ダンジョンで幸せを探すのは間違っているだろうか 作:モーリン
落ちる
墜ちる
おちる
深く、深海の底より深く、コウの意識が落ちていく。
結局、この世界に来て何が出来たかとコウは自問した。
何もできなかった。
ただ、人に迷惑を掛けて過ごしていた日々であった。
何故この世界に来たのかは分からない。
あの時は酒の勢いもあった、と、自嘲気味にそう振り返る。
そもそも、こんなことになる何て夢にも思ってなかった。
酒を飲んで夢見たのが神様転生なんて、誰が信じようか。
馬鹿みたいな回答をしても何も変わらないと確信をもっていた。
その筈だったのだ。
しかしそれが現実となり、満足に前世の両親や交友ある者たちと別れが出来なかったのはショックであった。
別に前世の平和な世界に不満があったわけじゃないのに、こんな世界に来てしまったのだ。
幼少期は失意に溺れていたと、コウは振り返る。
受け入れるまでは自暴自棄になっており、迷惑掛けた今生の両親。
しかし、腐っていても始まらないというポジティブさを持っていたのは自分ながらにして及第点か。
けど、それも意味がなかった。
こんな能力が宿ってしまったからこそ、こんな事になったのだろうとコウは思う。
これが無ければリヒトから情報を集めなかったし、彼との接点も生まれなかった。
そうなればヴィヴィアンとも出会わなかったし、ヴィヴィアンもモンスターに襲われていたが、あのまま逃げきれただろうし、そもそも自分が積極的に調査をしていなければモンスターもあそこまで活発に動かなかった筈だ。故にヴィヴィアンがモンスターに襲われる事は無かった筈だ。そうすれば彼女も元の日常へと戻るだけだ。自分と会わずに居られた。
彼女と出会ったのは間違いであった。
この能力があったからこそ腐らなかった。だからこそ、ヴィヴィアンの死に繋がったのだ。
好奇心は猫をも殺す。
そもそも、自分という存在が居たお陰で彼女は死んだのだ。
リヒトの策の内と分かっていれば、報告なぞしてなく、彼女と慎ましく生きていられたのかもしれない。
この力が無ければ本当に自信の無い中身でヴィヴィアンと恋人同士にならず、彼女は生きて居られたかもしれない。
自分はただの疫病神だ
だからこれは相応の報いだ
自分なぞに手が届かない程の人の隣に居ようとした罰だ
だから、この死に何の悔いも無く、身を委ねられる
そうして、深く深くと意識が埋没していく。
筈だった
――――――そんなことない!
コウの意識に彼女の都合の良い声が突然響いた。
……何をいってるんだ。俺は君を殺す要因となったんだ。君を悲しませてしまう大馬鹿野郎さ。死んで当然だ
ああ、これは幻だ。自分が都合よく生み出した幻なんだ。
コウはそう断定し、自身の本音を吐露していく。
――――――違う! 貴方はそんな人じゃない!
現に君を不幸にしてしまった。俺だけが死ねば良かったのに、君を巻き込んでしまった
――――――巻き込んだのは、私の方よ! コウ! だから、貴方だけは生きて!
無理だ。もう俺の身体は死んで同然の重傷を負っている。あと数瞬もせず肉体は死ぬ。けど、それでいい。
俺は幸せだった。君と恋人になって色々笑って、泣いて、怒って……愛し合って。こんな俺に笑顔を向けてくれて、本当に幸せだった。だから、もう
――――――私が幸せじゃない!! 私は貴方に、生きて居て欲しいの! この、分からず屋ぁあああ!!
