ダンジョンで幸せを探すのは間違っているだろうか   作:モーリン

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9話

あれからリヴェリアと別れても全く地理が分からないので、とりあえずぽけーっとロビーで待って居たら、リヴェリアが迎えに来てくれて、ほっとした様な顔をしながら恐らくコウはリヴェリアを見たのだろう

 

「迷子か、お前は」

 

と、上品に笑われながら突っ込まれたコウは少し恥ずかしい気持ちになりながら、すみませんとペコリと頭を下げてリヴェリアを見た。相変わらず綺麗だなと思いながら顔を見ていると

 

「……もしや、場所が分からなかったか?」

 

怪訝な顔でそういうリヴェリア。

 

「す、すみません」

「いや、むしろ都合がいい。下手にうちのファミリアに行っていたら恐らく面倒な事になっていた筈だ」

「は、はぁ……」

 

何処か納得できないコウだが、今回は観光しに来たわけでもないし、お金もそれほど持ち合わせていない故にこのオラリオの地図を購入する事も出来ず、よしんば購入したとしても後々の楽しみが無くなってしまうので、コウの中での決着をつけるまでは自粛しているのだ。

 

とはいえ、一応宿屋は取ってあるが。

 

そうしてやれやれと肩を竦めながらリヴェリアの先導の下、二人は黄昏の館に移動した。

道中上手くリヴェリアが話したのか、はたまたギルドに魔剣を卸す事が気に入ったのか、正式な依頼としてリヴェリアが受注したという事がコウに伝えられた。これは指名の依頼であり、今現在この情報を握っているのはリヴェリア、コウ、そしてギルドであった。

 

本来であれば内密にと思っていたコウだが、後ろ盾は大きい方が良い。また、ギルドは冒険者からはお役所仕事と影で言われているが、概ね正しいがその実態は魔石流通やその産業での管理。その魔石の鉱夫である冒険者の管理とサポート。更にファミリアという事業体の管理等、魔石を中心に多岐に渡っている。

 

故に貴族との繋がりは恐らくギルド長やその周辺にはあるかもしれないが、そこまで大きなパイプと言えない。

また、ここまでの証拠が揃っていれば、貴族に対してでも、正式な依頼として通る事も難しくは無いのだ。

 

尤もここからが時間勝負である。情報が拡散したという事は、相手に知られる可能性が出てくるという事だ。

とはいえ、そこまで警戒する程でもないとリヴェリアは予想している。

このオラリオのギルド長は多少の裏表はあるが、基本的には善人な方に属する人間だ。

その周囲は分からないが、ギルド長になった男だ。金に関して目を瞑れば、悪くはない。故にそこまで心配はしていない。

 

ただ、オラリオからは三日で発たねば相手に討伐隊が組まれたことを察知されてしまう可能性も充分考えられる。

故にまごつく事はあまり許されないのだ。

 

 

 

 

 

 

そんな事を思いつつリヴェリアは慣れた道を歩き、コウは慣れない道を田舎丸出しで歩いていくと二人の視界に見えてくる、大きな門。そして建物。

 

「おおー。物凄い大きさですね」

「ああ、ロキ・ファミリアはオラリオでも最大手と言っても過言ではない程の規模だからな、その人数を入れるとなると、これ位の大きさが必要になってくる」

「さすが、ロキ・ファミリアですね」

 

外観はまるで城だ。というよりお城である。いくつものバベルの塔が連なっていおり、中央の本塔が一番背が高く、その威容は圧巻であった。コウは前世のビル群を思い浮かべ、丁度そんなイメージと重なり、若干懐かしさを感じていた。

 

「この外観通り、中は広いがそこまで入り組んではおらん。……まぁうちのファミリアに入れば案内はするが、今回の一件に蹴りを付けねばその気も起こらんだろう?」

「そうですね。……はい。やはりその後に冒険者になろうかと」

「普通、討ち入りに入るなら神の恩恵を貰ってからだと思うがな……」

 

リヴェリアが他の者から見れば珍しく呆れた様に、半目になりながらそう流す。

常識的に考えてレベル0で資料に書いてある通りであればレベル5の元冒険者を囲っている貴族に討ち入りしようとは普通思わないだろう。

 

「おかえりなさい。リヴェリアさん。……そちらの方は?」

 

男女の門番がリヴェリアに向かって一礼し、そしてコウへと視線を投げかけた。

 

「今回のクエストの依頼人なんだ。私はフィンの部屋へ真っ直ぐ赴く。故に、このホームに部外者が居る事を周知しておいてくれ」

「わかりました」

 

それに納得したのか、門番はあっさりとコウを通し若干おっかなびっくりに目礼をしながら二人を通り過ぎた。

 

そうして中へ入るコウはその中の大きさにも驚く。自分の村を敷き詰めれば一部屋二部屋にすっぽりと入りそうな程天井も高く、広い。

 

コツコツと足音を響かせて歩くリヴェリアの綺麗な翡翠色の髪を見ながらヴィヴィアンを少し思い出し、すこし緊張が抜けた。今はまだ昼であり、人が殆ど出払っているのだろうか、すれ違う人は多少いたが、殆ど見かけなかった。

 

そうしてとある一室の扉の前へと着いた。

 

