ご注文はハーブティーですか??   作:テレサ二号

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どうもテレサ2号です!

前回の後書きで記載した通り、今回はオリジナルの話になります!
二話分くらいの長さがありますので、ハーブティーでも飲みながら見ていただけると幸いです。
俺はコーラ派ですが(  ̄▽ ̄)

今気づいたんですが、前回は月にピアノを弾かせてなかったですね……月君ごめんなさいm(_ _)m

それでは本編です!


9羽:ご注文はコンクールですか?

「♪~♪♪~♪♪♪」

 

とある平日、月はいつも通り自室でピアノを弾いていた。

 

「お、月のやつやってるな♪聴きに行くとするか♪」

 

リゼが月の部屋に行くと、部屋の扉には貼り紙が貼ってあった。

内容はこうだ。

 

ただ今ピアノの録音中です。

この貼り紙が貼ってある間は入室をお断りしています。

ノックもご遠慮ください。

特にリゼ、ノックだけではなく声が入るのも嫌なので声を出さないようにご注意ください。

 

(凄い拒絶ようだな……)

 

しばらく扉の前で隙を潰していると月が扉を開けた。

 

「おう、リゼいたのか。悪いな待たせてしまって」

 

「大丈夫だ。それより何で録音なんてしてるんだ?いつもは録音なんてしないのに」

 

「あぁ、そろそろ一般のコンクールに応募してみようと思ってさ」

 

「コンクール?そういえば月ってフルールでピアノを弾いてるのは見たことあるけど、それ以外で人前で弾いてるのって見たことないな」

 

「音大に進学するにしろ、誰かプロのピアニストに弟子入りするにしろ、コンクールで実績を残さないと相手にもされないからな。」

 

「今までコンクールに出たことは無いのか?」

 

「子供の頃に東京国際ピアノコンクールに一度だけ出たことはある」

 

「その時の結果は?」

 

「一位だ」

 

「凄い実績じゃないか!」

 

「でも過去の話だからな。子供の頃に神童と呼ばれていても、成長するにつれて凡人になっていくなんて、よくある話だから。それでコンクールに応募するための音源を録音していたのさ」

 

「出来はどうだ?」

 

「いつも通り……ただ緊張するとかは無かったな」

 

「曲は指定されてるのか?」

 

「課題曲は数曲の中から自分にあっている物を選ぶ形式だな。俺はラフマニノフが好きだし、ベー君(月のピアノ)との相性も良さそうな"鐘"にするよ」

 

「なぁなぁ♪課題曲を弾いてみせてくれよ♪」

 

月は頷くとピアノの前に座り、いつも通り慣れた手つきでピアノを引き始めた。

 

「♪~♪♪~♪♪♪」

 

合唱交響曲『鐘』作品35は、ロシアの作曲家セルゲイ・ラフマニノフの1913年の作品である。

 

コンクールの課題曲である為かいつもより真剣に弾いている月にリゼの視線は引き付けられていた。

 

「はい、おしまい!どうだった?」

 

演奏を終えた月がリゼに感想を求めた。

 

「いつもと違う迫力があったな!これなら予選通過間違い無しだな!」

 

「まぁそう上手く行くかは分からないけど、今回はそこまで大きなコンクールじゃないから気楽に行くか……」

 

「そうと決まれば早速投函しに行くぞ!思い立ったが吉日だ!」

 

(リゼのそういう前向きな所は見習わないとな)

 

 

それから一週間後に予選通過の連絡があり、本選は二週間後に行われることになった。

月は演奏曲を決めるのに凄く悩んでいた。

 

「ブラームスもいいし、ショパン、ベートーベン、バッハも~!!」

 

 

 

 

見るに見かねたリゼがラビットハウスにシャロと千夜を呼び、相談することになった。

 

「みんな集まって貰って悪いな。月が今度ピアノコンクールに出場することになってな。それで演奏曲が決められずに悩んでるんだ。みんなの意見を聞かせて貰いたい」

 

