ダンジョンで幸せを探すのは間違っているだろうか   作:モーリン

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10話

フィンの執務部屋にて集う三人と寝ている一人。中心に出来の良いソファにコウが静かに寝息を立てている。

あの後すぐさまリヴェリアが治療を施し、ポーションを飲ませ、被せ、傷が回復していく実感と共に気絶したコウをフィンが運び、リヴェリアが破損した部屋を見渡して現状の問題点を脳内で構築した。

 

すぐさまファミリアの一員を連れてきて、予算は幾らでもいいので修理をよろしく。という一言とフィンの物凄く申し訳なさそうな謝罪と共にほぼ丸投げし、何処かいつもより歩を早めてその場を去って行った。

 

投げられた者はロキ・ファミリアの副団長からの直々のお達しであるので、誰も不満は言わずに粛々と、検分するもの、業者に発注しに行く者、瓦礫を片付ける者と別れた。各々思う所があるが、上が明確に発言しないのと、客人がボロボロになっているのを見れば、色々察する事も出来たが、余計な事をしていると雷が落ちるかもしれない、というプレッシャーの中で彼らは良く働いた。

 

因みに後々に、フィンが彼らにお小遣いと言うボーナスを払ったのは彼らだけの秘密である。

 

部屋に運んだフィン達は、体には完全に傷が無い事を念入りに調べてからその上にタオルケットを被せ、お腹を冷やさない様に対応をした。ちなみにフィンが既に着替えさせている。

 

通常であれば医務室での対応が必要だが、リヴェリアの回復魔法二回に更にハイポーションを外と中にかけられれば、病気以外は大丈夫だろうという見解なので、とりあえず人目が付かない所へと運んだのだ。それに、コウの予想外の強さに驚きはしたものの、これで漸く作戦も練れる。

 

人間性は分からないが、ロキに気遣う心胆は危険な匂いはせず、逆に心遣いが出来る優しい青年という評価に改めた。尤も、ロキはその価値観であまりコウを好きになれなかったがそれは神々にも好みや性があるのだ。

 

そういった人物が一人居ても可笑しくはない。

 

ただ、ロキは彼がそのファミリアの門を叩けば受け入れるつもりでいた。

あれほどの力をレベル0で持ち得ている能力は成長しきれば、恐らく全世界の冒険者の頂点に起つ可能性を秘めているポテンシャルだ。

 

しかし、事はそう簡単には行かないと思っているが今は別思考へ代えるようロキは頭を振り、説教を受けているフィンと説教をするリヴェリアへと視線を向けた。

 

「――――――大体だな、あの時何故コウの誘導に乗ったのだ? それがなければ」

「あーはいはい。リヴェリア、そこまでにしときぃ。フィンには後でたっぷりコウへ謝罪させるから、それで堪忍な」

「む……はぁ、仕方がない」

「うん。本当に申し訳なかったね、リヴェリア、ロキ」

 

寝かせてから一時間。ずっと説教をしていたリヴェリアだったが、ロキにそう言われ確かにこれ以上言った所で事態は変わらないし、フィンも重々承知していると分かっているからこそ、それに従った。

 

フィンもここまでリヴェリアが怒るとは、ファミリアの体裁もそうだが、恐らくリヴェリアの中でコウの評価が高い事が伺い知れる。故に何も言わずに説教を受けていたのだ。そしてフィンの中でもコウの評価は非常に高いのだ。

 

「しっかし、ここまで依頼人を蔑ろにしたことないで? せや、リヴェリア」

「断る」

「なんや、なんもいっておらへんで?」

 

きらりと目が光るロキに視線を合わされたリヴェリアは間違いなくロキにとって面白い事だ。

故に名前を言われた時点で色々と予測は出来るが、ロキの意に沿うのは単純に嫌なのでにべもなく断った。

 

「ふん、どうせコウに膝枕か添い寝かしてサービスしろ。という予想だが、どうなんだ?」

 

ロキの考えている事はおやじ臭い所が多々ある。ロキが言っている事は理解できるがそれとこれとは話は別だ。

リヴェリアの中でのコウの評価は高いが、それ程の事を許すには時間が足りないし、何よりハイエルフのリヴェリアの秩序がそれを許さない。そもそも、そんな簡単に肌を許すという事自体がありえないのだ。

 

「あったりー。てか真面目に考えてここまでやっといて何もないって流石になー……」

 

だよねーという軽い気持ちでリヴェリアの返答に相槌を打つロキ。

 

ただ、余りに異質過ぎるのと性格が少しめんどくさいという事もあり、圧力を掛けて軽い尋問紛いに話し合いを進めていたのも、相手の情報を根掘り葉掘り聞き過ぎたのもそうだし今回の怪我もそうだ。

何となくコウという男の星の巡り合わせは少し悪いかもとロキは漠然と思い、若干同情した。

 

「それについては申し訳ないと思うけど、あの最後の攻撃は明らかにレベル5上位に迫る一撃だったし、あの武器の一撃を受ける訳にも行かないから、咄嗟の対応として勘弁してもらえないかな」

「それ程か?」

 

そうして思い起こす最後の煙幕を利用した単純で最適解の突貫。

あの速さはいかなフィンでも本気を出さざるを得なかった。ただ一つ失態があったのはその誘いに乗ってしまった自分のテンションである。そこは改めて反省しなければとフィンは思っていた。

 

「それ程、さ。これでまだ手札を残している雰囲気だし、切り札も残っている何て、是非今回の依頼には同行したいね」

「しかし、本当にレベル0なのか? 明らかに動きがレベル3程度に見えたが」

「いや、動きはレベル3位だけど、その力自体はレベル2のそれだった。ただ、その技巧が凄まじくてね。僕の槍でもあそこまで一瞬で緩急を付けられる様な運動は無理だね。断言できる。まるで」