「コウは少しここで待っていてくれ。フィン……うちの団長に事情を話す」

 

その言葉を聞き頷くコウ。その内心はすこし緊張していた。

頷くコウを見て頷き、扉をノックするリヴェリア。

 

「フィン。入るぞ」

「リヴェリアか、開いてるよ」

 

中から聞こえてきたのは少し幼さが残った声。

 

「失礼する」

 

扉が開いた時に何となく紹介される前だから姿が見えない方が何故か良いよなという結論をはじき出したコウは、零れる日差しから姿を隠すようにさっと動いた。

 

そうして扉が閉められコウは通路で一人待つこととなった。

どれ位待たされるのだろうかと、若干戦々恐々していたが意外に早く扉が開き、リヴェリアが顔を出した。

 

「何でそんな所にいるんだ? まぁいい。フィンに紹介する」

「あ、はい」

 

リヴェリアに促され、室内へと足を踏み入れるコウ

 

「失礼します」

 

部屋の脇には本棚。そして正面には小さな青年が座っている執務机が一つと適当に椅子が散らばっている。意外に質素な部屋だがその床一つで余裕でコウの年収を遥かに上回るのは想像に難くない。

そもそも散らばっている椅子やソファですら現在のコウの全財産で足りるか足りないかだろう。

 

そんな生活レベルの格差を見せつけられ、勝手に自爆しているコウをよそににこやかな笑顔でその小さな青年がコウを出迎えた。

 

「やあ、初めまして。ロキ・ファミリア団長、フィン・ディムナだ。宜しくね」

「ご丁寧にありがとうございます。私はコウ・カブラギです。本日、御ファミリアのリヴェリアさんにご依頼を致しまして、受注して頂いた事、重ねて御礼申し上げます」

「はは、そう固くならなくていいよ。君は僕たちのお客さんだしね」

 

そうしてウィンクするフィンのイケメンっぷりに遠い目をするコウはイケメンで最大手の団長という肩書の時点で嫉妬を通り越して無へと還っていけそうであった。

 

「先ほど簡単な事情をリヴェリアから伺ったよ。この案件は迅速な対応と情報の抑制が必要と僕も判断する。リヴェリア、ロキを呼んできて欲しい」

「分かった」

 

そうしてリヴェリアがフィンの執務室を出た事を確認し、フィンがコウを机の上で手を組み、その顔を見た。

コウの表情は緊張が殆どだったが何処か羨望を読み取れる若干遠い目をした事をフィンは頭にクエッションマークを出しながらその口を開いた。

 

「さて、リヴェリアに話した事を簡単で良いからもう一度話してくれないかな?」

「あ、はい。わかりました」

 

そうして資料を基に簡単にフィンへと説明していく。

これは確認である。リヴェリアがここに通したという事はそれなりに信用できる依頼人であることは間違いが無かったが、それでも団長であるフィンが最終確認しなければならない。これは組織として当然である。

尤も、各団員の裁量で決められる事も多いが、今回コウの依頼は間違いなく短期遠征である。

 

つまりはファミリアの物資が動くのだ。団長の確認と一応、神の確認が必要である。

 

「おっまたー!」

 

ダァン! と勢いよく入ってきたのは赤髪をポニーテイルの小柄な女性が入ってきた。

その後ろには片手で頭を抱えながら入ってくるリヴェリアの姿が見える。

 

「いや、丁度いいタイミングだよ、ロキ。コウ君。こちらが僕たちのファミリアの主神。神ロキだ」

「うちがロキや。よろしゅうな」

 

そして神と認識した瞬間コウは五体投地を全霊で行い、神ロキを崇める様にその身を地に伏した。

 

「うぇえ!?」

「お初にお目に掛かります。神ロキ。偉大なる女神を前に頭が高く無礼を働いた事、伏して謝罪する所存です」

 

そのコウの俊敏ともいえる空中での変化からの五体投地に驚きの声を上げるロキ。

コウはコウで何時でも断罪されても良い。という様な勢いでその冷たい床に頭を擦り付ける。そんなコウに崇められているロキがあたふたと狼狽した。

 

「い、いやいやいや! ええから! そないな初心な対応されるとむず痒くて敵わん! ええから普通にしたってーな!」

「さすが神ロキ……度量の広さも神なのですね。感服いたしました」

「ま、ママー!」

「ふっ! くく……だ、誰がママだ」

 

ロキのお願いが叶えられず、このやり取りを可笑しそうに見ているリヴェリアに助けを求めるロキをにべもなく突っ込みを入れつつ切り捨てるリヴェリアの対応は慣れたものだった。

 

「はははは! いや、失礼。コウ君、君は面白いね。だけどその辺にしといてもらえるかい?」

「い、いえ。神の前で頭何て上げられません!」

 

そう、コウにとっては前世でも有名も有名な神、ロキである。一度神の世界でドンパチを起こしたあのロキであり、コウも知っている。というよりゲームを通して知っており、その時は男性であったが世界が違えば色々と違うのは慣れっこであった為、さして疑問にも思わなかったし、何処となくオーラが漂っている気がしたのだ。

 

「くくっ。コウよ、本当に大丈夫なのだぞ? ロキは気にしないからな」

 