「ところで月さんはどうしたんですか?」

 

チノがリゼに訪ねるとリゼは離れたテーブルを指差した。

テーブルでは月が真っ白になっており、魂ここにあらずといった様子で呪文のように作曲家の名前を連呼していた。

 

「私達は素人ですし、月の参考になるような事なんて言えるかどうか……」

 

「そうねぇ……少しでも月君の力になれればいいんだけど……」

 

「ふっふっふっ、私に名案があるよ?」

 

悩むシャロと千夜をよそに、ココアは自信ありげにしている。

 

「ほう?その名案とやらを聞かせて貰おうか?」

 

「ふっふっふっ、それはね?アミダくじで決めるっていうのはどうかな!!」

 

「「「名案だ!」」」

 

 

 

「月ー!アミダくじで決めるから、悩んでる曲を片っ端から紙に書きなさい」

 

「アミダくじ!?その手があったか!」

 

「あ、月君の魂が帰ってきたわ♪」

 

30曲程度を紙に書き、ココアがアミダくじを作成し、ティッピーが選んだ。

 

「あーみだくじ♪あみだくじー♪」

 

ココア作アミダくじの歌を歌いながら、くじの行く先を見つめた。

 

「決まりました♪えーっと、ショパンさんの英雄のプロポーズって曲だね!素敵な曲名だね♪」

 

「ココア……英雄ポロネーズな……」

 

ココアの間違えを月はすかさず訂正した。

 

月の演奏曲に決まったのはショパンのポロネーズ第6番変イ長調 作品53、通称"英雄ポロネーズ" である。

色彩感を追求するあまり、難解になったショパンの作品にしては、主題を執拗に繰り返すことで一貫した内容になっている。

そのため聴衆側にも受け入れられやすい作品となっている。

力強いリズムを持つこの曲は、ポーランドの栄光をたたえているとされ、ショパンの愛国心のあらわれと言われている。

 

「でもショパンさんって可愛い名前だね♪」

 

「パンって名前に入ってるからだろ?」

 

「ココアさんのパンへの愛も凄いですね……」

 

「じゃあ、演奏曲も決まった所で俺は失礼するよ。チノちゃん、タカヒロさんは部屋にいるかな?」

 

「はい、父は部屋にいます」

 

「ありがとう」

 

チノに礼を告げると月はタカヒロの部屋に向かった。

部屋をノックすると中からタカヒロの返事があった為、扉を開き部屋の中に入った。

 

「再来週にピアノのコンクールがあります。それまで申し訳ありませんが、バイトを休ませてください」

 

「あぁ構わないよ。その代わりと言ってはなんだが、そのコンクールにチノ達を招待してやってくれないかな?」

 

「チノちゃんやココアをですか?」

 

「あぁ、チノも喜ぶと思ってね」

 

「分かりました。チノちゃん達を誘ってみます」

 

「月君、頑張ってきてくれ」

 

そう言われた月は頭を下げると部屋から退出した。

 

「どうでした?」

 

「休んで構わないってさ。それでチノちゃん達をコンクールに招待してくれないかって頼まれたんだ。本選参加者の身内の者には事前にチケットが貰えるから、嫌じゃなければ来ないかな?」

 

恐る恐るチノの表情を確認するとチノは嬉しそうに目を輝かせていた。

 

「行ってもいいんですか!?是非行きたいです!」

 

「私も月君の迷惑じゃなければ見に行きたいわ♪」

 

「私はライト君が断っても見に行くよ!」

 

「わ、私もその日はフルールのバイトが休みなので行きます♪」

 

「決まりだな♪私達が行くんだから恥ずかしい演奏はするなよ?」

 

「みんな……ありがとう!」

 

みんなが見に来てくれることが決まり、月は笑顔でお礼を言った。

 

ラビットハウスと同様にフルールの店長にも頭を下げ、バイトを休ませて貰えることになった。

その日から月の猛特訓は始まった。

 

