ダンジョンで幸せを探すのは間違っているだろうか   作:モーリン

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12話

 

 

「うぅ~……頭が痛いです」

 

ガラガラと仕立ての良い馬車が平原に延々と伸びる少し舗装された街道を、散らばっている小石を蹴飛ばしながら軽快に走って行く。

 

雨にも対応出来るようにテント型の荷馬車をコウが率いて(馬を手繰れるのがコウしかいなかった)コウ、リヴェリア、リュー、レフィーヤの一行が小遠征へと赴いていた。

 

昨日の飲み会はフィンの中では成功だと思っていた。特にリューに対しては大成功と言っても過言ではない。

酒は人と人との潤滑油とはよく言ったものだが、正直ここまで上手く行くとは思っていなかったほどだ。

 

 

コウを信頼たる人物……とまでは行かないが、それでも信頼は出来そうな人物まで持って行ったのは一重に、コウの性格や人格もある。

 

レフィーヤは若干コウに警戒心を抱いているが、彼女の師匠であるリヴェリアがコウを評価しているので、それを信じてコウを信じているといった具合だ。

 

飲みであまり絡められなかったフィンの落ち度であるが、これはリヴェリアに心証操作を任せるしかないだろうと思っているし、そも、メインはリューであったのだから、ここまで出来ていれば上出来だとフィンは判断する。

 

それに、そこまで上手く出来ないと当初は思っていたのだ、ならばその結果に不満は抱かない。

 

そうして二日酔いのレフィーヤを叩き起こし、二日酔い薬(遅効性)を飲ませ、今回の依頼をリヴェリアから説明し、朝に出発と相成った。

 

彼女の準備は既にリヴェリアが済ませており、むしろ移動時間でも勉強という事で、魔導の蔵書を持ち込んでおり、時間の無駄をなるべく省きたい彼女の性格がにじみ出ている。

 

リューは小太刀を携帯しており、そして外様恰好。……口元を隠し、深くマント型のローブを着用し、上はコウと同じ綿のシャツにショートパンツ。そしてロングブーツを履いており、太ももまであるロングブーツと、ショートパンツの間の絶対領域が眩しい。

 

レフィーヤは冒険者用の格好で質の良い繊維により一応防刃効果もあるが、恰好がミニスカートで、そこから伸びる脚は長く、白いガーターストッキングにガーターベルトを履いており清楚の中に色っぽさもある。

 

コウは冒険者の体自体が頑強な鎧の様に成長するので、こういう服装でダンジョンに潜れるんだなと感想を浮かべた。視線は太ももだったが。

 

リヴェリアは当初と同じ格好で一番魔法使いっぽく見え若干の安心感を抱いたコウ。

 

王室仕立てのその服でどれ位のお金が動くのだろうなと俗物的な考えを抱いたのは不思議ではあるまい。

しかし、若干ちらりとそのリズムを刻むように黒タイツに包まれた太ももが見えるものだから、これはこれで良いなぁとコウは胸中で独り言ちる。

 

かくいうコウはロキ・ファミリアから貰った胸当てを絹のシャツの上から装備し、黒のパンツ、革のブーツを装備しているだけであり、誰がどう見ても駆け出しの格好であったが、しかし腰に下げている剣は今は黒い鞘で見えないが、鞘から見える柄は黄金に輝いており、誰がどう見ても業物だと確信が持てる。

 

フィンとリヴェリアは特に疑問を抱かずにコウを受け入れたが、集合場所に集まったリューとレフィーヤはその剣に驚きを隠せなかった。なにせ村人Aみたいな見た目なのだ。つまりは平凡。それと不釣り合いなのはコウは百も承知だが、昨夜寝る前に投影しておいたとっておきである。

 

そして集合場所に来た時に最も驚いたのはコウであった。まさかリューとレフィーヤがパーティーに参加するとは思わなかったのだ。しかし、あまり言い触らす事でもないし、人が多ければ多い程有利だし、自分の目的の為に道を開けて貰えればそれで良しと考えているコウにとっては、些細な問題であった。

 

本来であれば酒場でそういった説明をすれば良かったが、酒場では誰が聞いているか分からない。

冒険者でも悪に手を染めている者が居るかもしれないとの事で、コウもあまりその話題には触れない様にとフィンに言われていた通りその話題は出していなかったのだ。

 

互いに自己紹介をし、リヴェリアがレベル6、リューがレベル4、レフィーヤがレベル2という事を教えて貰い、コウはこの人たち素の自分より遥かに強い(白目 と内心驚きを隠せず、レフィーヤは少し心配だが、リューとリヴェリアに関しては全く心配していない。