ごぼりと、コウの意識が浮上した。
一気に何かに、大きな何かに体全体が引っ張られる様な感覚がコウに襲い掛かり、その感覚が無くなったと思ったら、女性の泣き声が、もう機能を失ったはずの耳から聞こえてきた。
「……ヴィヴィアン?」
その泣き声が彼女と重なり、コウはゆっくりと目を開く。
そこに映っていたのは涙で顔を濡らしているヴィヴィアンの姿であった。
「コウ!」
コウが目を開け感極まるように、がばりとコウの身体にヴィヴィアンの柔らかく温かい体で抱き着いた。
「ここは……」
抱き着いているヴィヴィアンに細心の注意を払いながらゆっくりと上半身を起こし、その目に映る光景を認識する。
「……固有結界?」
頭上に広がる、錆びついた歯車。そして何処までも寂しさ、孤独感が広がる荒れ果てた荒野。そこに突き刺さっている剣の墓標。
「コウは、こんな隠し事をしてたのね?」
涙をその白魚の様な指で掬いながら、コウにそう問いかけた。
「一体……」
どうなっている。
そう思った瞬間、ガツンとリヒトと戦闘した結果が頭に叩き込まれた。
リヒトと戦ったこと、ヴィヴィアンが死んだこと、そして……自分も切り殺された事。
「俺は……死んだはずじゃ……それに、何で君が」
そうして斬られ、刺された所に手を這わせるが、斬られたどころか、いつもの質素な村人の服を纏っているだけであった。傷なぞ一つもない。
「……たぶん、ここは精神世界だからだと思う。私がここに居る理由は……その、私たち契りを交わしたから、繋がりが強いんだ。だから私はここに居るの」
悲しそうな声でヴィヴィアンがコウにそう投げかけ、ふわりと立ち上がった。
その姿はいつも通りの白のワンピース。そして首には蒼い宝石。
そうしてコウも立ち上がり、辺りを見渡しながらヴィヴィアンに正対する。
じっと見るヴィヴィアンの瞳の色が何時もの翠ではなく、深い蒼色である事に気付いた。
「ヴィヴィアン、その眼……」
「……うん。肉体から解き放たれて、魂になった私の姿だよ。……厳密に言うとコウが知ってる私じゃない」
悲しそうな声色でそう呟くヴィヴィアン。
「そう、なんだ……まぁ俺も厳密にいえば【コウ】じゃないんだ」
「え?」
キョトンとした顔のヴィヴィアン。
その顔を見て、にぃっと顔を笑顔で歪ませた。
「何だか、色々あったけど暴露大会で言いたかったのは、この能力の事と……どうして、俺がここにいるか。それを君に伝えたかった」
そうして視線と体をヴィヴィアンの正対から外し、ぐるぐるといつまでも回り続ける錆びた巨大な歯車を見つめ、コウは口を開いた。
「……結論から言おう。俺はこの世界の人間じゃない」
「……どういう、ことなの?」
そうしてコウは語りだす。どうしてコウが今ここにその肉体は無いが魂が存在しているのかを。
「……まぁ、俺も、厳密にどうしてこの世界に来たのかは分からないけどね」
そう一言だけ注意してヴィヴィアンに語り掛けた。
まず俺はこの世界の人間ではない。前世と便宜上そう呼称するが、前世は至って平和な世界だったよ。この世界みたいに剣と魔法ファンタジーな世界ではなく。人類はこの世界基準で言うとヒューマンが世界を支配していんだ。何より、神の恩恵がなかったんだ。
え? 恩恵が無くてどうやって敵と戦っていたかだって?
ふふん。前世の世界はモンスター自体が夢物語だったのさ。君みたいな精霊だって本の中の存在でしか語られてない世界さ。今現界している神も、架空のものとされていた。
世界全体から見ると平和という所ではなかった。勿論、俺が住んでいた国は平和だったけどね。ただ、どの世界も言える事だけど、やっぱり戦争をしていた。前の世界では科学技術という技術の発展が目覚ましくてね。
たった一発の兵器でね、何百万と平然と殺せるような兵器が大量にあった。
勿論人類は愚かじゃない。兵器は使いようによっては平和を齎すことが出来る。
まぁ何が言いたいかと言うと、この世界と技術体系や種族が違うだけで、根幹の思想はほぼ同じだと考えてくれ。ただ、まぁこの世界はちょっと人の命を軽く見てるかもしれないけどね。
そんな中で俺は生まれ、そして育った。平凡な人生だったさ。こんな切った張ったをする場所じゃなく、本当に平和な世界で生まれた。前の世界では恋愛何てしたことなかったんだぜ?