朝学校に行くギリギリまでピアノを弾き、授業中はノートに忍ばせてある楽譜何度も何度も読み返し、昼休みは屋上で演奏曲を何度も聴き、帰宅すればまた深夜近くまでピアノを弾く、そんな日々を送っていた。

 

そしていよいよコンクール前日となった。

月は学校に来ており、いつも通り昼休みに屋上で演奏曲を聴いていた。

 

「そんなに気を詰めてると、いい演奏できなくなるわよ?」

 

「ん?シャロか?」

 

「最近ほとんどご飯食べてないんだって?リゼ先輩から聞いたわよ」

 

「大丈夫だよ。必要最低限は食べてる……」

 

「もう仕方ないわね……。ほらこれでも食べなさい」

 

そういうとシャロはおにぎりを差し出した。

 

「いいよ、それはシャロが食べてくれ」

 

「ほら!あーん!」

 

「ふぇ!?//あ、あーん//」

 

シャロはおにぎりを月の口に運んだ。

 

「美味しい……」

 

「そう?それなら良かったわ。ほらこっちのオカズも食べなさい!」

 

「食べさせてくれ……」

 

「もうしょうがないわね。ほらあーん//」

 

「ん、美味しい……zzz」

 

余程疲れが溜まっていたのだろう月は食べながら寝てしまった。

 

「全く……しょうがないわね//ご褒美の前借りだからね?//」

 

そういうと月の頭を自分の太ももの上に置いた。

月は気持ち良さそうに寝息を立てている。

 

「いつもお疲れ様……明日は頑張ろうね」

 

眠っている月に、聞こえるか聞こえないかくらいの声でシャロは囁いた。

 

月が目を覚ます頃には、太ももからカバンへと枕が変わっていた為、膝枕をされていたことは月自身が知ることは無かった。

 

その夜、月がクラシックを聴きながらくつろいでいると親父さんが部屋に訪ねてきた。

 

「明日は本番だろ?練習しなくていいのか?」

 

「はい、帰宅後に最終確認を済ませているので今日は疲れを溜めないように極力弾きません」

 

「そうか……明日の衣装は決めてあるのか?」

 

「衣装ですか?普通に制服で演奏しようと思ってますけど?」

 

「そいつはダメだ!」

 

「せっかくの晴れ舞台なんだから、衣装にもこだわらないとな!その辺は無頓着な月の為にタキシードを用意しておいた。髪型は自分でセットできるか?」

 

「はい、ネットで調べて自分でセットします」

 

「なら大丈夫だな。では明日は頑張るように!俺は仕事で行けないからリゼにビデオカメラを渡してある。帰ってから見させてもらうからな」

 

「ありがとうございます。お仕事頑張ってください」

 

「それじゃあ、早く寝ろよ!」

 

「おやすみなさい」

 

そう言うと親父さんは部屋から出て行った。

しばらくするとリゼが部屋にやってきた。

 

「月……明日の事を考えたら寝れない……」

 

「なんでリゼが緊張してんだよ……」

 

月は部屋にあった貰い物のハーブティーを淹れ、リゼに渡した。

 

「ラベンダーだ。リラックスして睡眠を促進する効果がある」

 

「ありがとう……月は明日の本番緊張しないのか?」

 

「しないな。むしろ楽しみでしかない。色んな人の色んな弾き方を聴けると思うとワクワクする。それに大きなコンクールじゃないから、そこまでプレッシャーは無いしな」

 

「そっか……ピアノさえあればいつものお前だな♪」

 

「そういうこと!」

 

「それじゃあ、明日は頑張れよ!おやすみ♪」

 

「おう、おやすみ」

 

早めに月はベッドに入った。

疲れていたのだろう月は早々に意識を手放した。

 

 

 

 

翌日、石畳の街で唯一のコンサートホールに月達は集合していた。

 

「月さん、今日はいつもと髪型が違うんですね?大人っぽくて素敵です♪」

 