 

コウの心情的にはあまり前線に出てもらいたくないし、怪我をして貰いたくないという思いはあるが、彼女たちも(レフィーヤ除く)それを覚悟でこの場に居るのだ、その意志は尊重したい。というよりレベル0の自分が彼女たちの心配をするのもおかしな話だと思い、リヴェリアにコウの実力はレベル4位だと説明され、一応レベル0とはバレていない。少し罪悪感はあるが、しかしレベル0がバレると色々めんどくさそうなのが本音なので、この依頼が終わるまでは隠していたいのがコウの意志である。

 

因みに今のコウはレフィーヤですら魔法を使わずに負ける可能性を秘めているのは内緒であった。

 

「まったく……飲み過ぎだぞレフィーヤ」

 

陽が遮断され影になっている少し広々としたテントを張った荷車はそれでも馬一頭で引っ張れる程の大きさしかない。そんな奥にレフィーヤはタオルを枕にして、全身に悪路の洗礼を受けつつ、その頭痛を少しでも癒していた所、呆れる様にフルフルと頭を抱えながらリヴェリアは注意した。

 

「だって仕方がないじゃないですか! 急にこんな、っ……たぁ~……」

「それについては謝っているだろう。少し特殊な事情なのだ。本番は明日の夕方か夜に遂行する予定だ。それまでにしっかり治しておくように」

 

魔導書は見せない方が良いなとちらりと衣袋に無造作に居れた書物を思い浮かべ、ふぅと息を吐いた。

 

「は、はい……」

 

吐きそうになりながらも、乙女として例え好みじゃない男性の前だとしても、口からリバースをする訳にはいかないのだ、乙女のプライドに賭けて。

 

「ご安心を、野盗やモンスターが現れようとも、外のレベルはダンジョンのそれより低い、私一人で十分です」

「コウも居るしな、レベル4の実力を持つ強者が二人も居ればファミリアでも人数次第で中堅に十分に入れる程の戦力だ」

 

そもそもこの世界の冒険者の平均は1~2の間だ。その大多数はレベル1。死なず、努力し、研鑽を重ね、そして何より運が良いものがレベル2へと到達するのだ。レベル3からまた少なくなり、レベル4なぞ一国の軍を率いる長でも問題ないレベルでレベル5は英雄に片足突っ込んでいる様なこの世界では人外の実力。そしてレベル6はそろそろ英雄に肩までつかりそうな、その個人で軍隊と張り合えるんじゃないかなっていう位、一般人は笑うしかない。そしてレベル7はそろそろ英雄譚(オラトリア)に出演しますね。という訳分らんレベルなのだ。

 

ロキ・ファミリアの戦力が異常なだけで、通常のファミリアはレベル2が団長で後はレベル1が大多数だ。

そこで副団長をしているリヴェリアのレベル6は正直、一国を奇襲でなら落とせるクラスだ。

故にこれは過剰戦力なのは間違いない。そして魔力ならリヴェリアに追随するクラスのレフィーヤ。

 

だが相手もさることながらレベル5を内包している団体だ。正直何処かに戦争を仕掛けるための戦力と嘯いていた方が通りがいい程、その警備は厳重だ。故に油断はしてはならない。それに『給仕』の救出もある。

 

「リヴェリア様も同伴されているとなると、それ程の相手なのでしょうか」

「いや、討伐対象だけであれば正直、私とコウでいくらでも料理が出来る程だ」

 

ざっと資料に目を通しているリューはレベル5の冒険者とレベル3複数という戦力に過剰になり過ぎている節があるのではと、内心疑問を抱いている。そしてそれはリヴェリアも同じ意見であったが、今回は少し趣きが異なっているのだ。それを説明するリヴェリアはレフィーヤにもしっかりと聞くようにと、声を掛けつつ説明した。

 

「それでは私はレフィーヤ様と一緒に人質を?」

「いや、レフィーヤは私と共にだ。私はサポート、メインはレフィーヤだ」

 

寝ながら聞いているレフィーヤを見るリヴェリア。

 

「ええ!? そ、そんな! 相手はレベル3もっ、てて……」

 

がばりと起き上がってその蒼い瞳を不安と驚きに揺らすが、直ぐにゴブリンが棍棒をもってレフィーヤの頭を叩いた位の痛みが彼女を襲った。二日酔いは急に動くと頭が痛い。これは真理である。

 

「レフィーヤの魔法でならレベルが3であろうが、レベルが5であろうが、相手を倒せるだけの魔力がある。……アイズに追いつきたいのだろう? それ位の事をやって見せねば、到底追いつけないぞ?」

