Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】 作:秋塚翔
……本当に昨今は幼女や少女に厳しいのが流行りなんだろうか。この場合、厳しいのはマスターに対してですが。
これは遅れながら二章クリア早々水着イベが待ち遠しい。そっちも穏便には済まなそうだけど、このやるせなさを中和させてほしいものです……まさかエドモン、水着用意したから福袋で来たんじゃあるまいな?
今回はイイハナシダナーを目指しました。自己解釈をふんだんにあしらっていますが、とりあえず内の一つに関しては「ルーンまじゅつのちからってすげー!」と言う事で一つ。無人島を開拓するくらいだから……さ?(免罪符)
気が付けば、士郎達は廃屋となった小さな教会の前にいた。
よまわりさんの姿はもう影も形もない。この場所を廃工場の代わりと定めたのか、或いは単に魔力切れで偶然ココに放り出されたのかは不明だ。仮にまだいたところで、ハルにも真相は分からないだろう。
「わ、私さっき何して……!?」
「俺もだ……あの時、俺は確かに死のうとしてた。しかもそれが、正しい事なんだって思ってたんだ……!」
動揺を隠せない凛と士郎。
士郎は無論、自殺なんかと無縁な凛ですら自分で自分を殺そうとしていた先の心境。誰かを守るための剣で、誇りを貫くための魔術で、ただ死に行った者達の声に導かれるまま自殺を選んだのだ。正気に戻った今となっては、当時の自分達が信じられない。
「あの『声』は、聞いちゃダメ……私が住んでた街でも、山であの『声』を聞いた人は皆あのお化け──山の神の言いなりにされちゃうの……」
知った口振りでハルが言う。その姿は酷く怯えていた。
小さな体を一層縮こまらせて肩を抱くハル。もう二度と会う事は無いと思っていた《蜘蛛のようなもの》──山の神と、もう二度と見たくはなかった
「そうだ衛宮君、イリヤスフィールはっ?」
「ッ……いや、逃げる前には、もう……」
士郎はすぐ傍で横たわっているイリヤを一瞥して首を横に振る。まるで眠っているように固く目を閉じたイリヤは、もう息をしていない。傍目からは分からないが、山の神によって聖杯の核となる心臓も奪われたため尚更だった。
それを目視でも確認した凛は、眉を潜めて呟きを漏らす。
「ダメだったか……まさかイリヤスフィールの中にあんなのが潜んでるなんて。キャスターの件も優先すべきなのに、どっちを先に片付けたら……」
「──お前らだけでか? そいつは無謀ってもんだぜ、マヌケ」
「「「!」」」
不意に上から声が掛けられ、士郎達は慌てて廃教会の方を見上げる。
その屋根には紅い長槍を肩に乗せて腰掛ける男の姿があった。その正体はこの場の誰もが見知っている──紛れも無い、ランサーのサーヴァントだ。
まさかの襲来に、それぞれ臨戦態勢を取る士郎と凛。しかしただ一騎、ハルだけは突如現れたランサーに唖然としていた。
「ランサーさん……?」
「よう、さっきは災難だったなハル。無事で何よりだ」
対してランサーもまた、敵意も戦意も感じさせない柔らかな態度でハルの前に降り立ち、挨拶がてら彼女の頭を気安く撫でる。二人の間柄を知らない士郎達はそれに困惑気味だ。
と、そんな少年少女らを尻目にランサーは思い出したように話題を移す。
「そんな事よりもだ。お前ら、望むんならアインツベルンの嬢ちゃんを助けてやろうか?」
「! できるのかッ?」
「ああ。だが一つ聞かせろ、坊主」
そうランサーは前置き、話に乗ってきた士郎に問いを投げ掛ける。
「この嬢ちゃんは今でこそサーヴァントを失ってるが、さっきまで敵同士だったマスターの一人だ。そんな奴を敵であるお前さんが助けようもんなら、相手がどう思うかは分からねえ。これからしようって事は人間一人の命を背負う行為だからな……何故生かしたと逆恨みされるかもしれねぇ、死なせてくれと
戦士然としたランサーの口から出た命の責任を問う問答。いや、或いは命のやり取りが日常の彼だからこその問い掛けかもしれない。
その問いに士郎は思考を巡らせ、確かな意思で答える。
「……当たり前だ。助けられるなら、助ける。たとえ命を懸けるような事だろうと、この子を助けなかったら俺はきっと後悔するから」
「ハッ、大した覚悟だ。悪くねえ」
納得の答えを聞き、ランサーは笑みを浮かべて早速行動に移った。イリヤの胸元で幾つかの光る文字──ルーン文字を宙に描き、魔術を行使する。最後にイリヤから伸びた光の帯を士郎の胸へと繋ぐと……
「──…………ッ、かふッ!? ケホっ、ケホっ、ケホっ……!」
