Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】   作:秋塚翔

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本日は『Fate/staynight [Midnight Walker]』をお読みくださりありがとうございます。
この話をお読みになる前に、お願いがあります。

これから本当の夜がやって来ます。
今話を読むにあたり辛い事があるかもしれません、悲しい事があるかもしれません。それでも目を反らさないでください。

約束できますか?

女の子は聖杯を手に入れるために頑張ります。それを決して見逃してはいけません。そのために、私も頑張ってきました。私のために、女の子のために、貴方は読む必要があります。

もう後戻りはできません。

本当に読みますか?
→<はい> <はい>


♯15 真夜

 アインツベルンの森──

 冬木市の郊外に広がっているこの森は、文字通りアインツベルン家が所有する土地だ。

その何処かにあるアインツベルンの城を目指して士郎、凛、ハルの二人と一騎は舗装されてない森の道を行く。

 

 

「大丈夫か?ハル」

 

 

「うん、まだ平気……」

 

 

 なるべくハルの歩調に合わせながら一行は進む。再び仮契約を交わしたとは言え、やはり日中に実体化を維持するのは一苦労な様子だ。

 それでも霊体化しない理由は、これから向かうバーサーカー陣営に敵意を示さないためである。

 

 

 『他のマスターに協力を仰げないか?』──教会から逃げ帰り、凛とまた協力関係を結んだ士郎がキャスター攻略に際して出したその提案が始まりだった。

 実は同じ事を検討していた凛。街の人間から魔力を蓄えたキャスター、そのキャスターの補助でサーヴァントに迫る戦闘力を有する葛木、そして裏切ったアーチャー……加えてセイバーが完全に操られればハルしかいないこちらは敗戦必至だろう。ならば他の陣営の手を借りるしかない。

 だがランサーのマスターは正体も所在も不明だ。となると残るは一人、バーサーカーのマスター──士郎が聖杯戦争の参加を決めた直後に仕掛けてきたイリヤスフィール・フォン・アインツベルンに話を通すしかなかった。

 幸いそちらは凛が今は亡き父親から所在を聞いていたので、少し乗り気ではないが否応言っている暇は無く今に至る訳なのだが……

 

 

「あんのガキィ……今笑ってるの、分かってるんだから……!」

 

 

 先行する凛は土埃で薄汚れた姿でバーサーカーのマスター、イリヤに怒りを募らせていた。森に張り巡らされた結界に何度も何度も弾き飛ばされた結果だ。

 けれど、これだけ罠に接触していたら向こうも気付いている事だろう。それで変な勘繰りはされず、素直に通してくれたなら有り難い。後は話し合いに持ち込み上手く協力に漕ぎ着けるだけ。キャスターに対抗するにはバーサーカーの力が必要不可欠だ。気を引き締めねば……

 

 

 ──ドゴォォォンッ……!

 

 

 と、

 その時だ。まるで爆撃でもあったかのような轟音が、今しがた見えてきた城から立ち昇る土煙と共に聞こえてきたのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 それは神話と神話のぶつかり合い。

 瓦礫が散乱する城内で、二人の英雄が現実離れした戦いを繰り広げていた。金髪の男の背後から波紋より武具が撃ち放たれ、それを巨躯の男が武骨な剣で打ち払っていく。まさに人知を越えた戦い。その中で金髪の男は見下すように笑い、巨躯の男は目前の敵を見据える。

 

 

 彼方、最古にして最上の王 ギルガメッシュ

 

 

 此方、狂いてなお勇猛たる大英雄 ヘラクレス(バーサーカー)

 

 

 神話同士の対決が、そこにはあった。それを少し離れて見守るのは、バーサーカーのマスターであるイリヤ。ギルガメッシュのマスターもまた隠れて見届けているのだが、今そっちはどうでも良い。

 

 

「■■■■■ッ……!」

 

 

「大したものだな、大英雄。だが子守りをしながらでは満足に戦えまい? 尤も今の我は、そのイリヤスフィール(聖杯の器)ウォーカー(イレギュラーの小娘)のように逃がしはしないがな」

 

 