ははっ。そう。ヴィヴィアンが初めてさ。
まぁその中で仕事をして、役職が上がりそうっていう事を上の方々がぽろっとそういうもんだから、景気よく酒を飲みすぎちゃってな。ぎりぎり家に帰ってベットに寝たら
何故か知らないけど神様って奴が下りてきた。
いや、俺もよく分からん。正直酔ったままのテンションだから都合の良い夢だろうと思ってたんだ。
そうして、この能力を貰った。
前の世界ではこういう世界の事をファンタジーって言ってさ、そのファンタジーが凄く夢があって、この能力も俺がかっこいいなーって適当に思っていた能力さ。
本当はもっといい剣とかあったんだぜ?
けど、この世界で自分の意識を取り戻した時は、正直自失呆然としたね。
だってそうだろ? 酒のせいでイカレた夢を見たと思ったら、いきなりこの世界で7歳児だぜ? まぁ今までの記憶があったから良かったけどな。
でも、前の両親にも仕事仲間にも何も別れを告げられなかったんだ。
荒れたなー……いや、まぁ言われたことや表面上はキッチリ今生の親のいう事は聞いてたけど、きっと両親はいきなり雰囲気が変わった俺に戸惑っただろうな。それでも何にも言わずに育ててくれたんだ。頭が上がらないよ。
これを伝えないのかだって?
……そうだな。伝えないと思う。ヴィヴィアンには知ってもらいたかったけど、両親には知らないでいて欲しい。
墓場まで持っていくつもりだった。そんな何でも話すような家族仲も憧れるが、守らなければならない領域と言う奴さ。ヴィヴィアンが俺に種族を伝えて裏切られるのが怖かったみたいに……ね。
はは、言ったろ? ヴィヴィアンがどんなになろうが愛してるって。
もし、怪物だったら? あー……そん時は悪さをしたら君を止めてたね。まぁたぶん愛情は変わらんと思うけどな。
そういう訳で家族には言わない事にしてるんだ。
そしてリヒトさんに会い
そして
「君に出会った。……こんな俺でも君は俺を愛してるといえ」
「愛してるわ。そんなの関係ない。コウはコウだもの。貴方が今まで何をしてきたかなんて関係ない。もし、犯罪を犯していたら自首して、貴方が罪を洗い流すまで待つわ。……もう、そんなことも出来ないんだけどね」
コウの不安を受け止めるように、その言葉を遮ってまでも、ヴィヴィアンはコウを包み込んだ。
「私は、貴方とずっと一緒に暮らしたかった。ずっと一緒に笑いあいたかった。泣きたかった。怒りたかった。そして、ずっとあなたのとなりに、いたかった! でも、幸せだった! だから、この出会いは貴方が思っている間違いなんかじゃ、無い!!」
最後は涙で塗れた声でコウに叫ぶ。
そして、コウは気付いた。ヴィヴィアンの叫びを聞いて気付いた。
自分はヴィヴィアンと会っても良かったのだと。
ヴィヴィアンと共に過ごしてきた時間は嘘じゃないと。
ヴィヴィアンと共に感じた感情は、嘘じゃないと。
コウは何処か、救われた気がした。
叫ぶヴィヴィアンを抱きしめるコウ。
「ヴィヴィアン。……ありがとう。俺は君と出会って本当に幸せだった……俺もずっと一緒に居たい。……正直、この世界で、この寂しい世界でずっとヴィヴィアンを永遠に抱きしめていたい」
「……駄目、駄目よコウ。それは」
「出来ないんだね」
コウは漠然とだがそう思った。永遠何て無い。だからこそ、別れが近いのだと。
ビクリとヴィヴィアンの身体が跳ね上がった。
「何となく、そんな気がした。……この世に永遠なんてない。だから俺たちは一歩を……例えその一歩で永遠に交わらない道へと互いに踏み込もうとも」
ぎゅっと強く。二度と離さないと、そんな思いを込めてヴィヴィアンを抱きしめる。
ヴィヴィアンもそれを感じ、力いっぱい、コウを抱きしめ返した。
「もう、二度と触れ合えない道を歩もうとも……俺たちは、行かな、ければならない、んだね」