少し間を置き、息絶えていたはずのイリヤがなんと噎せながら息を吹き返した。可愛らしい咳を吐き死んでいた体に酸素を取り入れるイリヤ。凛はその間に宝石魔術で彼女の目を治療する。
「これで、坊主の心臓の機能は嬢ちゃんと共有された。代償として片方が死ねば片方も死ぬようになっちまうが……ま、あとはご両人次第ってな」
軽口混じりに語るランサー。一方で生き返らされたイリヤは暫し何が起こったのか分からない様子で治った目で辺りを見回すも、やがて聡明な思考力が戻り自分のさっきまでの顛末と今の状況を察し、視線を士郎へと移して口を開く。
「……どうして……?」
"どうして私を生き返らせたの?"──声色が、まさに先程ランサーが言っていた事と同じ問いを士郎にしていた。その瞳は虚ろに霞む。『もう価値の無くなった私を、何故また生かしたりなんかしたのか』と。
イリヤスフィールと言うアインツベルンの
つまりイリヤが聖杯戦争で敗退すれば、アインツベルン家はその存在価値を捨て去る。イリヤもまた無価値とされ、死んだなら死んだでそれは良かった、唯一の存在価値を目の前で無かった事にされなくて済むから。だから、なのに今ここで生き返らされた事は彼女にとって迷惑でしかなかったのだ。
その旨を、ひた隠していた心境を吐露するように士郎達へ明かすイリヤ。"自分"と言うものがない一族の中、自身の価値を失ったなら生きていても仕方ない。生き返らせなくて良かったのに、と自虐気味に告げる。
「バーサーカーはもういない。セラも、リズも死んじゃった。私はもうマスターじゃない……これなら死んだ方がマシよ。お願いだから、もう楽にさせ──」
──ぱしんっ
……と、可愛らしい破裂音がイリヤの頬に炸裂した。
士郎達が目撃したそれは平手打ち。それを行ったのは──なんとハルだった。
とは言っても、サーヴァントとは言え普通の少女程度でしかないハルの力。イリヤには大したどころか何ら痛みは感じまい。だが……それでも、イリヤは現実の痛みとは異なる『何か』が自身の心に届いた事を確かに感じた。
ハルは、静かに怒りながらイリヤに語りかける。
「死んじゃダメだよ。貴女が死んだら悲しむ人がいる。だから、死んじゃダメ」
「っ……?」
その言葉にイリヤは一瞬訳が分からなかった。一族で利用価値を失った自分の死に、一体誰が悲しむのだろうと。
しかし、それはすぐ察知する。周りからの視線で嫌と言うほど。
イリヤが死ねば自分も死ぬからなんて打算的な意味合いを微塵も考えていない悲しげな士郎が、同じ魔術御三家の一角でイリヤが死ねば得しかないはずの心配する凛が、そして死にたいと思うイリヤに助けられなかった友達を重ねて本気で怒るハルが──一様にイリヤの事を想い視線を集中していた。
先程まで敵同士だったはず。面識が少ないどころか、殺し合いまでやらかした関係なはず。それでも士郎達はイリヤの死を拒んでいた。裏切り者の息子が、相容れない少女が、自分より幼いサーヴァントが。
「……私は、生きてて良いの……?」
『どうでもいい』──バーサーカーと解り合うまで自分の感情をかなぐり捨てて吐いていた言葉。その言葉に囚われていたイリヤは、とうとう本音を露にする。それが士郎達に肯定されると、イリヤは涙を抑え切れず泣き出す。まるでさっきの平手打ちで心の錠が外れたような大泣き。ハルはそんな彼女を抱き留めた。
ハルとイリヤ。見た目こそ幼いがイリヤの方が歳上に見えるものの、今回ばかりはイリヤの涙を受け止めるハルの方が大人に思えるのだった──
~~~~~~~~~~
「──で、わざわざイリヤスフィールの命を助けてくれたって事は、私達に恩を売って何かしたいのかしら?」
イリヤが落ち着いた頃、凛はランサーに向けてそう口火を切った。対するランサーはご名答と言う風に笑って返す。
「察しが良いじゃねえか、嬢ちゃん。さっき言った通りお前らだけじゃ手に余りそうなんでな、俺が手を貸そうかって話だ」
「それは貴方の独断? それとも貴方のマスターの指示かしら?」
「他のマスターと協力関係を結べってのはマスターの命令だ。だがお前らを選んだのは、純粋な俺の好みさ。仕事は選べねえ分、仕事仲間は選ばせてもらわねえとな」
「言ってお前さんらしかマスターは残ってないんだが、そこは結果的にだ。気にするな」と軽い口ぶりで付け加えるランサー。美味すぎる話ではあるが、裏があるとも思えない。ランサーのマスターにとってもキャスターは目の上のたんこぶだろう。加えてイリヤから出てきた山の神もいる以上、この二つをどうにかすべきだ。それなら利害が一致する士郎達と協力するのが得策である。
