Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】   作:秋塚翔

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玉藻好きな姉が買ってきてくれたエクステラリンクをプレイ中。カール大帝とシャルルマーニュ、良いなぁ。こう言う魅力的なサーヴァントを出してくるからfateは面白い。

今回はそれなりな自信作。書いていた当時はぐだイベ前のメンテナンス中でテンション上がってました。もちろん物欲センサーが幻霊化してる疑惑のfgo、期待の沖田オルタは出ませんでしたとも!(半泣き)


#10 白夜

「フゥー! 良いじゃないか。やっぱりサーヴァントってのはこうでなくっちゃ!」

 

 

 空に大きな一つ目が浮かぶ真紅の景色を、化学室の窓から眺めてはしゃぐ一人の男子生徒がいた。

 間桐慎二──ライダーのマスター。士郎の友人だったこのワカメ頭の青年は、マスターとなって聖杯戦争に参加した今や士郎達の敵だ。

 

 

「ハハハハハ~ッ、残念だったな衛宮、遠坂! せっかくこの僕が手を組んでやろうってのに、断るのが悪いんだ! せいぜい魔力を吸い取られて苦しむがいいさ!」

 

 

 それでも()()()()()自分の仲間にしてやろうと協力を持ちかけたが揃って突っぱねられ、とうとう慎二は思い知らせるつもりで行動に出た。予め仕掛けておいたライダーの結界(宝具)を発動し、学校中の人間を魔力に変換して糧にしようと目論んでいるのだ。

 準備が実り、待ち望んでいたその舞台を満足げに見る慎二。そうして気分を良くしたか、はたまたこの中で自由に動けるのは自分だけと言う優越感に浸ったか、小心者の彼としては思い切った行動を取る。

 

 

「さーてとっ、それじゃ普段日和ってる奴らがどんな無様な顔でぶっ倒れてるか、早速拝んでこようかな~」

 

 

 そう独りごち気味に言って、廊下に出ようとする。そんなマスターを咎めようと、結界を展開してからは無言で控えていたボンテージ衣装に身を包む紫髪の女──ライダーが口を挟んだ。

 

 

「しかしマスター、まだ敵のマスター二名は健在な様子。できる事ならもう暫くココで待機してくださると……」

 

 

「大丈夫だって。僕がお人好しの衛宮や、女の遠坂なんかに遅れを取る訳ないじゃないか。それに、もしもの時はお前を呼べば良いんだろ?」

 

 

 まったく、使い魔の癖して主人のやる事に口出しするなよな──文句を垂れながら、慎二はライダーの忠言も聞かず化学室を出ていく。魔術回路は廃れ、衰退していく名門魔術師の末裔に生まれた慎二は、その苦悩やコンプレックスを晴らすように足元で転がる生徒らを想像し、いずれはその中に士郎と凛が仲間入りする様を思い浮かべて底意地の悪い笑みで顔を歪ませ、独り校内を行くのだった。

 

 

 

 

 一方、こちらは昇降口。

 たまたま弁当を届けに来たところを、結界に取り込まれたハルは士郎を探して校舎に入ってきていた。

 実はひとまずマスターと合流しようとしたためでもあるが、空中にある一つ目が急に「オイ」と呼び止めて、追い掛けてきそうな気がしたから避難したのが正直なところ。あれは怖かった。あの時は赤い空間に助けられたが、今回のこの赤い空間内はそれを望めないだろう。

 

 

「士郎さん、何処にいるのかな……?」

 

 

 一応周りは探索していたものの、校舎内は初めてなハル。士郎のいるクラスも把握できていない。ましてやサーヴァントが襲来している上に真っ昼間。まともに戦えない自分の利点すらほぼ役に立たないと見て間違いはなかった。とりあえず士郎、ないしは凛と合流して状況を確認しないと──

 その時だ、向かいの廊下から『彼』がやって来たのは。

 

 

「あ」

 

 

「ん?」

 

 

 言うまでもなく、慎二だった。入り口から入ってきたハルと化学室のある一階を出歩いて間もない慎二、出会すのは殆ど必然であろう。

 不運にもハルは彼が敵のマスターだとも、学校中の人間が倒れていると言う事態も知らない。対して、幸い慎二はハルを見て子供が迷い込んだか?と一瞬常識的に考えていた。状況を正しく理解せず動かぬ両者。

 だが、子供なりに怖がりなハルがまず踵を返して走り出す。それが慎二に動くきっかけを与えた。

 

 

「あッ!? 待て! おい!」

 

 

 逃げたハルを、追い掛ける慎二。普通なら警察案件な構図だが、この場には他に誰もいない。ましてや慎二も、当然そのつもりで追走していなかった。

 やがて一足早く逃げても所詮は子供の足。走りにも自信がある慎二はすぐに追い付き、回り込んだ。

 

 

「……!」

 

 

「おい、何で逃げるんだ? ……いや、待てよ? 分かった、お前もしかして──別のマスターだろ! 僕の獲物を横取りに来たんだな? そうなんだろ?」

 