「む、むむ……わかり、ました」

「安心しろ、この私がサポートに入るのだ。自信をもって行け」

「はい……」

 

やれやれとレフィーヤの自信の無さを改めて実感するリヴェリア。学区を卒業した時点でレベル2という才能あふれる彼女であったが、冒険者にとって度胸は養えなかったとみる。正直、この程度でへこたれる位では深層なぞ足を踏み入れられる事は出来ない。あそこは常に死と隣り合わせだ。正直まだ対人の方が生存の可能性がある。相手を説得したり、自分を売ったりと様々な交渉が出来るが、モンスターとは一方通行。しかも突然壁から出現するのだ、気を休む時間すらありはしない。

 

冒険者は冒険してはいけない。そういう教えが冒険者の中にある。しかし、それは至言ではない。

冒険者は時に冒険しなくてはならないのだ。自分の冒険を。そうしなければ器を、自分の限界を破れないのだ。

その冒険をする際に重要なのは思いの強さ。それは度胸とも言える。

 

故に今回の依頼である程度度胸が付かなかった場合、リヴェリアはスパルタ特訓を課そうかと企んでいる。

それほど彼女に期待をしているのだ。あれは化けると、リヴェリアはそう分析している。

 

なにせレベル2でありながら付けられた二つ名が【千の妖精】(サウザンド・エルフ)

その由来は最後のスロットに発現した魔法【エルフ・リング】

エルフの魔法であれば消費魔力は増えるが、詠唱とその効果を把握しているという条件があるが、全て使えるというコウの魔法に勝るとも劣らないレア魔法だ。リヴェリアが駆使できる魔法は階位を利用し九つ。

しかし異常だ。通常は三つしか使えないという法則が当てはまるのに、この二人だけはそれが当てはまらないという常識外の存在。そしてリヴェリアはハイエルフ。その膨大ともいえる魔力を繊細に、且つ精密に扱え、魔法に於いてこの世界では誰よりも前に進んでいるその二つ名は、畏怖と尊敬を込め【九魔姫】(ナイン・ヘル)

 

ただ、恐らく魔法の扱いに長けるという点では今後リヴェリア以上の者が現れるとなると、それはもう英雄譚に登場する魔法使い以外あり得ない。それほどまでに至っているのだ。

 

勿論、リヴェリアはレフィーヤをココで失う位ならスパルタ特訓を選択する。故に何が起ころうと大丈夫なようにエリクサーも一応携帯している、が、これはレフィーヤには教えていない。緊張感を持つ事に意味があるからだ。

 

「レフィーヤ様。今から気負いしますと本番で体を動かせなくなります」

 

小太刀を取り出して打ち粉を刀身に軽く叩くように当てながら、拭い紙で噴いた粉を研磨剤に見立てる様に磨き、更にそこから油を取り出し、丁寧に塗って行く。そんな刀の手入れをしながらリューは不安を感じているレフィーヤに一言アドバイスをした。

 

「わ、わかりました。何とかリラックスしてみせます」

 

ぐっと拳を作るレフィーヤをちらりと見て、小太刀の刀身に塗り残しが無いか、光の加減で確認しつつ、その小太刀を鞘へと戻していった。キンッと子気味の良い音が荷車に響いて、ことりと刀を置き、レフィーヤへと正対した。

 

「……剣は何故鞘に仕舞うと思いますか?」

 

そうして置いた刀をまた持ち出し、レフィーヤとの間にことりと置いた。

 

「えと…危ない、からでしょうか?」

 

レフィーヤも少し回復して来たのか、リューへと座りながら体を向けた。

 

「はい、勿論その意味が強いでしょう。ですが、武芸者はまた違った意味があります」

 

そして置いた刀を持ち上げ、すらりとその鞘から引き抜き、太陽の光の下へ、そして照らされた刀身はまるで産声を上げるかの様に煌めいた。その煌めく刀身を見つめつつリューは口を開いた。

 

「覚悟です」

「覚悟……」

 

その言葉と共にレフィーヤはその煌めいている刀身へ確かめる様に視線を向けた。

 

「この一振りに私達の覚悟が込められているのです。相手を打倒する、立ち向かう、その時その時で色々な覚悟があるでしょう。ですが、抜身の剣は雨風に晒され、直ぐに錆び、朽ち果てるでしょう。……その覚悟を果たせずに」

 

何処か思い出すように、刀身を見ているのに見ていない、そんな宙に浮いた少し厳しい視線でリューは続ける。

 

「だから鞘に入れるのです。この覚悟を晒していたままだと、直ぐに果ててしまいます。その刀身を休めさせるのです。そして……」

 