震える声でコウはそういった。胸の中に抱いているヴィヴィアンもその溢れ出す涙を、コウに残すように、その顔を力強く埋めた。
「……うん。……もう、コウは、私が引っ張らなくても大丈夫な程……強くなったんだね。……だから、約束して? 幸せになると」
「……うん」
本当は嫌だった。ヴィヴィアンが居ない世界に幸せなんかありはしないと、心ではそう思っている。
しかし、ここで約束しなければならない。それがヴィヴィアンの願いなら、コウは前を向いて、その約束を果たそうと、そう誓った。
埋めた顔を上げ、コウを仰ぎ見るヴィヴィアンの眼は少し腫れていたが、しかし、その瞳は強く、力強く煌めいていた。
もう、別れの時間が近い。コウは何となく、そう思った。
「ふふ……そんな泣きそうな顔をしないで、コウ。貴方は強い。だから、前を見据えて、歩いて行けるわ」
「……ヴィヴィアン……けど、どうやって」
そうだ、今、現実に於いてコウは既に数瞬も経たずに死ぬ。今この世界を展開されているという事はまだ生きて居るのかもしれないが、ここで意識が浮上しても、例え少しばかり動けても時を経たずして死んでしまうのだ。
「大丈夫、大丈夫よ。コウ。……私を信じて」
煌めく瞳をコウに向けながら力強く笑うヴィヴィアンを見て、コウは大丈夫だと確信を貰った。何をするかは分からない。だが、ヴィヴィアンが、愛する人が大丈夫と、自分を信じてと、そう言ったのだ。ならば、それを信じて前へ進む事が出来る。
コウは頷き、されど、もう別れが近いと胸中にほんの少し過っただけで、その瞳にジワリと涙が浮かんでしまった。だが、それでも前を見据えて行くのだ。彼女を心配させるわけには行かない、不安にさせる訳には行かない。その思いで、ぎこちない笑みを浮かべて、コウはヴィヴィアンを見た。
「ヴィヴィアン。改めてお礼を言わせてくれ。……俺は本当に、本当に君と出会えて良かった。俺は君のお陰で強くなった。君が隣にいてくれたから、引っ張ってくれたから、強くなれた」
思い出すのは、コウの手を繋ぎ引っ張って行ったあの日。何時も自信がないコウを引っ張ってくれたヴィヴィアン。そして引っ張られて情けないやら、嬉しいやら、しかしその暖かさがコウは大好きだった。
「俺がこの世界に生きて良いと、愛する人が言ってくれた。俺は、それだけで……胸を張って生きていける。この世界を、君と出会ったこの世界で」
異質だった自分を受け入れてくれる人がたった一人居ただけでも、それはコウにとって絶大な支えとなると、今この瞬間にようやく理解した。
だからこそ、絶望的などんなに絶望的な状況でも最期まで希望が持てると、コウは確信を得た。
「だから、……ありがとう。ヴィヴィアン。本当に、ありがとう!」
一筋の雫がコウの眼から流れ出る。その涙にはどんな思いを込められているのか、ヴィヴィアンは痛い程分かった。その涙を地面に落とさないよう、ヴィヴィアンはその指で掬い取った。
もう、涙は流さない。
「……うん。……コウ。貴方にまだ、プレゼントのお礼をしてなかったわね」
首から下げてあるネックレスを手で撫でながらコウへそう言った。
「そんな。お礼何て、ヴィヴィアンの笑顔が見れただけで俺は嬉しかったよ」
「ううん。私が貴方にお返しをしたいの。……とっておきのお返し。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね?」
ヴィヴィアンがつま先立ちし、コウとの距離がゼロになる。
「んっ!?」
驚くコウに、ヴィヴィアンの口から鉄分を伴った何かが流れ込んでくるのを自覚した。
そして、見る。ヴィヴィアン【達】が辿ってきた歴史、情景、風景、人物、時代、匂い、感情、経験。
「んっ!? んんんんん!!」
「はむっ! んん」
暴れるコウの顔をその両手で抱き、ヴィヴィアンは決して離すものかと接吻を続ける。
