ダンジョンで幸せを探すのは間違っているだろうか 作:モーリン
「くく……やはり、エルフの女はつくづくいい女ばかりだ。まぁ、ワシにとってはもちっと肉付が良ければ文句は無いんだがなぁ……」
三日月が浮かぶ夜空をワイングラス片手で窓から仰ぎ見る小太りの壮年の男。
バスローブを着ており、寝室だろうか、広々としたその部屋を明るくさせるシャンデリアに、壁の一面に大きな窓を備えられた場所で、男はそのグラスを月を肴に傾けていた。部屋の中にある大きなベットに黒髪の長い耳に何一つ衣服を身に着けていないエルフの女性が、息も絶え絶えで、時折その拘束具で捕らえられた体を大きく痙攣させながら、仰向けに天井をその焦点の定まっていない涙で塗れた虚ろな双眸で虚空をみていた。
ベットの傍らには、様々な玩具が液体で塗れており、魔石灯でその淫らな輝きを示していた。
「おい」
パンパンと、男は手拍子をすると扉から男二人が入ってきた。
「その女を牢獄に繋ぎとめて置け、まだ反抗的だからな。……じっくりとワシが教育せねばなるまいて」
にやりと、醜悪に笑うその顔に厭らしく笑う男二人は、疲れ果てている女性の体を荒々しく掴み、部屋を退出していった。一応、まだ教育が終わっていないエルフ故に、男たちは手を出さないだろうが、牢獄に繋がれているエルフの何れかは一晩中寝れないだろうと、男はそう思うが、それで良いと思っている。
この男以外が扱うエルフの女は全て用済みなのだ。男からしたら興味がない。
この男は反抗的なエルフを従順にさせるという事が趣味であるのだ。
故に、あの反抗的な黒髪のエルフにはまだまだたっぷりと教育せねばならんと、今後の教育方針を脳内で建てていた。
この男こそ、コウ達のターゲットである。
表向きは職業斡旋として自分の館の給仕という名目だが、その実は奴隷の調教やそこから娼婦の斡旋等も一部仕切っており、この男から莫大な金と上等な女が役所の高官やカジノへと派遣され、女はその身を売っているのだ。
そしてそのどれもが美しいエルフ。
エルフは基本的に長寿であり、美を長期間保つという利点がある。魔法を使うのは恐ろしいが、恩恵を受けていないエルフを御するなど、冒険者を多数抱えているこの男には殆ど通用しない。そも、魔法を使うのは相当な集中力が居る。何度も失神させるような激しい調教を続けていれば、魔法を唱える気力すら無くなるのは想像に難くないし、もし発動しようとしても、番の兵士が牢獄を監視している。
故に魔法発動までに彼らが追い付き、魔法を発動しようとすれば懲罰房へと連行され、一晩中悲鳴を他の奴隷が聞く事となり、その気力を下げていた。故に反抗は少ないのだ。
「ぐふふふ……次はどんなエルフを調教できるか……」
そんな思いを馳せていると、大きなノック音が男の鼓膜へと響いた。
「なんだ、騒々しい。入れ」
慌てた様に入ってくる元冒険者の警備兵。男の姿をみて、口を開いた。
「し、侵入者です! 男女一名づつの恐らくレベル4前後の強さの冒険者です!」
「何!? 冒険者だと……いや、分かった。奴とレベル3二人を向かわせろ」
レベル4前後の冒険者に泡を食いそうな勢いで報告した男に食い掛りそうであった男だが、瞬時に冷静になった。
とりあえず出来る事は彼らを撃退する事、もしレベル4二人だった場合、この戦力で均衡、もしくは若干の有利である。以前、リヒトという男に辛酸を舐めさせられた覚えがあるが、そこから更にレベル3を増やしたのだ。
「牢獄のレベル3のお二方は……」
「いや、奴の判断で投入を決めろ。事、戦闘に関しての嗅覚は奴の方が優れている」
「わかりました!」
そうしてすぐさま駆けていく背中を見ながら、男は眉を寄せて舌打ちをし、宝物庫へと歩いて行った。
「さて、一通り倒しましたが」
貴族の館のメインホールは静まり返っていた。バルコニーがあり、天井にはシャンデリアが複数ある大部屋にて、呻いている警備兵が倒れ伏しながら散乱していた。誰一人として死んでは居ないが、骨は何箇所か折れているのは明白で、あまりの痛みに気絶している者が殆どであった。
コウ達一行は夕食前の時間帯に襲撃を掛けた。正面はコウとリュー。裏手からはリヴェリアとレフィーヤ。リヴェリア達はリヴェリアが前でレフィーヤが後ろという形で裏から奴隷の開放及び、警備兵の撃退。その後にコウたちの援護という流れだ。リヴェリアが万一にも抜かされる事は無い為、レフィーヤの双肩にコウ達の援護への時間が掛かっている。そこに僅かな不安を抱くリヴェリアだったが、レベル3程度が何人集ろうが、後ろへ通す事は無いと思っているので、後は自分の叱咤でレフィーヤを動かすしかないと胸中思いながら、リューとコウに補助魔法を掛け、レフィーヤを伴いゆったりと別れていった。