リューはレフィーヤに目を向け

 

「人も、同じなのです。ずっと気を張っていれば何れ何処かで折れてしまいます。人は、そこまで強くない。だからこそ、この刀を振るう時と同じように、その時までその身を休ませなければならない。……幸い、貴女にはきちんと手入れを行ってくれる人が傍に居る。だからこそ、貴女は輝ける。その輝きを、失ってはいけません。なので、今は力を抜き休んでください。貴方が輝く場所はここではない筈です」

 

そうして煌めく刀を鞘へと戻し、ことりと、元の位置へと置いた。

 

「すみません。少し、語り過ぎました」

「い、いえ! その、ありがとうございます! あの、改めまして……その、レフィーヤ……レフィーヤ・ウィリディスです!」

 

そうしてレフィーヤから手を指し伸ばされる。その手を見てエルフの彼女を見て、そんな今はどうでもいい慣習を思い出しながら、リューはその手を握った。リューが手を握るとぱぁぁっと花が咲いたような綺麗な表情をするレフィーヤに、クスリとリューは表情を緩め

 

「リューです。……リュー・リオン。諸事情によりリオンという名は公に出来ませんが、こんな私で良ければ、今後ともよろしくお願いいたします」

 

その光景を見ていたリヴェリアが内心驚く。あのリューがレフィーヤにここまで心を許すとは思いもよらなかった。これも昨日コウに絆された結果なのだろう。つくづく、昨日の宴会は意味のあったものだと、リヴェリアは思った。

 

「こちらこそです! あの、様何て少しむず痒いので、呼び捨てで構いませんよっ」

「わかりました。では、レフィーヤと……ええ、この名前は非常に好ましい」

 

ふわりと綺麗に笑う彼女にレフィーヤは少し自分の尊敬する彼女と重ねてしまい、時間が止まった。

 

「……ふぇっ!?」

 

再起動し、ぼんっとまるで爆発したかのように顔が赤くなるレフィーヤにリヴェリアはたまらず笑ってしまい、リューもそれに釣られ、小さく笑い、リヴェリアに頬を膨らませていたレフィーヤもまた、笑った。

 

 

 

 

 

「……楽しそう、だな……」

 

美人な女性にこの役をやらせる訳にもいかず、更に御者もコウしか出来ないとなると、どうしようもない。

コウはその背中から感じる温かい笑い声に情景を抱き、呟いた。

ひゅるりとつむじ風がコウを揶揄いつつ、その零れた恨めしい声を乗せていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、目的の近くに街がある事を地図で把握していた一行は、コウが一人寂しく馬を手繰り、半日より少し駆けてその街へと着いた。周囲は夕日がすっかり顔を出し、ふわりとした街の情緒を映し出していた。

 

そんな中美少女と美女をしかも飛び切りな女性たちと一緒に歩いているコウは物凄く逆に注目されており、ちがうんだ、ちがうんだよぉ……という内心もう泣きたい位な思いで、宿屋を取る。勿論部屋は二部屋だ。

大きい部屋に女性三人。小さい部屋にコウ一人である。

 

夕食をその宿屋で取り、女性部屋に集合という号令がリヴェリアから掛かったので共同シャワーを浴びた後、同じような服に着替え、すごすごとコウは女性部屋へと出頭していった。

 

コウが扉を開けるとそこには各々のベットに座っている美姫達。旅の服装とは違い、既に寝巻に着替えており、レフィーヤはほのかにピンク色のシルクのローブを彷彿させるしっとりとした寝巻。滅茶苦茶寝心地よさそうで羨ましい。

 

リューは恐らくノーブラのタンクトップにショートパンツを履いており、その長い脚が眩しく、さらに横から見ると色々と見えそうでコウは絶対に隣には座れないと思った。感情的には物凄く座りたいが。

 

そして、リヴェリアは純白のネグリジェの様な薄手の生地という大人の色気ムンムンさせる非常に寝やすいが男を招くときに着る格好ではないと断言できる。というより、普段肌を全く晒さない美女が肌を晒すのに妙に興奮を覚えるコウであった。

 

更に。既に匂いが違う。もう、なんか同じ生物なのに性別違うだけで何でこんなに匂いが違うのだろう。と、そんな感慨を浮かべながら良い匂いを体感しつつ、座る所がベットしかなかったため、彼女たちの横に座れるはずもない。

 

とりあえず扉付近に立っていた所、リヴェリアが自分のベットの上をぽんぽんと叩いた事により、リヴェリアが寝るであろうベットになるべくリヴェリアの方へ視線を向けない体を出しながらその視線をちらちらとその肢体に注ぎ、顔を若干赤くし浅く腰かけた。それに疑問を浮かべるリヴェリアが、今回の作戦を話した。