そうして片目で未だに五体投地をしているコウにフィンの言葉の後押しをするリヴェリア。

そこまで言われれば……という様な感じで恐る恐る視線を上げ、その御身を拝見するコウ。

すこし引き気味のロキを目にして、対応が間違った事を悟った。

 

「も、申し訳ありません。何分田舎者でして……」

 

そうしてさっと立ち上がり、腰を折り曲げてロキへと謝罪した。

 

「ええ、ええよ。永い事そないな対応された事ないから、逆に新鮮やったで」

 

とはいえ一歩引いた立ち位置は変わらなかったが。

 

「それじゃあ、自己紹介も終わった所で、改めてコウ君。説明をお願いできないかな」

 

一通りの自己紹介が終わり、空気を仕切り直したフィンはコウに一連の流れの説明を再度求めた。

リヴェリアは兎も角、フィンとロキは簡単な説明しか受けていない。そこで情報に差異があれば話が滞る事は想像に難くない。故にもう一度説明を求めたのだ。

 

その言葉に、リヴェリアとロキは定位置に移動する様にロキはフィンの執務机の端に、リヴェリアは壁に寄りかかった。そしてその中心にコウという構図になっている。ちなみにガレスはダンジョンである。

 

「はい。まずは……」

 

そうしてもう一度リヴェリアに説明した事を自身も確認しながら説明した。

 

 

 

 

一通り話したコウはふぅーと肺に溜まっていた余計な空気を外へと出した。

それと共に幾分か気分が落ち着き、話し始めてからまともに正面へと視線を向けた。

 

そこには考え込むフィンとロキ。

 

「魔剣アロンダイト……か」

うちら()の領域に踏み込んどる代物やないか」

「そしてそれを破った精霊の血を取り込んだ君か……何処か信じられない話だけど……」

 

ちらりとロキの方へ視線を向けるフィン。その意図を察したロキが首を横に振る。

 

「全部本当の事や、嘘を付いてへん」

 

神には嘘を付けない。伝聞で聞いていただけだが、実際に目の当たりにすると、やはり神は地上に住まう者達とは一線を画した存在だと、改めてコウは思った。

 

「ロキが言うなら本当だろうね。改めてこの依頼受けさせて貰うよ」

「ありがとうございます」

「まぁそないな胸糞悪い奴の話聞いたらいくらダンジョン探索ファミリアでも、無碍には出来ひん」

「それに、俗物的な話だけど、魔剣の譲渡は非常に美味しい。むしろ此方からお願いしたい」

 

魔剣。一振り数百万から果ては数億という値段がする魔法が宿った剣である。

使用回数に限度があるがその力は強力だ。どんな弱い魔剣でも所持していればかなりの選択肢が広がるのは冒険者にとって非常に有益なものだ。

 

「ただ、コウ君の助力という事はコウ君もこの討伐に参加するという認識でいいんだね?」

「はい。……むしろ、囚われた奴隷やリヒトさんの母を救出するだけでも良いのですが、万が一があったらヴィヴィアンに怒られそうで、万全を期したいです」

「相手の戦力はレベル5の元冒険者が一人にレベル3が数人、そして警備のその殆どがレベル1~2の十数人。一貴族にしてはやけに厳重だね」

 

地上の世界ではレベル3あれば事足りる筈なのに、わざわざ高い金を払ってそこまで警備しているという事はよほど国の中心に入り込んでいるのか、それとも、何か疚しい事しているのか、どちらかである。

例外で趣味という可能性もあるが、今回の件に限ってはそれは無いと断じられる。

 

そう、コウは暗にそれら全てを相手取れると言っているようなものである。レベル0のコウがだ。

 

「精霊の血が入っている……という事は魔法が発現したのかい?」

「……そうですね。そのような認識で大丈夫です。ただ、私は後衛ではなく前衛です」

「まさか並行詠唱が出来るのか?」

 

驚いたようにリヴェリアがコウに問いかける。並行詠唱は高等技術である。

魔法の発動には高い集中力を有する為、本来であれば足を止めて詠唱するのが基本だ。

リヴェリアは難なく使いこなせるが、今注目している同族はそれがまだできない。

 

故に驚いた。いくら精霊の血が入っていてもベースは人間だ。

 

「ああ、いえ詠唱時間が……短いのもあれば長いのがあるのです」

 

何処か要領を得ない返答をするコウに少しイラっとするロキ。しかし、依頼条件は破格だ。

相手が客であれば無碍には出来ない。それはギルドを通してここに来たからである。

それを理解しているフィンとリヴェリアは態度を崩さない。リヴェリアはそもそもコウがこういった少しめんどくさい性格をしていると理解しているし、その裏で色々と考えているという事を評価しているので、不快感は無かった。フィンも同様で、中々どうして。食えないなと、内心ニヒルに笑っている。

 

だが、そんな雰囲気は正直好きじゃないコウはため息を吐きそしてその野暮ったい顔をなるべく凛々しく見える様に真剣な表情をしてフィンを見た。

 

