と。それと、モモンガ様の事を“スズキサン”と言ったそうです」

 

「は?・・・・・・まさ、か」

 

 

思い出すのは、優しく笑う彼女の笑顔。

俺を救ってくれた、こんな俺を好いてくれていたであろう彼女・・・ナザリック地下大墳墓へ行きたいと願い、連れて行くと約束した日に亡くなった。

 

 

 

「加藤さん、なのか?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

外が騒がしいような気がする。全身の痛みが鈍い鈍痛のようになってきており、毒でフワフワする頭では聴覚すら怪しい。

 

ガチャンと牢屋の扉が開く音がした。また奴らが来たのかと視線をあげると、そこに居たのは 泣きそうな顔をしたロックマイヤーさんだった。

 

 

「ツアレッ!大丈夫か!!」

 

「ロック、マイアーさん」

 

「これを飲め」

 

 

私は口に運ばれたポーションを何とか飲み込んだ。ロックマイヤーさんの後から現れたヨーランさんが治癒魔法を使ってくれたようで、呼吸するのが幾分か楽になった。

ヨーランさんが私に上着を被せ、抱き上げてくれた。

 

 

「毒か。早く帰って本格的な治療しないとな」

 

「あ、りが、とう」

 

 

何とか紡いだ感謝の言葉が届いたのか、ヨーランさんの私を支える手に力が篭ったのが分かった。

 

ロックマイヤーさんを先導に無事に建物から脱出する事が出来た。久しぶりに浴びる外の空気に 心から感謝した。

走り出そうとしたロックマイヤーさんが突然 立ち止まり叫んだ。

 

 

「あ、アンデッド!?」

 

 

その言葉に反応して、視線の先を追うと、配下を引き連れた“懐かしいオーバーロード”の姿があり、私は衝撃の余り 言葉を失い 目を見開いてしまった。

 

 

「モモンガ様、彼女がツアレニーニャ・ベイロンでございます。彼らはレエブン侯の配下の元冒険者パーティーで、彼女の味方です」

 

 

オーバーロードの隣に立つ輝かしい全身鎧を着た男の発言に、疑惑が確信へと変わっていく。

 

 

「モモン、ガ?あぁ・・・」

 

 

ユラユラと揺れる視界では、確かにあの“モモンガさん”が立っていた。ユグドラシルを一緒にプレイして、いつも私に優しい声色で色々教えてくれた あのアバター そのものだ。

 

 

「クソッ 何で王都のド真ん中に!!」

 

 

顔色を悪くし悪態をつきながらも武器を構えるロックマイヤーさんとヨーランさんに、私は上手く出ない声を震わせて必死に訴えた。

 

 

「待っ、て!彼は だい、じょうぶ」

 

 

私の言葉に驚愕したように固まる彼らを無視して、“モモンガ様”と呼ばれた彼が、ゆっくりと歩み寄り私にその白い骨の手を 恐る恐る伸ばしてきた。ヨーランさんに抱き上げられたままの私は、まだ上手く動かせない震える手を伸ばし、彼の手を掴んだ。

 

 

「うっ」

 

 

その瞬間、彼から一瞬 光が放たれ、余りの輝きに 私は思わず目を閉じてしまった。光が収まったのを感じ ゆっくりと目を開けると そこには、人間の姿をした1人の男性が・・・予想した通りの彼がいた。

 

 

「あぁ、鈴木、さんだ」

 

「か、加藤さん、なのか?」

 

「はい、わたし、転生した みた、い 」

 

 

震える声で、前世の私の名を呼んだ鈴木さんは、私の答えを聞くなり 衝撃で固まって動けないヨーランさんから私を 奪い取るように抱き締めると 力強く、そして優しく抱きしめてくれた。

 

 

「ごめんなさい、わた、し 死んじゃって・・・」

 

「いいや、俺がっ俺が悪かったんだ!あの日、加藤さんが中々INしなかったから、何かあったのかと分かったのに!!何も、何もしなくって」

 

 

鈴木さんは涙を流しながら 私に何度も何度も謝ってきた。その確かな温もりに安心しながら、私は転生してから ずっと伝えたくて後悔していた言葉を口にした。

 

 

「鈴木さん、あの、ね・・・私、ずっと ずっと 言いた、かった の」

 

「加藤さん?」

 

 

私の顔を覗き込むように 見つめてくれる鈴木さんの、涙で濡れた頬にそっと手を添えた。何度も夢に見た シチュエーションに、私は夢の中にいるような感覚がしていた。

 

この夢が覚めてしまう前に、前世で言葉に出来なかった想いを・・・

 

 

 

「ご、めんね。わたし、鈴木さんの事が、ずっと 好き、だった」

 

 

 

目を見開いて驚く鈴木さんの顔が何だか可笑しくて、自然と笑みがこぼれた。包み込まれるような大きな安心感を感じた途端、ずっと毒にかかっていた疲労からか 私の意識は急速に閉じ始めた。

 

 

 

「加藤さん?加藤さん!!!!」

 

 

 

何度も懐かしい名前を叫ぶ鈴木さんの声を聞きながら、私は 安らかな眠りに落ちたのだった。

 

 




※六腕のエドストレームとマルムヴィストは蜘蛛女に恨みがあり今回の作戦に参加。今作では死体として登場した。
※レエブン侯の配下、元オリハルコン級冒険者フランセーンは 信頼のおける冒険者パーティーを雇い、村へ向かっていた。事後処理の為 村に留まりニニャ達を送り出している。


【穢れた蜘蛛妃の痛み】
『その蜘蛛は愛する人を決して忘れない。毒耐性35%アップ。全ての無効化スキルを無効。』

※恋愛フィルターかかった加藤さんの記憶なので、鈴木さんは実物より5割増にイケメンになっております


以上、入り切らなかった裏情報でした〜!!

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