【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち

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07.恋する乙女は中々しぶとい

今日も一日長かったお仕事が終わった。

鈴木さんは営業をする為に外に出て行ってしまっていた為、朝の挨拶以外話すことが出来なかった。ちょっと・・・いや、かなり寂しかった。

 

って、私は鈴木さんの恋人か!!?

 

いい歳した大人が こんな事でウジウジして、恥ずかしい・・・。

 

 

鞄を持って、会社の廊下をとぼとぼと歩く。この時間帯に帰る社員は多く、多くの人とすれ違った。

休憩室の前を通り過ぎようとした時に、ふと彼の声が耳に入って、思わず足を止めてしまった。

 

「え?そんな関係じゃないですよ」

 

どこか戸惑ったような鈴木さんの声。あぁ、帰ってきてたんだ!

 

「おつかれさまです」と挨拶をしようと一本足を踏み出そうとして、そこでやっと、他にも人がいることに気が付いた。

 

「だよな?いや〜あの加藤とお前が”付き合ってるんじゃないか”って社内じゃ結構なウワサになってるぞ」

 

「え"!なんで・・・」

 

「なんでって、そりゃ、今まで全然話さなかった加藤がお前と仲良く話してる姿をアレだけ見せつければなぁ〜。・・・お前も満更じゃなさそうだし?」

 

「いや、いやいやいや、ホント違いますから。加藤さんにも迷惑かかるのでやめてください」

 

「ふーん、で、ぶっちゃけどうなんだ?」

 

「どう・・・とは?」

 

「好きなのかってことだよ」

 

「あー、・・・・・・・・・全然、意識したことなかったですね。」

 

「そうだよな!さすがに鈴木でも、加藤には手を出さないと思ってたぜ」

 

「え?」

 

「だってそうだろ?髪で顔を半分隠して、喋り方もオドオドしてるし、なんというか不気味な奴だよな〜」

 

 

「ーーッ!」

 

それ以上、聞けなかった。

思わず口から漏れそうになっ声を無理やり押し込めて、その場にいることができず、来た道を戻って 別ルートから会社から出た。

 

『不気味な奴だよな』

 

頭から離れなくて、感情が今にも涙になって溢れだしてしまいそうで 深呼吸を繰り返し 必死に落ち着けようとした。

 

そんな事をしているうちに自宅へ辿り着いていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

私が顔を隠しているのは、火傷のあとがあるからだ。

幼い頃、真夜中にやってきた強盗は両親の命を奪い、去り際に家を放火をした。

 

ただ泣くことしか出来なかった私に、血で赤く染まった母親が覆いかぶさるようにして、炎から私を守ってくれていた・・・らしい。

 

というのも、近所のおじさんが助けに来てくれた時、私は煙を吸って意識を失っていたので、これはあとから聞いた話だ。

 

私が覚えているのは、鼻をつく焦げ臭さと、息も絶え絶えな母の「大丈夫よ、大丈夫、大丈夫」と、か細く繰り返す声だけ。

 

 

目を覚ました時には、顔には痛みがあり、グルグルと包帯で巻かれていた。

喉も焼けてしまったようで かすれたような声になっていた。

 

喉に関しては、段々と治っていったものの 顔の火傷は消えなかった。

 

 

 

なにも、珍しい話じゃない。

治安の悪化している中で、こういった犯罪もそれなりの数存在していた。

 

親を失う子も多く、殆どの子が孤児院に入る中、私は 火事から助けてくれた近所のおじさんに引き取ってもらえた。

 

おじさんは、私の事を娘のように育ててくれたし、そのまま学校にも通わせてもらったのだから、かなり恵まれている方だと思う。

 

 

 

だから、これは甘えだ。

 

みんなから、不気味がられていることも知っていた。

相手をイライラさせることもしょっちゅうだし、幽霊だなんて言われてるのも知ってる。

 

この醜い傷を見せるよりも、不気味がられることを選んだのは私。

上手く喋れなくてイライラさせてしまっているのも私の至らなさ。

人に嫌われるのが怖くて、社内でも黙りを決め込んでたのも悪かったのかもしれない・・・

 

 

ぽたぽたと涙が頬を伝った。

 

「・・・バカ、みたい」

 

恋をして、上手くいってると舞い上がって バカみたいだ。

私のこれまでの行動は、本当に鈴木さんに迷惑じゃなかったの?

 

『意識したことなかったですね』

 

鈴木さんのあの言葉に現実を突きつけられたような気がした。

 

 

私は”恋愛対象”としての土俵にも立ててなかったんだ。

 

 

涙で視界が歪み、堪えきれなくなりそうになったその時 私を呼ぶコール音が響き渡った。

 

ピピピピ

 

携帯の着信音だ。画面に表示された名前にふっと気持ちが緩んだ。

私を育ててくれたおじさんからの電話だったのだ。

ふぅ、と、息を吐き出し 呼吸を整えてから電話に出た。

 

 

「も、しもし?」

 

「おう!さゆり、元気だったか?」

 

何年経っても変わらない大きな声で話すおじさんに、思わず笑みが零れた。

 

「元気、だよ」

 

「ちーとも連絡よこさねぇで、心配してたんだからな」

 

「ご、ごめん、なさい」

 

「・・・さゆり?何かあったか」

 

急に声を低めて話すおじさんに、びっくりした。どうやら、おじさんには、なんでもお見通しらしい。

 

「あ、あのね、」

 

「おう」

 

「・・・・・・・・・髪を、し、縛って、顔を出すのって、どう思う?」

 

「ん?」

 

「ほら、私には、や、火傷のあとが・・・」

 

「あー!!まだ気にしとったんか!そんな気にすることじゃねえさ。もう火傷のあとも薄ーくなっとるやろ? それに、ほら、顔を隠すと陰険に見えるからに、ちゃんと見せて背筋伸ばしな!」

 

「うぐぅ・・・ほ、本当に、大丈夫なん、だよね?」

 

「大丈夫、大丈夫!可愛い顔見せて男の一人でも捕まえてこいや」

 

ガハハと豪快に笑うおじさんに、私はすぅと息を吸って宣言した。

 

「上手く、いかなかったら、おじさんの事、 の、呪うからね!!」

 

「え、さゆり、お前男がッーー」

 

私は、おじさんからの返事を待たずにプチッと通話を切った。

 

 

 

鈴木さんは、私が初めてここまで仲良くなれた異性で。大好きな人で。だから、手放したくなんかなくて・・・

 

優しい鈴木さんのことだ、私と付き合ってるんじゃないかってウワサを気にして、距離を置く可能もある。

それは困る!鈴木さん抜きの生活なんて私には考えられない、絶対に嫌だ!

 

 

なら、どうするか。

 

私がイメチェンして、心身共に変わることが出来て、ほかの人ともそれなりに話せるようになれば、そんなウワサ吹き飛ぶ!!・・・はずだ。たぶん。きっと。

 

と、とにかく、何もしない内に終わってたなんてダメだからね。気合いだ自分!頑張れ自分!

 

 

 

「えいえい、おー!!」

 

 

 

私は力いっぱい両手を頭上に振り上げた。




人の話を立ち聞きするのが上手という残念な感じの主人公でした。
ちなみに、名前は加藤 さゆりです。

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