「つまりは戦力を確認して私の配置を決めたい所なのでしょうか」

「話が早くて助かるよ。どうにも煮え切らなくてね。恐らく、君にとってその力が知られると不利益になる可能性を孕んでいるからこそ、言いたくないのだと思うけど……こちらも仕事でね。なるべく依頼主の意向に沿った形で気持ちよく仕事がしたい所なんだ」

 

それはつまり裏を返せば秘密にしたままでいいけど、結果だけコウに齎せてそちらの事情はあまり考慮しませんよと言っている物だ。無論、依頼完遂には全力を尽くすのは変わりないが。

 

「分かりました。私は前衛ですので腕試しなら広い所でお願いします」

「それなら心配はいらない。軽く運動できる空間はあるから、そこでコウ君の力を計り作戦を練りたい」

「了解です。……ただ、先ほど言ってた魔法。一部だけならお見せ出来ます」

 

その言葉と共に包帯で巻かれた剣を腰から取り出し、床を傷つけないように優しく置き、柄を掌で下に力を入れてその剣を支えた。

 

「今から見せるのは他言無用でお願いします」

「神ロキの名に誓って」

 

にやりとフィンが笑ったのを確認し、手元の剣を魔力へと返していった。

 

「っ」

「何や!?」

「これは……」

 

そんな驚きの声が聞こえるが、本質はここからだ

 

「――――投影(トレース)開始(オン)

 

そして今度は剣の丘に突き刺さっている槍をコウの手元に投影した。

それはこのオラリオに入る際に持って居た門番の槍。

それを呆然とした表情で見る三人に、コウは代表してフィンへとその槍を渡した。

 

それを恐る恐る触るフィン。そして立ち上がり広い場所で風を切る様な速度で一通り振り回してみたフィンの表情は驚愕に模られていた。

 

「……どうなんや、フィン」

「……間違いなく、本物の槍だ。魔法で出来た筈なのに、手触り、しなり、重さ、音。側だけじゃない、これは本物の素材を使い作られた槍だ」

「どういう事だ……魔法で物質を作る事なんて私は聞いた事も見た事も無い……こんな、こんなの」

 

まさしく神の所業

 

「……一つだけ訂正させてください。それは本物ではありません」

「何だって? そんな筈はない。この感触、間違いなく本物だ」

「……いや、フィン。コウの言っている事は嘘じゃないで」

「そうです。それは贋作です。……限りなく本物に近い贋作です。試しに柄を折ってみてください」

 

その言葉通りフィンは柄をバキリと折ると、槍が魔力へ帰って宙へと消えていった。

 

「……一つ、聞いていいかい?」

「何でしょうか?」

 

未だ槍が魔力へと還った所に目線を留めているフィンがコウに口を開いた。

その表情は固い。

 

「君の魔法はどんな物でも、生み出すことが出来るのかい?」

「……いえ、私の魔法は何でも生み出す事は出来ません」

 

そう、どんな物でも、例えば建物などは生み出すことは出来ない。

だがフィンが求めている答えとは違っていたようだ。

 

「いやそうじゃない……率直に言おう。何処までそれが出来るんだい?」

 

コウは贋作といった。ならば本物があるはずだ。現にフィンはこれがオラリオの門番の槍という事は見抜いていた。それはつまり、一度見たものならば魔法で生み出せると言っているのだ。だが、物事に限度はある。それが何処まで出来るのか、それが分からない。

 

「それを答える前に、本当にこの事を内密にして頂けるのですか? それに、私の魔法はもう既に見せました。それじゃあ満足が来ませんか?」

 

コウにとってこれはかなりの譲歩と言えるだろう。

情報をここまで見せたのである。別に彼らと敵対はしないだろうがそれでもこの魔法は規格外だ。その本当の意味で本質を見抜かれたら間違いなく危険人物確定である。

 

正直別段この魔法自体、というより投影のみならバレてもさして痛手ではない。ただコウの目の前には神ロキ。嘘が付けないというより、誤魔化す事は可能だが難しい、そもそもコウより明らかに頭の回転が速い相手が三人も居る時点でコウの魔法の真髄までの道のりを構築していても可笑しくは無い。

 

故に依頼主としての立場を利用して、この質疑を終わらせたいのだ。

 

だからこそ、当たり障りの無い槍を用意したのである。

 

そして再三明記するが、この場は嘘を付けないのが非常にコウにとっては痛い。この程度しか出来ませんは嘘になる。

仮に上等な剣を用意して同じ問いを言われたらかわしようが無い。それを続けられればいずれコウの魔法の答えに行きついてしまう。

 

「まぁ待て。確かに驚異的だが、いずれ冒険者になりたいとの事だ、あまりコウだけの情報を聞き出すのはフェアじゃないだろう?」

 

気を取り直したリヴェリアがコウに助け舟を出す。さすがに依頼主をここまで責めるのはロキ・ファミリアの沽券にも関わるからだ。

 

「ならウチにはいりゃええ。せやろ?」

 

そうしてリヴェリアを見るロキ。

だがそういったロキを見て首を振るリヴェリアがふぅ、と息を吐きながらロキに答えた。

 

「今は入れないそうだ。話を聞いた限り、心の整理が付くまでは冒険者になる気は無いという事だしな」

「そうなんかー、自分。性格と顔はちょっとあれやけど、その力は面白そうやからなー」

「ロキ……すまないね。いや、それだけ見せて貰えば十分だったよ。勿論、内密にするのは間違いないから安心して欲しい。リヴェリアもロキもそれでいいね?」

 

