Fate/staynight [Midnight Walker]【本編完結】   作:秋塚翔

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四ヶ月ぶりの更新。本ッ当にお待たせしました。
以前の更新が8月上旬と夜廻シリーズの季節感だったのに、気付けばSNサイドの季節感どころじゃない年末と言う。もう深夜アニメ一期分跨いでますね、不甲斐ない。

そんな待ちに待たせ、ようやく書き上げた第17話。世間では夜廻シリーズがそろそろ下火気味でちょっと不安ですが、鬼門も抜けたからこのまま完結を目指すので、今後とも応援宜しくお願いします!

それでは聴いてください、
『このクオリティならもっと早く書けバカヤロウ』


♯17 丑三つ時

 教会の地下。

 士郎達にとって一夜ぶりとなるそこでは、葛木とキャスターが並び立つ形で待ち受けていた。その後方には変わらず──けれど、いよいよ抵抗も限界と言った様子でへたり込む、囚われたセイバーの姿もある。

 

 

「せっかく助けてあげた命なのに、わざわざ捨てにやって来たのかしら? お嬢さん達」

 

 

 昨夜に"次は容赦しない"と伝えたはずが、性懲りも無く現れた少年少女らにキャスターは嘲りと呆れの笑みを向けた。片や葛木は、ただ無表情に士郎らを見据える。

対して、凛は彼女らしい不敵な笑みで返す。

 

 

「捨てに来たんじゃなくて、取り戻しに来たのよ。とことん気に食わない、貴女を倒してね」

 

 

 虚勢でも自棄でもない、自信に満ちた宣言。それにキャスターは不可解さと不快さから、ローブに隠れた顔をしかめる。

 だが、それが何だと言うのか──思い直すキャスター。

 ランサーを手懐け、どんな策を用意していようと、この戦況は引っくり返せない。セイバーはこちらの手にあり、アーチャーもまたこちらについて、そのアーチャーがランサーと交戦している以上、ここにいるのは未熟な魔術師……いや、子供二人と対処さえ分かれば他愛ない、これまた子供のサーヴァント一騎のみだ。

 恐れるに足りない。到底、足りはしない。たとえランサーやバーサーカーが相手でも、自分達の勝利は揺るがない確信がキャスターにはあった。

一方、凛は言葉を続ける。

 

 

「それじゃ始めましょうか。貴女との小競り合いもこれで三度目。いい加減その顔も見飽きたし、ケリを着けてあげる

 

 

──ハル!」

 

 

 と。いきなり呼び掛けられたハルは、しかし予め聞かされていた通り行動に出る。キャスターに感付かれるより早く。

 

 

「断片解放、『こうじょう』!」

 

 

 そう唱え上げた途端、地下空間は一瞬の眩い光を経て世界が塗り変わる。

 広がるは、暗闇に覆われた屋外。足元に敷かれる赤茶けた鉄板や建物の壁を巡るパイプ、漂う錆びた鉄の匂いやゴオォンッと言う空虚な反響音から、そこがまさしく寂れた工場の敷地内だと窺える。

 ──しかれど、それだけではない。遠くから場違いにも無邪気に楽しげな子供の笑い声が聞こえ、暗闇の中でウゾウゾと蠢く何かの気配がある。それらは、この場の命あるものに訴えかけているようだった。『生きていて羨ましい』『死ね』『一緒に遊ぼう』、と……

 そこは、生きているものが居るべきではない場所。

 

 

「っ、いきなりね……!」

 

 

 舌打ち気味に吐き捨てたキャスターが、魔法陣を展開しながら飛翔する。余裕の無防備から一転、臨戦態勢だ。

 士郎と凛も、それぞれ剣──アーチャーが使っていた白黒の双剣──を投影し、宝石を握り込んで身構える。それを見た葛木も、半歩動いて構えを取った。

 魔術と格闘。互いに同じ分野だが、その力差は歴然だ。片や神代でも最高の魔女に、片やその補助を受けてセイバーすら手玉に取る暗拳使い。いかな士郎達では、実力での勝負は見えている。

 つまりこれは、格上相手にどれだけ()()()()()、凛の作戦が通用するかに賭けた一か八かの戦いだ──

 

 

 

 