月は昨晩貰った黒のタキシードを着て、首もとには黒の蝶ネクタイを付けている。髪型はネオ七三分けにしており普段出していないおでこもガッツリ出している。

 

「ほわぁ……//」

 

(シャロちゃんってば見とれてるわね)

「月君の衣装って結婚式の新郎みたいね」

 

「新郎!?//」

 

そういうとシャロの顔はもっと赤くなった。

おそらく何か妄想しているのだろう。

 

「月の演奏順は20人中19番か……それまでどうするんだ?」

 

「そうだな……何人か興味のある人がいるからその人達を見る感じだな」

 

その時館内放送が鳴った。

 

「ただいまより開会式を行います。演奏者ならびに観覧者の皆様はホールに集まってください」

 

月達は促されるまま、ホールの自分達の席に座った。

わりと前の方の席だったので、チノとココアは嬉しそうにしている。

 

「チノちゃん、この席だったらライト君の表情までバッチリ見れるね♪」

 

「ココアさん、演奏中に騒がないでくださいよ?」

 

「大丈夫だよ♪」

 

いつも通り仲良さげにしている二人を見て月はとても落ち着いていた。

 

「最後に本日の特別審査員を紹介します!海外を拠点に世界を股にかける盲目のプロピアニスト、坂本光一先生です!坂本先生には演奏者の皆さんの演奏後にミニコンサートをしていただくようになっておりますので、皆様ご期待ください!」

 

館内は驚きと喜びで歓声と拍手が湧き、演奏者達は緊張した面持ちとなった。

 

「プロのピアニストの演奏が聴けるなんてラッキーだな月!……って月?」

 

月は顔面蒼白といった感じで坂本先生を見つめていた。

 

開会式を終えエントランスに出た月達、月の顔色があまりにも豹変した為みんなは驚いていた。

 

「ライト君大丈夫!?お腹痛いの?それともお腹空いたの?」

 

「喉が乾いたなら自家製の抹茶があるわよ?」

 

「月さん、何かあったんですか?私達で良ければ話してください……」

 

「プロのピアニストに見られるのがそんなに緊張するのか?らしくないぞ?いつもなら、「僕がプロのピアニストが相手くらいで緊張する訳ないだろう♪」くらい言うはずだろ?」

 

「リゼちゃん……月君はそんなキャラじゃないわ……」

 

空気を変えようとしたリゼのボケに、まさかの千夜が突っ込んだ。

それまで黙っていた月が重い口を開いた。

 

「坂本先生は……俺の人生を救ってくれた憧れのピアニストなんだ……」

 

月はみんなに母親が亡くなった時の話をした。

月が立ち直るきっかけとピアニストを目指すきっかけをくれたのが坂本先生だったのだ。

※4羽冒頭参照

 

「俺ごときが坂本先生の前で弾いていいのか?将来的には叶えたい目標の一つではあったけど、あまりにも時期が早すぎる……」

 

そう言うと月は頭を抱えた。

みんなの思いは同じだった。月を励ましたい……しかしどう励ましていいのか分からず困っていた。

するとそれまで無言で話を聞いていたシャロが月の前に立った。

 

「シャロ?」

 

するとシャロは思い切り月の頬をビンタした。

月は鳩が豆鉄砲喰らったように驚きとポカンとしていた。

 

「憧れのピアニストが何よ!私からしたら月もあの先生も同じ立派なピアニストよ!ここで悩んでることが今、月がやるべき事なの!?今の月の全てを見せつけてやりなさいよ!!それにね……?」

 

シャロは座っている月の視線の高さに合わせるように屈んだ。

 

「音楽ってのは、音を学ぶものじゃなくて音を楽しむものなのよ?」

 

そう言ってシャロは月に微笑んだ。

シャロの背後で母親が微笑んだ気がした。

 