 

リヴェリア、というよりフィンとロキ三人で決めた考えはコウとリューが陽動とメイン。レフィーヤとリヴェリアが奴隷確保という二手に分かれるという堅実な作戦を展開してきた。相手の力を、考慮しているが、地理条件等を把握していないからこそ、地に足を付けた作戦が非常に有効なのだ。

 

だが、それにコウは待ったを掛けた。

 

「正面は私一人で、お願いします」

 

先ほどのスケベ心は既に何処かへ仕舞い、真剣な目でリヴェリアを見る。

見た瞬間にやはり出てきてしまうスケベだが、なるべく理性で抑え込んだ。

 

「コウ。お前が強いのは承知だ。だが、お前を危険に晒す行為はしたくない」

 

何処か余裕のある思考で、コウはリヴェリアさん。貴女は肌を男に晒さないでください。ヴィヴィアンに抓られます。と胸中で独り言ちたが、それらを完璧に引っ込めコウは口を開いた。

 

「これは元々私が一人でやろうとしていた事。故に正面は私だけでお願いします。これは意地ですね。あの人が一人でやろうとしていた事をこの人数でやるのです。だから、一番危険な事だけは、私に……俺にやらせてください。その為の切り札です」

 

そうして黄金の柄を覗かせた鞘を叩き、にひるに笑うコウ。

隣のリヴェリアが腕を組んで逡巡するが、直ぐにため息を吐き、リューへと視線を向けた

 

「そこのリューも、リヒトと縁がある。昔世話になったそうだ……リューはどうなんだ? コウの提案で」

「却下ですね。いくらレベル4でも、レベル5相手に一人で勝てる程、相手も甘くないでしょう。それに、私も彼が与えてくれた恩に報いたい。これが最後のチャンスであれば、譲る気もありません」

 

同じく腕を組んで両目を瞑っているリューに即座に却下される。

リューも断固として引くことは無いと宣言した。

 

そして、リヴェリアも神妙な顔を作り、口を開いた。

 

「……この問題はエルフ族の問題でもある……レフィーヤには少し辛い現実かもしれないが……」

「どういう……?」

「レフィーヤさんが想像している以上に、人身売買は闇が深いってことですよ」

 

コウが肩を竦めながらレフィーヤにそういう。

 

「気をしっかり持つ様にするんだ。心の揺れが油断を生み、隙を作る。そこに付け入れる輩は多い。今は難しいと思うが、将来必ずこういった壁に当たる。その時の為の経験として割り切る事も必要だ」

「わかり、ました」

 

少し不安そうにリヴェリアを見るレフィーヤだが、ぽんぽんと頭を撫でられ、何処か安心したように破顔した。

 

それを見たコウは彼女たちも色々と問題を抱えていたのかと実感し、リューの想いを無碍に出来る権利も無い為、仕方がないかという気持ちと共にリューを見て頭を下げた。

 

「それでは、俺と一緒に行動を宜しくお願いいたします」

「こちらこそお願いします」

 

互いに礼をし合う二人。それを見ていたリヴェリアは一つ提案した。

 

「そちらはそちらでどう動くか話し合っていた方が良い。此方は此方で当日の動きをまとめる。明日の作戦前に互いの動きを確認し、突入という格好で動こう」

「そうですね、そうしましょうか。それではリューさん、狭いですが俺の部屋で作戦会議をしましょうか」

「わかりました」

 

リヴェリアのベットから立ち上がり、外へ出ようと思った所、コウは何かに気付きすぐ後ろに来ていたリューを見る。未だにタンクトップのままで、やはりノーブラであった。

 

「あの、リューさん……体を隠せる物を身に着けた方がいいですよ?」

「? 何故ですか」

 

何だこの天然ちゃん。どうなってやがる……とコウは戦慄を覚えつつごほんとわざとらしい咳払いをした。

 

「ごほん。……あのですね。綺麗な女性がそんな恰好でいくら室内と言えど、まだ寝静まっていない時間帯です。当然他の人も居ます。……例え、貴女が気にしなくても俺が不快に感じるんですよ」

「……わ、わかりました。……あの、少し外で待ってて貰えますか?」

 

顔をさっと朱に染めるリュー。それに少しドキリとするコウだが、まぁそういう事はあり得んと脳内が瞬間冷却され、出て来た言葉は極めて平坦であった。

 

「ええ、それでは」

 