何千年という歴史的な重みが一瞬でコウの魂に混じって行く。
だからこそ理解していく、激しい頭痛に伴いながら、理解していく。
ヴィヴィアンが託していった剣。その国の円卓の騎士たち。
最後の滅びに湖の乙女は全てを受け入れて【彼女】をアヴァロンへと迎え入れた。
幾重にも続いた湖の乙女の血筋、それは意図せず、産み落とされる。あるいは宿るようにその血が覚醒し、回収した魔剣アロンダイトの管理を任された。そして、やはり、今のヴィヴィアンの他にも恋をして、永遠には結ばれないが、けど、それでも幸せだった。そんな古代の記憶。
神々が隠れ、暗黒の時代を必死に生き残った記憶。
神々が再び再臨し、暗黒の時代を振り払う記憶。
そして悲しい戦乱の記憶。
最期の彼女の愛。
様々な人物と関わり、様々な物の情報がコウに一気に流れ込んできた。
そしてそのすべてをコウは視て、理解した。
雨の様に、コウ達を避けながらまるでその錆びた錬鉄の歯車から生み出されるように、コウの剣の丘に様々な物が刺さって行った。
広がるのは神剣、魔剣、神代の剣や槍、弓に戟。
その一つ一つの武具達は、ヴィヴィアン達が見てきた通りの姿をしていた。
「んっ……」
静かに、唇から粘着質な液体がアーチを作るようにゆっくりとその距離を離していった。
「……ごめんなさい。私の愛は、痛かったでしょ?」
コウの顔を悲しそうな表情でそう伺う。ぎゅっと心配するなと言わんばかりにまたコウは抱きしめる力を強めた。
「そうだね……痛かった。けど、けど……この痛みは、忘れない! ずっとずっと……忘れない!」
別に剣を見たから痛かったわけじゃない、伝説を解析したから痛かったのではない。
そんな痛みに比べ、最後に感じた、コウを愛していると、離れたくないという気持ちを理解した瞬間の方が、何万倍も心が痛かった。
「うん。ずっと、ずっと覚えていて」
もう、抱きしめ合う事は無い。
するりと離れていく二人。
時間が、迫っていた。
互いに頷く。もう、道は違える寸前だと。だけど、その一歩を踏みしめなければいけない事を。
「コウの身体は
「……それって、俺の身体を通して、だよね」
つまりは、肉体的な死を迎えているヴィヴィアンが発動できる事は無く、コウのこのUBWから精霊の力を使い発動させたのだろう、つまり、発動者はコウになる訳で、通常なら所有者でもないコウが発動できるわけなかった。
「ふふ、私を誰だと思っているの? 湖の乙女 ヴィヴィアンよ。元々アヴァロンは私たちが管理していたエクスカリバーの鞘。当然、私たちの血が通っていればその行使は十分に可能よ。それに、コウの魔術で出来た投影品は本物一歩手前だけど、その所持者はコウ。精霊の血が通っているコウは
「……そうか、ヴィヴィアンの血が今、魂レベルで混ざっているのと、それに伴い俺とヴィヴィアンの血が混じった現実において、アヴァロンを展開させれば、入り込んだ血を循環させて傷を癒す。つまり、ヴィヴィアンの血が魂にも肉体にも宿っている訳か」
正に破格である。恐らく、この状態のUBWの維持は本当に楽になるだろう。それは人間じゃなく限りなく世界に近づいたからだ。
「ごめんね、コウ。もう貴方は純粋な人間じゃなくなった」
「ふふん。何を言うヴィヴィアン。俺は嬉しいぜ? 愛する女性の血が、魂の一部が俺の中にある。それだけで、幸せさ」
「……ありがとう。本当に、ありがとう。貴方と出逢えて本当に幸せだった」
そしてヴィヴィアンが一歩二歩とコウから距離を離していく。
「さぁ、コウ。……決着を付けに行きましょう。あの剣は呪われている。今解き放つと必ず禍になるわ」
その通りだろう、リヒトが言った言葉はレベルが上がっていると言っていた。つまり、それはあの剣一つで自身の器を広げられるという、この世界では破格の能力を持つ。それが世に解き放たれたら、間違いなく争いの元となるだろう。そして呪いとは怨念の連鎖。まず間違いなく災いとなる。