ロキのその態度を若干咎める様にフィンが声を上げた。

 

「当り前やん。こんな面白そうな魔法を他に言い触らすと思うんかい?」

「右に同じだ。というより私やロキが言っても信じて貰えそうにない程、特殊な魔法だがな」

 

やはりロキにはあまり心証が良くなさそうだと判断するが、他二人には概ね受け入れられた事にコウはホッとする。というより、何でここまで責められたんだろうと、逆にコウは泣きたくなってきた。

 

「ほら、そんな顔しない。まったく……フィン」

 

片目を閉じながらフィンを見るリヴェリア。こういう時はリヴェリアが何を求めているのかわかる。

 

「うん。本当にすまない。お詫びとして宿泊と晩御飯は此方が全て持とう」

 

にこやかな笑顔でコウとさり気なくロキを見るフィン。ロキはそのやり取りを見てにやりと笑う。

 

「おー! ええな! 今日はこのメンバーで飲み行こか! 他のメンバー殆ど出払っとるし」

「そうだね。親睦も兼ねてそうするのがいいね。勿論、コウ君が良ければだけどね?」

 

これは良い機会だと言わんばかりに喜ぶロキをフィンは見て、やはりロキは瞬時に此方の思惑を理解している事を理解した。元々酒好きなロキである。乗らない方がおかしかった。とはいえ、これ程の力なのだ。何処まで出来るかも重要だが、それを扱う人間を見てみたいと思ったのはこの場の誰もがそう思ったのだ。

 

故の酒の席である。

 

リヴェリアが悟り、フィンが切っ掛けを作り、ロキが流れを作る。これを断る事はコウにとって至難の業であった。

 

「あー……宿泊はもう取ってありますので、ご夕食だけ御相伴に預からせていただきます」

 

相手の思惑を知らずにその提案を受け入れる。というより、先ほど責められた分一杯食べてやるという気概が見えるコウに表面上は苦笑しそして、心の中では少しほっとしたフィン。

 

「ありがとう。けどその前に、お腹を空かす運動をしなくちゃ、ね」

 

その一言でフィン達は模擬戦闘が出来る外へと移動していった。

勿論、コウは先ほど消した剣と全く同じ物を投影して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ここでいいかな?」

「はい。宜しくお願いいたします」

 

本来であれば入団試験で腕っぷしを計る広い部屋でフィンとコウは正対していた。

一応、他の団員には近づかない様にとフィンとロキから伝達しているので、部外に光景は漏れない。

 

広さは縦横と30M以上はありそうで、この部屋に来たコウはもはや何でもありだなと思った。

一応剣や槍などを置く収納セットが点在しており、自主訓練にも使われている部屋であろうが、今はもぬけの殻であった。

 

誰も使ってない事にコウは若干安堵し、フィンに促され今は正対していた。

距離は10Mの距離。コウは身体能力強化を行った。だが表面上は何の変化も無い。

 

フィンがクルクルと槍を回し、そして止める。構えはしていないが、油断もしていないといった所か、柄の中頃をもって、何時でも動けるような態勢である。

対するコウは正眼に構える。それはあの湖の騎士の構えではない。

 

「ふむ、隙の少ない構えだ」

 

ロキと並んでいるリヴェリアがコウの構えを見て解説を入れた。

魔法は特筆すべき観点であるが、構え等は基本を地で行く物であり、リヴェリアはそれがコウの少しめんどくさいが正直な性格を表しているように見えた。

 

「行きます」

 

その言葉と共にコウは踏み込んだ。

床のタイルを蹴り上げる様な勢いでフィンへと肉薄し、その小柄なフィンの体へ切り上げる形で刃を走らせた。

それを難なく槍の柄で防ぎ、反時計回りに槍を回転させる様に、切り上げられた刃を更に上へと弾き飛ばす。

 

小気味いい金属音がなり、コウの剣は上へと弾かれる。しかし、フィンはあまりにも軽い事に違和感を覚え、次の行動を予想し、そしてその予想通りに動くよう、コウへ向けて突きを繰り出す。

 

その突きを半回転し、上段にある剣を回転の力を利用しながらフィンへと叩きつける。

空気を切り裂きながら、鋭い剣閃を走らせるコウを冷静に見るフィンは、その槍を回転させ、頭上掠める様に剣の腹に柄を叩きつけ、その軌道をずらした。フィンの視界にはコウの身体しか映ってない。

 

その光景を刮目してみるコウ。上手い何て言うレベルじゃない。今のコウでは決して届かない領域の武だ。

 

「驚く暇はないよ?」

 

その回転を利用した槍の運動を生かし、軸がずれ、態勢を僅かに傾けたコウの顎に向けて槍の柄が襲い掛かる。

それを更に顔を突っ込ませることで鼻先を掠め、姿勢が低くなったと同時に、横にいるフィンの足へと向けて剣を薙ぎ払う。

 

足元に地を滑るように来た剣を地面に突き立てる様に槍を盾にしつつ、それを支えにフィンは足に力を入れ突き立てた槍を軸に回転し、コウの横腹に踏襲を入れた。

 

