今回を含めた話までの中に作者の推しキャラが出ています。
皆さんが当てられたら、早目に投稿することを前向きに善処したいと検討します。
「うーん、ひよこ豆ってどこあるっけ…」
キョロキョロと見回しつつ、材料を探す士貴。
バイトも終わり、ハンバーガーの材料を揃えるために、ショッピングモールの食料品売場へとやってきた。
いつもはおまけも貰えるので、基本的に商店街で買うことが多いのだが、士貴の求める材料の一つは以前から探してもなかったため、ショッピングモールに赴くことと相成ったのだ。
しかし、久々に作ることに加え、折悪く、商品の場所の入れ替えもあったらしく、目的の材料が見つからない。
「んー、輸入品のとこにあるっけ?」
そう言いつつ、半ば諦め気味に、ショッピングモール内の輸入品を取り扱う店舗へと向かおうとしたところ、
「ふええ…ここどこぉ…」
聞き覚えのある声と、見覚えのある水色の髪が目に入った。
「あれ?もしかして、花音ちゃん?」
「へ?あ、店員さん」
士貴が声をかけた相手は、松原花音。
水色の髪に紫色の瞳をし、その整った目鼻立ちから、どこか庇護欲を誘われるような少女だ。士貴にとっては、羽沢珈琲店での、顔馴染みの常連客の一人でもある。
いつもは内気でオドオドしているが、何だかんだでいざという時は妙に肝が据わっており、そのちぐはぐな印象が面白く、給仕ついでに話している内に多少仲良くなったのだ。
とは言っても、まだまだ壁があるようで、花音と接する上では、取り敢えず『店員さん』呼びから卒業することが今の目標でもある。
「今は違うけどね。それはそうと、どうかした?困っているように見えたけど」
「え、ええと、その、服を見ようとしたら、迷っちゃって…」
ちなみに、衣料品を取り扱う所は士貴のいる、食料品売り場とは、そもそも階層が違う。
これから分かるように、彼女は極度の方向音痴だ。そのくせ、カフェ巡りが趣味なのだから、士貴は思わず話を聞いたとき、思わず呆れるより先に笑ってしまった。
「…相も変わらず、随分面白いことになってるねえ」
「うう、すみません…」
士貴が苦笑しつつ、発した言葉に思わずしょんぼりした様子の花音。
その様子に、士貴が少し慌てて訂正する。
「いや、まあ、責めてるわけではないし。取り敢えず、俺も上に用事あるし、衣料品の所まで一緒に行こうよ」
放っておくと、衣料品にたどり着くまでに店が閉まりそうな勢いだ。
流石にその状態を放置しておくほど、士貴は鬼畜ではない。
「すみません、お願いします…」
「違う違う、花音ちゃん、こういう時には何て言うべきだっけ?」
「?…あ!ありがとうございます!」
「そうそう、別にもののついでだから謝る必要なんて無いんだよ」
前に花音が迷って道案内する際、士貴は花音の謝る様子を見かねて、言ったのだ。
またこういうときがあれば、謝るのではなく、感謝の言葉を伝えてほしいと。自分がやりたいからやっているのだから、謝られる必要はどこにもないと。
「それに、『すみません』だと、元々の言葉は『この場では、済みません』って意味だから、また、埋め合わせをしてもらうことになっちゃうよ?…例えば、デートとかで」
「ふええ!?で、デートですか!?」
「ははは、冗談だよ、冗談。ホント、良い反応するねえ、花音ちゃんは」
士貴としては、からかいやすい今の状態の花音を気に入ってはいるが、色々と不安なので、方向音痴くらいは多少の改善が見られると良いなあとは思っている。
その後、少しして、衣料品を取り扱う店舗が集中する階に到着した。
「帰る時は大丈夫?何なら送ってくけど?」
「だ、大丈夫です!家までの道はちゃんと分かるので…」
…家までということは、その前である、ショッピングモールを出るまでは怪しいということでないことを祈るばかりだ。
「そ。まあ、見かけたら、声かけてよ」
「あ、はい!ありがとうございました」
一応の保険をかけておいて、士貴もまた自らの用事を済ませるために、食料品のある下の階へと戻っていき、その場で花音と別れた。
◆◆◆
その後、輸入品を取り扱う店舗に到着し、探してみると、無事、『ガルバンゾー』と書かれた袋を見つけることが出来たのだが、
「………」
「………」
残り一袋。タイミングが良いのか悪いのか、派手な見た目の少女と同時に掴んでしまったのだ。
次の瞬間、素早く互いに手を離したかと思うと、
「「あ、どうぞ」」
と、同時に互いに譲り合う。
「「………」」
再びの沈黙。
((き、気まずい……))
何と言うか、妙に噛み合ってしまっている状態だ。いわゆる、連続回避本能。野球用語で言えば、お見合い。
士貴は一度仕切り直すために息を吐いて、一拍置く。そして、
「えーと、貰っても良いんですかね?」
改めて声をかける。今度は幸いにして、少女は受け身に徹してくれたらしく、すんなりと事が運んだ。