彼女たちが急いでもメリットはない。奴隷解放が主なので、なるべく穏便に事を済ませた後、道中の敵を撃破するのが理想だ。故に気配を悟らせずに移動をしているのだ。
別れたリューとコウは正面から堂々と警備兵を蹴散らしながらこのメインホールへと赴いた。
赴いたとは語弊であった。丁度良く戦闘が出来る場所がたまたまこのホールであった。
ロキファミリアの修練場より一回りは大きく、天井は低い。各部屋に繋がっており、バルコニーから先は廊下へと繋がっているのか、その大きさは計り知れない。
「ここで、戦っていた方が間違いなく良いですね。下手に奥へ行って罠等に誘導されるよりは良いと思います」
コウもその剣を下ろしながら隣のリューに向かってそう言葉を掛けた。
その剣は
その剣を見た面々は驚きを隠せなった。一目見ただけでわかる大業物のオーラを感じ取れるからだ。
そして、その深い蒼い刀身を作戦前に見たリヴェリアはなるほどと、思った。
これがコウの切り札と。
そしてリューも確信する。あの刀剣と打ち合える剣は多くは無い。実際一級品の物で漸く打ち合えると言ったレベルの業物なのだ。転がっている相手の武器を見ればその切断力を伺い知ることが出来る。
まるで何の抵抗もなく武器が斬られたような、不自然な程滑らかな切断面。
そしてそれを操るコウの技量は一線を画していた。間違いなくリューは自分では勝てないと確信を持てる程だ。
レベル2程の身体能力と伺っていたが、何処からどう見てもレベル4のそれもリューと同じ様な動きである。
それでいてまだ剣を射出していない。つまりは剣のみでリューを打倒し得る能力を今発揮しているのだ。
「ひっ、ひいいいい!?」
気を失っていた警備兵が気を取り戻したのか、リューとコウを見ながら後ずさりしていった。
それを倒そうかと思ったコウは足に力を入れるが、その前にバルコニーの奥の廊下から、少し軽い調子の声がメインホールに響いた。
「おいおーい、なんだぁ。ひ弱そうな男と……ヒュー。いい女のエルフじゃねぇか」
ぬらりと奥から姿を現し、バルコニーの手すりから姿を現したのは身長がコウと同じくらいの男。
刈り上げられた白い頭髪に、目元にタトゥーが入っているのか、稲妻型の紅い色の模様が右目を貫くように施されてあった。身を守る物は手足以外付けておらず、漆黒の衣服をひらりと着こなしている。そして、その手足には黒いレッグガードが覆われている。
獲物は大鎌。全長2,5Mはある長い大鎌の柄を肩を組むかのように軽々と持ち、二人を見下ろし、リューのその眼と太ももを見て口笛を吹いた。
その傍らに、先ほどコウ達が倒した冒険者とは一線を画した男二人、一人は素手、一人は短剣を二本装備した身軽な戦闘を熟す警備兵であった。共に簡易的な胸当ての下にはスーツを着ており、少しちぐはぐ感を出している。
「ギルドからこの貴族の討伐・捕縛依頼が発行されております、そこをどいて貰えませんか?」
コウが心にもない事を鎌を持って居る男に向けて声を発する。
「お前馬鹿だろ、ギルドがどう動こうが俺達を突破するのは至難だぜ? なんせオラリオ以外はレベル2がせいぜいだからなぁ! つまり、その警告は意味ないってこった。そもそも、そんなことを気にしてうちの旦那を護衛してるやつなんざいねぇよ」
こきこきと首の骨を鳴らしながら、ぴょんと軽く跳躍するようにバルコニーの手すりを乗り越え、3M以上はある高さからスタリと、着地する。他の二人も追随し、油断なく得物を構えた。
「つまりは、ギルドに弓引くという事と捉えても?」
「まぁ、そういう事だ。おれぁ戦いと女を楽しみたいだけだぜ? ま、そこの女を渡せばお前は助けてやってもいいけどよぉ?」
にやりと厭らしい笑みをリューに浮かべる男は、そのリューの肢体を舌なめずりしながら上唇を濡らした。
「戯言を、虫唾が走る」
絶対零度の温度でその男に言葉を返すリュー。その反応にヒューと出て来た時と同じ口笛を鳴らした。
「ひゅー。おれぁ気の強い女は好きだぜ?」
けらけら笑う男に合わせる様に冷たい笑みを浮かべる相手の二人の男。
コウとリューが思い描いた通り、彼らはレベル3であろう。そして大鎌を持った男がレベル5だ。
その様子を観察していたコウは剣を構え、その身に湖の騎士の経験をフィードバックさせた。雰囲気が一変するコウに、ピクリと男が反応した。
明らかにこの男は出来る。と、瞬間的に男は悟ったのだ。
「おいおーい。なんだ、そこの男も良い剣持ってるし、楽しめそうじゃねぇか……どら、いっちょ試してやろうかね!」