そうして扉を開けて外へと出るコウを見送るリューはコウの言葉で確かにその通りだと思い、正直コウが最後の方に何か言っていたがリューには届いておらず、綺麗と言われた事に若干思う事はあったが、それよりもなんとふしだらな事をしようとしていたのか恥ずかしくなったのだ。こそこそと纏めた荷物からローブを羽織、そそくさと退出していった。

 

そんな様子をリヴェリアは前途多難を心配するような息を吐き、レフィーヤは何故かコウに若干の対抗心を燃やしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは互いに何が出来るか、確認しましょうか」

 

コウが宿泊する小部屋で一応椅子があったのでそこにコウは座り、リューはコウのベットへと腰を下ろした。

厳重にローブで体を守ってコソコソと来たリューの顔が赤かったが、少し失礼な事を言ってしまったかな。とコウは心配になったが、それよりも今後の方針を立てなければ、短い付き合いであるがリヴェリアが何を言うか分からないので、取り合えず第一声をコウが発した。

 

「私は、小太刀を用いた近接をメインに、魔法を使えますので、どちらかと言えば中距離タイプですね」

 

元と付くが冒険者として当たり障りの無い返答をするリュー。今回の依頼ではコウの補助が中心な為、そこまで情報を話す必要はないとリューは判断している。それはリヴェリアの様子や話しぶりを見ていれば十分にそう予想できるし、コウから齎さられた情報でもそう判断できる。

 

レベル5はコウが相手をする。というのは恐らく譲らないだろうが、レベル3を最低1人か2人とレベル1~2の元冒険者を多数受け持つことになる。どちらが危険かと言えばはっきりとレベル5を受け持つ方が危険と断言できる。低レベルが束になろうと、高レベルを覆すのは至難だからである。コウがそれを相手にするという事は、レベル5にも勝てる何かを持って居るのだろうとリューは判断している。リヴェリアはコウが負けると微塵も思っておらず、レフィーヤの経験を積ませる為にフォローしに来たという節も見受けられる。

 

つまり、相手はほぼ詰みに近い状態だ。ここから挽回する事はまず不可能。

覆すのであればレベル5の冒険者最低二人は欲しい。しかし、レベル5の冒険者は世界に極僅か。更に、第一級冒険者で貴族とつるむ様な者は更にごく少数だろう。

 

ここで夜襲が無ければ此方の動きに追いついていない可能性が高い。まだ油断は出来ないが、恐らくリューは今回の依頼はそこまで苦戦はしないかと思っている。ただ懸念材料はただ一つ。レフィーヤがこの夜に襲われ、攫われる可能性が残っているという事だが、いくら後衛だろうがレベル6を出し抜ける暗殺者が居れば、それはリューレベルの実力を有しているといっても過言ではない。

 

それほどレベル6という事実は規格外なのだ。特にリヴェリアの場合は並行詠唱で攻撃しながらでも魔法を出せる規格外。マジックアイテムを使われればその限りではないが、それでも出し抜くのは難しいのだ。

 

「魔法、といいますと。例えばどのような?」

 

コウは冒険者ではない。というよりそこら辺の常識は疎いと言わざるを得ないし、前世のゲームからの知識では誰が何を出来るかを把握する事こそ、成功につながる。コウの魔法の場合は神からの特典というこの世ならざる物であった為秘匿せざるを得ないとコウは思っているが、他の魔法に付いてはそうは思っていない。

 

「……カブラギさんは……レベル4相当の実力を持つとリヴェリア様が仰っておりましたが、本当でしょうか?」

「……と、いいますと?」

 

リューの双眸が若干懐疑的な色を帯びた。

 

「レベル4という事は5年前後は最低でも冒険者として従事している筈です。通常他ファミリア……まぁ私は元、とつきますが、自分のステータスを公開する事はありません。ギルドに公表されるのは二つ名と偉業、そして戦績など、本人のステータスには関係ない情報です。これは冒険者の常識なのです」

 

しまったと、コウは内心思った。

この世界の冒険者は情報を公開しないとコウは知らなかったのだ。

 

「……別に、貴方の人間性を疑っているという事ではありません。人には言えない過去を一つや二つ持って居るのは致し方が無いでしょう。貴方の強さもリヴェリア様が嘘を付くメリットが無いのでレベル的には4である事は間違いありません。実際にリヒトさんを倒したという事は、私も貴方に負けるでしょう。ですがレベル5を倒せると確信は持てません。……私は、貴方が傷つく事を目の前で見過ごす事はできません」

 

