Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】 作:秋塚翔
その悲しみを振り切るように更新。ワルキューレ恒常だし、二章は常駐ストーリーだからと悟りました。あと半月の辛抱!
衛宮邸で
あの後、駆け付けたアーチャーの手で無事脱出した凛と士郎、そして大河。しかしそこにセイバーの姿は無い。それはハルも魔力パスが突然切られた事で嫌な予感をしていたが、どうやらキャスターの宝具を受けてセイバーもまた契約を無効化され、無理矢理キャスターに契約させられたらしい。つまりセイバーは拐われたのだ。
士郎はその際に重傷を負い、セイバーから恩恵を受けていた治癒能力も無くなり怪我が治らず目覚めない。
「…………」
その痛々しい姿を見、油断して真っ先に殺されてしまった不甲斐無さ、近しい者が
それに見かね、ソファーで寛ぐアーチャーが口を開く。
「気に病む必要は無い。今回の件は敵襲の可能性を想定していなかった私のマスターの失態であり……甘さを捨て切れず、サーヴァントを奪われる事態を招いた君の
「でも……」
「そうよ? これは素直に私の采配ミス。キャスターの思考を把握してなかったのが失敗だったの。だから貴女のせいじゃないわ、ハル」
と、隣の部屋から凛が出てきて髪をいつもの形に結びながらアーチャーのフォローに乗じる。士郎を連れて雨の中を帰還したため、入浴していたのだ。
凛が戻った事で、会話の内容はキャスターの話題に移行する。キャスターの宝具は魔術破りの短剣だ。それを喰らえばサーヴァントとマスターとの契約すら無効化され、更にキャスターの魔術と蓄えた魔力を以てすれば強制的な契約締結も可能。これによりセイバーを得たキャスター陣営は最早盤石とも言えた。聖杯に近いのは、間違いなくキャスターだろう。
「──どうやらキャスター退治が優先だな。ともすれば、
「え?」
「当然だろう、凛。もしやこうなってなお世話しようなどとは言うまいな?」
士郎はもうマスターの権利を失った。ハルがいれば仮契約は可能だろうが、聖杯を得る資格が剥奪された以上それまでだ。そもそも殺し合いから脱却できる折角の機会、無理に再び戦場へ引き摺り込む義理も無い。
凛は一瞬何か言いかけて、アーチャーの正しい言葉に頷く……が、
「そうね……でも、まだ終わりじゃない。アイツが引くまで、私は突っぱねるけど、それでも衛宮君が参ったって言わない限り同盟解消は有り得ないわ」
どこまでも真っ直ぐ頑固に、凛は言葉を返す。
アーチャーはそれに異論しようとするが、「それが私の方針よ」と文句を言わせず見詰めてきた凛に早々折れる。それでこそ遠坂凛を遠坂凛たらしめる高潔さだ。
続けて凛はハルに視線を向けて言う。
「そんな訳だから、ハルも暫く私達と行動して頂戴。貴女が衛宮君の傍にいると、衛宮君は中途半端な覚悟で関わってくるかもしれない。ちゃんとした覚悟の上で首を突っ込んでくるまで接触は無しよ。良いわね?」
凛の指示に、ハルはリボンの付いた頭を小さく縦に振る。
「……分かった。士郎さんに死んでほしくないもん。だから、凛さんに従うよ」
「決まりね。それじゃあ行くわよアーチャー、ハル! セイバーが完全に操られるより早くキャスターを倒しましょう!」
まさに凛とした自信で満ちた良い笑顔で、凛は二人のサーヴァントに言い放つのであった──
~~~~~~~~~~
それから丸一日が経って──
寺から行方を眩ましたキャスターを追跡し、とうとう教会に潜伏しているのを突き止めた凛達。本来脱落したマスターが保護されるべき教会に出向くと、激しい戦いの跡とかなりの量の血溜まりがそこにはあった。監督役だった神父、言峰綺礼のものだろう。
いよいよ行動を開始したと言えるキャスターの所業に終止符を打つため、凛は教会の地下に足を踏み入れる。するとそこにはキャスターとそのマスターである葛木宗一郎、令呪が染み込みながらも抵抗するドレス姿の囚われたセイバーの姿があった。
「手筈通りよ、アーチャー。全財産ぶち撒けるわ」
「了解した……私がマスターを、君がキャスターを、だな」
「フフフッ、貴女が私の相手を? 単なる魔術師である貴女が?」
そう笑って言いながら、キャスターはハルの存在が無いか目配せする。だが魔術はおろか、最高クラスの気配感知スキルを以てしても見付からないだろう『夜のかくれんぼ』使用中のハルだ。キャスターはおろか味方の凛達でも把握できない。
一方、宝石を手に凛はキャスターの嘲りに答えた。
「そんなのやってみなくちゃ……分からないでしょうが!」
──バッ!
