天星剣王の一人旅   作:木板騙矢

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サンダルフォンのイベント、控えめに言って最高でした。

今回は三話か四話になる予定ですかね〜。
ヴェイン君の出番は……ほら、ウーノさんと一緒にΩ槍パで使うから!


フェードラッヘ編 序章

 

「ねぇねぇシェロちゃん、聞いてよー。これさ、新しい剣拓なんだよねー」

「少々お待ち下さいませ〜」

 

 商人達が威勢の良い声をあげながら、せわしなく働く市場の一角。一方で少しでも安くて良い品物を求めて交渉をする客。

 そんな彼等の喧騒をものともせず、シエテは今日も呑気にシェロカルテと話をしていた。

 

「終わったかい、シェロちゃん。今日も繁盛してるねー」

「シエテさんですか〜。その様子ですと、アルベールさんに無事、勝てたんですね〜」

 

 マイペースな独特な喋り方がどことなく癒される、ハーヴィン族のシェロカルテは、ありとあらゆる騎空士がお世話になっている凄腕の商人である。

 何を隠そう、レヴィオン王国の動向をシエテに伝えていたのも、他ならぬシェロカルテだ。

 

「まあねー。俺の手にかかれば、どんな相手だろうとちょちょいのちょいってね!」

「流石ですね〜。でも、右頬に貼ってある絆創膏は、いったい何なのでしょうか〜?」

 

 シエテの右頬にある、見るからに怪しい絆創膏。

 シェロカルテには、彼が怪我を負うのはそれ相応の理由があると分かっていた。いや、彼の腕を知る者ならば誰だって分かるだろう。

 

 それだけの傷を負うに相応しい、強者と戦ってきた証拠だと。

 見抜かれたシエテは、絆創膏に触れながら答えた。

 

「だってさー、才能溢れる若き騎士団長相手だよ? いくら俺でも、流石に無傷は難しいよねー。本気を出させられちゃったし、油断大敵だねー」

「シエテさんのことですし、わざとなんじゃないですか〜?」

「いやいやいやシェロちゃん、俺がふざけたことある? ないでしょ?」

「いや〜、どちらかと言うと、真面目な時の方が少ないですよ〜」

「そうかなあ?」

 

 シエテは自分の普段の行動を振り返ってみるも、別段ふざけてばかりいるつもりはないと判断。一人で腕を組みつつ納得したように頷いていた。

 

 本人がそれでいいのなら、第三者がとやかく言う筋合いはないが……勘違いも甚だしいとはよく言ったものだ。

 

「それでそれで? 次は俺に、どんな凄腕の剣士を教えてくれるのかな?」

「その前にですね〜、依頼の話をさせて貰ってもよろしいでしょうか〜?」

「おっと、そうだった」

 

 シエテは懐から一枚の依頼書を取り出し、シェロカルテへ手渡した。

 剣拓を集めるのは、あくまでも趣味。どうせ他の国々に行くのならば、仕事を受けた方が良いというもの。

 

 彼の場合、結局は先に剣拓集めに走ってしまうのだが……。今回も、魔物の討伐は数分で終えたのにも関わらず、レヴィオンには数日滞在していたのだから、救いようがない。

 

 そんなシエテに、シェロカルテは数枚の紙切れを取り出しながら頬杖をついた。

 

「う〜ん、いつも通り魔物退治が多いですね〜。ですが緊急性の高いものはないようですし……シエテさん、優先したい依頼はありますか〜?」

「へぇ、どれどれ……」

 

 髭など微塵も残さないよう、入念に剃られた顎を撫で回しながら、シエテは視線を落とした。

 依頼のリストには、目玉が一つしかない巨人討伐、五の頭を持つ竜の退治、中には国の警備をしてくれなんて無茶苦茶な要望まである。

 流石はシェロカルテ、どんな仕事も解決できるように動いている。

 

 そう思いながらシエテは紙を捲っていくと、一つ気がかりな依頼があった。気になって目を通すも、内容としては特に尖った点はない。しかし、珍しさが気になった。

 

「……ん? 今どき騎士を募集している国なんてあるんだねー。人手不足じゃあ仕方ないのかな?」

 

 その国の名前は、フェードラッヘ。最近では色々と騒ぎを起こしては、とある大剣の男によって救われている国である。

 

「フェードラッヘですか〜。確かに、あの国には剣の使い手ならたくさんいたような気がします〜」

「へぇ、例えば?」

 