 ギルガメッシュの言葉は的を射ていた。

 拮抗した戦いに見えるがその実、バーサーカーはイリヤに流れ弾の無いよう立ち回っている。狂気に染まってなおも道を外れぬ大英雄たる所以。しかしそれをギルガメッシュは嘲笑い、いたぶるように蔵の武器を選りすぐって放つ。

 やがて生身一つでは捌き切れない物量、しかも一撃一撃が致命的な英雄殺しの武器である事でバーサーカーは次々その巨体に被弾を許してしまう。そして遂に残り少ない命のストックが尽き果て、神を縛る鎖と槍の宝具をトドメにバーサーカーの狂気に染まる紅い眼光はその光を失った。

 

 

「そんなッ……バーサーカー! やだ、やだよぉ……!」

 

 

 負けないと信じていたサーヴァントの敗北。死なないと信じていた英霊の死。イリヤはその大人びた態度も崩れ、子供らしく泣き出しそうにバーサーカーの名を叫ぶ。しかしバーサーカーは体躯を灰色に褪せさせ、ピクリとも動かない。

 ──その光景を忍び込んだ士郎達は上部から見ていた。頼りに来たバーサーカーの敗北、そしてハルにとっては余り会いたくなかったギルガメッシュとの早い遭遇に固唾を飲んで見届ける事しかできない。

 そう、たとえギルガメッシュが手にした剣で一閃、イリヤの目を潰したとしても……飛び出さんとした怒れる士郎を凛が抑え殺されないよう隠れるしかなかった。

 

 

「痛ァッ……!? 痛い、痛いよぉ……!」

 

 

 光を奪われたイリヤは、盲目の身でバーサーカーの姿を手探りする。頼れる存在にすがりたいがために。

 が、そこへ非情にもギルガメッシュが迫り来る。彼の目的はイリヤと言う聖杯の器、その核となる心臓だった。狙われる少女に、もはや逃げ延びる術は無い。造られた命に思うところがあるものの、ギルガメッシュは微かに憐れみを帯びた面持ちでイリヤの命を終わらせるべく剣を振り上げた。

 

 

 刹那、ギルガメッシュの手はピタリと止まる。そしてイリヤを……否、もはやその目はイリヤではなく、更にその『中』にあるものを見透かすように、訝しんだ声で言った。

 

 

「──()()()()()()()()()貴様()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──かわいそう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()は、いつの間にかそこにいた。

 まるで糸が切れたように突然倒れ伏したイリヤの体から抜け出たように、亡霊然とした朧気な()()が天井高く全てのものを見下ろしていた。

 

 

 ギルガメッシュは見た、その言わんともし難い雑多かつ醜悪な姿を。

 

 

 士郎は見た、人間のパーツをごちゃ混ぜにして仕立てたような、そのおぞましい存在を。

 

 

 凛は見た、言うならば蜘蛛に似た、その生理的に、本能的に怖気が走る怪異を。

 

 

 イリヤは見られない、聖杯の核となる心臓を一緒に持っていかれ息絶えていたから。

 

 

「……え……?」

 

 

 そして、ハルは見た──忘れようにも忘れられる訳がない、もう見る事は無いと思っていた()()を。

 何故?どうして? ……いや、ここが過去の世界ならまだ存在しているのは道理だろう。しかし、だが、けれど、なのに……心臓が、経験が、心が、霊基が「そうじゃない」と訴えている。何故そう思うのかは分からない。でも、だって、間違いない。あれは、今の時代にいる()()じゃないと。

 そう、それはまるで……未来で実際対峙した《蜘蛛のようなもの(山の神)》であるかのようだった──

 

 

「……ほう、よもや我が手にせんとしていたものが、何処ぞの愚物とも知らん神の手垢にまみれていようとはな。成り損ないの獣が……その不要な汚れ、貴様の命で洗い流すとしよう!」

 

 

 幽鬼の如く現れた《蜘蛛のようなもの》を見たギルガメッシュは、興味と嫌悪の入り交じる険しい笑みで『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を展開、様々な武器の切っ先が装填された。どれもこれも下級の神霊なら軽く殺せる武具ばかりが《蜘蛛のようなもの》めがけて射出される。

 

 

 ──ガァンッ!