 

~~~~空想~~~~

 

「月?音楽ってね、音を学ぶじゃなくて、音を楽しむって書くのよ?」

 

月の母、美咲が月を諭した。

 

「それくらい知ってるよ」

 

「音楽を学ぶことも大事だけど、自分と聴く人を楽しませられなきゃ一流のピアニストにはなれないわ♪」

 

「聴く人を楽しませる事ができればいいんじゃないの?」

 

「そうねぇ……月が大きくなってそれを教えてくれる人が側にいてくれたら分かると思うわよ?」

 

そう言って月の頭を優しく撫でた。

 

 

~~~~空想終了~~~~

 

 

「あはははははは!」

 

狂ったように月が笑いだしビンタを張ったシャロは激しく驚いていた。

 

(私ってば思わず月に酷いことしちゃった!)

 

落ち着いた月はシャロの腕を引っ張り、シャロを抱き締めた。

 

「ありがとうシャロ!自分のやるべき事が見つかったよ!」

 

シャロは驚きのあまり、全身が硬直してしまった。

 

「月君ったら大胆ね♪」

 

千夜と月以外は顔を真っ赤にし成り行きを見守っていた。

月は自分のしていたことに気づき、慌ててシャロを離して顔を赤くした。

 

「まだ演奏開始まで二時間以上ある!もう一足掻きしてくるよ!」

 

みんなにそう告げると演奏者専用のピアノ室に月は向かった。

ピアノ室に着いた月は、使えるピアノがあるか確認したところ、空いている部屋があるのでそちらを使っていいとのことだった。

 

 

「さてと……」

 

何か覚悟を決めた月はただ夢中でピアノを弾き始めた。

 

 

 

 

二時間後いよいよ月の出番が近づいてきた。

 

「ライト君、あれから帰ってこないけど大丈夫かな?」

 

「最後の表情を見る限り大丈夫じゃないか?」

 

「そうね♪シャロちゃんの渾身のビンタが炸裂したものね♪」

 

「からかわないでよ!!」

 

そんなやり取りをしているといよいよ月の出番がやってきた。

 

「続きまして、エントリーNo.19、相武月さんお願いします。演奏曲はショパン、ポロネーズ第6番変イ長調 作品53です」

 

会場中に拍手が響くと月が入場してきた。月の姿を見た観客からざわつきが起こった。月は全身汗だくで髪の毛も綺麗にセットできていなかったのだ。

 

観客席に向け一礼をした月はピアノの前に座った。

 

「リゼちゃんリゼちゃん。ライト君大丈夫かな?」

 

「どうだろうな?でもピアノに向かう表情はいつもの月だ」

 

そこにはいつものようにピアノに向け微笑んでいる月がいた。

 

(自分の全てをこの曲に込める!!)

 

「♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪」

「「「「「!?」」」」」

 

月がピアノを弾き始めた。

その瞬間会場がざわつき始めた。

 

「リゼさん、なぜこんなにざわついているのでしょうか?」

 

「分からない……でも一つ気になってる事がある……」

 

「教えてください!リゼ先輩!」

 

小声で話していると、リゼはざわつきの結論に至ったようだ。そしてそれをみんなに話した。

 

「昨日まで散々練習してた曲と違う……」

 

会場がざわついた理由は司会から紹介された曲と違う曲を弾き始めたからである。

 

月が弾き始めたのは、リストの超絶技巧練習曲 第4番 「マゼッパ」ニ短調である。

 

イヴァン・マゼーパのポーランド時代に着想を得たヴィクトル・ユーゴーの叙事詩『マゼッパ』に感銘を受けて作曲したと言われ、リストの作品の中で最も有名な人気作の一つである。

 

月が高校に入る前から取り組み始め、最近弾けるようになった曲だ。月自身も今まで納得の行く演奏ができたことが一度も無く、全てを注ぎ込まなければ演奏できない曲だと言える。

 

曲としての難易度は最上級クラスを誇り、両指十本がそれぞれの意思をもって動いているかのような凄まじい動きを求められる。

 

会場のざわつきなど気にならないといった様子で、月の指先は滑らかに美しく動いていく。

 

ざわつきが治まった会場を月のピアノの音が支配していく。

 

(今日は調子いいなぁ、このまま演奏が終わらなければいいのに……)

 

月の感情を表現するように指先が激しく呼応していく。

会場の空気は全て月が支配していた。

 

終盤の緩かな箇所を終え、クライマックスの強く激しい演奏に入っていく。

 

(俺のお想いを全て出しきる!)

