Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】 作:秋塚翔
あ、もちろん殺戮の天使のレイチェルも言わずもがな。ザックの中の人が新宿のアサシンと同じ岡本信彦さんとかハマり役すぎる。木ィィィ原クゥゥゥン!
さて、難関の前話を無事乗り越えて、反動とばかりに筆が乗りに乗った今話。調子にも乗って少し長めです。と言っても4000字くらいですがね。出来も自信あるので、是非ご覧ください!
追記:推薦してくださった方、誠にありがとうございます!ここまで成し遂げられてしまうとは……俺はいつの間に聖杯を手に入れてたんだろうか。
「しーろぉ~♪」
出掛けようとしていた士郎の視界一杯に、満面の笑みを浮かべた大河の顔が広がる。
気分良さげな間延びした呼び名、からかいたくて仕方なさそうな笑顔、反応を見たくてしつこい詰め寄り──さながら酔っ払いのようだ。
「遠坂さんとデートなんだってー? こいつァ大勝負ですなぁ!」
うりうりと肘で突っつき煽ってくる。それを士郎は押し退けながら抗議した。
「茶化さないでくれ、俺も何が何だか……そもそも、デートったってセイバーやハルも一緒じゃないか」
「何を言ってるの、この子は! こーんな可愛い女の子三人も侍らせて休日を過ごそうなんて、男冥利に尽きるってもんでしょーが!」
「そ、それは……」
言い澱んだ士郎は、ふと玄関先で待つ凛達のうちセイバーとハルを見やる。セイバーは言わずもがな騎士としての凛々しさと、人形のような整った顔立ちをしている。思わず見とれてしまう。
ハルも意識こそしていなかったが、子犬みたいな愛らしい見た目だ。将来有望──もちろんサーヴァントなので成長しないが──と言えよう。それを認識してしまい、つい目を逸らす士郎。
その間に大河はバイクに跨がり、エンジンを噴かした。
「それじゃ、私もデートだから! 上手くやんなさいよ士郎?」
「え、デートって……!?」
驚く士郎をはぐらかし、大河は飛んでいくように家を後にする。残された士郎と凛達少女三人は、改めて『デート』に向かうのだった──
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事の起こりは昨晩。キャスターのマスター襲撃を失敗し、一日経ってからの事だ。
ハルが探索を切り上げて帰ってくると、台所で何やら隠れて調理している凛の姿が。気になって聞いてみると、「明日あの他人主義に思い知らせてやるのよ。驚かせてやるからまだ内緒ね?」と釘を打たれた。デートと言うのが、凛の言う他人主義──士郎に思い知らせる策らしい。
そんなこんなで凛の指示でバスに乗り、着いた先は新都。人が行き交う近代的な都市だ。
「さて。それじゃあ衛宮君、何処か行きたい場所のリクエストはある?」
「そう言われても、困る……」
「セイバーとハルは?」
「私はシロウの護衛として来ているので、いないものとして扱ってください」
「ここは人が多くて探索してないから、何があるのか知らないよ」
「そう。なら全員私の方針に絶対服従って事でOK?」
物騒な事を言うなよ──士郎の苦情も何処吹く風で、凛は気儘に歩き出す。付き合うと言った手前拒めず、士郎はハル達と共に街を散策し始めるのだった。
まず入った喫茶店で一服入れる一行。士郎は困惑覚めやまぬもケーキとコーヒーを口に入れる。
次にクレープやタイヤキを食べながらまた街巡り。セイバーとハルは互いに違う味のそれらを交換し合って舌鼓を打つ。
道中、目についた雑貨屋や本屋、メガネ屋を回って見る。
ファッション用のメガネを手に取り少女達はかしましく試着。凛は赤が似合い、セイバーとハルは青が良く似合う。士郎は凛のチョイスによる黒縁丸メガネで笑われた。
そして凛の言う、本命。バッティングセンター。
バットの振るえないハルが見守る中、凛は来る球来る球を見事なヒッティングで打ち返していく。これにはメガネで不貞腐れた士郎も負けてられず、劣りながらも負けずに打つ。セイバーは剣を握る時と似た構えのせいか、当たりはするものの前へ飛ばない。そこでセイバーの負けず嫌いが露呈し、三人を参らせた。
楽しい運動の後は待ちに待った昼食。このために隠れて作っていた凛お手製のランチがお目見えする。きちんと切り分けられ、芸術的な仕上がりのサンドイッチはセイバーの目を輝かせた。少し辛い味付けなのは兄弟子の影響か?