「まるで?」

 

英雄譚(オラトリア)に出てくる騎士の動きの様に、実直に磨かれた技術と感じたよ」

 

フィンの中ではコウは相当な評価を得ている。いきなり動きが良くなった事に付いて思う所はあるが、もう追及しないと明言している以上、観察しながら解明する必要があるが、それがどんな物でもコウの技術に違いが無いのだ。評価は上げざるを得ない。

 

コウが例え酒の席で性格が悪かろうが、普段がこれなら全く問題ない。頭の回転も良いとは言えないけど雰囲気を読み取る事は出来るので、リーダーには向かないが、直ぐに場の雰囲気に溶け込めそうである。

 

そして技術。

 

とはいえコウがもし起きていたらかなり罰が悪く聞いていたに違いない。彼らはコウの魔法の一端にしか触れていない故に分からないし、これから理解する事は出来ない。そもそもこの世界の枠組みで測れる力では無いのだ。とは言えリヴェリアの魔法の一撃の方が攻撃力や範囲はデカいので規格外とまでは行かない。

 

が、魔剣を27本一気に投影、射出、開放が出来ると分かれば彼らの表情がどんな事になるのかは想像に難くない。しかも、精霊が跋扈していた時期の魔剣であるのだ。クロッゾの魔剣と同じかそれ以上の物も孕んでいるし、その上に宝具が眠っているのだ。やろうと思えば超長距離からの宝具開放でほぼ事足りるのだ。

しかしそんなことをしていれば危険人物のリストにまっしぐらな人生はコウにとってはナンセンスだ。

 

「はぁー……えらい高評価やな。まぁ分からん事は無い。レベル0であれはありえへん」

「まだまだ色々隠していそうだが……これからの論点はそこではあるまい?」

「そうだね、彼の話題は横に置いておいて、それじゃあ今回の討伐に参加するメンバーに付いて話し合おうか」

 

そうしてフィンは椅子の先端へ腰を移動し、前のめりになりながら机の上両肘を置いて手を組んだ。

座り直した椅子からぎぃと音が鳴った。

 

「まずは何人で依頼を遂行するのか、だけど……僕の意見からいいかい?」

「ああ、いいぞ」

「コウ君を含めて4人のパーティーで組ませたい。これは、迅速に行動できるように人数は絞る必要があったからという事と、そこまでこのファミリアを空ける訳には行かないのとコウ君が大所帯は望まないだろうから、という三点が主な理由だね。メンバーはコウ君、僕かリヴェリア、後二人なんだけど」

 

ギルドへと提出された依頼内容は討伐と捕縛。しかし実態はコウの討ち入りの補助だ。それはつまり、主体はコウという事で大所帯、つまりは大戦力は望まないと読み取れる。確かに、討ち入りして一瞬で片が付いたら、それはそれでいいのかもしれないが、コウの心の踏ん切りは付かないだろう。

 

故に4人パーティーだ。

 

「一人推挙したいのが居る」

 

フィンの言葉を遮るようにリヴェリアが口を挟んだ。

それに不快感は無くフィンが続ける様に視線で促した。

 

「レフィーヤをそのパーティーに入れたい」

「ちと荷が重すぎやせぇへんか? まだレベル2やで」

 

レフィーヤ・ウィリディス

今現在リヴェリアの後釜として育てられている将来有望のエルフである。

 

「承知の上だ。レフィーヤには戦う目的がアイズに追いつきたい一心で非常に直向きな事は評価できるが、闘いとは悪意と向き合う事だ。今回の物取りはその悪意に間違いなく晒されるいい機会だと思ってな」

「確かに、彼女には【慣れ】が必要だしね。しかし、万が一がどうしてもあるよ?」

「その時はその時だ。私の判断が間違っていたという事だ。冒険者は常に死と隣り合わせ、これ位の死線は踏み越えなければアイズに近づく事すらままならん」

「不器用やっちゃなー。まぁだからこそ母親(ママ)言われるんやけどな」

「はぁ、誰が母親(ママ)だ。まったく……」

 

にししとロキがため息をつくリヴェリアを見やる。

今現在のレフィーヤは伸び悩んでいる。そろそろレベルが上がっても可笑しくないアビリティであるが、中々そこから先が渋い。リヴェリアもあまり無理をさせずにレフィーヤを育てて来た結果、肝心の度胸を何処かに忘れた節があり、どうしても一歩が進めないのだ。

 

それに元々コウ一人でやろうとしていた事なのだ、レベル2は十分外の世界でトップクラス。故に足を引っ張る事は考え辛い。ただし、油断は出来ないしまごつく事も許されないが。だからこそ丁度いいとリヴェリアは思ったのだ。

 

「うん。僕もそれでいいと思うよ。後二人だけど、レフィーヤが居れば後衛はもう大丈夫だから、僕が行くよ。リヴェリアは僕が居ない間の代理を頼みたい」

「いや、今回の一件はエルフが根幹に関わっている。これはエルフの王族としても私が参加したい。私が居れば騒ぎなく速やかに奴隷の救出が出来る」

「ほんま胸糞悪いやっちゃなー」

 

エルフは奴隷になりやすい。これは世界共通だ。だからこそエルフの慣習が出来たのかもしれない。しかし、そんなもの人のモラルで決まる。権力の上に胡坐を掻いている者に慈悲などない。そして貴族が相手だからこそ、王族で最後の引導を渡したいのだ。……殺すわけでは無いが。

 