戦力不足な士郎達にとっても悪い話ではなかった。ハルも以前ランサーと顔合わせした事から信用している。受けて損は無いだろう。
「分かったわ。ただし貴方には暫く私達の行動に従ってもらう。独断行動させて万が一罠に掛けられたら堪らないもの」
「生易しい処置だが、賢い判断だ。それじゃそう言う訳だが……
「ヒッ!?」
突然話し掛けられた事に驚いたのだろう、士郎達のすぐ後方の木から悲鳴が聞こえ、恐る恐ると言った感じで一人の少年が顔を出す。その見知った顔に士郎と凛が声を上げた。
「お前……慎二!」
「どうしてココに……あっ! まさかあの金髪のサーヴァントのマスターって!?」
「……ああ、ああっ、ああッ! そうだよ! ギルガメッシュのマスターはこの僕だ! それなのにアイツ、あんな気持ち悪いのにアッサリやられやがってぇ……!」
どうやら士郎達がよまわりさんに拐われた際、一緒に連れてかれたらしい元ライダー&ギルガメッシュのマスター、間桐慎二は恐怖から一転して怒りが込み上げ体を
「このまま家に帰ったら僕は爺さんに何言われるか……だから衛宮、遠坂! 僕と手を組め! せめてあのデカブツブサイクに仕返ししなきゃ僕の気が収まらない!」
「アンタ何を自分勝手に……!」
抗議しようと身を乗り出した凛に、しかし士郎はそれを制止して怒りに震える慎二に問い掛ける。
「慎二、お前も手伝ってくれるのか?」
「そう言ってるだろ!? せっかくサーヴァントなんて凄い力を手に入れたのにお前らや、あんなデカブツにやられっ放しじゃ気分が済まない!」
「じゃあ頼みがある。
「はぁ!? な、何でこの僕がこんなガキと一緒に……」
「ならキャスターを倒すのに着いてきてくれるか?」
「快く引き受けようじゃないか! 親友として、幸運を祈って待ってるぞ衛宮っ!」
満面の笑顔で慎二は引き受ける。正直、慎二は連れてっても役に立たないしイリヤも助けてすぐ戦いに巻き込みたくなかったのだろう。士郎の手腕で慎二を味方に引き入れ、一行は今夜キャスター攻略に身を投じるのであった──
~~~~~~~~~~
場所は教会。時刻は深夜。
雨が上がり霧がかる広い庭園に現実離れした赤い外套の男が佇んでいた。アーチャーだ。
教会の番人役を務めるアーチャーは、来訪してきた懲りない面々に皮肉ついでに嘲笑する。
「サーヴァントに裏切られて傷心かと思いきや、昨日の今日でもう鞍替えかね? 元マスターながら私の事は言えないな」
「ほざけ。前から気に食わなかったが、性根から腐り切っているみてぇだな……行きな、手筈通りお前らはキャスターを叩け」
「ありがとう、ランサー」
「気を付けてね」
「お前もな、ハル。こっから地蔵にお供えした場所までは出戻りが大変だぞ?」
暗に『死ぬな』と伝えられ、笑みで応えるハルを始めとする士郎達三人はキャスターの潜む教会の中に入る。庭園に残されるは青い槍兵と赤い弓兵ただ二騎のみ。互いの得物を手に、両者は好戦的に笑い合う。
「裏切りがそんなにも不服かね、ランサー」
「ああ、テメェにはあの嬢ちゃんは勿体ねえ。ハルもこんな男を信じてたとあっちゃいたたまれないぜ」
「殺めた息子とウォーカーを重ねてるなら止めた方が良い。自慢の槍が鈍るぞ」
「ハッ! 鈍ってるかどうか、試してみやがれッ!」
まずランサーから動き出し、迎える形でアーチャーも駆け出す。朱を纏う青い閃光と白と黒が尾を引く赤い閃光が、今ここに激しく衝突した──!
ハルちゃん怒りのビンタ炸裂!(肉体的ダメージ0)
生きる事をやめたイリヤに、生きたくても殺された友達を助けられなかったハルはそれを許しません。お陰でイリヤの心はハルの手で救われました、文字通り。
前書きでも言ったように心臓の機能共有についてはルーン魔術万能と思ってくださると有り難い。fate×深夜廻でハッピーエンドを目指してる以上やはりイリヤはあのまま死なせたくないし、それを覆せるのがあの師匠から同じ魔術習ってるアニキだけですからね。何のルーンを組み合わせたのかはご想像にお任せします(適当)
そして前回"ついでに"拐われていた慎二も仲間入り。聖杯の器にされなくて済んだし、山の神ビースト攻略に役立ってもらわないと。個人的に好きなキャラですしね。作者の心情を代弁させられるくらい好きに物を言わせやすいところが特に良い。
次回はキャスター戦三度目の正直。
宜しければ評価やコメントをくださると、採集決戦のバルバトス討伐速度くらい更新が早まるかもしれません。どうぞお願いします!