リューの反応が一瞬遅れる程の速度で突っ込む男に、コウは完璧に合わせた動きで、彼の大鎌を絡み捕らえ、弾き返し、一気に懐へと潜り込んだ。
「あめぇ!」
驚異的な身体能力でコウが繰り出した突きの攻撃を半回転して避け、その回転を乗せコウへと回し蹴りが襲い掛かる。大鎌の特性上、絶大な威力を誇る斬撃と読み辛い間合いが武器であるが、懐に入られると非常に弱い。
それを分かっているからこそ、体術は鍛えに鍛えたのだ。
空を裂くほどの蹴りがコウの後頭部を襲い掛かるが、それをひらりと体を傾けて避けるが、大鎌の柄がコウに襲い掛かり、その剣で受け止め、大きく間合いが空いた。
「さて、あんたは俺たちが相手だぜ!」
リューへと向かって飛びかかる男たちに、小太刀を構えながらそれらを迎え撃つリュー。
レベル5の男の体術は脅威だ。この二人を早急に片を付けてコウの援護に向かわねばと、胸中思いながらひらりとリューは男たちの攻撃を躱し、追撃する素手の男の鳩尾を蹴り、短剣の男の斬撃を片足の跳躍のみで躱す。
吹き飛ばされた男はガードが間に合っており、にやりと笑みを浮かべ、リューへとまた襲い掛かった。
二人の攻防を受けているリューを尻目に、コウは態勢を立て直し、レベル4に迫る身体能力で踏み込んだ。
その速度に完璧に合わせる様に、振り回していた大鎌をまるで弧を描いた月の様な軌跡を描きながら、間合いを詰める事を許さない男に、コウはもう一つの手札を切った。
「――――――
「――――憑依経験、共感終了」
「――――
「―――
ずらりと並ぶ、27本の蒼く光り輝く剣群をその男へと一気に大砲の様に射出した。
木霊する鞘から剣を走らせた様な射出音が部屋に啼いた。
「んな!?」
さしものレベル5も初めて見る剣群の砲弾に、驚き声を上げる。
しかし、それでも叩き落すように動きつつ、抜けて来た剣を柄と足で全て防ぐように動いたのと同時に、コウは剣の影から姿を現し、その体に一閃を叩きこんだ。
「しゃらくせぇ!!」
薄皮一枚の所で強引に身を捻り、僅かながらの出血を許す男に追撃と言わんばかりの空中から体を捻った兜割で男に襲い掛かる。
男の鎌の柄とコウの剣が凄まじい衝撃音をまき散らしながら、その床を蜘蛛の巣の様に床がひび割り、その力に耐え切れず完全に割れていた。
防がれた剣を軸に宙でバク転しつつ、その隙を剣群でカバーするコウ。ふわりと着地し、消えるような速さで射出された剣を背負うように姿勢を低くして男へと駆ける。
「はっ!」
されど、男もレベル5。その大鎌の重さを物ともしない素早さで全ての剣群を月影の軌跡で叩き落し、コウの剣を絡めとり、巻き上げた。
「もらったぁ!!」
ガラ空きになったコウの身体に向けて剣閃を走らせるが、その大鎌の起動を読んで下から上へと剣を射出し、その軌道をずらし逆に一歩踏み込み、横薙ぎへ剣閃を放つコウだが、それを上体を逸らし鼻先を掠める様に避け、返す刀で繰り出されたコウの一撃をバク転で距離をあけ、迫りくる剣群を全て宙で鎌を回転させながら叩き落した。
「……おもしれぇじゃねぇか。おめぇ名前は?」
「……名乗る程でもありません」
コウは既に27本の剣をセットしながら油断なく構える。さすがのレベル5。最期のリヒトには負けるが一息で勝たせてくれる相手ではない事を認識した。
「おいおい、まぁいいけど、よ!」
そうして床が陥没する踏み込みでコウへと踏み込んだ男は流れるようなまるで舞うように連撃を繰り出す。
コウはその全てを見切りながら、少しづつ男へと踏み込んでいった。
絶え間なく響くその剣戟音は僅かな時間に何十という音を発していた。
しかし、その激しい剣風に見舞われている中でコウは相手を良く見て、そして狙っていた太刀筋の鎌を剣先で捉え、絡めとるように受け流した。そして放たれる蒼い軌跡を描く剣閃。
「うぜぇ!」
このままでは今までより深く入り込む剣閃を物ともせずに、四股を踏むように床が蜂起する勢いで踏みしめた。
館全体に響くような、巨大な石を爆破したような籠った轟音が響き、コウの足場が蜂起したまらず距離を空ける。
しかし、手ごたえはあったと、思いながら土煙が立ち込む空間へと、剣群を間断なく打ち込んでいく。
「
明らかに、先ほどの男と比べ物にならない程の力で剣群をその一薙ぎで吹き飛ばし、先ほどとは違う赤く光った双眸でコウを見ていた。
「俺にこいつを使わせるのはお前で二人目だぜぇ?」
にたりと笑う男の傷から出ている血液が全て魔力と化して男へと還元していた。
「身体能力強化?」
コウはその眉を寄せ、男を油断なく見た。
そう、見ていたのだ。