 シエテは剣の使い手が気になったのか、シェロカルテに詳しく尋ねることにした。

 

「炎帝と呼ばれる騎士に、白竜騎士団の団長。それに何と言っても、竜殺し辺りが有名ですかね〜」

 

 名前で説明すればいいものの、敢えてズラすシェロカルテ。

 意地悪をするつもりはないが、シエテの性格を把握した上で説明したのだろう。それは、彼がにやりとしたことから明らかだ。

 

「んもー、シェロちゃんってば、名前で教えてくれてもいいのにー」

 

 わざとらしく肩をすくめるシエテに、シェロカルテは愛想笑いで応対した。

 

「いえいえ〜。いつも言ってるじゃありませんか〜、名前を覚えるのは俺が認めた相手だけだから、特徴だけを説明してくれると嬉しいなって〜」

「えー、俺ってばそんなこと言ったっけなあ?」

「言いましたよ〜」

 

 上手く口車に乗せられているシエテだったが、シェロカルテがそう言うのならば、そうなのだと判断した。

 どのみち、いきなり三人の名前を教えられたところで、覚えていられないのだろうし。

 それに、知った風な口を聞いていざという時に名前が出ない方が、間違いなく相手に失礼なのだから。

 

「それで、フェードラッヘ近辺の魔物退治の依頼、どうします〜?」

「もちろん受けるよー、いざ手合わせしようって時に魔物の邪魔なんか入ったら、調子が狂わされるしねー」

 

 剣を片手に互いの腕を見せ合う。

 シエテにとってそれは、無言で語り合える至福の時である。

 ある者は剣に懸ける思いを。またある者は、自分ではなく誰かのために振るう剣を。そして、ある者は自身の未来のため振るう。

 

 そんな時間を魔物なんかに奪われては、興が削がれるというもの。

 まあ、どんなに邪魔をされようが並大抵の魔物は、戦いの最中だろうと余った剣拓で相手をしてやれないこともない。それが彼の扱う剣拓の利点でもある。

 

 とにかく、決断をしたシエテはシェロカルテに依頼の紙を返しながら、ゆっくり話し始めた。

 

「うん、今度はフェードラッヘに行こう。確かあの場所には美味しいケーキ屋さんもあったよねー」

「十天衆の方々ですと〜、サラーサさんに買ってあげるのはいかがですか〜?」

「うーん、サラーサの場合はケーキよりも竜殺しに食いつきそうだしなー」

 

 団員のことを考えながら首を傾げるシエテ。

 食べ物と強敵と戦うことを比較するのはナンセンスかもしれないが、実際にそうなのだから仕方ない。

 

 そんでもって、竜殺しと仲良くなって一緒に戦ったりだとか……。サラーサに限ってあり得そうな事実に、シエテは思わず口元を抑えながら吹き出した。

 

「どうしたのですか〜?」

「いやさ、竜殺しって聞いたらサラーサがわくわくしそうだなって」

「そうですか〜? サラーサさんも強いですから、並大抵な相手じゃないと戦うつもりもないんじゃないかと〜」

「ははっ、確かに。それじゃあシェロちゃん、行ってくるね」

 

 準備が整ったシエテは、その場でくるりと回り、マントを靡かせながら歩き出した。

 

「いってらっしゃい〜」

 

 後ろ姿で手だけを振る彼を、シェロカルテは見送りながら次の客と話し始めるのだった。

 

 

 *

 

 

 穏やかな風が島全体を包んでいるポートブリーズ。

 シエテは今、ここを発つために騎空艇の発着場へやって来ていた。

 

「えー、フェードラッヘ行きの騎空艇はこちらになります。まもなく出発致しますので、お早めにご搭乗の上、お待ち下さい」

 

 そんなアナウンスがシエテの耳に入ると、彼は搭乗員にチケットを渡した。

 

「はい、お一人ですね」

「どうもどうも」

 

 桟橋の先まで行き、乗り込む。

 すると、数百人が乗ることのできる大規模な騎空艇だけあって、中は意外と空いていた。

 席の合間を縫うようにして歩き、窓際の一人で座っていられそうな席へ。

 

「よっこいしょ」

 

 椅子に腰掛けたシエテはそのまま窓の外を眺めた。

 星晶獣ティアマトの加護を受けているだけあって、気分を落ち着かせてくれるいい風だ。

 