 ハルの役目は、宝具を発動して戦う場所を提供する事と、士郎達が戦っている間のお化けの引き付けであった。

 なるべく追い掛けてくるタイプのお化けがいない場所を選んだが、それでも全てがそんな生易しいお化けなどではなく、少なからずいるにはいる。故に、邪魔をさせないため自らが囮となって士郎達が心置きなく戦えるようにするのが、ハルに託された役目だ。

 すると、そうしたハルの前に新たな障害が現れる。

 

 

 ──ズズズッ……

 

 

「!」

 

 

 地面から湧いた靄。そこから這い出てきたのは、人型や獣の形を模した骨の兵隊──竜牙兵だ。

 恐らくキャスターが片手間で差し向けてきたのだろう。それだけ余裕であり、ついでにハルも始末してしまおうと言う魂胆だ。その証に、明らかな殺意を持って竜牙兵らはハルににじり寄ってきた。

 それに対し、ハルは踵を返して逃げ出す。ここで自分がやられてはいけない。もう二度と、誰かを失う目には遭いたくないから。そうして走るハルを、竜牙兵の群れが追い掛ける。

 闇夜に包まれる中、必死に逃げるハル。ふと、懐中電灯で照らした先を見ると、サッと遠回りする。その真意を解さない竜牙兵、何故か大きく回った獲物を仕留めるべく、真っ直ぐ進んで距離を詰めようとして──呆気なく、その身は粉々に砕けた。

 

 

 闇に紛れてゲタゲタ笑う、無数の足が生えた巨大な顔……『道ふさぎ』にぶつかって。

 

 

 砕け散る音を聞いて、ハルは思わず「ごめんなさい」と心で呟いた。いかに魔術で作られた疑似生命でも、人や獣の姿をしたものを自らの策で死に追いやったのは心が痛む。

 しかし気に病んでばかりはいられない。仲間が訳も分からず砕けて狼狽えている様子の竜牙兵らの隙を見て、ハルはまた更に遠回りで元の場所に戻り行く。士郎と凛のサポートをするために。

 それに気付いた竜牙兵の生き残りはすぐさま追跡するが、不意に軌道を変えると一点に集まり出す。更に追加の竜牙兵が寄り集まり、組み重なり、骨が一つの大きな人型を作る。

 まさに巨大な竜牙兵と化したそれは、異常を察したキャスターが繰り出したもの。所詮は子供、これだけの相手には腰を抜かしてしまうだろう、と予想しての行動だ。

 

 

 ──キャスターは知らない。工場(ここ)ではないダムの上、ハルは似たような巨大な骸骨と対峙した事を。そして、それに対する感情が恐怖などではなく、"同情"や"憐れみ"である事を。

 

 

 だからこそ、予想に反して怖さを感じないハルは、降り下ろされた骨の腕を何とか避け、なおも逃走。巨大竜牙兵は捕らえんと、少女に追い縋る。

 その時だ。前方から光が放たれ、同時に巨大竜牙兵が支えを失ったように崩れ落ちたのは──

 

 

 

 

 

 

 ──褒めてあげるわ。貴女は、私に魔術戦をさせたんだから。

 凛渾身の攻撃を容易く防ぎ、戦意喪失したように俯く少女へとキャスターは微笑みながら手を向ける。終わりの時だ。

 が、瞬間笑みを浮かべた凛が何か唱えると、足元に転がる白い宝石が閃光を迸らせる。油断していたキャスターがそれに目を眩ませた隙に、凛は魔術を駆使した足運びで掌底を思い切りキャスターに叩き込んだ。

 

 

「カハッ!? ……あ、貴女、魔術師の癖に殴り合いなんて……!」

 

 

「お生憎様。今時の魔術師ってのは……護身術も必須科目よッ!!」

 

 

 言いながら続けて足払い、からの二連打を加え、最後にあらん限りの力を籠めた拳を打ち放つ。その悉くを喰らったキャスターは、巨大竜牙兵の維持もできないほど殴り飛ばされた。

 これには士郎も、戻ってきたハルも驚く。宝具が解け、元の地下空間に戻っているのにも気付かず。策がある事は聞かされていたが、それが何か知らなかったが故にこれは予想外。まさか魔術師が魔術師に、殴って勝利を勝ち取ろうとは。

 と、士郎が突然声を上げる。

 

 

「遠坂!」

 

 

 ──ドオッ!!