「んー……でもそうすると前衛がもう一人欲しい。僕は駄目だし……」

「ガレスとベートはダンジョン。ティオネ、ティオナ、アイズもダンジョンだ。レフィーヤは今日に戻る予定……か」

「いやー、うちの子たちは働きもんやなー」

「しかし、どうしたものかな。最低でもレベル4上位クラスが欲しい所なんだけど……」

 

何とも、間が悪い。そう思った三人。ガレスはフィン達が残るからベートと荒くれ共を連れてダンジョンへ、一週間は帰ってこないだろう。ティオナ、ティオネ、アイズ、そしてレフィーヤは昨日ダンジョンへと行ったが、中層から先へ進むつもりのアイズ達に流石に付いていけないレフィーヤは15階層で別れてリヴェリアとの特訓である。女性3名はレベル5になってまだ其処まで時が経っておらず、戦えば戦う程強くなる自覚は、冒険者にとって中毒症状の様に気持ちの良い覚えである。

 

故にモチベーションが高く彼女たちも一週間は戻ってこないだろう。そう、そんなタイミングでコウが来たのだ。

そんな彼女たちに触発され、ダンジョンへ行く者も多く、結果レベル6の二人が居残りしているのだ。

 

今回の依頼で、コウならレベル5相手でも瞬殺される事は無いだろう。まだまだ手札を残している位なのだ。それ程心配する事も無い。その後ろにレフィーヤかリヴェリアが付けばいいが、恐らく正面からの襲撃と捕虜奪還の二つに分かれての行動だ。コウにはリヴェリアが付くことがこの時点では半ば決定されている。間違いなくレベル5とその他大勢と相対するからだ。裏部隊はレベル3と当たる可能性が高い為、レベル3複数と事を構えられる傑物が必須だ。

 

更に遠征に行っていない間はリヴェリアかフィンが居なければならない。これは遠征中には出来ない新規団員の募集の為の試験等を行う者が居なくなるからだ。一時期締めきればいいが、何時原石が転がり込んでくるか分からないのだ、その門を閉めるのは、その新規団員を見る事が出来ない遠征中のみの期間としたいのが本音である。

 

うんうん考える三人。

 

二軍メンバーでも良いのだが、それでもレベル4なり立てがちらほらいるだけで、到底レベル3複数とは荷が重い。かといって外部ファミリアに頼むのは論外である。ただ、ガネーシャファミリアのシャクティ団長であれば少しバランスが悪いが十分に対応が可能だが、団長をおいそれと出すわけには行かず、いくら治安系のファミリアだからと言ってそんな簡単に事は運べない。

 

そしてリヴェリアの目的のレフィーヤの殻を破る為とコウの為に、あまり過保護にもできないからフィンが言った通り4人でのパーティーが望ましい。

 

そんな詰まった空気を破るかのように、フィンが親指を甘噛みしながら視線をリヴェリアに滑らせた。

その視線に気づいたリヴェリアは少し姿勢を整えた。

 

「……居る。一人だけ……外部だけど、しがらみの無い。給仕のエルフが一人」

 

思い浮かぶのは懇意にしている酒場の給仕の一人。そしてリヴェリアも思い浮かべる。ある意味、有名人だからだ。

 

「……だが、借りを作るのは避けたいのだが?」

「いや、リヴェリア。リューたんはそんな事で借りにはせぇへんで。リューたんはそういう性格やない」

 

リュー・リオン。薄緑髪の首元で切り揃えられた綺麗な髪のエルフ。かつて【疾風】という二つ名を持ったレベル4上位の元冒険者。とある事情で今は冒険者では無いが、それでも困った人を見かけると首を突っ込むという美徳だが難儀な性格の持ち主である。

 

元々所属していたファミリアも治安系のファミリアに属していたのだ。生来からそのような性格なのだろう。それはリヴェリアも承知していた。オラリオの暗黒期に共にとは言わないが色々動いたのだ。この三人が知っていないはずがない。

 

「それに、確かリヒト君とリューさんは別ファミリアだったけど、先輩と後輩の関係みたいだっただろう。彼が絡んでいる案件なら、受けると思うけどね」

「それは、そうだが」

 

煮え切らないリヴェリア。それはそうだ。彼女にリヒトの真実を言うのは余りにも酷だ。それに故人をあまり辱めるのはリヴェリアの精神的に気が引けるし、何より少し汚い方法だ。

 

そんなリヴェリアの心情を察してか、フィンが口を開いた。

 

「なら、僕から彼の真実をリューさんへ話して協力してくれるかどうかを伺いを立てるよ。それで駄目であったら二軍からレベル4二人を連れて行くか僕が行こう。それでどうだい?」

「うちは何でもええで。眷属達(フィン達)が決める事に、全力でサポートするだけや」

 

リヴェリアも間違いなく彼女が適任だと思っている。身軽さや気配を断つ方法、そして戦闘力を考えれば今回の依頼に欲しい能力と合致している。下手したらレベル4複数とも打ち合えるのだ。レベル3複数は恐らく相手にならない。

 

それに如何に理由があろうとフィンではなく、自分とレフィーヤをこのパーティーにねじ込んだのだ。ここは納得する他あるまい。

 

「ふぅー……分かった。だが、もし今日中にティオネ達が帰って来たら、彼女たちと交代だ」

「分かったよ。まぁ、間違いなく帰ってこないけどね」

「言うな」

 

それが分っていてもそう言いたくなる。とはいえ、これでメンバーは決まった。

 

「なんや、コウがハーレムやないか。っくぅー! うちもいきてー!!」

 

男一人に女三人。しかもどれもが美しいエルフでも際立って美しい者たちである。

フィンはコウの未来の心証を察して、何処か遠くを見る。

 