「ぐぅっ!?」

 

まともに蹴りが横っ腹に食い込み、吹き飛ばされるコウだが、すぐさま態勢を立て直し、床を剣で傷つけないよう、足と剣を持って居ない手で床を滑った。

 

追撃は無い

 

「身体能力はレベル2のなり立てか少し経った位かな。剣の腕も少年時代から培っているお陰か、恐らく同レベル帯での近接戦で後れを取る事は滅多にないかな」

 

正対した時と同じ構えを取っているフィンが少し嬉しそうにそう話す。

手札を切らなければレベル4相手では瞬殺と言われた通りだが、その身体能力はレベル0であれば驚異的だ。いかなフィンもレベル0であそこまでの動きは出来ない。

 

「とは言え、間違いなく経験不足。ちょっと正直な所があるから予想が立てやすいね」

 

実際その通りだ。いくら経験をフィードバックしても今はコウ自身での戦いだ。それはつまり本人の戦闘経験が不足しているのは自明の理である。これが神代の武器を投影して経験を読み取ればその限りでは無いが、いくら経験を読み取ったとしても、実際に戦っているのはコウである。湖の騎士の経験をフィードバックしようとも無駄が生まれるのは自明の理であった。

 

だが、その無駄があっても更にその経験が十分に引っ張り出せず尚且つ、経験を生かせる身体能力では無くてもレベル5上位と近接で張り合えるのだからコウはいかに湖の騎士が規格外だったのか、改めて実感した。

 

「けど、レベル0でこの実力ははっきり言って凄まじいの一言だよ。是非、僕たちの所(ロキ・ファミリア)に来て欲しい位だ」

「ありがとうございます。かの【勇者】(ブレイバー)にそう評価されて、ちょっと鼻が高いです」

 

訓練所へ行く道中、ロキにリヴェリアとフィンの事を聞かされた際、レベル6というオラリオでもトップクラスの冒険者で実力が高いと聞いている。そして実感する。

コウは辺鄙な村出身なのでオラリオの情報などリヒトから聞いた限りであったし、あまり人の強さに頓着をしなかったからへーという感じで頭に入れていたが、実際に相対してみると、間違いなく殺せはするが正面からは勝てないという評価である。とは言え相手も全く本気を出していないからリヒト基準に考えるが、それ以上となると、手心無しで行かないと話にならないというのも理解していた。

 

「ただ、これでは正面からぶつけられないね。僕たちも意地がある。依頼主を危険に晒す真似はしたくない。そしてこちらも戦力を提供する以上、もう少し手札を切ってもらえないかい?」

 

依頼は間違いなく遂行する。それはファミリアの名に、ロキの名に掛けるとフィンは宣言したのだ。

世界トップの片割れのファミリアの団長がそういえば、確実に遂行される。

けど、団員が不用意にリスクを負うのは良しとしない。

 

それに今回はコウが正面から行くのを手伝って貰いたいというそこそこふざけた依頼だ。

名目上は非合法で奴隷を囲っている貴族の討伐、捕縛だが、実態は討ち入りのそれである。

正直コウの切り札がここまでひた隠しにされているという事はとんでもない代物だとコウの魔法を見たフィンは予想しているが、切り札とは切らなければ意味が無い。

 

今のコウはレベル5と相対したら間違いなく瞬殺される。それは依頼には反しないが、依頼主を見殺しにしたという汚名がファミリアに齎されるのは予想される。団長としてそれは良しとしない。そして単純にコウが死ぬのは惜しいと思っているからだ。

だからこそ、本当に任せられるのかどうか、もう少し実力を出してくれないかと、フィンはお願いをしたのだ。

 

「……わかりました。何れにせよ現地では手札を切るつもりですし吝かではありません。ただ……」

 

ちらりと神ロキの方を見るコウ。

 

「ん? なんや、おったら都合悪いんか?」

「あ、いえ。少し激しくなるので心配でして」

「自分、やさしいやっちゃなー。けどな、隣にリヴェリアがおるから気にせんでええでー」

「ああ、少々荒れたとしてもロキは大丈夫だ。私が付いているからな。存分に力を振るうがいい」

 

そうしてリヴェリアが守り通すと確約したので、大丈夫だろうと確信を持ち、フィンへと正対した。

手に持って居た剣を魔力に還し、そして

 

「――――――投影、開始(トレース・オン)

「――――憑依経験、共感終了」

 

その言葉と共に、一気に駆け出すコウにフィンは先ほどと変わらない光景だが必ずコウなら何かを仕掛けてくると、油断なく初めて構えた。

 

「では、第二戦目です!」

 

バチリと光模られた魔力が霧散し出てきたのは、先ほどとは明らかに格が違う直剣。

しかしその姿が露になった直後、コウの雰囲気が明らかに変わった。

 

しかし、まだまだフィンに届くには足りなさすぎる。

その斬撃を余裕をもって躱し、そのまま横薙ぎに槍を振るった。

それを下から掬い上げる様に、まるでそう来ると分かっていたかのように完璧なタイミングで槍を打ち上げ、返す刀でフィンへと剣閃を煌めかせる。

 

「ん?」

 