「そのとーり」
ぞくりと警告に従ってコウは上体を屈めると髪を掠めるように男の剣線がコウの頭上を通った。
明らかに注視していた男が掻き消える様にコウの横へと躍り出ていたのだ。
屈めた姿勢のままコウは後ろを見ずに剣を振るい、その力にコウの身体は吹き飛ばされた。
「カブラギさん!」
リューの心配するような声が聞こえるが、それに反応出来る程余裕はない。
吹き飛ばされたコウに追随するように男は接近し、未だ宙に居るコウに向かってその鎌を振り下ろすが、コウも湖の騎士の経験をフィードバックしている。それを体を捩じって避け、吹き飛びながら距離を空けつつ、待機させていたランクが限りなく低い宝具の剣群を叩きこむ。
「馬鹿が! もう通用しねぇ!!」
「
その勢いよく迫りくる剣をにやけながら迎え撃つ男の鎌が振り上げられた瞬間に目の前で勢いよく次々と剣が爆発した。
「があああ!?」
まるで花火の様に爆裂する破裂音の中に男の痛みに耐える様な声が張り上げられる。
顔面に直接爆撃を受けた男はたまらず吹き飛ばされ、体が弾かれるように転がり、壁へと勢いよく激突した。
「く、くそがああああ!!」
まるで野獣の咆哮の様にコウへと威嚇する男の顔は火傷で覆われており、流れる血は勢いよく魔力へと流れるが、火傷は魔力へと還元できない。
「ちくしょう……てめぇ、一体何者だ!?」
男は息を切らせながら油断なく鎌を構えていた。レベル5の自分にこのスキルを使った男の身体能力は間違いなくレベル6目前へと達していた。元々男の基礎アビリティはオールC以上。そこから更にスキルで加算され続けていき、アビリティでは限界の999になっている。つまりレベル6とも張り合える程なのだ。
しかし、それすらも寄せ付けないコウの動きと魔法。これ程の強さであれば風に噂が乗ってくるほどである。
が、男は何一つ聞いた事が無かった。剣を生み出し、射出し、爆発させる魔法なぞ、聞いた事も見た事もない。
「だから言ったでしょう。名乗る程でもない、と」
コウは冷静だが、それは湖の騎士の経験をフィードバックしているからだ。魔力が足りない為、そのすべてをフィードバックしている訳では無いが、それでもコウの戦闘能力を極限まで高めている。レベル0でレベル6の身体能力の男と打ち合えるのだ、脅威と言わざるを得ない。
だが、相手がこれ以上強くなるならばさすがに魔剣を顕現させる手札の一つを切らなければと思っているのだ。
それはこれ以上、湖の騎士の力を引き出せないからだ。
故に、宝具で一気に片を付けるのも選択肢だったが、なるべくなら切りたくない切り札。故にこのまま押し切りたいのがコウの本音である。そもそも、
「ふざけるな!!」
「がぁっ!?」
「ぐぅ!?」
そう吠える男の隣にレベル3の男達二人が勢い良く吹っ飛んできて崩壊しかかっている壁へと激突した。
「さて、王手ですね」
少し傷を負っているが、その顔には余裕を感じさせるリューが手の汚れを払うかの様にコウの隣へと並んだ。
魔石灯に照らされるリューを忌々しく見る鎌を持って居る男が、その表情を怪訝な顔にし、そして何かに納得いったのか、嗤い声を上げた。
視られて嗤われているリューはその柳眉な眉を不快感を孕みながら寄せた。
「ククク……いや、こいつぁ滑稽だとおもってよぉ! お前、【疾風】だろう!? 【疾風】のリオン!」
「っ!?」
顔を隠していたリューは何故バレたのか驚き、そのローブで更に顔を隠した。
「やっぱりなぁ! お前の戦闘は少し見覚えがあってなぁ……まぁその時は俺も弱かったから、てめぇは覚えてないかもしれねぇが、そうかそうか」
にやにやとリューを見る男。視線が外れたと思い、小さな声で隣の男達へと何かつぶやいた。
「リューさん、耳を貸す必要はないですよ」
「え、ええ」
しかし明らかに精彩を欠いているリューを押しのける様に前へと出て油断なく構え、そして男を遮る様に剣を男に向かって射出した。
「ちぃ!?」
回復を図っていた男の意図が読まれたのかどうかは定かでは無いが、その剣群は爆弾でもあるのだ、レベル3の二人を蹴飛ばし範囲外へと逃し、その身体能力で一気に距離を離し、リュー達が倒した警備兵の所へと移動した。
「っ【今は遠き森の空。】」
吞まれていた意識を強引に戻し、リューは魔法の詠唱へと入ったが、男が倒れている警備兵に鎌を突き立てその血を鎌から啜った。それに驚きの表情をするコウとリュー。
「
じわりじわりとその夥しい血が男……ディティトの体へと還元されていく。
赤い魔力がディティトの体へと蛇の様に纏わりつくのがはっきりと見える。
「貴方は、仲間を何だと思っている!?」