―――――これは、起きたら真剣に謝罪しないとな……色々と

 

フィンは心の中でそれを決めた。

 

「こらこら、アイズ達が帰ってきたら真っ先にロキの所に更新しに行くから、それで我慢するんだ」

「せやな。ぬふふふ……アイズたん達の肌……」

 

手をワキワキさせるロキを見て、リヴェリアはたまに自分も触られている事を思い出し、その矛先が主にアイズとレフィーヤへと向けられているが、悪意は無いので、彼女たちへ心の内で同情を少し送った。

 

その気を取り直してリヴェリアは何処か遠くを見ているフィンに視線を合わせて、自身の考えを述べる為に口を開いた。

 

「リオンは魔法も使える。ならば正面突破をコウとリオンで、私たちは奴隷を助けた後、魔法での援護が良いか。少し罪悪感は残るが、昔の関係を出汁にコウと一緒に陽動してもらおう」

「リヴェリアは前衛(まえ)がおらんでも大丈夫かいな?」

「レベル3程度の動きに後れを取るつもりは無い。……もっともコウの技能は別だがな」

 

その言葉と共に未だ寝ているコウを見るリヴェリア。白兵戦であれば自身を超えているのだ、その強さのレベル3であればその保証は出来ない。が、そんな事は世界を見渡してもコウ以外ほぼあり得ないので、心配はない。

 

レベル1違えば、その力の差は大きい。レベル7の【猛者】にレベル6のフィンとリヴェリアで漸く勝てるレベルなのだ。その差が3。いくらリヴェリアが魔法職だとしても、恐らく補助魔法を掛ければ素手でも制圧できる地力差だ。

 

尤もクロッゾの魔剣を使われたらその限りでは無いが、それを使われるとレフィーヤの命が危ないから、魔剣を使われる前に片を付ける心算である。そこが分っているからこそフィンは文句を言わないのだ。

 

それに、中々御転婆だった時代もあり、その身体能力もレベル6の近接とは比べられないが、アイズ達と軽くなら打ち合える位の俊敏性は誇るのだ。あと結構固いのもある。

 

「まぁ彼は特別だし、僕も正直そこまで心配はしていないよ」

「初期メンバーなんだ、少しは心配してくれてもいいだろう」

「揶揄ってるのかい? 初期メンバーだからこそ、だよ」

 

そのフィンの言葉に少し揶揄いを含めた言い回しをするリヴェリアの返答にに肩を上げながら返答をするフィン。

 

今は居ないガレスと共に色々と経験してきたが今ではそれは宝物だ。

だからこそ、フィンは信じているのだ。簡単にリヴェリアは斃れないと。

 

「せいぜい、その期待に応えさせて貰うとするか」

 

何処か心地いい空気に表情が綻ぶリヴェリア。それをにやにやしながら見るロキだが、しかし、そういった仲にはならないだろうと確信しているが、中々レアな光景を目にしているのだ、にやけない方が失礼とロキは考えている。

 

「物資は僕が準備しておこう。リヴェリアは彼が起きるまで待って、起きたらこの一連の事を報告して欲しい」

「分かった。お言葉に甘えておこう」

 

そうしてもう一つのソファを近くに置き、ゆったりとコウを見据えながら座るリヴェリア。

 

「まぁただ待ってるのもあれやし、一連の謝罪を込めて膝ま」

「断る」

「まぁまぁ、その件は豊饒の女主人で女の子が付くように誘導するから、それで勘弁してもらおう。勿論、僕から直接謝罪もするよ」

 

ロキが先ほどのテンションのまま、リヴェリアにそう進言するが、最初と同じように断られ、しゃあないなーと言いながら退出した。

 

「それじゃ、僕も出るから。……リヴェリアの部屋に運んだ方が良いかい?」

「さっきの意趣返しか? いや、その必要はない。妙な噂が立つことは無いが、立ったら面倒だしな」

 

そうかい。とその一言を残してフィンも退出していった。

 

ばたんと閉じられる扉を確認し、肺に溜まっていた余計な息を出して呼吸を整えつつ深くソファに座りリラックスするリヴェリア。しかしそれでも優雅さが消えていないのはハイエルフだからなのか、気品を漂わせていた。

 

しかし、とリヴェリアはコウの寝顔を見て考える。

 

リヒトにより齎された情報により今まで奴隷商人を追い詰め捕縛をする案件はフィンとガレス等と連携して事に当たっていた。これは主神ロキの許可を得ているし、優先はファミリアの運営で遠征や探索は勿論行っていたので、事は中々進まなかったが今回の依頼は正に渡り船であった。

 

貴族を捕縛すればそこから芋づる形式で他も釣る事が出来るし、何より牽制にもなる。

 

正直ガネーシャの所に投げたいという思いもあるが、しかし、エルフの奴隷の大本の件については自分(リヴェリア)が蹴りを付けないと自分の意地やプライドに傷が付く。一度関わってしまったのもあるし、エルフ達の笑顔を見て来たという経験もある。それ故に、やはりフィンを差し置いてもリヴェリアが参加したのである。

 

人選的には間違いなくフィンが良かっただろう。女性の扱いも上手いし、何より有名人だ。

彼に助けられればロキ・ファミリアの心証も良くなるし、団長直々に動いたという事は他の貴族のプレッシャーにもなる。

 

すでにロキ・ファミリアの力は貴族と同じと言っても差し支えない。

勿論権威的には貴族の方が持って居るが、しかし貴族とは民衆がいてこそ成り立つ。

その民衆の支持は圧倒的にロキ・ファミリアが上。つまり、正義を味方につけられるという意味だ。

 