「だから彼を倒して。貴方ならできる。いえ、私達のこの
そうしてヴィヴィアンが一振りの剣をコウの精神世界に突き刺した。
その瞬間、コウの固有結界の景色が、その一振りの剣を中心に、光の環が広がって行くように、光子を伴いながら書き換わっていく。その風景は、コウとヴィヴィアンの思い出の場所と同じ。森に囲まれた地平線まで広がる美しい湖。様々な色の空がどこまでも広がっている、綺麗な幻想的な世界に、無数の剣がその湖に抱かれるように突き立ってる。
ぶわりと風が二人を撫でた。その風は、今はもう懐かしい風であった。
ヴィヴィアンの剣が光弾けると共に姿を現した。
その刀身は何処まで行っても蒼く。まるでこの湖を凝縮したような深い蒼。光輝く黄金の鍔。
綺麗だ
コウはそう思った。それはヴィヴィアンの様に綺麗で、美しかった。
一歩また一歩と近づき、ヴィヴィアンが握っていた柄を一緒に掴んだ。
もう二人に互いの姿は見えない。
しかし伝わる温かさ。だからこそ迷わず引き抜いた。
ギィンと金属が歓喜する音が聞こえ、世界が光に包まれていく。
コウは意識が浮上するのを自覚した。その中で確かにコウは優しい声を聞いた。
――――――私はいつもあなたと共に、この世界で、そしてあなたの剣として……生き続けるわ。
優しい笑顔が、コウの脳裏に鮮明に映し出された気がした。
「何!?」
怪我で自分が死なない様にポーションを使い、傷を癒したリヒトは、コウにせめて、苦しみを短くしようと剣を持つ手に力を入れた。もう、後には戻れない。そんな思いを刻むよう、そしてもうポーション程度で治らない傷を負っているコウへ完全に息の根を止めようと近づいていき、その剣を振り下ろそうとした瞬間に、コウの身体が幾百の光の粒子に包まれた。
「何だこれは!? ええい!」
その光の粒子を叩き切るように、神速をもって振り下ろされたアロンダイトはその行進を光の粒子に押しとどめられ、そして勢いよく弾かれ、吹き飛んだ。
「くっ! どういうことだ!!」
誰も答えてくれないのは分かっている。だが叫ばずにはいられなかった。
湖の上に着地して、未だ光に包まれているコウを油断なく見る。
そしてリヒトは見た。既に満身創痍……いや、死んで当然の怪我が一瞬で、まるで光の粒子が怪我を縫い合わせるように、傷が治って行く……否。再生していくコウの姿を。
「……ば、馬鹿な……いや」
コウならあり得る。
漠然とながらそう確信したリヒトは自嘲した笑みを浮かべた。
今思えば不思議な男であった。コウ・カブラギという人物は。
少年時代に合った彼は村でも賢い方であった。彼は情報が万金にも勝るとそういつもリヒトに言っていた。
故にリヒトは徐々に情報を集めて行った。コウのその夢物語を探すのも良いなと。
恩人であった。けど、コウの夢物語は……リヒトにとって最後の希望となってしまった。
だからこそ、リヒトは決死の覚悟を持った。
でも、何処かでコウの夢物語が、本当にただの夢物語で終わって欲しかった自分も居たと、リヒトは感じている。
「――――身体は、剣で出来ている」
バチリと、空気が鳴った。
光の粒子が舞っているその中心に居るコウへ向かって、優しい、何処まで行っても優しく、包み込むような風が彼を包み込む。
「――――創造理念、鑑定」
「――――基本骨子、想定」
立ち上がったコウはリヒトには理解できない呪文を呟いた。
コウの右手に集まる光
そう、不思議な男であったのだ。コウ・カブラギは。
自分の立場が分かっていたのにも関わらず、その足掻きをやめようとしなかった。
程度の差はあれど、その姿こそかつてのリヒトが義憤に燃えていたあの時代の姿と重なったのだ。
故に、一歩踏み出した。
その結果がどうなろうと、最後の、最後の足掻きを見せてやろうと、そう思えるようになった。