「あ? ただの礎だよ、俺にとってもお前にとってもなぁ?」
「っ!? きっさまぁああ!!」
ぶちりとリューの堪忍袋が切れる音が聞こえる。
そのリューにとっては許せない仲間への侮辱の言葉。こんな屑と一緒にされた仲間の名誉を取り戻すように、詠唱を中断し弾かれたように男へと颯のように駆ける。その姿に男はにたぁと厭らしい笑みを浮かべ、リューへと突貫した、そして一瞬でリューの懐に入り込み、その空いてる鳩尾をその拳で叩きこもうとした瞬間、コウの剣がディティトの拳の軌道を逸らした、が
「そらよぉ!」
それを見越していたかのように、ディティトは短く持った鎌の柄でコウを打ち据えた所、リューの攻撃が体に剣閃を叩きこむが、軌道を逸らされた拳で打ち払い、リューへと回し蹴りを放った。
「かはっ」
リューのその腹へと蹴撃を見まい、その肺に溜まっていた空気を根こそぎ奪うような衝撃をリューは受け、吹き飛ばされ、壁へと激突する寸前に、その体制を整えたが、勢いを殺せずに、壁へと激突した。
「リューさん!!」
流石にコウはリューの命の危機を感じ取り、その剣群を全てディティトへ向けながら切り込む。
「こいよ、俺は今レベル6だぜ?」
「
そうしてみるみる動きが最適化している事を刮目して見ながら、コウは射出した剣群を全て爆発させ、その土煙へと切り込んだが、鈍い金属音と共にコウの斬撃が防がれる。
「もう出し惜しみはしない」
「はっ! まだ出し惜しみしてたのかよ! だが、俺ばかり構ってられるかなぁ?」
そうして横を見ると傷ついているリューへと襲い掛かるレベル3の男達。
それをぎりぎり避けているリューだが、動きに精彩は無い。
「くあっ!」
ギリギリで男達の攻撃を防ぐリューの口から苦しそうな声が放たれた。
「ああ、いーこえだぜぇ」
「おまえ!」
そうしてリューを庇うようにコウは一瞬で作れる剣のその大半をリューへと襲い掛かる男へと正確無比に叩きこみながら、ディティトの攻撃を全て躱し、弾き、剣でカバーしていた。
明らかにディティトだけでは勝てないと本人も僅かながら認めている部分がある。
レベル6の動きを持つ自分に追随し、レベル3二人に襲われているリューの援護を同時に出来る傑物なぞ、何処にいるのか。故にディティトはにやりと笑う。それは純粋に今も激しく落ち合っている男に対しての称賛の表れであった。
「おまえすげーよ! 人の命を食った俺の力は今はレベル6! だがよぉ、その俺と後ろのレベル3の動きの牽制は、何時までもつかなぁ!!」
「っ!」
目まぐるしい死の軌跡とリューを庇いながら戦うコウは最早返答をする余裕はない。
魔剣を投影しようとも対個人の魔剣は無く、更に宝具での壊れた幻想等は自分すらも巻き込むし、傷ついたリューの目の前で爆発させることもできない。そうなればリューを傷つけてしまう。
手札を見せすぎた。そう思ったコウは後悔の念を抱いた。
それを見越して男は自分の間合いより一歩前でコウを殺そうと剣閃を走らせるのだ。
その一つ一つを絶技で往なすコウの能力は明らかにレベル6のそれであった。
「どうした、どうした! 手札を切らないのか!? それとも、切れないのか!? あの女を庇う為に!」
「っ!?」
男たちの攻撃をぎりぎり躱しているリューは痛恨な表情を浮かべた。
その通りであった。あの爆発があれば切り抜けられる。しかし、リューが爆発の範囲内に居るのだ。それを見越してレベル3の男達もリューから離れず攻撃を繰り返しているのだ、例え剣が掠めようともリューを嬲り続けるという事が、彼らが生きる唯一の道筋なのだ。そしてそれは先ほど男に言われた言葉。
リオンを抑えろという指示。
殺した場合間違いなくコウは手札を切る。魔剣の絨毯爆撃とも思える程の圧倒的な火力で全てを葬り去れる。しかし、それはディティトの策で潰されていた。
「あんな女何て庇う必要はねぇよ! あいつは何人もその手で殺してきた女だ! その私欲で、俺と同じ欲だけで人々を殺してきた! 指名手配までされて、のうのうと仲間の屍の上で生きて居る、ただの生き汚い哀れな女だよぉ!」
「だまれ!」
死の演武を舞いながらディティトはリューの秘密にしたい事をコウへと暴露した。
コウはそんなもんはどうでもいいと言わんばかりに吠えるが、リューは違った。
「ち、違う……私は……」
「リューさん!?」
完全に動きが止まっているリューに死なない様に拳を向ける男は、動きが止まったリューの身柄を確保しようと手を伸ばすがその手に向かって剣を射出するコウ。そしてリューを守る様にすべての剣群をレベル3の男達へと向けた。