 戦闘意欲を高めてくれる暴風も嫌いじゃないが、まったりしたい時にふく風もまた、嫌いじゃない。

 これはやはり、彼の司る属性が、六の元素の内の一つである風だからだろうか。

 共感を得られる人間は少ないだろうが、それはそれで、自分だけが楽しめて良かった。

 

「えー長らくお待たせ致しました。これより、フェードラッヘ行きの便は出発します。しばらく揺れますのでむやみに歩かないようお願いします」

 

 空の世界に住む者ならば、幾度となく聞かされる注意。

 落ちたらどうなるか誰も分からないのだから、当然とはいえ……彼も空の底については気になっていた。

 

 果たして別の世界が待っているのか……あるいは虚無か。ただただ死ぬまで落ち続けるのか。その答えを知る者は落ちた者だけだ。

 

「あー怖い怖い……ん?」

 

 船長から声がかかったところで一眠りしようかと考えるシエテだったが、前方から迫るどたばたとした足音と話し声に眉を潜めた。

 一人は金髪のがっちりした体格の男で、もう一人は黒髪。パッと見では華奢に見えるも、鍛錬しないと造れない引き締まった身体に、彼は注目した。

 

「ランちゃんランちゃん! こっちの席、空いてるから座ろうぜ!」

「待てって……ヴェイン、もう出発するんだから早く席に着け!」

「細かいことは気にすんなって! ねぇお兄さん、隣の席、空いてるよね!」

 

 今の注意喚起を聞いていたのなら、さっさと席に座るのがマナーなのだが……だらしない奴もいたものだ。

 シエテはやれやれと思いながらも、お兄さん呼ばわりしてくれたことに免じて大人の対応をすることにした。

 

「どうぞー、俺は一人だからね」

 

 シエテは窓際の席から、通路を挟んで三つ並んだ席を指差して座るよう促す。

 二人が着席すると、ようやく騎空艇は発着場から離れていった。

 

「全く、せっかくの休暇の帰りに一番焦らされるとは……。ヴェインが買い忘れなんかするからこうなったんだぞ!」

「いやだってさ、団長副団長の俺たちがお土産忘れたらジークフリートさんに呆れられるって!」

「いやお前……いくらジークフリートさんでも、会う予定のない俺たちがお土産を買い忘れることに、どうやったら気付くことができるんだ?」

「さあ? ジークフリートさんなら分かるんじゃね?」

「お前なあ……ジークフリートさんを何だと思ってるんだ……」

 

 仲睦まじく談笑する二人の会話を、聞き流していたシエテ。

 しかし、明らかに私服とはいえ二人は確かに団長と副団長と言った。そして、休暇終わりでフェードラッヘに帰ると理解できた。

 

 なかなかに、並外れた洞察力である。

 

 つまり、結論から言えばこの二人はフェードラッヘの騎士団長と副団長その人であることが簡単に分かった。

 そうと決まれば、シエテは早速声をかけることにした。

 

「ねえ、君たちってさあ……もしかしたら、フェードラッヘの騎士団長と副団長だったりしない?」

「あれ、お兄さん俺たちのこと知ってんの? まあ、ランちゃんくらいになると知らない人もいないか!」

 

 豪快に笑うヴェインだったが、あながち間違いではなかった。

 何を隠そう白竜騎士団団長であるランスロットは、あまりに美しすぎる容姿が女性の注目を浴びてしまうとの理由で捕らわれたことがあるのだから。

 

 普段は青い鎧姿に身を包んでいるのだが、きりりとした表情に加えヴェインによく見せる笑顔の虜になった人は数知れず。

 ともかく、絶大な人気を誇る圧倒的な美青年である。シエテ、いや、お互いに気付いていないが、年齢を同じだとは思うまい。

 

 そのせいか、ついシエテはため口で。ランスロットは敬語を使っていた。

 

「いやー、奇遇だね。実は俺もちょっと有名でさ? 十天衆って騎空団、知らない?」

「十店主? なんだか凄そうな経営者集団だな!」

 

 ヴェインの発言に、思わずズッこけそうになる二人。

 ランスロットは改めて説明をすることにした。

 

「十天衆だぞ、ヴェイン。十ある武器の最強の使い手から構成された伝説の騎空団……で、合っていますよね?」

「そうそう。ただ、強い奴はいるけどどいつもこいつも個性的でねー。しかも自分勝手だから、本当に信頼してくれているのか不安になるよー」

「は、はぁ……」

 