 

 

 しかし、それらは向かってきた()()に相殺された。

 有り得ない事態。だが起こった事実。《蜘蛛のようなもの》は紛れも無く、虚空に輝く波紋を浮かべていた……ただし、その色は血色に染まって。

 それを目認したギルガメッシュは、クツクツと静かに笑う。顔を伏せて笑う。不可解さに笑う。笑って笑って、直後怒気を孕んだ表情を剥き凄まじい数の波紋を背後に展開していた。

 

 

「横奪のみならず我の蔵から我の物を盗み出し、あまつさえそれを我に向けようとは! もはや万死すら手緩いぞ、愚物がァッ!!」

 

 

 激昂したギルガメッシュが雨霰の如く宝具を射出する。まさしく地獄の雨。人類の紡いだ力の集約が、一つの存在へと容赦なく撃ち出された。

 対して同じく、同等数の武具を放って《蜘蛛のようなもの》は応戦する。けれど、それは稚拙そのもの。まるで癇癪を起こした子供が玩具を投げ付けるような無秩序さが窺える。あたかも人類の作ったものなど、自身にはその程度と侮辱せんばかりに。

 それにも激情を駆られるギルガメッシュ。この怒りをどう晴らせばいいかも、当の彼でも分からない。ここまでこの王を怒らせる愚か者もそうは居まい。ギルガメッシュはそれほど心を乱していた。

 ……それが致命的な隙であり、《蜘蛛のようなもの》の狙い。聖杯を取り込み、もう神と言う器すら脱したそれはギルガメッシュの激怒すら嘲笑う所業を繰り出す。

 

 

 

 

 ──ギル

 

 

 

 

「────」

 

 

 もしそれが享楽主義者の幻術なら、すぐに見破っていただろう。或いは霊基パターンも模倣する変装を得意としたサーヴァントでも、王の慧眼は誤魔化せなかっただろう。しかしそれが、"縁"を辿り『座』から引っ張り出された見た目だけは同じ無二の親友だったからこそ、ギルガメッシュの思考は一瞬停止した。

 たった一瞬、それだけで充分。直後、目の前にあった長髪の英霊は体がほどけ、無数の赤い糸としてギルガメッシュに絡み付く。

 

 

「なにッ……!?」

 

 

 幾重にも、幾度にも絡む真っ赤な糸の束。深い意味を持つその糸の拘束に危機を覚えたギルガメッシュは慌てて抵抗する。が、糸はそれより早くギルガメッシュを包み込み、『何か』が侵食していく。逃がさぬように、壊さぬように、そして……弄ぶように。

 やがて糸はギルガメッシュの形に余さず巻き付くと、バラバラ解かれていった。そこにはもう、ギルガメッシュの姿は欠片も残されていない。

 それとほぼ同時、鎖で吊るされ槍に貫かれて果てたバーサーカーもまた光の粒子としてその巨体を霧散させる。

 

 

 ──カワイソウカワイソウカワイソウ

 

 

 残るは《蜘蛛のようなもの》ただ一存在。抑揚も、心も無い同情の言葉は、全ての命をバカにした勝利宣言のようにも聞こえる。それこそ人理を守る英霊をも。

 

 

「っ……!」

 

 

「衛宮君!?」

 

 

 その階下に士郎は凛の拘束を振り切り、木刀一つで飛び降りる。目的は倒れるイリヤを助けるためだ。

 未だ動かず浮かぶ《蜘蛛のようなもの》をあえて無視し、その下でうつ伏せのイリヤを抱き抱える士郎。息をしておらず、心臓の鼓動すらしていないが、それでも放っておけない。

 瞬間、士郎の目と耳は、その『声』と『姿』を見た。

 

 

 

 

 ──士郎

 

 

 

 

「ッ……切、嗣……!?」

 

 衛宮切嗣──士郎の養父。憧れた男。正義の味方を目指した魔法使い。瓦礫にもたれかかりこちらを見詰める切嗣はあの時と同じように、死期を悟った動物のような虚ろな目をしていた。

 

 

「父、さん……?」

 

 

 と、上階で凛の声が微かに発せられる。反応から、どうやら凛の目も士郎とは別に、言葉から察するに父親の姿を、声を目の当たりにしているようだ。背中から血を流した死人の様相をした亡き父を……