「はは! 図星だったか! 同じなんだよ、俺とお前は! 人の死の上に立って生きてるただの殺人者だぜぇ? 恐らく俺よりあいつは人を殺してるぜ? なんで庇うんだぁ? お前が傷つきながらもよぉ!」
「……っ!!」
その通りだった、コウは身体能力で完全に負けており、その技巧が絶技であろうとも、絶対的な速度が違いすぎている為、徐々にコウの血風がその修羅の空間に舞い散るのは必定であった。だが、コウは諦めない。このまま諦めなければリヴェリア達が来る。そうすれば間違いなく勝てると確信しているからだ。
それをおくびに出さない様に、しかし、徐々に押されながら歯を食いしばりその痛みに耐え続けた。
「君達が冒険者かね?」
そんな修羅の空間に男の声が響いた。
声がした方向の奥の廊下から現れたのは小太りな男とそして
「……魔剣」
様々な種類の魔剣を携えた男達。
あれが自分の人生の中でいい意味でも悪い意味でも動かした男。
そんな一瞬意識を離した間隙にディティトはその鎌をコウへと向かって走らせた。
「おらぁ!」
「ぐっ」
神速の一振りをギリギリ防ぎ、とても金属音とは言えない程の轟音を立てながらコウはリューが呆然としている所へと吹っ飛ばされ、壁へと激突した。
「ぐううっ!」
しかし、痛みを引き釣りながらも、呆然と膝を着いているリューの前へとリューを庇うように出た。
視線の先には魔剣を構えている男達。絶体絶命であった。
「貴様達の目的はワシの捕縛か?」
先程から鳴っていた剣戟音は止み、そのメインホールには静けさが戻っていた。
にやにやと傷ついたコウ達を見る貴族の男がそうコウに問うた。
圧倒的な優位な為なのだろう、その余裕をぶん殴りたくなるが、魔剣を構えられて下手な動きは出来ない。
明らかにコウが投影して魔剣を開放するより早いのだ。
「……リヒトさんの母親を助けに来た」
「何? ……はは、はははははは! あいつのか! ははははは!」
堰を切ったかのように笑い続ける貴族の男とそして
「くくく、はははは! あいつの母親だってぇ? もう死んでるよ! とっくになぁ!」
「……は?」
ドクンとコウの心臓が脈打った。
「最後はどうだったかなぁ? 確か、くっせぇ便器のまま地上のモンスターに食わせてやったかなぁ?」
「いや、確か引き裂いたような気がしたぞ? ディティト」
「そうだっけかね旦那? まぁどうでもいいけどなぁ」
その戯言を受け、コウは急速に冷却される思考の中、一つの結論を弾き出した。
この世の中には殺しても問題ない人間が居ると。
「……お前たちの様な屑が居るから、リューさんが余計な罪を背負ったのだろうよ」
「あ?」
「っ」
不安に揺れる瞳でリューはコウを見た。
リューはディティトの言っていた事は事実であるのと同時に、彼と自分は変わらないのだと思ってしまった。
確かに、自分のファミリアが壊滅した際にリューは彼らの屍を踏み越えた。それは復讐する為であった。
そして殺しに殺した。その屍の上に今のリューは立っている。
だが自分は違うと思っていた、それを受け入れ歩ける足があるとコウに教えられた。
けど、それが崩れた。その歩いた先があの男と同じ汚れに満ちていると思ってしまったからだ。
そう、復讐とは私欲なのだ、たとえどんな理由があれど踏み越えてはならない一線なのだ。
あの男が強くなるために人を殺すのと自分が復讐する為に人を殺したのに何の差があるのか。
だからこそ、彼らの暴力を受け入れていたのだ。それでも必死に自分を守るコウを見て、足手纏いになっている事を自覚しながら、動け動けと念じても、彼女の身体は重い鉛を全身に付けられたように重く、コウが血だらけになる様をただただ、呆然と見ていただけなのだ。
そして、もう彼の、いや、彼らの隣に立てないと思ってしまったのだ。
リューの瞳に映るコウは底冷えする怒りを露にしていた。まるでそれが自分に向けられている様な錯覚にリューは陥っていた。
だがコウはリューに対して一遍も怒りは向けていない、ただただ、自分の贖罪が出来ない事と、リヒトの母を殺されたという理不尽な条理に対しての怒り。そしてこんな存在が居るから、心優しいリューが要らない罪を背負う羽目になったという理不尽な生き物に対しての、怒り。
だが、コウは驚いていた、案外冷静な自分に対して。
いや、納得したのだ。この世の中には殺した方が良い奴らが居る。という結論を弾き出した故に。
しかし、手は出せない。必ず来る彼女達かその必勝の機会を伺う冷静さがまだコウには残っていたのだ。
「リューさんとお前たちとは違う。リューさんはそれを受け入れ歩こうと抗った。けど、お前たちは違う。その死を見ようともしなかった。そんなお前たちとリューさんは違う!」