 嘆くシエテに、ランスロットはなかなか苦労の絶えなさそうな人だと思った。

 それはシエテも同様だ。ヴェインのようなタイプを下に置く気持ちも、よーく理解しているつもりであった。

 

「まあ、本題はここからなんだけどねー。実は俺もフェードラッヘに向かう途中なんだけど、三人の男を探してるわけ。炎の剣士に竜殺し、それと……白竜騎士団の団長である君だ」

 

 名指しで言われて、反射的にランスロットの眉も釣り上がり、表情は明らかに訝しむように変化した。

 それを見たシエテは慌てて付け加えた。

 

「ごめんごめん、別にフェードラッヘで何かしようってわけじゃないからさ。俺としては今の三人と戦って、勝ったら剣拓を取らせて欲しい、ただそれだけさ」

「剣拓?」

「これのこと」

 

 説明するよりも見せた方が遥かに早い。

 そう判断したシエテは、コレクションの中から一番短い剣を選び、自分の右手に出してみせた。

 その様子を見た二人は、興奮気味に口を開いた。

 

「すっげぇ! こんなの見たことないよな、ランちゃん!」

「あ、ああ……。これは凄いです。もしかしてあなたは剣の使い手、シエテさん……ですか?」

「お! 知ってくれている人がいるのは嬉しいなー」

「俺も騎士として、剣については日々模索していますから。行き詰まりを感じることも多々あります」

 

 謙遜気味に語るランスロットだったが、シエテがかなり嬉しそうに微笑んだので驚きを隠せなかった。

 まさか、有名なはずの彼が、名前を知られているだけで微笑むとは普通は思わない。

 有名人は、多くの人間が知っているからこそ有名なのではあるが。

 

 そんな二人の会話に、ヴェインは口を挟んだ。

 

「シエテさんには悪いけど、竜殺しであるジークフリートさんは、今はどっかに行ってるから分からないかなー。パーさんなら確か、まだ滞在してたっけ?」

「ああ、パーシヴァルの奴なら俺たちが不在の間、団員たちを見てくれてるからな」

「おーそうだったそうだった。なんだかんだでパーさんは面倒見がいいからな!」

「まあ、有能な人材を引き抜かれないかが心配だがな……」

 

 信頼できる人間に部下を託したのにも関わらず、ランスロットは苦笑い。一方のヴェインは気にも留めない様子である。

 どうやら、探していた三人の情報はもう掴めたらしかった。

 

「なんとなくだけど……そのパーシヴァルって人が、炎帝で間違いないのかい?」

「ええ。やっぱり、パーシヴァルとも決闘を……?」

「まあね、俺も面倒な性格してるのは自覚してるけど、その剣の使い手に勝たないと剣拓を取らない主義だからさー」

「なるほど。けど、パーシヴァルなら快く受けてくれると思いますよ」

「……その言い方だと、君は受けてくれないのかな?」

 

 シエテの表情が鋭く、そして険しくなった。通路を挟んでいるとはいえ、随分距離が近いせいかランスロットはつい口を閉じた。

 

 シエテとしては、威圧するつもりはないが理由を知りたいのだ。

 

「ええ……非常に申し訳ないのですが、俺にはあなたと戦う理由が見つかりません」

「ほう。理由……か。参ったなー、そう言われるとお兄さんは困るんだよねー、ぶっちゃけ趣味だから」

「パーシヴァルだけじゃ駄目なんですか?」

「ほらさ、俺たちって職業柄、いつ動けなくなるか分からないじゃない? だから、一度出会った剣士とは戦っておきたいんだよねー」

 

 シエテの口から飛び出してきたのは、意外にももっともな理由。

 それを聞いたランスロットは、少し考える素振りを見せた。

 

「しかし、趣味とはいえランちゃんは勝負を挑まれるほどシエテさんに認められてるんだろ? だったら俺は受けてもいいと思うけどなー」

「君も剣士なのかい?」

「ん? 俺の武器は剣よりも斧だから、シエテさんとはやり合えないっすね」

「それは残念だなあ」

 

 剣を得意とするなら、自らの愛剣くらいは手にしているはずである。

 たとえ戦わずとも、それを見るだけでもシエテは楽しかったりするのだから、生粋の武器マニアでもあるのだ。

 

「ランちゃんが悩んでいるし、俺は昼飯でも食おっかなー。シエテさんも要ります? つい買い過ぎちゃって……食べ切れそうにないっす」

「フェードラッヘに着いてから食べようと思ってたけど、余ってるなら貰おうかなー」

「ええ。本当は俺の手料理でも食べて欲しいけど、ここじゃどうしようもないし。あ、フェードラッヘが初めてなら俺が案内しますよ!」

 

