【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち

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09.変わった彼女

☆鈴木悟視点

 

加藤さんと『ユグドラシル』をプレイするようになって、あっという間に1ヶ月が過ぎた。

加藤さんと、かつての仲間たちと行った狩場へ向かい、『アインズ・ウール・ゴウン』での思い出話を語っていたのだが、”悪”に拘ったギルドというのが加藤さんのツボに入ったらしく・・・もう、物凄く食い付きがよかった。

 

興味津々に話をせがむ加藤さんに、気が付けば 俺は、ナザリック地下大墳墓のギミック、配置されたNPCの細かな設定の話までした。

 

自分の好きなものに興味を持ってもらえて嬉しかった。

純粋に「すごい、すごい」と、はしゃぐ加藤さんに気分も良くなって、より知ってもらおうと 時間を見つけては、ナザリック内を再度確認しに行ったりもした。

 

そうやって、この1ヶ月。

自分の口から「過去の栄光」を語ることで、いつの間にか『ユグドラシル』が終わってしまう現実に・・・ギルド、アインズ・ウール・ゴウンが消えてしまう、その事実に、ちゃんと向き合う事が出来るようになっていた。

 

 

楽しかった、本当に楽しかったんだ。

 

 

『ユグドラシル』が終われば、もうナザリック地下大墳墓へ行くことも出来なくなってしまうだろう。

 

 

 

・・・でも、こうして今、俺が加藤さんに語っているように。

俺の中には、ちゃんとアインズ・ウール・ゴウンは仲間達と共に存在しているんだ。

 

勿論、今でも引退していったギルドメンバーに戻ってきて欲しいという想いはある。

最後ぐらい一緒にナザリック地下大墳墓で過ごしたい。昔のように皆で・・・と願ってしまう。

 

その事を考えていると、何故か いつも、加藤さんの顔が脳裏をちらついていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

「お、おはようございます」

 

「ん?あぁ、おはようございます」

 

朝、職場に入ってきた加藤さんは、不安げに目を泳がせながらも、近くにいる社員に挨拶をしていた。

顔の半分を覆っていた黒髪は、後ろで一纏めにされていた。

その為 、はっきりと加藤さんの顔にある火傷のあとが見えていたが、正直、以前の幽霊のような髪型より 全然マシだった。

 

加藤さんの変化への驚きに周囲がザワついた。

それは、顔の傷への同情や 顔を上げた加藤さんへの評価など、様々あるようだったが、顔がちゃんと見えようになった分、威圧感が消えた加藤さんは、概ね周囲には好印象を与えているようだった。

 

 

 

「お、おはようございます」

 

「おはよ〜ございますぅ。あれ、加藤さん 今日はポニーテールなんですねぇ」

 

加藤さんの変化に真っ先に突っ込んだのは今年入ってきた若い女性社員だった。

面白そうに笑う女性社員に、加藤さんは緊張したような面持ちで返答をしていた。

 

「あ、あの、はい。・・・へ、変でしょうか??」

 

「ううん!スッキリしてていいと思いますぅ〜。あ、ん〜と、これあげる!」

 

「ふぁ、え、あ、あの」

 

女性社員は手に持った紺色の布で出来た髪飾りを加藤さんの纏めてある髪に、ささっと付けてしまった。

 

「よし!かっわいい〜!これね、元彼からもらったシュシュだけど もう使わないしぃ〜落ち着いた色合いだから加藤さんでも似合うよぉ!」

 

「あ、あの、ありがとう、ございます」

 

「いーえ」

 

俺は 元彼からもらったアクセサリーをサラッと押し付けた女性社員にゾッとした。・・・オンナって怖いな。

そこで、ふと、自分が ずっと加藤さんを目で追っていたことに気が付いて、さっと視線を手元に落とした。

 

 

こんなに見つめてしまっては、まるで・・・、まるで?

 

そんな事を考えていたら、なぜか 昨日の先輩との会話を思い出してしまった。

 

『お前、加藤と付き合ってるのか?』

『好きなのかってことだよ』

『髪で顔を半分隠して、喋り方もオドオドしてるし、なんというか不気味な奴だよな〜』

 

そこまで鮮明に蘇ってきて思わず苛立ち、顔を歪めてしまう。

 

そうだ、昨日もその言葉にイラついて思わず反論したら、『お前、マジかよ!青春かッ』と、先輩に大笑いされたんだった。

 

何が青春なんだか、意味がわからない。

 

 

 

 

「おはよう、ご、ございます!!」

 

自分の席にまで辿り着いた加藤さんは、何故かいつも以上に 力の入った様子で、俺に挨拶をしてきた。

 

「おはようございます。髪型変えたんですね、イメチェンですか?」

 

「は、はい、」

 

「とても似合ってると思いますよ」

 

「あ!ありがとうございます!」

 

頬をほんのり赤く染めて笑う加藤さんを見て、思わず笑みが零れた。

 

ずっと今まで隠していた火傷のあとが残る顔を、思い切って出したのだから 相当な勇気が必要だったのだろう。

顔の傷というのは 誰だって気にしてしまうものだ。女性なら特に。

 

職場の皆からも好印象で、安堵したに違いない。現に、とても嬉しそうだ。

 

「し、視界が、広いと、仕事しやすい、ですね」

 

「ハハッそりゃそうですよ。今まで片目で仕事をしていたものですからね」

 

「へ、えへへ。そうです、よね」

 

 

そんな嬉しそうな加藤さんを見て、何故か俺まで とても嬉しくなった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

髪型を変えたのがキッカケになったのか、加藤さんは 少しずつ、変わっていき、周囲もそれに適応していった。

 

今まで挨拶と必要最低限の仕事の話しかしなかったのが、挨拶がてら女性陣に

「か、髪飾り、可愛いですね」

「今日は、さ、寒いですね」

など、声を話しかけるようになっていき、声をかけられた彼女達も最初はソワソワしていたものの、そんな加藤さんを受け入れていた。

 

少しずつ輪が広がっていき、今では以前のような『幽霊』というあだ名も、耳に入ることはなくなった。

この部署では、加藤さんが変わったことに対して、バカにしたり蔑んだりといった反応をする人は一人もいなかったのだ。

 

 

これは前々から思っていたことだけど、俺が所属する2課は、対立を好まない 温厚な人間が多いと思う。

 

イジメも差別もない。

 

これは人から聞いた話だが、そういった事を”あの”部長が嫌いで 不穏分子は出来るだけ遠くの部署に移動、というか 押し付けていたから・・・らしい。

 

理由は簡単、「仕事の邪魔」との事。

 

お前のセクハラは問題ないのかよ。と、突っ込む人はいなかったのだろうか?

 

俺もそういった事は嫌いだったので、まぁ、このことに関しては部長に感謝している。

 

 

加藤さんは誤解されやすい人なだけで、話せば 好奇心旺盛で面白く、優しい人だと分かる。

だからだろうか、最近では、俺以外の男性とも雑談を話すようになった。加藤さんの周りに人が増えるほど 会社で俺と話す機会は減っていった。

 

 

 

 

それが、少しだけ・・・・・・寂しかった。

 

 




実は平和な職場なのでした。


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