だからこそ、恩人と剣を交えるこの結果になろうと、リヒトは一欠けらも後悔は無い。
もう、突き進むしかないのだ。
「―――
そうして光が収まり見えた剣は、コウの心を模ったかのような、深い深い蒼色。
その剣を認識した瞬間。リヒトの心がすとんと、理解へと至った。
これが、コウ・カブラギと、その隣に寄り添う彼女だと。
「――――憑依経験、共感終了」
その言葉と共に、コウを覆っていた光の粒子と優しい風が解け、コウの中へと還って行った。
一陣の風が、二人を撫で上げる。
揺ぎ無い覚悟を秘めたその瞳でコウはリヒトを見る。そして、コウも湖の上へと歩を進めた。
「……何となく、そんな気がしてた。……そして、今のコウを見て……」
――――嫉妬をしてしまった
月を見上げながらリヒトはコウに向けて語り掛ける。その声色は何処までも優しく、悲しみで溢れていた。
しかし、悲壮は無い。まるで後悔は無いとそんな、声であった。
そして、コウの姿に……いや、コウのこの奇跡的な境遇に、羨ましいと、何故なんだという思いも、沸々と沸き上がってきた。何故自分はコウの様になれなかったのか。何故奇跡はコウの身に起きるのか。嫉妬してしまったのだ。
その思いを押し留め、近づいてきたコウの覚悟を受け止めるように、正対した。
「……ヴィヴィアンが、あんたを止めろってさ」
流れるようにコウはその剣をその二人の
読み取った剣の持ち主の経験。それを憑依させたコウの後ろに、リヒトは朧気ながらに神代の騎士の姿を連想した。
「そう、か。けど、コウ。俺はもう止まれない。止まるわけには行かないんだ」
剣を構えリヒトは詠唱した。
「
ボンッと爆発音を湖に波打たせ、リヒトはアロンダイトにその炎を宿した。
そして構える。リヒトの人生の集大成。
「決着を、付けよう」
「……来い、コウ。俺はコウの屍を、超えてみせる」
吹いていた風が止み、月明かりが二人を照らす。漆黒の世界に浮かび上がる二人の姿はひどく、幻想的であった。
時が止まった世界と錯覚させるような静寂が二人を包み込む。
しかし、動く一筋の汗。リヒトの頬を伝い、つつ……っと顎先へと移動していき、重力に従い湖へと落ちてった。
煌めく一筋の軌跡が
その湖を小さく、波打たせ
蒼と紅の軌跡が激突した。
誤字脱字等御座いましたらご指摘をお願いいたします。
これを書いた時は「last stardust」を映像と共に聞いてました。
以下蛇足。
という訳でコウが使えるのはアーサー王伝説の宝具、魔剣、神秘が宿った武具と、この世界の魔剣全般です。
アーチャーの腕移植でロー・アイアス使えるなら魂の貨幣である血でも出来るやろ(白目
という感じで、かなりご都合主義ですが宝具解禁です。全て真名開放が可能です。
主人公強キャラじゃなく主人公最強にした方が良いかもしれないけど、どうしようか。
アロンダイトは特別です。殆ど負担なく投影できますし運用ができます。ランクは下がらず、オリジナルの効果と同じです。レベル+1という形になっております。あと二人とも湖の乙女の加護を得ていますが、コウの加護は後々スキルで出そうかと思ってますが、ちょうつよいです(白目 故に二人とも湖の上で戦闘が出来てます。
UBWの詠唱は若干変わるだけです。どれだけ愛と神代の精霊の力で心象風景を変えようとも、神の力で入手した力自体は殆ど変わらないです。故に詠唱は一部変更するだけですのであしからず。
それと、前世の関係です。家族には教えません。故にオラリオヘと行く決心をしたのかなと、これを書いてて思いました。この前世の事は自分の処女作書いた際、家族に秘密にするという意見の人もいれば、家族だから秘密は無いという人も居ましたが、コウはこれを家族に対し墓場まで持っていく予定です。コウはそう決断を下しましたので、ご理解をお願いいたします。
プロローグラストは月曜日の19時に投稿します。