尤も、ロキ・ファミリアには貴族を陥れるという野望を持つ者は皆無だ。ダンジョン探索ファミリア何だから当たり前である。しかし、だからと言って外に目を向けない事は無いのだ。

ダンジョン探索が出来る年齢の限界だってある。引退したらオラリオに居る者もいれば、オラリオ外に引っ越すものも居る。外に行くとき、やはりより良い環境になっていた方が良いに決まっているのだ。

 

リヴェリアはこのファミリアにこのまま席を置く事は無い。

リヴェリアの目的は世界の探索だ。エルフの里を飛び出してまで叶えたい夢。その為の足掛かりにこのオラリオは打って付けであった。だが、彼女はオラリオだけでは終わらない傑物だ。

 

それに(里を出た事)、若干の罪悪感はある。この様な問題が跋扈している事実はエルフの里でもリヴェリアが流した情報により対策等は建てられているが、それでもまだ誘拐はある。だから、多少なりともハイエルフとしての責務とはもう口が裂けても言えないが、同胞を助けるのは当たり前であるのだ。

 

だからこそ、この大捕り物、リヴェリアが参加しない訳が無かったのだ。

 

そしてレフィーヤにもこの世界の悪意を見せたいと思っている。

このロキ・ファミリアに居れば間違いなく闇討ちはある。リヴェリアだって一人で居る所を狙われるのは多々あった。その時に対応出来なければ話にならない。

 

何時までも守る事は出来ないし、リヴェリアの後釜にしようと本人は企んでいるんだ。ならば、これはそういった意味でも渡り船である。色々経験させるいい機会だ。それが良し悪し関係なくだ。

 

「まぁ、まだまだ雛鳥だがな」

 

レフィーヤの笑顔を脳裏で思い浮かべ、母性溢れる声でそう呟く。

ふとリヴェリアが気付くと、既に窓から差している日差しが赤味を帯びている事に気付いた。

ダンジョンに潜っていないのに、随分と濃い時間を過ごしたものだと、コウを見ながらリヴェリアは独り言ちる。

 

そして改めてコウを見る。

 

一言で言えば平凡である。顔もこれといった特徴は無く、各パーツも整ってはいない。

優しそうな寝顔であるが、野暮ったい所もある。体は鍛えられているのか、はだけた襟から見える胸板は引き締まっている。

 

これで美形であれば、女の一人はころっと落ちる様な雰囲気だが、やはり顔という物は重要なパーツなのだなと改めてリヴェリアは振り返る。

 

自身の美貌に自信はあるかと言われればそれ程ではない。と言えるが、自信が無いわけでは無い。ハイエルフなのだ、多種族とは一線を画しているとは思う。とはいえ今まで全く男の影は無く、またリヴェリア自身も興味が無かった為それは当然と言った所だ。

 

勿論、求婚やリヴェリアの身を狙った輩は掃いて捨てる程(実際に掃いて捨てた)居たには居たが、そんな事をしてくるタイプは全く眼中に無いので、今ではリヴェリアは気にもしていない。

 

そもそもハイエルフなのだ、許嫁の一人は居ても可笑しくない。が、その籠を破り外へと旅立ったのだ、今現在は居ない。もし里へ帰ったならば、今度こそ逃がしてなる物かと速攻で婚姻を結ばれる事になるのは想像に難くない。これでも王女なのだ。だが、エルフの寿命を考えればまだまだ代替わりには程遠い、まだまだ世界を旅する我儘が通ってもいいだろうというのがリヴェリアの意見である。そも、戻るつもりもないが。

 

しかし、恋愛か。と夕日が差し込むオラリオの温かい風景を窓越しから見て考える。

 

コウには恋人が居たという事は、コウの外面ではなく、内面に惹かれたという事でほぼ間違いが無い。

ただリヴェリア内での評価は高いが、それでもロキが感じためんどくさい男という感覚もある。

頭の回転が速くない中で、適切な回答をする際には返答を伸ばすという手法がある。まさしくその通りにしているのだろう。なにせ、抱えている技能が特殊過ぎてその気持ちは分かる。だからこそ、めんどくさく感じるのだろう。ロキ・ファミリア内で良く接する彼らとは違うタイプである。

 

そこまで考え、コウの近くに寄り、膝たちをする。

すーすーと規則正しい寝息をしているコウを見ても、やはり何の高揚感も高まらない。

 

「……確かに、ロキの言う通り蔑ろにしたままでは悪い、か」

 

ふっと息を吐いて、今までの事を振り返る。圧力、無礼、怪我。今までヴァリスを稼ぐために様々な依頼人に会ってきたがこれほどまで蔑ろに扱ったのは確かに、初めてである。コウの性格上それを徒に外部へ漏らすという事は無いだろうが、このままにしておくのはロキ・ファミリアとしてプライドが傷つく。

 

「そう、だな。そうだ。これはロキ・ファミリアの為……」

 

じっとコウの寝顔を見て何をしようかと考える。膝枕や添い寝は却下。というより、自ら却下しておいてそれがバレた場合のロキの顔を思い浮かべるだけで間違いなく、不利益が起こるだろう。

そもそも、あの悪戯神の言う事をそのまま実行するのも癪である。

 

腕を組みその深緑の最高級の魔法生地がふんだんに使われた厚いローブとマントに覆われた着痩せタイプの胸を持ち上げつつ、うむむと考える。

 

そもそも男性が女性にされて喜ぶ事とはなんだ?