 

「♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪」

 

演奏を終えた月は拳を天に突き上げた。

会場は静まりかえり、月の吐息のみが館内にこだましている。

 

「ブラボー!!」

 

最初に声を発したのは坂本先生だった。

鑑賞中一度と声を発していなかった坂本先生が、月の演奏にのみ声上げ、手を叩いた。

それに続くように拍手が増え、観客からスタンディングオーベーションで祝福された。

 

月は思わず涙が出そうになったがグッと堪え、観客に向け頭を深く下げ、ステージを後にした。

 

ステージを出てエントランスに向かう、そこには月を出迎えるシャロ達が待っていた。

 

「お疲れ様!いい演奏だったぞ♪」

 

「私なんて、泣きそうになっちゃったよ……」

 

「私も感動しました……」

 

「シャロちゃんなんて、泣いていたものね♪」

 

「言うなバカー!!」

 

月は椅子に腰かけるとみんなにお礼を言った。

汗だくの月のおでこをシャロがハンカチで拭った。

 

「これだけいい演奏だったら、金賞間違いなしだね♪」

 

「そうねぇ♪先生が唯一ブラボーって言っていたものね♪」

 

「現実はそんなに甘くないよ、さて閉会式に行こうか」

 

 

 

閉会式が始まり、いよいよ表彰が始まった。

演奏者達は緊張した面持ちで自分の名前が呼ばれるのを待った。

しかし月の名前が呼ばれることは無かった。

 

 

 

「おかしいよ!絶対ライト君が一番だったよ!」

 

「確かに三位以内に入賞してないのはおかしいな」

 

結果に納得がいかないココアの発言にリゼが同意した。

しかし月は納得した様子でココアを諭した。

 

「事前に決めた演奏曲とは違う曲を演奏したんだから、この結果も仕方ないさ。それに最後まで弾かせてくれてペナルティも無かったんだから、むしろ感謝しなくちゃ行けないよ。さぁ、コンクールはもう済んだし帰ろう♪」

 

月はやりきって清々しい面持ちで帰路に着こうとしたが、見知らぬ女性に声をかけられた。

 

「すみません、相武月様でよろしいでしょうか?」

 

「そうですけど?」

 

「私、坂本光一先生のマネージャーを務めております。菅野と申します。先生が相武様にお会いしたいと申しておりまして、よろしければご同行していただきたいのですが……。お連れ様もご一緒で構いませんので」

 

月は確認するようにみんなの顔を見た。皆構わないといった感じに頷いた。

 

「はい、大丈夫です」

 

「ではこちらへ」

 

 

そう言われ坂本先生の所まで案内されることになった。

月は緊張のあまり同じ手足が一緒に動いている。

 

「月、緊張し過ぎだぞ……」

 

「き、緊張?なにを仰いますかリゼさん。私は全く緊張なんてしていませんよ?」

 

そういう月は視点は定まらず膝も笑っている。リゼを始め、誰一人として月がここまで緊張しているのを見たことが無かった。

 

先ほど演奏したステージに連れて来られると、二台のピアノが用意されており、その手前に椅子が何台か並べられている。おそらくリゼ達の物だろう。

 

 

 

 

「先生、相武様をお連れしました」

 

「ありがとうございます。スミマセン、急に呼び出してしまって。どうしても話がしたくなりまして」

 

「は、初めまして!相武月と申します!」

 

「緊張しなくていいですよ。幾つか質問をさせてください。まずは何故、英雄プロネーズではなくマゼッパを弾いたんですか?」

 