「体の調子、良さそうね」
「ああ、
「素直に受け取るとは思わないけどね。『まさかキャスターの洗脳でも受けた訳ではあるまいな』とか言い出しそう」
サンドイッチを頬張りながら、凛と士郎は話に花を咲かせる。
話題は一昨日、キャスターのマスターである葛木の襲撃を失敗した時に遡る。奇しくもその戦闘で『投影』の魔術を成功させた士郎は、その時から半身の麻痺に苛まれた。それを解消したのが凛のサーヴァント、アーチャーだ。
それから痺れは無くなり、一応士郎にはアーチャーに借りがあった。もちろん気に食わない士郎からの感謝など、アーチャーはお断りだろうが。
と、安心した凛は不意に何か思い付き、その端正な顔を意地悪い笑みに染めた。
「まぁ無事なら何よりね。それじゃ腹ごなしがてら、ちょっと運動でもしたらどう?」
「はあ?」
疑問符を浮かべる士郎から視線を移し、凛は丁度食べ終えたハルに話し掛ける。
「ハル、ここにお化けがいるわ。家事が得意で意地っ張り、大人に見られたい可愛……じゃなくて怖いお化けがね。早く逃げないと食べられちゃうわよ?」
一瞬訳が分からずキョトンとするハル。しかしすぐ合点が行き、「うん!」と頷いて靴を履くと勢い良く逃げ出した。
「あ、おいハル! そんな早く走ると危ないぞ!?」
「ほらほら衛宮君……いえ、お化け君。そんなに心配なら追い掛けたら?」
「くっ、この悪魔め……」
まだまだ言い返したいが、仕方なく士郎は追い掛けだす。逃げる事ならハルが一日の長だが、士郎だって負けていない。さながら年の離れた兄妹の鬼ごっこだ。一昨晩の金ぴかとの鬼ごっことは訳が違う。
「リン、貴女も行かれてはどうですか?」
「え? あ、いや、でもココの見張りだってあるし……」
「見張りは私にお任せを。リンは自分の意思に従ってください」
「……じゃあお願いね。ほらハル! ココにもお化けがいるわよ! 預金通帳の残高増えなさーい!」
「切実な恨み抱えたお化けだな……」
童心に返り、逃げるハルを追い掛ける士郎と凛。走り、転げ、笑う。大人になっては中々得られない、楽しさがそこにはあった。それを見届けながらセイバーもまた微笑みを漏らす。
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天気が急変し、冬木の街に雨が降り頻る。
急いで帰りのバスに乗り込んだ士郎達は雨足が強い街並みを惜しむように眺めつつ帰路に就く。
「プランの半分しか回れなかったけど、今日はどうだった?」
「……ああ、こんなに遊んだのは久し振りだ……」
自分より他人の幸せを優先する士郎に、少しでも自分の楽しみを味わってもらおうとした今回の
一方、窓から外を眺めているセイバーとハル。霧で覆われる橋に差し掛かった景色にふと違和感を覚えた。
「シロウ、外の様子が……」
セイバーが告げる。それは彼女が直感から、ハルが呪われた自動販売機から異界に引き摺り込まれた経験から察知した異常。忠告を受けた士郎と凛も訝しむ。
そして士郎は見た──前方の運転席、後部ミラーで映されているそこには運転手の姿が無いのを。
気付いた直後、バスの車体は大量の水が押し寄せる。ガタガタ揺れる車内。水の凄まじい圧力に押され、バスは真横に横転した。
「──……ハル、大丈夫か?」
「う、うん……」
幸いにも、元々下になる側の席に座っていたため大事無かった士郎達。そうして無事バスから脱出すると、立て続けに驚愕が襲う。バスが横転した場所は橋の下……いや、正確には川へ崩れた落ちた橋の上だった。その遥か上部、不自然な空間の穴からは
「……ダメ、完全に遮断されてる。閉じ込められたわ」
凛がアーチャーとの念話を試みるも、応答は無い。敵の罠だ。
すぐ傍らでセイバーは鎧を実体化し不可視の剣を握る。ここはもう敵の領域。何があるか分からない。