簡単に考えれば肌の接触が多ければ多い程喜ばれる傾向にある。しかし、それを許す程リヴェリアは安くない。

 

しかし、しかしである。今までの落ち度は間違いなくあるし、報酬も破格どころか、ファミリア創設から関わってきたリヴェリアでもこれ程の条件の依頼は今までも無いし、そしてこれからも無いだろう。

 

フィンの失態は団の失態でもある。これを団員が雪ぐのは何ら問題はない。

そこにリヴェリアの私情は挟まなくていいのだ。

 

そうだ、リヴェリア・リヨス・アールヴ。これは団の為なのだ。

 

行け、いくんや! リヴェリアたんいくんや! うちらの為にも、いくんや!!

 

そんな声が頭の中から聞こえて来た。

 

「ええい! うるさいぞロキ!」

 

何故か知らないが緊張し高揚した感覚のまま、ロキが出て行った出入口を睨みつけ怒鳴る。

が、そこには誰もおらず、閉められたドアがあるだけであった。

 

―――――何を緊張しているのだ

 

そう思った矢先に、寝ているコウから呻き声が聞こえた。

それにはっとし、静かにコウを見るリヴェリアだが、まだ目を瞑っており、起きた気配はない。

 

心の中で安堵し、頭を撫でる位ならいいかと、その顔に似合わず完璧なキューティクルの繊細な黒髪の感触を確かめる様に、少し緊張しながらコウの頭を撫でる。

 

意外にさらさらだな。という何処か抜けた感想を抱きながら優しく撫でるリヴェリア。

そんな中コウが少し撫でられている手に向かって身じろぎし、口を開いた。

 

「……ヴィ、ヴィアン……」

 

夕日に照らされたコウの瞳から一筋の涙が目元を通って落ちていく。

まるで時が止まる様な感覚をリヴェリアは覚えた。コウから漏れた名前はコウの恋人の名前。

まだ彼女が死んでから幾ばくも経っておらず、涙を流さないと誓ったとは言うが、やはりまだ心の傷は癒えてはいないのだろう。

 

「……まったく。世話がやける」

 

そんな零れた涙を指で掬い取り、目元をハンカチで拭うリヴェリアの表情は、優しく、柔らかい女性の表情であった。

 

因みに起床した際に絶世の美女が眼前に居たため、コウは泡を食ったのは当然といえようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日が差し掛かったオラリオの情景が綺麗にその瞳からフィンの中へとするりと入り込んできた。

人通りも夕食の準備に出かけた帰りなのか、人が頻繁に行き交い、フィンに握手やサインを求めてくる女の子たちを相手しつつ、その歩を止める事は無かった。

 

いつも通りの光景だが、それはやはり夕日というアクセントがあるからこそ、世界は幻想に見える。

いや、世界が絶えず変化して行くからこそ、世界は美しいのだ。神々も見た目は変わらないが、心が変わればまた見え方も変わるのと同じだ。

 

そんな事をとりとめもなく考えながら目的地の前に付いた。いまだ閉店のプラカードが扉に掛かっており、まだ開店していないのは明らかだったが、それに構わずフィンはその扉をノックした。

 

「はーい。ごめんなさいね。まだ閉まっているんです。開店は夜の、ってこれは、フィン・ディムナさん!」

 

がちゃりと扉から出て来た一人の女性給仕。美しい薄鈍色の髪を後ろで纏めそこからぴょんと一房の髪が流れ出ている。その髪からチラチラ細い首筋から見えるうなじが彼女を雅に見せる。種族はヒューマンでその体は女性の起伏が自己主張している美少女、シル・フローヴァである。

そんな彼女が扉の前でにこにことした表情で立っている有名人に声を上げ、後ろで掃除している他のその誰もが美少女だが、そんな彼女たちの視線を集めた。

 

「やぁシルさん。ちょっとミア母さんと、リューさんに用事があってね。今大丈夫か聞いてきて貰えるかい?」

 

フィンはちらりとシルの後ろを見て、自分の名前を呼ばれたからか、視線をフィンへと向けている一人の薄緑色の髪のエルフを見た。

 

「その必要はないよ。……はいんな」

 

店の奥からぬっと姿を現した一人の大柄な女性。ドワーフだがその体躯は大きく、その実力は計り知れない。

ミア・グランド。フィンがノックした店「豊饒の女主人」の店主である。

見かけ通り豪胆な性格をしており、姉御肌で従業員からの信頼は厚い。そんな店主がフィンの姿を見つけ、そして案内した。

 

「お邪魔するよ。ミア」

 

そうしてシルが扉から一歩引いてなるべく土汚れを持ち込まない様に一応玄関前でぱぱっと手で汚れを払ってから入室する。気遣いが出来る男はモテル。

 

「それからリューも、そこの席に座んな」

「はい」

「ここで話すのかい?」

 

こくりと頷く薄緑髪のエルフ、そのエルフこそフィン達が話題に出したエルフである。切れ目の蒼い目だがきつい。という印象ではなく、研鑽された一種の美しさがそこにはあった。その研ぎ澄まされた美に清涼な薄緑色の髪は彼女を引き立て、美しく飾っていた。エルフ故にシルと比べると慎ましい体つきだが、それでも女性の起伏があり、色気というより、美しいと称した方が似合っている。

 

その彼女はミアの言葉に反応し、ミアに指定された酒場のテーブル席に静かに座った。

 

だが待ったを掛けるフィン。あまり大っぴらに話すのも好ましくないという判断で待ったを掛けたのだ。

 

「なんだい? ここでは話せない事なのかい? それなら、うちじゃなくてもいいんだけどね?」

 

フィンがリューを指定したという事でミアの警戒心は上がっている。これがミアだけの用事であったなら何ら問題ないが、リューはこの豊饒の女主人の一員。いわばミアの家族なのだ。その彼女が指定された事は彼女の過去に関係があると十中八九そう予想が出来る。