 

 

「くっ!?」

 

 

 駆け付けた葛木が割って入り、凛に仕掛けた。咄嗟にガードを取る凛だが、それでも防ぎ切れず自身もまた転倒する。

 間に入り、守る形の葛木は、背後の口から血を滲ませるキャスターに言葉を投げ掛けた。

 

 

「油断したな、キャスター。早くセイバーを起こせ」

 

 

「は、はい、感謝致します、マスター……」

 

 

 応えたキャスターは、令呪宿る左手を掲げる。ここまで食い下がるのなら、セイバーを操って早々に片を付けようと言うのだろう。

 絶体絶命。士郎はおろか、凛でも葛木を倒してキャスターの阻止はできない。どうすべきか──

 

 

 

 

「そこまでだ。無駄な足掻きはやめると良い、キャスター」

 

 

 

 

 と。響き渡った制止の声に、一同は動きを止める。

 一斉に声の方へ見やると、そこには呆れた風のランサーを引き連れて立つアーチャーの姿があった。

 

 

「アーチャー! 貴方どうして……!」

 

 

「どうも何も、言ったはずだ。私は勝てる方を取るとな」

 

 

 問う凛に、アーチャーは悪びれた様子も無くさも当たり前の如く答える。凛とアーチャーの間だけで伝わる意味。ふとランサーを見れば、「そう言う事だ、まったく」と肩を竦めていた。つまり寝返ったのではなく、敵の懐に潜り込んでいたと言う訳だ。

 それを解したキャスター、睨むようにアーチャーを見る。

 

 

「……無駄な足掻きとは何かしら、アーチャー? まさか貴方達で私達を倒せると言うの?」

 

 

「言葉の通り受け取ってもらっては困る。根は聡明な君なら感じ取れるはずだろう、聖杯など奪い合っている場合ではない事態が起きた事くらい──そう、()()()()()()殿()を見れば分かるか」

 

 

「何ですって? …………! まさか、そんな……!?」

 

 

 言われて、半信半疑に自らの陣地──柳洞寺を覗き見たキャスターは驚愕した。『何か』が、神殿内に介入している。サーヴァントでも、人間でもない。まるで神か、それ以上のおぞましいもの……!

 驚きを隠せない自身のサーヴァントに、葛木は表情を変えず問い掛ける。

 

 

「どうした、キャスター」

 

 

「……マスター、どうやら不測の事態です。彼らの言う通り、聖杯を奪い合っている場合ではありません」

 

 

「分かってくれて何よりだ。私もランサーから話を聞いた時は疑ったのでね、いざとなれば力ずくで説得も視野に入れていたが、その必要も無かったか」

 

 

 冗談混じりにアーチャーは言う。その様子に苦労させられた士郎は少し腹を立てるが、すぐにアーチャーは真剣味を帯びて言い放つ。

 

 

「さて、分かり合ったところで本題だ。私が取り仕切るのは不服だろうが、事態が事態だからな。人類悪対策についての話し合いを始めるとしよう──」




ハルちゃん主役なのに台詞無さすぎ問題。
子供だから難しい話は入れないし、原作基準だとそっちのキャラだけで会話成り立つのが難点。ゲームでは無口だしとか、ノベル版では結構喋るから言い訳になりませんしね……(汗)
でも次回から正真正銘深夜廻基準の話なので、その機会も増えるはず。乞うご期待!

因みに今話更新がこれまで掛かった理由も、実はハルちゃんでした。
キャスター戦において、過去二回出会してるハルはキャスターに警戒されてる。加えてキャスターは倒さず仲間にする予定だったので、下手に初見殺しで倒す訳にもいかず、ならセイバーを第四宝具で助けて……と考えたけど、残存魔力ごと縁を切られるからセイバー消滅と言う障害あって執筆で悩みに悩まされました。結果ハルのシーン追加で、決着は原作通りに。ホント、これを四ヶ月前に思い付いてれば……orz

そんなこんなでキャスターも仲間入り。目的の聖杯さえなければ、利害の一致で手を組んでくれると思うんですよね。特に葛木が生きてる時代の危機となれば尚更。アーチャーも、この事態なら自分殺しとか二の次なはず。
これで役者は揃った。ここから夜廻サイドで言う『明け方』パート、つまり最終章です。ここにお地蔵さん置いておくので、セーブはお忘れなく。

次回はちょっと道を逸れて特別編を正月更新できたらなと考え中。宜しければ評価やコメントをくださると、それも実現してモチベーションも上がるのでお願い致します!

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