懐疑的な色から、真剣味を帯びた色に変化したリューの双眸はしっかりとコウを捉えていた。

リューはリヒトの強さを知っている。レベル4でも下手すれば5を下せる能力があった。それにリューも幾度か助けてもらった事もある。だが、相手はレベル5になって数年も経っている。つまりリューの最後のリヒトの能力より強いと判断するのが妥当だろう。もしかしたらステータス更新を行っているかもしれないのだ。

 

そうなった場合、二人で力を合わせれば恐らく打倒する事が出来るだろうが、それは最初から二対一の想定である。もしかしたら二対十という事になるかもしれないのだ。

それ故にリューは心配したのだ。コウという人間はリューにとって好ましい。それは恋愛感情ではないが、友人として、道を照らしてくれた人として好ましい人だと思っている。そんなコウが目の前で傷つくのはリューにとって見過ごせる事ではないのだ。

 

「……リューさん。貴方は優しいですね」

 

コウの当初の予定としてはロキファミリアの面々が人質を確保している間に、一気に殲滅させ捕縛するという形を取るつもりだった。これは自分の能力がこの世界とミスマッチ故、異端だと思ったからだ。レベルの概念を覆すという破格の能力だとコウは思っている。

 

しかし、彼らの優しさでコウはそれの秘匿に悉く失敗していた。

 

彼の甘さもある。この好条件なのだ、自分の能力を追求しない。見ない。見たとしても秘匿する。破った場合の罰則等、そういった条件を依頼に盛り込めばよかったのだ。しかし、コウはそれをしなかった。その事にコウは疑問をもっていない。それをしたら人と触れ合う事が少なくなるのは必定だ。

 

寂しかったのだ、コウは。

 

いくら立ち上がれたと言ってもコウに残った傷は大きい。故にコウは自然に無意識のうちにそれを求めていたのだ。人と触れ合う事の暖かさを知っているから。生きて行くという事は人と触れ合う事だから。

 

「私は、優しくなんてありません。……それよりも、貴方は何者なのでしょうか?」

 

コウにそう言われたリューは過去の出来事を少し思い出し、それを否定した。

だが、今は感傷に浸っている場合ではないと、リューは流れそうになった話題を切り戻した。

 

そして問われたコウ。

純粋にコウは何者なのかを問いただしているようで、そこに悪意などは無い。

正直言っていいもんなのかどうなのか判断に迷うコウだが、明日は共に敵の前に立つのだ。

ならば信頼を此方から見せるのが筋という物だろう。何の条件もなく依頼したのはコウなのだから。

 

「……結論から言うと、俺のレベルは0です」

「……は?」

 

一瞬時が止まったと思ったら、リューのプレッシャーで強引に止まった時が動き出した。

反射的にコウは身体能力強化を行い、身を強張らせその額から冷や汗を垂らした。

 

「カブラギさんはふざけているのですか?」

「い、いやいや! 一応フィンさんと手合わせして評価された強さなので、レベル4の強さは本当です!」

「戯けた事を……いえ、確かにリヴェリア様はカブラギさんのレベルは4とは言っておらず、レベル4程度の強さと仰っていましたが、そういう事だったのですか……」

 

リューの体から滲み出るプレッシャーに辟易しながら自分の強さの評価がレベル4という根拠を話すコウに、更にプレッシャーを増していったが、そういえばと、リヴェリアが話したコウの話にレベルに関する事は強さ以外で、レベルを明言していなかった事に気付くリューは、そのプレッシャーを霧散させた。

 

だが、それを信じられるかと言ったらリューは信じれないと断言できるだろう。

レベル1差でも絶対的な能力の差があるのだ、それが恩恵を受けていないという爆弾はリューの想像を斜め下に全速力で駆けた位の答えだ。

 

額に手を当て困ったように考え事をするリューは、少しフェアではないがコウの能力がレベル4である要因を聞き出さなければ眠れないと判断した。

 

「すみません。先ほど他の冒険者の情報を安易に話すのはナンセンスと言った手前で非常に恐縮なのですが、出来る事ならあなたがレベル4の実力を発揮できる根拠を教えて頂きたいです」

「あ、わかりました」

 

そうしてコウは腰の上等な剣を魔力へと返し、そしてミスリル製の刀剣を驚いているリューの目の前で投影した。

そのまま固まっているリューの後ろにある窓を開き、リューの肩を叩き、コウへとふらふらと視線を向けたリューを確認し、あらかじめセットしてあった刀剣を、砲弾の様に外へと射出し、見えなくなる寸前に投影を解除した。

 

それを数十発、時には三本同時や、方向性等を変えて射出しながらリューに自身の身体能力がレベル2程度である事と、刀剣はこの数百倍は投影しても大丈夫だという事を説明していった。

 