 

故にこの場で話せない事はこのミア・グラントが許さないという意志表示を込めている。

それを読みとったフィンは両手を上げ降参のポーズをとり、大人しく席へと着いた。

 

「それで、どんな要件何だい?」

 

最後にどがりとリューの隣に座ったミアを確認しつつ、後ろで聞き耳を立てながら働いている給仕を見やると、いつものメンバーである事を視界に収め、ふぅと息を吐きだして口を開いた。

 

「率直に言おう。リューさんを三日程貸して貰いたい」

「……」

 

敵わないと知りながらも、フィンへとプレッシャーを掛けるリューであるが、ミアが手で抑える。

 

「内容によるよ」

 

そんな息が詰まりそうな空間の均衡をいち早く破るミア。

 

「ミア母さんっ」

 

それに慌てた様に声を掛けるリュー。自身の過去に付いての事だとアタリを付けているのだ、フィン達の協力もあり過去は事が進んでいた部分もあったが、それはそれだ。今は身を隠しているのだ。有名人の傍に居ること自体、避けたいところだ。

 

「なーに、【勇者】(ブレイバー)が下らない事でうちの娘に声何て掛けないはずさね。なら、事情を聴いてからでも遅くはない」

 

そんな事を思っているであろうリューを力強く安心させる様に見るミア。

リューが身を隠している……いや、偽っている事はフィンも知り得ている。だが声を掛けたという事はそれ相応の事柄があるのだろうと予想を立ててるのだ。

 

それに常連でもあるのだ、無碍にはしたくない。

 

「わかり、ました」

「ごめんごめん。話を早急に展開しすぎたね。簡単に言うと僕らが受けた依頼に協力してもらいたいんだ」

「……ロキ・ファミリア内で対応出来ない事を私が対応できるとは思いませんが」

 

ロキ・ファミリアはファミリアトップの片割れ故にそのファミリアが出来ない事は他のファミリアでも出来ない可能性が高いのだ。彼らの幹部は全員がレベル5の第一級冒険者。第二級のリューに声を掛けるのは不自然だ。

 

「あー……こちらも身内の恥じとは言わないけど、万事が万事、完璧な状態で迎え入れられなくてね」

「歯切れが悪いね。何が言いたいのさ」

「つまりは、人手が足りないってことなんだ。今回の依頼は」

 

そしてフィンは軽く説明する。今ファミリアで動けるレベル4上位以上の実力者は二人しかいないという事を。

後の残りは全員ダンジョンで稼いだり、クエストをこなし小遣いを稼いだり、自己の鍛錬だったりと殆ど出払っている事を正直に話した。

 

「なるほどね……あまりファミリアも空けられないから、ね。……そんなに今回の依頼は破格なのかい?」

「うん、断言できる。今後一切このような破格の条件は無い。だからこそ、遂行できる彼女を誘いに来たんだ」

「なら、私では無くて他の方達も私と同等の実力者です。彼女たちを選ばなかった理由は?」

「リヒト君が関わっている案件……であったなら?」

「っ!?」

 

リューが治安活動でお世話になった先輩の名であった。別ファミリアであったがその中でも屈指の実力者であったリヒトはその情報網、交渉術、戦闘力、判断力を加味すれば次期団長と声が上がっていた程の傑物。

 

その背中をリューは見て育ってきた場面もある。ただ彼には目標があったとの事で事情を話さずファミリアを出て行ったのだ。その理由は別ファミリアだったから分からないが、そのファミリアも昔大打撃を受け現在は解散し、主神はリヒトが残っているが故に外の世界へと旅立っていった。

 

同じ治安系であったため、リヒトの事は良く知っていたし、依頼で共に行動したこともあった。

 

ファミリア内からは揶揄いの声がリューへと上がっていたが、そういう恋心ではなく、その在り方に一つの目標を見出し、良くその背中を追いかけていたのだ。また、リューもレベルが低い頃に何度かフォローしてもらった事もそれに拍車を掛けている部分もある。

 

「その彼が最期に残していった情報を元に彼と懇意していた人物が僕たちの所へ来てね、その彼のサポートが今回の依頼なんだ」

「最期って……リヒトさんは亡くなったのですか!?」

 

ガタリと椅子を荒々しく引きながらリューはフィンを見る。その焦燥が感じる視線を受け、そして無慈悲に頷いた。

 

「ああ、そしてこれから話すのはリューさんにとって辛い事かもしれないけど、聞いて欲しい」

 

そうしてフィンはリヒトが残した誓約書の内容を話す。彼も犯罪を犯してしまったのだと。

自分が追っていた者達と同じことを犯してしまっていた事を。

 

「そう、ですか」

 

力なく椅子に座るリュー。昔の事だが尊敬していたのだ。だからこそショックであった。

 

「それで、どんな依頼内容なんだ?」

 

力なく座るリューを見やり、すこしそっとしておこうとミアは話を進める為フィンへと声を掛けた。

 

「リヒト君が追っていた……リヒト君の母の救出と、その雇い主の捕縛・討伐の依頼さ」

「えっ」

「……穏やかじゃないね。それはつまり、給仕として雇われていたのかい?」

「表向きはね」

 

腕を組みフィンはミアと少し再起動したリューを見やる。

 

「元々は依頼主だけで討ち入りをするつもりだった筈だけど、色々彼も経験したお陰か、この件で繋がったうちのリヴェリアを通して依頼してきたんだ。万全を期すためにね」

「はぁー……それほど給仕を雇っているわけだね」

「ああ、リヒト君が齎した情報によれば間違いなくね」

「つまり、その雇い主は貴族かまたはそれに準ずる権力の持ち主ってことかい」

 