「何が? 見ても見なくても結果は変わらねぇんだよぉ? 違う? 違わないよなぁ? だって死んでるもんなぁ?」
確かにその通りだ、背負ったから、見なかったからといって死者は蘇らない。過去は覆らない。
「……結果は変わらない。けど、その心の強さは違う。そして受け入れたからこそ、見える物もある。お前たちと違ってな」
「ああ、そうかい。 まぁでも、もう見えないぜ? なんせ、お前は死ぬからなぁ…… なぁ旦那?」
この死生観に答えは無い。ディティトはそれで納得しているし、コウも背負う事で納得した。そこに貴賎は無い。何故なら結果人を殺したことに変わりはないからだ。だが、コウはその答えは、その答えだけは受け入れられない。
相手が居た事を殺した自分が何時までも背負い続け、覚えている事をしなければ、死んだ人間はただ、忘れ去られるだけだ。それは、あまりにも残酷だろうと、コウはそう確信しているのだ。
しかし、そんな事なんてどうでもいいディティトはバルコニーに居る貴族の男に目を向けながらそう投げかける。
「くく……まぁ、そこの女がワシの物になるなら、考えなくはないぞ?」
「っ!?」
このままでは二人とも死ぬ。そう思える程状況は絶望であったリューはその言葉に希望を抱いた。
隣の光を見せてくれた男をここで死なせるわけには行かない。そもそも、ここまで足を引っ張ったのだ、自分はどうなっても良い、けど、コウだけは助けてもらいたかった。
それに絶望に塗れた思考にはレフィーヤの笑顔とリヴェリアの顔がまだ残っている。
時間稼ぎ、そして最悪の場合を考え、リューはぽつりと口を開いた。
「私が……貴方の物になれば、彼の命は保証してもらえるのでしょうか?」
「っ!? リューさん!!」
「おっとぉ、お前は黙ってろ、これはワシとそこのエルフの会話だ……そのマントを外せ、女」
歯噛みするコウを尻目に、ふらりと立ち上がるリューはぼろぼろになったマントと口元を覆っていた布を取り払い、その素顔を貴族へと覗かせた。
その綺麗な素顔に血化粧が、そして至る所にある傷跡が月明かりに照らされ、貴族の加虐心を刺激した。
「素晴らしい……早くお前が啼く声が聴きたいわ。さぁこっちへ来い」
舌なめずりをしてリューの肢体を見る貴族は興奮に顔を赤くしていた。
そんな男に悲痛な覚悟を抱きながらリューはその重い足を一歩踏み出した。
そして、コウに遮られる。
「……なにを?」
「リューさん、宿で言っていた言葉……嘘だったんですか?」
油断なく血を滴らせながら構えるコウは左手でリューの行く手を遮る。
「早くしなければ、貴方を死なせてしまう……どいてください」
「駄目です。豊饒の女主人の彼女達を悲しませるつもりですか? 残された者の痛みを知っているあなたが、彼女たちにそれを享受させるつもりですか?」
「私は、貴方に酌が出来る程、綺麗な女ではありません。……店の、彼女たちには、お世話になったと、そう伝えてください」
そうしてコウの手を払い、その足を進めていった。
「くくく……健気な事で、お前はもうワシの物になったのだよなぁ? その可愛い声で囀ってみろ?」
にやにやと下腹部を膨張させている貴族の元へと歩くリューは口を開いた
「……はい。だから、彼を、彼の命を助けてください」
「はは、はははははは!! そうかそうか! 愛い奴め!」
一段一段とバルコニーを進むリューの後姿を、目を細め見続けるコウ。
リヴェリア達の姿はまだ見えない。
そして段々と近づいてくるリューに歓喜しながら迎える貴族。
貴族の傍まで来たリューの細い腰を抱き、その柔らかく少し汗臭い体を抱き寄せ、その首筋に顔を寄せ匂いを吸いながら、体を弄った。
「はぁー……良い匂いだ、そして柔らかい。だが、まだここでは手を出さんぞ? 後でじっくりと調教してやるからなぁ……」
「っ」
顔を逸らしつつ、男の弄りを涙で少し濡れた瞳で受け入れるリュー。
これで、彼は大丈夫だと、そう思った時、コウが口を開いた。
「リューさんは本当に、彼の物になったのですか?」
そのコウの双眸はまだ爛々と煌めいていた。
それはまだ諦めていないという決意の光。
「……はい。私はこの方の」
もの。そう言おうとしたリューの言葉を遮ってコウはリューに向かって宣誓した。
「なら、俺が奪ってやりますよ。貴女を。貴女の全てを。貴女が背負っている罪も、貴女が悲しんでいる涙も、全て、俺が奪ってやりますよ。……リューさん。あんたを奪いに来た」
リューのその言葉を遮ってコウはリューへとそう宣言した。
その爛々と煌めくコウの双眸を見て、リューはドキリとこんな状況なのに、心臓が跳ね上がったのを自覚した。