「あ、はい!大丈夫ですよ。アタシは今すぐに欲しい訳じゃなかったですし」
しかし、改めて見てみると、派手な見た目、言ってしまえば、ギャルな少女は化粧の上からでも分かるくらい、中々に整った顔立ちをしていた。見たところ、紗夜や日菜と同い年くらいだろう。
茶髪を一つにまとめ、後ろへ流すという、ポニーテールをアレンジしたような髪型に加え、肩の出た露出の高い服装に、細かいアクセサリー。お洒落に気を遣っている、イマドキのJKといった感じだ。
ただ、きちんと初対面の歳上相手に敬語を使えているし、礼儀正しい娘であることは間違いないだろう。
ちらりと目を向ければ、買い物かごの中には様々な香辛料が入っていた。士貴も家でたまに料理を担当しているから分かるが、かなり本格的なラインナップだ。しかも、何かに影響されてというまとめ買いではない。足りないものを買い足したという感じだ。
間違いなく、普段から色々と作っているのだろう。おつかいという可能性も考えたが、香辛料にはパッと見、似たようなものが多い。それを迷わず買っている時点で、彼女自身が作っているのだろうと考えた。
(人は見かけによらんな…)
失礼な話、彼女の見た目でここまでレベルの高いものが作れるとは驚いた。
そして、妹たちにも多少なりとも、手解きしておくべきだったかとも思った。士貴ばかり上達するのは、将来的に色々と問題があるかもしれない。
「ひよこ豆で、ダルカレーか…」
香辛料のラインナップを見るに、自身の考えは良い線をいっているのではないだろうか。
そう考えつつ呟くと、少女が少し驚いたような目を向けてきた。士貴も何気なく呟いただけのつもりだったが、聞こえていたらしい。
「あー、申し訳ない。かごの中見えて、そうなのかなーと思いまして」
悪いことをしたわけでもないが、不快だと感じるかもしれないと思い、一応の弁明をしておく士貴。
「あ、いえ。気にしないでください。でも、よく分かりましたね。お兄さん、趣味が料理とか?」
それに対し、少女は手を振りつつ、弁明の必要がないことを示しつつ、疑問を投げ掛けた。
「あー、趣味と言うか何と言うか…。まあ、妹にせがまれて作ってる感じですかね」
最初に作り始めた切欠は何だったかなど、覚えてはいない。きっと何気ないことだったのだろうとは思う。
思い出す必要もないので、別に士貴自身気にしてはいないが。
「へー、妹さん想いなんですね」
薄く笑みを浮かべて、そう口にする少女の反応に、士貴は苦笑を返す。
少女の言葉で、学友にシスコンだと言われ、否定できるだけの材料もなかったことを思い出してしまったためだ。士貴としては、『家族』というものを士貴なりに大切にしているだけのつもりなのだが。
「あ、別に変な意味じゃなくて、ただ微笑ましいな~って言うか…」
「いや、それが俺にとっては変な意味に当たるんだけど…」
少女の言葉に士貴は思わず突っ込む。あまりオブラートに包めていない気がした。
「アハハ、ごめんなさい。でも、まあ、ちゃんと妹さんのために美味しいもの作ってあげてくださいね。折角譲ったんですし」
少女は士貴の言葉に快活さの感じられる笑顔を浮かべつつ、そう返した。何と言うか、コミュ力の高さがうかがい知れる。
士貴も低い方ではないが、目の前の少女と比べれば、天と地ほどの差があるだろう。
「ああ、これに関してはホントにありがとう。また会うことがあれば、埋め合わせに期待しといてくれ」
士貴は手に持ったひよこ豆の袋を軽く振りつつ、そう言った。
「アハハ、あまり期待せずに待ってますね」
少女も士貴の言葉に対して、軽い感じでそう返し、その場で少女とは互いに手を軽く振り合って別れた。
「折角だから、名前だけでも聞いとけば良かったかね…普通に良い娘だったし」
ショッピングモールを出た際にそう思ったが、縁があればまた会うだろうし、その時に改めてお礼でもすれば良いかと思い直し、帰路に着いた。
…その道中で、またもや迷っている花音を発見して、一緒に帰ったのも良い思い出だ。
士貴は花音の誕生日プレゼントには、方位磁針と地図でも買ってあげるべきだろうかと真面目に思い悩んだ。
◆◆◆
「人って見た目によらないもんだなあ~」
派手な見た目の少女こと、今井リサはポツリとそんなことを呟いた。
今日ショッピングモール内の食料品の売り場で、一見チャラそうな大学生に会ったが、少し話してみると、家族想いで、料理に関しても詳しそうな様子だった。
良い意味で予想を裏切るような人だったなと、うんうんと頷くリサ。
「結構カッコ良かったし、今度会ったら、名前でも聞いておこうっと♪」
奇しくも、リサは士貴の抱いた感想や考えと同じようなものを抱いていた。
そんな妙に波長の合う二人はそう遠くない時期に、再度出会うこととなる。