その袈裟斬りを難なく見切り、フィンは身体能力をレベル3程度まで上げてコウへと向かって突きを放つが、それを一歩踏み込み避けるコウ。そこから回転させ、コウへ攻撃を許さないように、コウの上段から勢いよく槍が叩きつけられるように、空を裂く一撃が繰り出される。が、それすらも、明らかに先ほどのコウでは見切れる筈がない攻撃をまるで力に逆らわないよう、迫りくる槍に剣を絡め、滑るように一歩前進し、フィンへと剣閃を放つコウを見て、微妙な違和感の正体が少しづつ見えてきた。

 

――――――明らかに先ほどの技量とは一線違う。

 

されど、届かない。レベル3の冒険者の応酬を繰り広げるコウとフィンだが、コウの斬撃を掻い潜り、コウの後ろを取ったフィンは今度こそ攻撃が通る確信を持った石突を放つ

 

その寸前に、フィンの目の前に突如剣が飛来して来た。

 

「!?」

無詠唱(ノー・スペル)の召喚魔法だと!?」

「なんやて!?」

 

リヴェリアとロキが驚いた様に言葉を荒げる。コウが見せた魔法は手元から生まれたものだ。これはコウの特殊な魔法として処理は出来る。しかし、一瞬で現れた刀剣が射出されているという現象に一番近い魔法はと言えば、召喚魔法他ならない。攻撃魔法で物体が出来る事は無い、つまり空間と空間を繋げそこに射出する魔力地場を発生させる効果を持った召喚魔法と判断するのが妥当だとリヴェリアは考えた。

 

その考察は残念ながら外れているが。とはいえ、コウの……いや、アーチャーの投影魔術の真髄に近い魔法は恐らく召喚魔法だろう。それはそうだ、刺さっている剣を現実に投影するだけなのだ、故に召喚魔法と言っても差し支えない程のものだ。

 

顔面に向けて飛来する剣を上体を逸らし躱すフィンの足元から更に剣が射出され、バク転をして回避するが、コウの唐竹が目の前に来ている事にその身体能力を一気に開放して、空を滑るようにフィンはその斬撃を回避した。

 

「――――――投影、開始!(トレース・オン)

「――――憑依経験、共感終了」

「――――工程完了(ロールアウト)全投影(バレット)待機(クリア)

「―――停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!!」

 

その消えるような速さで回避したフィンに追随するように、コウが呪文を唱える声が聞こえたと同時に、まるで砲弾の様にコウの背後から射出された剣群がフィンへと一気に襲い掛かった。それをフィンはその神速の槍捌きで全て叩き落す。が、訓練用の槍が限界が近づいているという事を感じ取ったフィンは何処か戦闘を楽しむような笑みを浮かべ、声を張り上げた。

 

「リヴェリア! 僕の槍を!」

「分かった!」

 

一応持ってきた槍だったが、まさか使う事になるとはと、内心喜びに満ちながらギアが入るフィン。

襲い掛かるコウの斬撃を槍が折れる速度でその刀身を迎え撃ち、強引に距離を開けながら、折れた槍を捨て、リヴェリアから投げられたフィンの一本の槍を迫りくる剣群の間隙にその柔軟な体を滑り込ませながら空中でキャッチし、一気に群がる剣を叩き落とし、破壊した。

 

飛び散る破片に映る槍を振り切ったフィンの動きは、最初の何処か遠慮した槍捌きではなく、その体躯からは想像できない様な、豪胆且つ繊細な脈動をコウは感じ取り、気合を入れ直す。

 

ギアを一段階入れたフィンは今度は自分から、その内心に沸々と湧き出る高揚感に似た闘争心を潤すようにコウへと剣群を弾きながら、縦横無尽に肉薄する。一気に距離を0にされたコウは冷静だった。

 

一瞬で煌めく刺突をステップするように躱しつつ、足りない動きは射出された剣でカバーする。

その動きは洗練され、最初に対峙したコウの実力を遥かに上回っている。

 

閃光が瞬ぎ、二人の得物が触れ合うたびに、火花が周囲へと飛び散る。

 

それに歓喜したようにフィンはレベル4中位の身体能力になるよう力を開放し、常人からは完全に軌跡だけが視界の端で捉えられる速度でコウへと襲い掛かった。

 

その一つ一つを掠めながら、弾き返し、躱し、射出するコウの総合的な白兵戦の実力はレベル4程度で間違いが無かった。

 

「どうしたんだい! この程度なのかい、コウ・カブラギ!」

「無茶! 言わんで! ください!!」

 

元々レベル2程の身体能力しかないコウが打ち合えているのは、一重に神代の剣を投影しその経験をフィードバックしているからである。これは宝具ではなく、神秘はあるが、騎士が使っていた直剣である。

その為フィードバックされる実力は湖の騎士程では無いが、この時代では破格の技術だ。

 

それでも、身体能力……つまり地の差を完全に埋める事は出来ない。いくら技術があろうとも、相手も弱くないのだ。とは言え、間違いなく傍から見れば身体能力がレベル3と思えるほど、動きが洗練されている。

 

「ど、どうなっとるんや……」

「ありえん……」

 