「!」
返答を開戦の合図代わりに、赤い宝石が凛の手から投げ放たれる。
魔法陣を展開し飛翔したキャスターは、不規則に飛ぶそれらを迎撃。あらゆる角度から迫る攻撃を捌いていく。だが、最後に飛んできた白い宝石にキャスターの視界は真っ白に奪われた。目眩ましだ。
そこに葛木はキャスターを助けるべく凛を狙う。キャスターの補助でセイバーすら素手でねじ伏せる暗殺拳の使い手。その拳が容赦なく凛へと襲い掛かる。
「アーチャー!」
しかし、想定内。そのためにアーチャーを連れてきたのだ。
凛の声に動いたアーチャーは、一瞬で凛と葛木の間に割って入る。不用意に近付いてしまった葛木。狙いが当たり笑みを見せる凛。攻撃態勢の気配を醸すアーチャー。三者の動きはスローで見え──
次の瞬間、アーチャーの拳が凛を軽々と殴り飛ばしていた。
──ガシャーーーンッ!
元々半壊していた長椅子を破壊し、凛の体は瓦礫に衝突する。訳が分からない様子の凛……だが、すぐさまガンドを放ち葛木を狙い撃った。
それを次は疑いようもなくアーチャーが、あたかも葛木を守るように剣で切り捌いてしまう。
「……どういうつもり、アーチャー?」
冷静に、かつ苛立ちを込めて自らのサーヴァントの真意を問う。すると平然とした表情のアーチャーは、キャスターに向けて質問を投げ掛けた。
「キャスター、君の許容量にまだ空きはあるかな? この間の話、受ける事にするよ」
この間──それは数日前、士郎がキャスターに拐われた時。ハルを殺した隙を突かれアーチャーの一撃を受けたキャスターは、アーチャーを味方に誘い入れようとした。その時は断ったアーチャーだったが、ここに来てそれを受けようと言う事らしい。
「何のつもりかしら?」
「なに、セイバーがそちらの手にあるなら、勝てる方に付くと言うだけの話さ」
答えたアーチャーはふと視線を移す。姿は見えないが恐らく何処かで「どうして」と目を疑っていると思われる、支援の機を待っていたハルに向けて、アーチャーは言葉を投げつける。
「以前に言ったはずだろう、ウォーカー。私やセイバーにも敵意を忘れない事だ、と。特に私は今ココでキャスターを倒すのは理想論と考えた合理主義者だ。一度は疑ってかかるべきだったな」
言いつつアーチャーはキャスターの出した魔術破りの短剣、宝具『
「ウフフフ……! 残念だったわね、アーチャーの
「っ……!」
まさかの収穫に笑いが込み上げるキャスター。もはや目の前の少女は敵ではない。ない、が先程の生意気な態度は見過ごせない。気分晴らしに痛め付けてやろうかと魔法陣を展開した、その時……
「凛さん!」
「やめろぉーーーッ!!」
上から二つの人物が現れる。ハルと士郎。ハルはともかく、突っぱねたはずの士郎が助けに来た事を凛は驚く。強化した木刀を握った士郎は凛を助けるべく特攻を仕掛けるが、葛木の拳にあえなく得物を粉砕される。
「あらあら、鼠がまた一匹……私の周りをウロチョロするなら、纏めて消してしまおうかしら?」
キャスターはそう呟くと共に、士郎と凛、ハルの三人を取り囲む形で竜牙兵を生み出す。危機的な状況に置かれる士郎達。しかし、それに助け船を出したのは、裏切ったはずのアーチャーだった。
「待て、キャスター。私を手駒とするには条件がある。この元マスターと小僧、そしてウォーカーをこの場は見逃す事だ」
「……ウォーカーもですって?」
「気持ちは分かる。確かにウォーカーの宝具や技能は脅威だ。だが、それも他のサーヴァントと連携してなければ単に逃げ隠れが上手いだけの能力だ。貴様も実の弟を亡き者にしたが、好き好んで子供を手に掛けたくはないだろう? コルキスの王女よ」
「…………」
皮肉るように言うアーチャーに顔をしかめるも、何か思うところがあってか、はたまた勝利を確信した故の寛容さかキャスターは竜牙兵の群れを引っ込める。
「良いでしょう。今後私の前を動き回らない限り生かしておいてあげる。だけど次に私の前に現れた時は……」
「ああ、その時は殺される覚悟あってこそだろうからな。元のマスターだろうがウォーカーだろうが、容赦はせんよ」
ニヤリと加虐的に笑うキャスターとアーチャー。葛木は無表情のままやり取りを傍観している。
とにもかくにも見逃された士郎、凛、ハルはすごすご教会から脱出を図る。二度目の敗走。しかも状況を更に悪化させた結果に歯噛みしながら、士郎達はキャスターらの前から立ち去るのだった──
重傷の士郎、アーチャーの裏切り、再度の敗走……原作通りとは言えハルちゃんに過酷な状況を強いていて胸が痛いです。だけど大丈夫、あと次の一回で終わるから!(若干のネタバレ)
一応フォロー入れると、キャスターは学校でハルが使った断片解放第四宝具を見ていません。ライダーがやられるのは確定事項で見るまでもないと判断したため。そしてアーチャーはその宝具の効果を知りながらキャスターに今のハルは無害だと伝えた。つまり……?
次回、4話の後書きで『MWの真骨頂』とか言ったな?──あれは嘘だ。
宜しければ評価やコメントをくださると、第四次から第五次聖杯戦争のスパンくらい執筆速度が上がるかもしれません。お願い致します!