 

 

「ユイ……!」

 

 

 ハルとてそれは例外ではなかった……いや、《蜘蛛のようなもの》にとってハルこそが、と言うべきだろうか。ハルの前にもやはりかけがえない者の姿があった。首を吊り、異形になりかけている土気色の親友が。

 

 

──行こう、士郎

 

 

          ──凛、おいで

 

 

   ──ハル、寂しいよ

 

 

 再び相まみえた死した三人の声と姿が、それぞれの耳と心に語りかける。誘うように、導くように。

 その声を聞いた士郎は投影した剣を喉元に当て、同様に凛も宝石を投げずに握り締めたまま魔力を籠め始めた。自殺同然の行為。しかし不思議と士郎達は、それが正しい選択に思えている。

 ただ一人……いや一騎を除いては。

 

 

「よまわりさんッ!!」

 

 

 頭を振ったハルは『しおれたはな』を手に叫ぶ。すると暗がりから飛び出してきたのは、巨大な芋虫じみた白い仮面のお化け・よまわりさん──幸運にも『しおれたはな』でランダムに呼び出される二つの姿のうち、望んだ方が来てくれた。

 現れたよまわりさんはまずハルを、次に凛を、最後に素早く下へと降りてイリヤを抱える士郎と、"ついでに見付けた少年一人"を拐うと瞬く間に消え行く。今は夜ではないが、よまわりさんとて理解したのだろう。あの《蜘蛛のようなもの》が子供を害するものだと。

 

 

『しロう』

 

 

『リん』

 

 

『はル』

 

 

『いリや』『おジョうさま』

 

 

 ──逃 ガ サ ナ イ

 

 

 切嗣、時臣、ユイ、リーゼリット、セラ……逃げた獲物達に所縁ある人達の声を真似て、何処までも清廉、何処までも醜悪な相反する声色で呟いた《蜘蛛のようなもの》は亡霊の如く城から消え去る。

 もう隠れ蓑は必要無いから。聖杯()を得た今、目的を果たすため棲み処を探そう。神として、救済するものとして、獲物(ハル)を取り戻すための準備を──そのために、この時代へ来た。

 

 

 其は未完成の獣。悩める人々を諭し、導き、解き放つ救済するもの──とは巧みな口ばかりの、人間の命を、心を、言葉を無意味に弄ぶ善意にして悪意ある、名すら忘れられし人類悪なり。

 人々が繋がりを求めるなら、人々が縁を欲するなら、その望みを叶えてあげよう。繋ぐは不朽にして不滅、悩める人々を解放せし死の縁。ならばこれにて人々を解き放とう(弄ぼう)ではないか。

 

 

 称して其、ビースト―(無銘のビースト) ──

 

 

 『結縁』の理を持つ獣──

 

 

 名も無き人類悪、"山の神"──




人 類 悪 顕 現

と言う訳で、満を持してアンチキショウこと山の神登場!……ビーストとして。
存在を匂わせてから『冬木の隣にあの街があるのか』とか『過去だからまだ存在してる』とか色々ご推察いただきましたが、正解は『未来から来た』でした。加えて人類悪に転職と言う、安直だけど最悪な答えですね。
UBWのギルガメッシュが「(泥で汚染された)聖杯は人類悪の一つ」と言ってた事から、ならそれを取り込んだ山の神は人類悪になるんじゃないかと思い付いた結果。執念深いのもここまで来るとキヨキヨしい。

ギルガメッシュを不意討ち気味に倒し、士郎達を自殺に追い込みかけた通り大分魔改造されてます。深夜廻原作では充分強くても、fateでは通用しないと手を加えすぎました。でも原作はこれ以上の事をやらかしてる事実。なのでこれでもまだまだ序の口と言うね。書いといて何ですが、洒落になりません(大汗)

ここからがfate×深夜廻、真の真骨頂。故の今回のサブタイ「真夜」。真の夜の幕開けにハルはどう立ち向かうのか!

次回、結託と対決。
宜しければ評価やコメントをくださると、執筆速度が魔力放出の勢いで上がるかもしれません。宜しくお願いします!

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