それは自分が生きて居ても良い。こんな汚れた自分の居場所が彼の中に出来たのだと、自覚した音だった。
そして救われる言葉だった。自分ごと背負ってくれると言ってくれる、そんな優しい言葉だった。
だが、それは駄目だ。もうそれ以上この貴族を挑発してはならないのだと、声を張り上げる。
こんな優しい人を殺させるわけには行かない。
「駄目! コウさん、それは駄目!」
首を振りながら声を張り上げるリュー。これでは自分が身を墜とした意味がない。
コウが生きて居ればまだ何とかなる。リューも自覚している、リヴェリア達が来る事を、しかし、もう時間が待ってくれないのだ。故にその身を墜とし時間を稼ぐしか、全員が生き残れる方法はないし、万が一リヴェリア達が退避した場合、この手でしかコウは生き残る事が出来ないとリューは確信しているのだ。
その身が奴隷に落ちようと、この躰はもう血で汚れ切っているのだからどれ程穢れようと、足を引っ張った贖罪になれば良いと。
しかし、彼女は冷静を失っている。それはこのまま脅威となるコウを生かす必要が全くないからだ。
リューが手元に来れば後はどうとでもなる。そもそも討伐命令が出たのならばこの館を破棄し、ほとぼりが冷めるまで何処かで奴隷を弄びながら過ごす算段である。故にコレクションの中でも使用済みでまだ折れていない魔剣を取り出したのだ。
コウは確実に攻撃してくる事を予想し、とある宝具をいつでも出せる様にセットした。
まだリヴェリア達の姿は見えない。故にこの状況を切り抜けなければならないのだ。
だが、コウは恐れない。何故なら彼女が、ヴィヴィアンが残していった物の中に、この状況なぞ幾らでも切り抜けられる手札が、存在しているからだ。
そしてそれはコウの中で自信へと繋がっている。故にコウは恐れないのだ。
そしてコウの予感は的中した
「はは、はははははは! そのような妄言を未だ吐くとは。だが、そもそも貴様を生かすつもりなぞない。その魔剣を開放せよ!!」
「待って!! 話が違う!!」
その言葉を聞いたコウはリューを見ながら、小さく呟いた
「
「
コウの翳した左手から白き盾とそれを支える赤き十字の透明な輝きが一瞬見えた瞬間に、コウへと向けて魔剣の圧倒的な暴力が牙を剥いた。
どん。と、貴族を押しのけバルコニーの手すりへと駆けよるリューはコウへと魔剣が一斉に振り下ろされる瞬間を目撃した。炎、雷、氷、風、様々な魔剣に秘められた膨大な魔力を伴った魔法が、ただの一人に振り下ろされた。
その光景はかつて仲間を失う切っ掛けを作った光景と重なった。
「あ、ああ……あああああああああ!!」
自分のせいだ、自分が居たからこうなったのだ。自分がもっと強ければ、もっと心が強ければ、彼の様に、乗り越えられる強さがあれば、こんな事にはならなかった。そもそもリヴェリアと交代していれば一瞬で蹴りが付いただろう、いや、それ以前にリューが居なければ自分の居場所を作ってくれたコウは
死なずに済んだのだ
「おらおら!! 魔剣が折れるまで撃ちこんでやれええ!!」
「やめてえええ!! お願いだから! やめてええええ!!」
絶叫するリュー。
リューの視界には膨大な魔力が爆発する様しか映っておらず、間違いなくコウは死んだと、そう思われる程の暴力が振るわれていた。それをただただ涙を流しながら、リューは見ているしかなかった。コウが死んだであろう魔剣の力をただ茫然と見ながら、その死地に飛び込めない自分の生き汚さに嘆くしかなかった。
そして、全ての魔剣が折れ、残ったのは天井すらも無残に……いや、リューの視界全てがその暴風に晒され、瓦礫と化し、土煙が上がる。その視界の先は分からない、しかし、背後の状況を鑑みれば、コウが生き残っている事は無いという事実が、へたり込んだリューに突き付けられた。
「きさま! よくも俺を突き飛ばしたな!!」
「っあ!?」
一筋の涙を零しながら俯くリューの髪を強引に引っ張り、貴族へその涙へ濡れた力ない顔を晒した。
「罰を与えなくてはなぁ……」
卑下た笑いを浮かべながら、リューのその薄い衣服をはぎ取ろうと手を伸ばし、その襟元を掴んだ。
貴族が感じるリューの熱さは心地よく、その下賤な笑みを一層深くした。
そして、どうしようもない位、リューのその虚ろで、今にも壊れてしまいそうな儚い表情に興奮した貴族はその手に力を入れて、思いっきりリューの衣服を剥ぎ取ろうと動かした。
そして、絹が引き裂かれる音が貴族の鼓膜を打った。
誤字脱字等ありましたらご指摘をお願いいたします。
ちょっとリューさんのメンタルが弱いかなぁ……