「経緯については話が多少長くなりますがよろしいですか?」

 

「構いませんよ?よろしくお願いします」 

 

「10年前、病気で母を亡くしました。その頃俺は生きる希望を無くし、母との思い出が詰まったピアノを辞めようと思っていました。そんなある日、坂本先生がピアノを弾いている所をテレビで拝見させていただきました。先生が弾いていた曲は母さんが大好きだった、パッヘルベルのカノンでした。その時の先生の演奏と言葉に勇気をいただき俺はここに立つ事ができています」

 

「そして今日、先生の前で演奏できる一生に一度の機会がやってきて狼狽えてた俺にビンタをくれた友達のおかげで、自分のしたいことが分かったんです。俺は先生と友達に自分の全てを見てほしい……。それなら完璧に演奏できるプロネーズより、自分の持てる全てを注ぐなければならないマゼッパだと。ただし関係者皆様にご迷惑をおかけしてスミマセンでした」

 

そういうと月は深く頭を下げた。

 

「なるほど経緯は分かりました。運営には私から伝えておきましょう。ピアノは誰に教わりましたか?」

 

「基礎的な事は地元のピアノ教室で、6歳で教室を辞めてからは我流で覚えました。」

 

「なるほど。あなたにとって音楽とは?」

 

「音を楽しむ物です。」

 

そういうとシャロに月はウインクした。

 

「あはは、面白い事を言いますね。では最後の質問です。今日のマゼッパに点数を付けるなら?」

 

「60点です。でも過去一番の最高な演奏ができました」

 

「過去一番の最高な演奏なら100点で良いのでは?」

 

「いえ、自分の理想とする演奏にはまだまだ届いていません」

 

月の理想は坂本先生が弾くマゼッパだ。しかし月の技術や表現もまだまだ先生には遠く及ばないと自覚している。

 

「質問は以上です。ありがとうございました」

 

「ありがとうございました!失礼します!」

 

「いえ、まだ帰らないでください」

 

月は頭を下げ立ち去ろうとしたが、坂本先生に止められた。先生は隣のピアノを指差している。

 

「2台のピアノのためのソナタは弾けますか?」

 

先生が提案してきたのはモーツァルトの2台のためのピアノソナタ。

2台のピアノのためのソナタとは、ピアノ二重奏のために作曲されたピアノソナタである。

 

「楽譜は覚えていますが、二台で弾いたことはありません」

 

「では貴方らしく自由に弾いてください。私はそれに合わせます」

 

「では……」

 

「♪~♪♪~♪♪♪」

 

月は演奏し始めた。月は自分らしさとは何だろうかと考えたが、月は力強さや勢いより、繊細さや音の強弱を大切にしているためそこに注意しながら演奏をした。

先生の音は月より繊細に美しく、欲しい音が欲しい所にに入ってくる。

月は先生との技術の違いを感じていた。それ以上に先生と同じ空間でピアノを弾いているという感動で涙が溢れそうになるのを堪え、ピアノソナタを弾ききった。

 

 

 

「菅野さん、彼にお願いしていた物を渡してください」

 

「相武様、お受け取りください」

 

月が菅野さんから受け取ったのは一枚の名刺でそこには住所、電話番号、メールアドレスが記入されてあった。

 

「高校3年生になって将来を考えた時、ピアニストになる気があればご連絡ください。卒業後、私の元でピアノを学ぶといいでしょう。私は弟子は取らない主義ですが、貴方は面白そうだ♪」

 

「えっ?えっ?お、俺なんかでいいんですか?」

 

「言う言葉が違うだろ?」

 

「そうよ。月がどうしたいかでしょ?」

 

突然の申し出に同様する月に、リゼとシャロが月の背中を押した。

 

「よろしくお願いします!」

 

月は深く頭を下げた。

坂本先生は嬉しそうに微笑んでいる。

 

「それではお帰りになって結構です。あ、そうだ。相武さんの事をビンタされた方はいますか?」

 

「ふぇ!?わ、私ですけど?」

 

「少し二人でお話しませんか?菅野さんもホールの出入口で待っていてください」 

 

「は、はい……私は大丈夫ですけど……」

 

「じゃあ、俺達はエントランスで待ってるよ」

 

シャロが先生の提案に了承すると月達はホールを後にした。

 

(わ、私……何を言われるのかしら……。ピアニストにビンタを張るなんて何様だとか言われるのかしら!?)