その説明を聞いていたリューの乾いた双眸からは何も伺い知るこが出来ない。地に落ちた堕天使ルシファーが、神の意を解せない様に。

 

「……っとまぁ。俺の能力はこんな感じです。後は色々手札があるのですが、申し訳ありませんが教える事が出来ません」

「……これに、まだ手札があるのですか?」

 

その瞳が徐々に色を持ち始め、リューが呆然としながらコウを見た。

その双眸は乾いてなかった。

 

「はい。このままだとレベル4の実力ですが、切り札を一つ切ればレベル5も打倒できますので、それを使う予定です」

「もはや、何でもありですね……」

 

リューは何となくコウが能力を隠そうとした理由が分かった。これはつまり、鍛冶屋が見れば泣ける能力であり、さらに悪用もできる能力でもあるし、この世界では異常でもあった。故に知られると非常にまずいという事を理解できたリューは頭を下げた。

 

「申し訳ありません。私の我儘を受け入れて頂き、ありがとうございます」

「全然大丈夫ですよ。俺はリューさんを信頼して話したし、全てを話した訳ではありませんから。それに、リューさんの優しさに報いたいのもあるのです。だから頭を上げてください」

 

コウにとってみれば、この位の情報で満足してもらえれば御の字だと思っている。

魔剣も投影できる何て言った暁には何が起こるか分からないし、その情報自体下手しなくてもクロッゾの魔剣を所持している以上に魔剣を渇望している者達にとって重要な情報でリューに迷惑が掛かる場合がある。

 

それは絶対にしてならないとコウは確信している。故にどれだけ信頼していようが、これは話す訳にはいかないのだ。更にその上の宝具何て、この世界で早々に情報を与えてはならないと思っている。

だが、いずれバレるという事だけは覚悟しておかなければならなないと思っている。

 

人命と自身の情報を天秤に掛けるならば人命に決まっている。もしリューが危険な状況になっていたらコウは間違いなく出し惜しみはしない。もう、この手から零すのは、絶対に嫌だからだ。故に、リューならばここまで話しても問題ないと思っている。

 

「そういう訳には行きません。私も貴方のリスクに報いたい。そうしないとフェアじゃありません」

 

だがそうは問屋が卸さないのはこの難儀な性格をしているエルフの美女であった。

これは通常であれば、ありがとうございますの一言で事が終わるはずなのだ。

 

過去に無償で、まるで贖罪の様に様々な問題を解決した事あるリューは自分だけが得をしている状況を良しとしない。故に、コウに背負わせたリスクに対し報いたいと思ったのだ。

 

「それでは、明日のレベル5の相手は俺でお願いします。リューさんも思う所があるかと思いますが、ここだけは譲れません」

「それは構いません。私も貴方がそれを譲るとは思っておりませんでした。しかし、それとこれとは別です」

 

やめてええええ、綺麗な女性に報いたいなんて言われると邪な考えしか来ないから!

と、表面は真剣に話を聞いている体を出しているが、内心漸く蓋をしたそのスケベ心がその蓋の間隙から滲み出てくるのをコウは実感した。

 

――――これは、早急に終わらせなければならない

 

脳裏でヴィヴィアンが良い笑顔でコウを見ている映像が浮かび上がる。

 

「そ、それじゃあ。豊饒の女主人に来た時にリューさんが接待してくれれば全然大丈夫です。ええ」

 

すこし滲み出た欲望に足を取られながら故に、リューに接待を頼むという若干下心が見え隠れするその要求にリューは首を傾げた。

 

「そこで食事をとるのであれば、私の職務上当たり前なのですが」

「し、指名です! リューさんがいいのです!」

 

欲望が腰まで回ってきた所でそれを振り切るようにコウは前世でのキャバの経験上、指名制度があると思い至り、これを活用した。

 

「……それでいいのであれば、貴方を接待します。ミア母さんにも話しておきます」

 

どこか納得していないリューであったが、リューは渋々納得した。

それにほっとするコウはヴィヴィアンを裏切らなくて済んだと思った。

……しかし、コウは慌てていた為一つだけ見落としていた。

 

職務であれば、ミアにその話を通す必要はないのだ。

 

それに気付いたコウは後悔やらありがたいやらの複雑な感情を抱くのはまだ先の話である。

 

「それでは、互いに納得した所で話を進めますか」

 

そうして少し近くなった二人の間に、屋敷での動きをどうするか確認していった。

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字等ありましたらご指摘をお願いいたします。

レベル4という認識なのにレベル0と言われたら俺だったら切れる自信ある。
命掛かってんだぞこっちはぁ! って感じに。
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