ロキとリヴェリアの視界に広がる異常な光景。

剣戟音が途絶える事が無い程濃密な剣気に常人のそれしか持たないロキは呆然とし、リヴェリアの表情はこの日一番の驚愕に彩られていた。言っていた事に嘘は無かった。けど、心の何処かでは信じていなかったし、実際目で見てみないと分からない部分が実力である。

 

本当にレベル0でレベル5を破ったのだと、ようやくこの場にいる全員がほぼ納得した。

 

「ほんま、ほんまにあれはレベル0なんか?」

「あ、ああ……冒険者登録はしていない。これはギルドに確認したし、コウ本人もそう申告している……筈だ」

 

そういうリヴェリアは、それでも信じられないと言わんばかりに表情を固くし、その顔に汗が頬を伝う。

 

今もフィンから繰り出される攻撃を巧みに操るその一級品も真っ青な直剣で迎え撃っている。

そして無詠唱で繰り出される剣群。コウの手に持っている剣より格は落ちるが、それでもあれほど容赦なく雨の様にフィンへと射出しているのだ、それは脅威であった。だが、問題は無詠唱であれだけの物量を運用しているのだ、それもフィンと打ち合いながらである。

 

――――――あんなの、魔法という括りではない

 

そう感じられずにはいられないリヴェリアであった。

 

そこから弾き出される結論は魔法なし、白兵戦のみではリヴェリアに勝る。これは間違いない。

 

フィンが弾き飛ばした剣をリヴェリアが見ると魔力に変わりながらすぐさま消えている。その様子を見ると本当に射出する為だけに作られたのだろう。だがもう既に百本は魔力に還っているが、剣戟音が止む事は無い。

 

それをフィンは楽しんでいる。

 

普段は冷静沈着に物事を進めるフィンだが、未知の物を楽しむその思想は冒険者になった時から変わらない。

だからこそ、楽しんでいるのだ。コウの未知なる実力を。このファミリア、いや、全世界の武芸者で唯一人、コウだけが持つ特殊な能力。

 

そしてコウがレベル0という事実。

 

楽しくないはずがなかった。

 

「凄いよ、コウ君! 是が非でもウチに入って貰わないとね!」

「勧誘! は! この依頼が! 終わってからに!」

 

既にフロアがボロボロになっているのを気に留めずに、フィンはその槍を振るう。

本来であれば2槍を手繰るのがフィンの戦闘形態だが、一本でも十分にオラリオで槍使いトップに入る。

その相手に善戦するコウは異常であった。

 

「してください!」

 

フィンの足元に二本の剣を射出し、フィンを空中へと誘導する。その誘導にあえて乗るフィンに床が陥没する勢いで踏み込んだ両の手の横薙ぎを防ぎ、後方へと吹き飛ぶフィンは態勢を立て直し、空中でコウの方向へと目を向けると、既に数多の剣群がフィンへと射出されているのが見て取れた。

 

そしてその後ろのコウはまるでクラウチングスタートをするように、今まで見た事のない剣を後ろに出現させ姿勢を獣の如く低くしていた。

 

まるでリヒトの最後の一撃の様に

 

飛来する煌めく剣を打ち払おうと、着地し、そのリーチを活かしての横薙ぎに槍を振るった瞬間にぽつりとコウが詠唱した。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンダズム)

 

飛来した全ての剣群が小さく爆発し、フィンの視界を一瞬だけ奪う。

その瞬間に爆発の推進力を得たコウが煙の中から一瞬でフィンの懐に潜り込んで、その剣で体へと刺突した。

 

その細い時間の中で、初めてフィンがぞくりと背筋を震わせ、本能に従い、全力全開の力でコウに槍を振るった。

 

「ぐうううううう!?」

 

その今のコウでは到底体で追えない程の速度で振るわれた槍が体にめり込んだコウは、轟音を響かせながら吹き飛び、壁へと激突し、その石壁を陥没させ、ようやく激しい音が止んだ。一瞬の静寂。そして弾かれたようにフィンが動いた。

 

「しまった! つい力んでしまった! 大丈夫かいコウ君!?」

「あ、アホおおおおおおお!」

「おい! 大丈夫かコウ!?」

 

そうしてモクモクと土埃が出ている所へと三人が駆け寄り、リヴェリアが回復魔法を準備し始めた。

 

「だ、大丈夫……で、す……よ」

 

コウはもう立ち上がれない程疲弊しており、さらに、肩が完全に外れているのか、あらぬ方向へと曲がり、足も最後の攻撃の速さで限界を軽く上回ったようで、血管が破裂しているかの如く、だくだくと血溜まりを作っていた。そして、口からは血を吐きながらも、に"っごり"と震えながら笑った。

 

「え、衛生兵ええええええええええ!」

 

ロキの焦ったようで、されど乗っている叫び声がファミリアへと響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字等ありましたらご指摘をお願いいたします。

フィンさん無双。アロンダイトや魔剣を抜かないと現時点では逆立ちしても勝てません。

因みにこの時のコウ君の実力は0.5+1.5+0.5の身体能力に+0.5の技術に+1の投影魔法で4位ですので、フィンはコウのこの時の実力を見切ってますが、最後の攻撃だけはレベル5に届き得ましたので、あんな結果になりました。
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