すると足元の水溜まりが蠢き、それが骨の兵士となりセイバーを襲った。
「──!」
「コイツらは……!?」
「ゴーレム……しかも水で出来てる。厄介ね」
セイバー、士郎、凛はその骨の兵士に見覚えがある。形作っているのが水でこそあるが、紛れもなく学校でライダーの結界が発動した際に現れた
そして叫ぶように牙を剥き、骨の集団は得物を手に飛び掛かる。セイバーと凛がそれを返り討つが、弾けた水の骨体はすぐに再生。間髪入れず再び攻撃してきた。凛の言う通り、水上である以上厄介だ。
すると上空に無数の蝶が舞い、何処からか声が響く。
《無駄な事はやめなさい。ココは私の領域内。徒に魔力を使い果たすだけよ》
「! ……キャスター!」
蝶が一つに集まり出現した声の主は、紫色のローブの女──キャスターだった。目深に被ったフードから口元を歪ませ、滑稽な獲物達を見下ろしている。
「無駄、ですか……ならば大元を叩くまで!」
「あらあら、それも叶いませんよ、セイバー。だって貴女達は手を出せない──こうするだけでね」
戦意を向けるセイバーに、なおも余裕を崩さないキャスターは徐に左手を振るう。そうするだけでその腕の中に、この場の誰もが見覚えのある人物が姿を見せる。それに顕著な反応を示したのは、士郎だ。
「……! 藤ねえッ!」
まさしくその囚われた女性は、藤村大河。キャスターの元にある大河は、意識なく固く目を閉じられている。
「念を入れて……」
「!」
と、人質を披露したキャスターがハルを見やり魔法陣を展開。躊躇も段階もなく光線を撃ち放った。
──ズバアァッ!!
極太のレーザーが狙い外さず、呆気なくハルを撃ち抜く。突如襲撃を受けたハルは光に呑まれ、声すら上げられず消滅した。
「ハル!?」
やられた!──凛はキャスターの行動の意味を察する。
この異空間はキャスターの領域だ。キャスターの思いのまま標的を閉じ込め、無尽蔵に骨の兵を作り出す、まさに彼女が有利な場所。それを引っくり返せるのは他でもない、固有結界を宝具とし逃げ隠れに特化したハルであった。ハルならこの空間を自らの世界に一変させ、逃げおおせる事も可能となる。
故にキャスターはまずハルを排除した。寺で倒したはずのハルが未だ現界しているのに、少なからず何らかの力が働いてると勘づいているキャスター。結果、その行為はキャスター自身にとって都合の良いものとなる。
「これでこの場は完全に私のものよ。さぁ、お話を済ませましょうか、セイバーのマスターさん?」
「「「っ……!」」」
逃げ道を奪われ、人質を取られ、不利な状況下に置かれた士郎達にキャスターは勝ち誇ったような妖しい笑みを浮かべる。
対する打つ手が無く、身動きを取れなくされた士郎達には、もう為す術などない。出来る事は、もはや彼女の言う事に従うのみであった──
上げて落とすスタイル。今後の展開としても、こればかりは原作の流れに反せなかったよ……
スイーツ交換し合うセイバーとハル。想像したら実に微笑ましい。どうもランサー邂逅の辺りから、私の中でハル×サーヴァントの絡みがブームになってる節があります。だって仕方ないじゃない、和むんだもの。可愛いは罪。誰か描いても良いのよ?
そんな微笑ましさからの、キャスター強襲。性能だけならチート臭い『記録された道祖神の恩恵』にもこんな盲点がある訳です。やはりこまめなセーブは大事だわ。
しかし、こうもハルを死なせるとネタ化しそう……ウォーカーが死んだ!この人でなし!みたいな。でも本家(ランサー)の方がネタとして強いし、大丈夫ですよね?
次回、アーチャー陣営のリベンジ戦。
宜しければ評価やコメントをいただけると、作者の宝具『調子に乗った執筆の精(ノベルクリエイター)』に必要な魔力が補充されるかもしれません。このネーミングセンスの時点でもう調子に乗ってますがね……お願い致します!