 

 そして少し見当違いな問い掛けを投げつける。どうやら慎二はハルを士郎や凛、自分とはまた違う他のマスターだと思ったらしい。

 見た目の雰囲気や令呪の有無で分かりそうなものだが、生憎と彼に限りそれはむしろ判断材料にならず、仮に魔術師らしく内包する魔力量で判別できたとしても、普通の少女と変わらず、なおかつ日中のハルの魔力量など一般人と相違無かった。

 だが、それが分からない慎二は勝ち誇ったように笑う。

 

 

「ハハハッ! こりゃ嬉しいねえ! まさか一気に三人もマスターを潰せるなんてさぁ! いよいよ僕が聖杯を取るのは目前じゃないか!」

 

 

 その独り言を聞き、ハルはようやく理解に至る。この人は敵のマスターだと。

 瞬間、今度は反対側へと駆け出すハル。同時に何かを手から落とす。一方で彼女の正体を理解(勘違い)した慎二は、それを見逃がしはしなかった。

 

 

「待てよ! お前は衛宮達を始末した後にしてや──ぶッ!?」

 

 

 再度追いかけようとしたその時、慎二の視界が遮られ顔はその障害物に衝突。打った鼻を擦りつつ、何事かと慎二は下がって見た。そして、戦慄する。

 

「痛ぅ……一体何だって、ヒイッ!?」

 

 

 魔 神 柱 出 現

 ──などと、十年後くらいに言われそうだが、それは今と関係無い。慎二が見上げると、そこには学校の様式と不釣り合いな、大きな柱が鎮座していたのだ。

 木目がまるで目玉のような古い大黒柱。廊下の真ん中に突如現れたそれは、慎二を睨むと校舎をガタガタ揺らし始めた。たじろぐ慎二、そんな彼めがけて横の教室から椅子が独りでに飛び掛かる!

 

 

 ──ガタンッガタンッガタンッ!!

 

 

「うあああッ!?」

 

 

 勢いよく飛んできた椅子を慎二が絶叫上げ回避。なおも付け狙ってくるそれに、慎二はそのままハルの逃げた方に自分も()()した。

 ハルが逃げ出しながら落としたのは、宝物(コレクション)の一つ『ふるいもくざい』──廃屋で悪さをしていたお化け柱の一部だ。

 本来大した力も無いこれら曰く付きの物品にハルは魔力を通す事で、一定時間呪いの力を発揮させる事ができる。今回は柱の破片が本体の柱そのものとなり、ポルターガイストを起こしていた。因みにこの宝具は自律タイプなため、制御できない代わりに魔力消費は少なくて済む。昼間には持ってこいな手段だ。

 

 

 ──ブンッ!

 

 

 ──ゴロゴロゴロォ!

 

 

 ──パリィンッ!

 

 

「ど、ど、ど、どうなってるんだこれぇぇぇーーーっ!?」

 

 

 回転し飛来する絵画、階段から転がってくるタル、上から落ちてくる陶器etc……降りかかる現象の数々に慎二は叫びを上げる。しかし、それを助けに来るものは誰もいなかった──

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

「うおおおぉッ!!」

 

 

 バキィ! と、破砕音を立てて階段中程にいた人型の骨が打ち倒される。もう一体攻撃を仕掛けようとしたのを士郎は返す刃の如く返り討ち、行く道を確保した。

 

 

「くそっ、キリが無いな……!」

 

 

 しかし骨──ゴーレムは床に沸き立つ靄から次々出現。士郎達の行く手を阻む。

 

 

「衛宮君! 下がって!」

 

 

 不意に上がる凛の声で何か察した士郎が後退する。それと入れ替わりざまに凛は呪文を唱え、握り込んだ青い宝石をゴーレムの群れに投げ入れた。途端、強い光を発して宝石は炸裂、ゴーレムらを一片残さず吹き飛ばす。

 

 

「結界の起点はこの先か?」

 

 

「ええ、間違いないわ──待って!」

 

 

 一目散に駆けようとした士郎を、凛は突然制する。そして「あそこにいるのって!」と指差す。

 士郎もその指差す先を見やると……

 

 

「待てこのガキーーー!」

 

 

 怒号と共に向こうの廊下を駆け抜ける慎二の姿があった。どうしたんだ? 士郎も凛も、そう思いながらこの結界を張った黒幕である彼の後を追った。

 

 

 

 

「もう、鬼ごっこは、終わりだッ……! 早く、このおかしなの、解除しろォ……!」

 

 

 息絶え絶えにハルを追う慎二。流石の彼もここまでされたらハルがサーヴァントだと気付いている。気付いたが故に、ハルを捕まえて現象を止めようとしていた。

 ポルターガイストによる助力もあって、慎二から未だ逃げられているハルだが、やはり見知らぬ場所なのが難点だ。地の利がある慎二に上手く追われて行き止まりに差し掛かる。道の終着点を見たハルは、廊下に置かれた棚を()()()()()、とうとう逃げ場を無くす。

 標的を追い詰めた慎二は、疲れ顔を笑みで歪ませて一挙に襲い掛かる。

 

 

「つ・か・ま・えっ……」

 

 

 ──ジャキィン!