 

「さてと……君は相武さんの事が好きなのかな?」

 

「え!?ら、月ですか?//そそそ、そんな事無いです//」

 

「そうなんですか?ウチの妻と付き合う前に凄く似ていたので……」

 

「でも……月と一緒にいるとふわふわした気分になるんです。普段はクールぶってるくせに実は優しくて、大人びてるのに子供っぽい所もあって、非力のくせに妙に頼りになるときもあって……。ピアノを弾いてる時はオモチャを与えられた子供みたいな表情で弾くんです」

 

そういうと先生にシャロは微笑んだ。

 

「目が見えなくて残念だ。ピアノを弾く時の彼の表情と今の君の顔が見たかったです。」

 

「あの……私って月の事……好きなんでしょうか?」

 

「そうですね……それはいずれ貴女の中で答えが出てくると思います。その中で貴女が自分自身の答えをどう受け止めるかですね♪話していただきありがとうございました。私から出せるお礼と言えば演奏くらいしかないので、先程、相武さんのお話に出たカノンなどどうでしょうか?」

 

「いいんですか!?」

 

「はい、では早速♪」

 

「♪~♪♪~♪♪♪」

 

神に捧げるように神々しい曲調のカノンを繊細に美しく弾きあげていく。その演奏の美しさにシャロは息をのんだ。

演奏が終わると先生は両手を合わせた。

 

「貴女と彼に神の祝福があらんことを……。それではお話はこれで終わりです。彼のことよろしくお願いします。貴女みたいな方が側にいてくれれば安心だ」

 

そういってシャロに微笑みかけた。

シャロはお辞儀をしたのちエントランスに向かった。

 

 

 

「坂本先生と二人きりで何を話してたんだ?羨まし過ぎるぞシャロ!!」

 

シャロが月の所に行くと、月は興奮冷めやらぬといった様子でシャロに詰め寄った。

 

「た、ただの世間話よ!!さぁみんな帰るわよ!」

 

そう言ってシャロを先頭に帰路に着き始めた。

 

「月、親父が今日はご馳走だって!」

 

「マジかよ?やった!!」

 

他愛ない会話を交わしつつ帰路に着くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ彼を弟子に?彼より優秀な弟子入り希望者は何人かいたじゃないですか?」

 

「菅野さん、ピアニストの演奏は個性が出ますけど、個性は必ず誰かに似ます。誰に似ると思いますか?」

 

「それはピアノの先生でしょう?」

 

「ですね。では先生がいない彼のピアノは誰に似ていたと思いますか?…………私に似ていたんです。おそらく私の演奏を何度も繰り返し聴いて、譜面に記して、ピアノを弾いて、また聴いてを繰り返していたんでしょう。そんな演奏を聴かされては私も無下にはできませんよ」

 

「三年後……来ると思いますか?」

 

「来ると思わなければ名刺を渡していません。彼も私と同じでピアノに生かされてる人間です。遅かれ早かれこちら側に来るでしょう……。三年後が楽しみだ♪」

 

そう言って坂本先生は今日の出会いを神に感謝するのであった。

 

 

 

 

 




いかがでしょうか?

やりきった!!\(^-^)/
過去一の時間をかけ、過去一の文字数になりました……。
おそらく色々ご意見はあるとは思いますが、自分としては書けて満足です!

次回は普通のごちうさに戻りますのでご安心を!
しばらくは完全オリジナルは控えよう……なんちって(笑)


では次回お会いしましょう!!
ほなっ!(^^)ノシ
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