 人見知りとは無縁のヴェインは、ぐいぐい距離を詰めてくる。

 

「確かに、依頼以外じゃあまり滞在したことがないからなー。ここはお言葉に甘えて、案内して貰おうかな?」

「ほいきた! ちなみに依頼って……」

「これだねー。フェードラッヘは騎士団員も募集してるくらいだし、魔物の処理に人手が足りないらしいからねー」

「あちゃー、本来は俺たちの役目なのに……」

 

 自国の国民を守るために存在している騎士団だが、自分たちだけでは足りないのを自覚しているのか、ヴェインはゆっくり話し始めた。

 

「俺たちもずっと前線で戦いたかったけど、怒られちゃったからなー」

「ほう。詳しく聞かせてくれるかい?」

 

 その内容とは、ランスロットとヴェインが数ヶ月働き詰めであまりにも休息を取らないものだから、怒られたという話であった。

 そんなに悪い話ではないと思うかもしれないが、パーシヴァルにこう言われてしまったのだ。

 

「ランスロット、お前は自分の団員たちを信じられないからずっと働いているのか? 別にお前がいなくてもフェードラッヘは大丈夫だから、旅行にでも行ってこい」

 

 そんなことを言われてしまっては、ランスロットも休まざるを得なかった。それに、抜けた穴はパーシヴァルが入るから心配無用だと豪語するので、つい任せてしまったのだ。

 こうして休暇を得るにまで至ったのだが、フェードラッヘから出ないとどうせ隠れて働くと見抜かれたのか、国外にまで飛ばされたのである。

 

 そして、三日ほど国を出て休んだので、帰る途中でシエテと出会った……こんな流れである。

 

「ま、働き詰めは良くないからねー。俺もあいつらに言ってやるかな……」

「あいつら?」

 

 ランスロットが首を傾げると同時に、シエテは説明を始めた。

 

「俺の団員なんだけど、いつも孤児たちの世話をしている奴らがいるんだよねー。なんせ場所が場所だから……」

 

 そう言ってシエテは窓の外、その下の方を見る。

 星屑の街。そこでマフィアたち相手に、常に目をギラつかせてるカトルとエッセルのことを思い出しながら、彼は項垂れた。

 彼等がいるのも、この空で言うならば決して高いところではない。下の方だった。

 

 移してやりたいのは山々だし、進言はした。

 しかし、双子にとってあの街は帰るべき場所なのだ。生まれ育った場所を懐かしむ気持ちは理解できるがゆえ、シエテも強制はできなかった。

 

 普通、マフィアたちと抗争を繰り広げるような街に、誰が住みたいと言うのか?

 そんなもの、よっぽどの命知らずじゃなければ言い出すわけがない。

 しかし、それでもカトルとエッセルはあんな危険な街に住み続けているのだ。彼女たち自身も、まだまだ幼いというのに。

 

 とは言え、十天衆の最年少は別にいるがゆえ、強さの形には色々あるのだった。

 

 

 

 それから数十分。

 

「あ、そろそろフェードラッヘに着くみたいだ」

 

 窓の近くに肘を乗せながらもの思いに耽るシエテの横で、誰かが呟いた。

 聞こえるがままに視線を下へと向けると、一番目立つフェードラッヘ城がその全貌を現した。

 それに復興がだいぶ進んだ街並みに、迷子になりそうなほど広い森が目につく。何度か足を運んだことはあるが、基本的な構造は変化していなかった。

 

「さて、と。観光も悪くはないんだけど、君と戦う理由を考えなきゃね」

 

 振り向いたシエテとランスロットの視線がぶつかり合う。

 正直、戦う理由なんて探したところで見つかるわけがないのではあるが、それでも何とかしてみるつもりではある。

 

 いくらなんでも、人質を取るような危ない真似をするつもりはない。

 それに、色々とけしかけるのは得意な方だ。

 真摯な姿勢を崩さずに頼み続ければ、簡単に折れてくれるかもしれない。

 

 騎空艇が到着し、二人の荷物を抱きかかえながら、作戦を企てるシエテであった。




個人的に一番書きたかったのはVSアルベールで、次点でパー様。
ジークンマン、アレ爺、ヨダ爺辺りはかなり食い下がりそうで書くのが楽しそうですね。


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