 

 

「tひあああああァッ!?!?!?」

 

 

 が、その瞬間にすぐ側に置かれた棚から鋭い杭が飛び出してきた。眼前に迫ってきた杭を、慎二は類い稀な危機回避の本能で回避、スレスレで串刺しを免れる。ハルが警戒して避けたのが罠となり、慎二を襲ったのだ。

 

 

「慎二! そこまでだ!」

 

 

「っ……!? え、衛宮っ、それに遠坂っ!」

 

 

 そこへ士郎達が駆け付ける。まさかの追い詰めたつもりが、逆に追い込まれた形。慎二は自らの危機に躊躇いなく叫ぶ。

 

 

「ラ、ライダー! ライダーッ! 早く来いこのノロマ! 僕を助けろォ!」

 

 

 自分の身を守りたい、絶叫じみた命令。それを聞き届けたか、士郎達の背後から蛇のように人影が慎二の盾となる位置まで馳せ参じる。ライダーのサーヴァントだ。

 

 

「「ッ!」」

 

 

 サーヴァントを呼ばれた事態に、士郎と凛は動揺を滲ます。上の階で士郎は令呪を介しセイバーを呼び、その階に潜むサーヴァントの相手をしているはず。それが今ここに現れたのは厄介だ。いかに二人がかりで渡り合うか……

 対し、反対に相対した位置にいた少女が慎二らの視界から外れたのを機に動く。言うまでもなく、ハルだ。

ハルはその右手に"赤いハサミ"を握り、突撃する。その行動を遅れて慎二とライダーは見た。

 

 

 慎二は分かる訳がなかった、少女(ハル)が握るハサミの秘めたる力を。

 

 

 ライダーも気付けなかった、こちらに接近するサーヴァント(ハル)の手にあるハサミの真価を。

 

 

 二人は理解できなかった、自分達にではなく()()()()に刃を入れるウォーカー(ハル)の意図を。

 

 

 察した時にはもう遅く、何かを断ち切られた感覚を覚えたライダーは──何を言う暇もなく消滅した。

 

 

「…………は? え、えっ? ライ、ダー……?」

 

 

 さっきまですがっていた武器(サーヴァント)の消滅。その余りにも呆気ない様に慎二は理解が遅れる。無理もない。たった今ライダーは霊核を壊されて死んだのでも、何らかの能力で隠されたのでもなく……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()消滅したのだ。

 

 

 『対縁宝具』

 

 

 ──それが、ハルが断片解放した第四宝具の固有カテゴリー。

 "縁"と言う、魔術世界でも一部分しか捉えきれていない概念を、この宝具は完全に捉え、そして断ち切る力を持つ。これによりライダーは令呪や召喚時の触媒などの因果、魔力パスと言った類いの縁を切られ、体内に残存する魔力すらスッパリ縁を切られて消滅したのである。

その理解ができないのも無理はないが、慎二は大きな力を失って戸惑いを隠せない。

 

 

「……ぁ、ひ、ひッ! あ、あぁ、うあああぁぁぁーーーっ!!」

 

 

 しかしやがてサーヴァントのいない自分の、聖杯戦争における立場を自ずと理解した模様。誰も彼を追撃するものはいなかったが、剣も盾も失った彼にはお人好しな士郎も、女の凛も、幼女のハルすら恐ろしい敵に見えたのだろう。情けない声を漏らしながら士郎達の前から足を縺れさせつつ敗走した。

 

 

 かくして術者のライダーを無くした結界はゆっくり消失し、空に再び澄んだ青色が戻る。そうなってすぐ、士郎はまだ息のある倒れた人達の介抱に奔走するのだった──




廃屋の子供が描いた柱の絵は、どう見ても魔神柱。

ライダー撃破!切り札を断片解放しての、まさかの形での決着です。ワカメを面白おかしく動かして生き残らせたのは、原作のストーリー展開以外にもまだ役目があるから。まだまだワカメには調子良く青々しててもらわないと(黒笑)
それにしてもゲスキャラの台詞書くの楽しい。何故かポンポンどう喋らせるか思い付くんですよね。俺がゲスいからかな?そう言う意味ではSNキャラの中で慎二が一番好き。イリヤはプリヤの方が(ゴニョゴニョ

ハルの第四宝具、断片的にお披露目。更に言うとこれは人型特攻の宝具です。何なのかは言うまでもなく。縁を切る事でどんなサーヴァントをも一撃で倒す、地味に凶悪な代物でした。因みに令呪との縁からして断たれているので、ライダーのマスター権があのキャラに移る事もありません。

次回、ハルは別行動でまさかの……?
宜しければ評価やコメントをくださると、今回みたく張り切ってしまうかもしれません。どうぞお願いいたします!

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