奴隷商でも給仕何て殆どいない、いや、彼らはそもそも女性を商品としてみるのだ、自分の商品に傷なぞ付けないし、そもそも彼らにとってはそれらを踏み台にし、さらなる高みの物をお金で落とそうとしているのだ。

 

勿論、全員ではないがそれでも金銭的価値を落とすのは商人として愚の骨頂だ。

 

つまり集まるとしたらその計り知れない財力があるか、バックボーンに大きい何かがあるか、権力が集中しているのか、いずれかである。そして権力と財力は表裏一体。故にミアは予想が建てられたのだ。

 

「その通り。ギルドからの討伐・捕縛命令も出ている。もう既に彼らは詰みの状態だ。けど、僕たちの依頼主の人生が色々曲がった原因が元を辿ればその貴族にあると認識している。良くも悪くもね。そしてそれは間違いではない。だから、彼は、彼の人生に於いて一区切りをしたいのだろうね。その手助けさ」

 

片目を閉じて語るフィン。脳裏に描くはあの平凡な青年の顔。ありふれた物語、しかしその当事者にとっては辛い経験だ。だが、彼は立ち直り、前を見据える為に最善を選択したのだ。フィンはそこに少なからず敬意を抱いている。

 

そこまで語ったフィンを見るリューの瞳には輝きが戻っていた。

そしてリューはミアを見る。ミアはその視線の意味を理解し、頷いた。

 

「わかった。リューは貸そう。この娘も乗る気だしね。これはあんたの所に貸し1とするよ」

「勿論。何時でも僕たちに声を掛けて欲しい。ただ、まぁ。少しはお手柔らかにお願いしたいね」

 

この傑物の貸しはいずれ大きな物となりそうだとフィンは思ったが、これ程までリューの中のリヒトがウェイトを占められていたとは思わなかったフィン。だからこそ、今は自分の提案が間違いじゃなかったと安心していた。

彼女も少し、前へと進められればそれでいいのだ。そう思い、うっすらと笑った。

 

だがリューの中では確かにウェイトは占められていたが、フィンの中の認識と少し違う。

リヒトという人物の背中を見るのをやめる、一つの切っ掛けになるのだと、自分の中で過去の彼の背中と決別する機会になるのだと、リューはそう決意したからだ。

 

もう、リューは追う者ではないのだと、ここで決別したかったのだ。

 

「それは、あんたら次第さ。じゃあ、リュー。事が終わるまで休暇だ」

「ありがとうございます。ミア母さん」

 

何処か決意を秘めたその瞳に、ミアは少し安心した。

 

「ちょっと待ってくれないか。今日ここに小遠征のメンバーで飲みに来るから、その時依頼主の給仕を付きっ切りでリューさんにしてもらいたい」

 

フィンの提案に、怪訝な顔をするミア。リューは眉をピクリと動かしただけだが、見る人が見れば怪訝な顔をしているという表情だ。

 

「なんだい、どうして?」

「あー……色々此方で不手際をしてしまってね。謝罪も込めてサービスしてもらいたいんだ。それに、リューさんも彼の人となりが分るし、どうだい?」

 

フィンにしては珍しく気まずい雰囲気を出しながら、何処か視線を外し罰悪くそう言った。

 

「らしくないね。まぁ何をしたかは分からないけど、それも仕事の内さね。リュー。たっぷりとチップを搾り取ってやんなさいな」

「わかりました。それでは明日の何時ごろ出発でしょうか?」

「……それはこの場に飲みに来たら教えるよ」

 

フィンは言えない。依頼主に大けがをさせ、まだ寝ている事なんて、言えないと、だからこそ、時間も決めあぐねているとは言えない、と。フィンは冷や汗を垂らしながらリューへ返答する。

 

「? わかりました」

 

そんな珍しい雰囲気を出すフィンに疑問を抱きつつ、了承した。

 

「あまり詳しく依頼内容はこの場では教えられないけど、間違いなく戦闘があるからそのつもりで準備をお願いしたい。食料等の物資は此方で全て用意するから、武器と身の回りの物だけ準備して欲しい。詳細は明日の朝……集合した時に伝えるよ」

 

そうして、用が終わったと言わんばかりに席を立つフィン。

 

「わかりました。それではミア母さん。準備があるのでお先に失礼いたします。ディムナ様も後程」

「よろしく頼むよ。リューさん」

「ああ。……フィン! うちの娘にあまり無茶させないように。わかってるね?」

「はは。それは大丈夫だよ。メインは依頼主が請け負うからね。僕たちはそのサポートさ。難しい事じゃない」

「どうだか……」

 

そうしてミアも立ち上がり、それぞれ三人は各々の目的の所へと足を運んで行った。

 

それではまた後程にゃー!という言葉を背にフィンは片手を上げて店の外へと出て行った。

すっかり夕日に包まれ、人通りも少なくなってきた通りを歩き、フィンは黄昏の館へと足を動かしたのであった。

 




誤字脱字等ありましたらご指摘下さい。

リューさん誘う理由が弱いかな……ぶっちゃけ遠征時に留守になるから空けても全然問題なさそうなんだけど、でも原作中に闇討ちが頻発するって言ってるし、新規冒険者受付の為、幹部連中の何れかは遠征時以外、余り空けないんじゃないかなーと思っているのと、タイミング悪すぎて人材不足とレベル6二人も付いて来ると一瞬で終わってしまうのもありましたのでご容赦を。

……いや、仕事中に突然舞い込んだネタなんですけどね……

あと、リヴェリアのコレジャナイ感が半端ない。もっとスマートにしてくれると予想しているんですけど、中々難しいですわ。


3月26日少し改訂。
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