「ちゃおっス」
黒いスーツを着た赤ん坊が、俺の行く手を阻む。
『黒い悪魔のような赤ちゃんとは関わんなよ』
姉ちゃんの言葉が、ふと頭をよぎる。
いやいやいや、まさか。
「よお、赤ん坊。保護者はどうした」
「俺は殺し屋だぞ。なめんな」
そう言って赤ん坊が取り出したのは、拳銃。
どう見てもオモチャじゃない。
ああ、ごめん姉ちゃん。
姉ちゃんの言ってることは正しかったよ。
「んで、その殺し屋サマがおれに何の用なんだ?」
内心撃たれやしないかとびくびくしつつ俺は物騒な赤ん坊に問いかける。
「お前、ツナのファミリーに入れ」
「は?ファミリー?っていうかツナって…沢田先輩のことか?」
ファミリー、家族。
いや、この場合コイツが殺し屋だと仮定するとファミリーってのはマフィアか。
「そうだぞ」
ん?何が“そう”なんだ?
「だから、マフィアだってことだ」
あれ、心の中読まれてる?
「俺は読心術を使えるんだ」
「チートかよ…」
思わず頭を抱える。
いや、だって仕方ないだろ。
…ん?待てよ、俺はマフィアに勧誘されてんのか?
「そうだぞ。ちなみに拒否権はねぇ」
「強制かよ…いやいや、何で俺なんだよ。他にも誰かいるだろ…」
「お前、弓道やってるそうだな。なかなかの腕前みてーじゃねえか」
そうきたか。
弓道勧めた姉を全力で恨みたい。
「俺たちのファミリーには遠距離攻撃ができる奴がいねーからな。ちょうどいいんだ」
「あ、リボーン!お前何してんだよ!」
沢田先輩が息を切らしながら割って入ってきた。
この赤ん坊、リボーンっていうのか。
そういや名前聞いてなかったな。
「ツナ、こいつも今日からお前のファミリーだ。よかったな」
「よくないけど!?ていうか誰!?」
全く了承していないんだが、リボーンの中ではもう俺はファミリーの一員らしい。
姉ちゃんに心配かけたくないから、マフィアなんてやりたくないんだけど。
「どうも、並中一年の神谷 一樹です。沢田綱吉先輩、ですか?」
「え!?あ、うん。お、オレは二年の沢田綱吉…ツナでいいよ」
沢田先輩、お言葉に甘えてツナ先輩は、何が何だか、といった様子で自己紹介してくる。
「ちなみにマフィアになる、という話に了承した覚えはありません」
もう帰っていいかな。
あ、ダメだ今から学校行くとこだった。
「り、リボーン!勝手に人を巻き込むなって!」
「俺に指図するな」
さて、俺は面倒なことになる前に退散しよう。
ツナ先輩とリボーンの二人に背を向け、俺は学校に向かっていった。
日が傾き、街が茜色に染まった頃。
どうしてこうなった!
「コイツもボンゴレに、ですか!?」
銀髪不良で有名な獄寺先輩が、敬語でリボーンに話しかけている。
まあ何とも奇妙な光景だ。
「ハハッ、いーじゃねーか。お前もマフィアごっこやるのか?名前は?」
爽やかに笑いかけてくるのは、野球部エースの山本先輩。
この人マフィア“ごっこ”だと思ってるのか。
あのどう見ても普通じゃない赤ん坊見てもごっこだと思えるってすげー。
「俺は神谷 一樹です」
「お前があの神谷か」
あのって何ですか獄寺先輩。
俺そんなに有名なの?
「あ、あの噂の弓道部エース!」
ツナ先輩が声を上げたので、何故有名なのか謎が解けた。
弓道関連か。なら納得もいく。
俺は小さい時から弓道をやっていて、それなりに全国大会で連覇したりもしている。
この並盛中の弓道部、部員も少なく目立った功績も無かったので、廃部寸前だった。
しかし俺が入り、そこで並中弓道部と活躍できればそんな危機も免れる、と先輩方がたいそう御喜びになってなっいたのだ。
大方その先輩がいろんなところで俺の話をしているのだろう。
「でも、神谷くん、ま、マフィアに入る気無いんだよね!?」
頷いてくれ、と目線で訴えてくるツナ先輩。
「まあ、姉ちゃんに心配かけたく無いですし」
「お姉さんがいるのか!獄寺と一緒だな」
話を逸らさないでください山本先輩。
「まあ、はい。今姉ちゃんと実家離れて二人暮らししてて、主に家事は姉ちゃんがやってるんですけど、姉ちゃんにすっごく世話になってるから、これ以上メーワクかけたくないっていうか」
「なら姉もマフィアに入ればいーじゃねーか」
「余計迷惑かけてないか!?」
リボーンのとんでもない提案に思わずツッコんだ。
ろくに家にいなかった親の代わりに、姉ちゃんは何でもやってた。
料理、洗濯、掃除、買い物とか、年末の大掃除だって姉ちゃんが一人でやってた。
俺は何にも出来なくて、姉ちゃんに世話になってばっかりで。
だからかな。
姉ちゃんの言うことに反論したことはあまりない。
俺にとっては姉ちゃんに感謝することしかない。
口に出しては言わないが、これでも姉ちゃんを大事に思ってるし、とてもありがたいと思ってる。
だから、これ以上姉ちゃんに迷惑かけたくない。
姉ちゃんに迷惑ばっかりかけてるから。
「そうと決まればお前の姉ちゃんに会いに行くか」
何が、いつ、どう決まったと言うのかこの悪魔の赤ん坊は。
「何にも決まってないよね!?」
ああツナ先輩、常識人はあなただけだったのか。
「うるせぇ」
しかしそんな常識人も、リボーンのドロップキックに一発KO。
「いーから行くぞ、ツナ。獄寺、山本、お前らも来い」
「リボーンさんが言うなら…」
「面白そうなのな!」
面白くないですよ。
先輩二人は来る気満々。
マフィアのことに触れさせなければ良い、のか?
ああごめんよ姉ちゃん。
何とか姉ちゃんをこの悪魔の勧誘から守ってやるから。
そしてリボーンの独断で、俺たちは俺の家に行くことになったのである。
おい、リボーン。何でお前先頭歩いてんだ。
俺の家知ってるのか。
「どんな人なんだ?」
山本先輩が気さくに話しかけてくれる。
「家事万能で、勉強する暇なんて無さそうなのに成績はすごく良いです。あ、でも運動音痴だから体育だけすこぶる悪かったか。…そんでもって、結構変わり者…だと思います。基本的には優しくて良い姉ですよ」
俺は姉の姿を思い浮かべる。
あ、そういやこの時間って姉ちゃん買い物行ってるんじゃ…